建設業 第1回:建設業の概要

2016年12月28日
カテゴリー 業種別会計

建設セクター
公認会計士 石川裕樹/橋之口 晋/藤井 陽/本多英樹

1. はじめに

建設業とは、建設業法において「元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう」と定められています。また、工事の種類を土木一式工事と建築一式工事の2種類の一式工事と、とび・土工工事や舗装工事等の27種類の専門工事の計29種類に分類しています(平成28年6月より建設業許可における新たな業種として「解体工事業」が追加されています)。

建設業を営むためには、これら29種類の工事の業種ごとに国土交通大臣あるいは都道府県知事より営業許可を受ける必要があります。請負として建設工事を施工する者は、元請業者のみでなく、下請の場合や、個人で行う場合にも許可が必要です。

本稿では、このような建設業について、いわゆるゼネコンと呼ばれる総合建設業者を中心に、以下の観点から7回に分けて解説を行います。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことを、あらかじめお断りします。

2. 建設業を取り巻く環境

高度成長期からバブル期にかけて建設投資や就業者数がピークとなり、その後は低迷が続いていました。しかし、東日本大震災の復旧・復興需要やアベノミクス、オリンピック開催決定に伴う投資などの影響を受け、足元の市場環境は回復しています(図表①)。

一方で、オリンピック後の景気の不透明さや、就業者数の減少及び高齢化(図表②)といった問題が、建設業界全体における課題として取り上げられています。

以上のような課題を受けて、建設業界においては女性技術者・技能者の積極的な活用、海外建設市場への進出、ドローンによる3次元測量や、3次元測量データによる設計・施工計画といったICT(Information and Communication Technology: 情報通信技術)の活用などの対策に取り組んでいます。

図表①:建設投資額及び建設業就業者の推移

図表①:建設投資額及び建設業就業者の推移

図表②:建設業就業者の高齢化の進行

図表②:建設業就業者の高齢化の進行

3. 建設業の特徴

(1) 受注請負産業

建設業は、発注者からの注文を受け、発注者の注文に基づき個別の建造物を造り、完成すると発注者に引き渡すという、典型的な受注請負産業です。建造物は、発注者のさまざまな要望に沿って建設されるため、その規模や構造は多種多様であり、同種の工事であっても全く同一のものはありません。

また、工事期間もさまざまですが、一年を超えることは珍しくなく、一般製造業と比較すると受注から引渡しまでの期間が長くなります。

(2) 移動型産業・屋外工事

建設業での生産は、製造業における工場生産のように固定した場所で行われるのではなく、発注ごとに異なる工事現場において行われます。建築資材や建設機械、人員など工事に必要な材料や労働力は工事現場ごとに調達、または工事現場から次の工事現場へ移動します。このため、大量生産による効率化、いわゆるスケールメリットを追求することが難しい業種であるといえます。また、屋外生産であるため、季節や天候などの自然条件や、土地の地形・地質などの地理的要因の影響を大きく受けます。

(3) 重層下請構造

建設工事は、基礎工事や内装工事、外構工事など各種工事を組み合わせて行われますが、工事ごとに設計が異なるため、各種工事の組み合わせも多種多様となります。そのため、労働力等を自社で固定的に保有するよりも、工事内容に応じて外部から都度確保することで、固定費の抑制及び経営の弾力性を持たせることが可能となり、また高度複雑化する工事に対し専門化・分業化することで、効果的かつ効率的な施工を行うことができます。従って、建設業では、元請業者が発注者から工事を受注すると、工種ごとに専門の協力会社に外注(下請)し、さらには協力会社が二次下請、三次下請と重層的につながっていき、共同作業で一つの建造物を建設するといった重層下請構造が形作られています。

一方、この重層下請構造は、施工責任の不明確化や、重層化による間接コスト増加といったデメリットがあるため、結果として経済的不合理を生じさせているという指摘もあります。

(4) 入札・契約制度

建設業においては、発注者が国や地方公共団体である公共工事も多く、受注時における入札・契約制度も特徴の一つであるといえます。

発注者が建設業者を選定する際、民間工事の場合には特に制約がないため、「見積り合わせ方式(特定の建設業者に見積書を提出させ比較検討する方式)」や「特命方式(特定の建設業者を指名する方式)」によって決定することが一般的です。公共工事の場合には、会計法(国)及び地方自治法(地方自治体)により、国又は地方自治体が公告をして、不特定多数の者で競争入札を行い、国又は地方自治体にとって最も有利な条件により申込みをした者を選定する「一般競争入札方式」が原則とされています。発注者から指名された者だけが入札に参加できる「指名競争入札方式」も一定の場合には行われますが、指名される業者が入札前に判明するため談合が行われる余地があることや、指名手続の不透明性が汚職の誘因になるという問題もあることから、一般競争入札方式を原則とし、一般競争入札方式に、価格と品質を総合的に評価する総合評価落札方式を組み合わせた入札方式が大部分を占めています。

4. 建設業における業務の流れ

建設業における大まかな業務の流れは、以下のようになります。

図 建設業における業務の流れ

(1) 提案・入札

営業活動において、営業担当の人件費や、営業部門での諸経費が発生するのは建設業に限りませんが、建設業では、工事の見積書作成のために設計、測量、工事原価の積算などの業務が必要となり、受注前費用が多額に発生することがあります。

(2) 受注・契約

営業活動の成果として受注に至った場合には、発注者から注文書等の書面による通知がなされるのが一般的です。通常は、この後、速やかに契約が締結されますが、工事の特性や工期等の事情により、発注から契約締結まで期間が空いてしまう場合もあります。

(3) 設計

設計業務は、建設業における各業務に横断的に機能する一連の業務です。具体的な例としては、提案・入札の企画時点で作成される企画設計、完成物の骨子を定めて発注者への見積額提示に利用される基本設計、正式受注後の詳細な仕様に基づいて作成される実施設計があります。

(4) 実行予算作成・承認

実行予算とは、工事原価総額の精緻な見積りをいいます。営業活動・受注の過程においても工事原価の見積りは行われますが、工事の詳細はまだ決まっておらず、また、見積り作業に費用が発生することや時間的制約から、見積精度はそれほど高くないことが通常です。これに対して、実行予算は、工事の詳細が決まった後、必要な資材の数量を詳細に見積もり、協力会社と発注金額の交渉を行うなどして作成され、工事を完成させるために必要な施工の初期段階における実現可能性が高い工事原価総額の見通しになります。

第2回で述べるように、建設業の収益認識基準に工事進行基準がありますが、その適用は信頼性のある工事原価総額の見積りが前提となっており、実行予算は、その基礎となります。

(5) 施工

工事の施工は一般製造業における生産に相当しますが、前述のように、建設工事では各種工事を組み合わせて行われるため、工種ごとに専門の協力会社に外注することになります。通常は、事前に協力会社の作業遂行能力等について調査が行われた上で選定され、購買部門が作業所長の発注依頼に基づき、複数の協力会社から見積書を入手します。見積書の入手後、見積価格や工期、施工能力、技術力及び提案力等を総合的に勘案し、発注先を選定します。

施工に先立ち、工事現場の立地条件や地質条件、制約事項等を勘案し、材料仕様計画、労務計画、仮設資材使用計画等を含めた工程計画(工程表)を策定します。作業所長は、工程計画(工程表)と実績を比較することで、工事の進捗(しんちょく)状況を管理します。また、作業所長による工程管理とは別に、工事の品質管理を目的として工事監理も行われます。工事監理とは、設計事務所等が工事を設計図書と照合し、工事が設計図書のとおりに実施されているか確認すること、と定義されています。

建設工事では、工種ごとに専門の協力会社に外注する特徴から、協力会社との間では自社が発注者と工事請負契約を締結する場合と同じように、工事の内容について請負契約を締結し、発注金額を事前に取り決めることが通常です。工事現場では、協力会社の作業の進捗状況を随時把握し、毎月、出来高(一定期間に実施した工事の作業量)の査定を行い、出来高に応じて業者への支払い(原価の計上)を行います。

発注者からの請負金の支払条件は工事請負契約書に明記されており、請負金(取下金)受領のタイミングは、①着工時、②工事の途中、③完成引渡時あるいは引渡後一定の期間後、の3回に分けられることが一般的です。

一方、協力会社に対しては出来高に応じて一定の期間後に支払いを行います。そのため、一般的な工事の場合、工事原価の支払いが先行することから、元請業者に資金負担が生じます。さらに取下金は、金融機関への振込みによる現金の受領のみならず、手形や、近年では電子記録債権の利用も増えていることから、このような条件の場合には実際の現金の受領は、さらに遅くなります。従って、手持工事の件数や金額が大きくなるほどキャッシュ・フローがタイトになる傾向があります。

(6) 完成・引渡し

工事が完成すると発注者による検査が行われ、検査完了後に建造物の引渡しが行われます。一年の中で最も多い工事の完成時期は3月付近であり、3月決算会社の場合には年度末に工事の完成が集中する傾向が見られます。

物件引渡時には、発注者と建設業者の間で、工事引渡書や物件受領書が取り交わされます。これによって、建設業者が請負人としての責任を履行したことを、発注者に対して正式な書面をもって主張できることになります。

(7) 竣工後

引渡後においても、建設業者としての適正な施工を行い、品質が確保された物件を完成させ引き渡す責任の担保手段として、請負人たる建設業者が施主に対して、必要十分な期間、瑕疵(かし)担保責任を負うことが求められています。