業種別会計
化学産業

第4回:化学産業のIFRS動向及び主要な会計上の論点

2020.02.25
EY新日本有限責任監査法人 化学セクター
公認会計士 片山真由子/鎌田善之/倉持太郎/柴 法正/根建 栄

1. 化学産業のIFRS動向

日本においては、安倍政権の成長戦略として、「『日本再興戦略』改訂2016」が閣議決定され、政府の成長戦略の一環としてIFRSの任意適用企業の拡大促進が継続して掲げられています。また、新指数「JPX 日経インデックス400」が 14年1月6日から算出・配信され、銘柄選定に当たっては「IFRSの採用」が定性的要素として加味されることになりました。

これを受けて化学産業約210社における任意適用(決定)会社は次の通り、増加傾向にあります。

出典:日本取引所グループウェブサイト(19年12月現在)

会社名 適用時期(適用予定含む)
日東電工 2015年3月期第1四半期
日立化成 2015年3月期
花王 2016年12月期 第1四半期
クレハ 2017年3月期 第1四半期
大陽日酸 2017年3月期 第1四半期
三菱ケミカルホールディングス 2017年3月期 第1四半期
ユニ・チャーム 2017年12月期 第1四半期
JSR 2018年3月期 第1四半期
ウルトラファブリック・ホールディングス 2017年12月
ライオン 2018年12月期 第1四半期
住友化学 2018年3月期
住友ベークライト 2018年3月期
日本ペイントホールディングス 2018年12月期
日本触媒 2019年3月期
エア・ウォーター 2020年3月期 第1四半期
三井化学 2021年3月期 第1四半期

2. 主要な会計上の論点

化学産業の企業において検討すべき論点は多岐に亘りますが、そのうち本稿では(1)有形固定資産、(2)減損、(3)収益について、以下検討します。なお(3)収益についてはIFRS第15号を前提として記載しています。

(1) 有形固定資産

化学産業は典型的な装置産業であることから、通常、多額の有形固定資産を有しており、このため有形固定資産の論点は特に重要となります。

①耐用年数

日本基準では、実務上、税務上の法定耐用年数を使用しているケースが多いと考えられます。

一方、IFRSでは、企業が使用すると期待する期間が耐用年数となります。このため法定耐用年数と一致しない可能性があるため、耐用年数の決定が論点となります。耐用年数の決定に当たっては、次の点を考慮しなければなりません。

  • 予想使用量
  • 物理的減耗
  • 陳腐化
  • 法的制約

②償却方法

日本基準では、ほとんどの化学企業が定率法を採用していましたが、近年は会計方針を変更し定額法を採用する企業が多くなっています。また、海外子会社は従来、定額法を採用しているケースが多いと考えられます。

IFRSでは償却方法は、会計方針ではなく見積りであるため、同種資産であっても、市場環境及び操業方法の相違等により、償却方法が異なることもあり得ます。しかし、そのような事実がない場合には、通常、グループ内にて整合していることが想定され、国内・海外といった地理的要因のみを理由として異なる償却方法を採用することは認められません。

③コンポーネントアプローチ

日本基準では、法人税法上の規定に基づく単位で減価償却を実施していると考えられます。

一方、IFRSでは有形固定資産項目の全体の取得原価に対して、重要性を有する構成部分について個別に減価償却をします。このため、現行の償却単位の資産の中で、耐用年数が異なる複数の重要な構成部分がないか検討が必要となります。

具体的には機械装置プラントのうちユニットやパーツを交換する必要があり、その交換頻度が他のパーツと異なる場合、当該部分について償却単位を変え、耐用年数を分けることになると考えられます。

④修繕費

化学産業では、大規模な製造設備を有していることから、法律に基づく定期的な点検が義務付けられている場合や、定期的な修繕が実施される場合があります。

日本基準では、製造設備の修繕費用が発生する可能性が高く、その金額を過去の経験等に基づいて合理的に見積もることができる場合は、将来発生する修繕費用について引当金を認識すると考えられます。

一方、IFRSでは引当金の認識要件として「現在の債務(法的又は推定的)を有している」ことが必要となります。この点、製造設備に対して操業を停止したり廃棄したりした場合は、修繕が不要となるため、現在の債務を有していないことになります。従って、定期修繕引当金は認識されないことになります。

ただし、大規模修繕に必要な定期的な点検・修繕について次の有形固定資産の認識要件が満たされる場合は、その修繕費用を固定資産の取得原価に加算し、次回の修繕までの期間で減価償却することになります。

(認識要件)

  • 当該項目に関連する将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高い
  • かつ
  • 当該項目の取得原価が信頼性をもって測定できる

(2) 減損

①固定資産の減損

日本基準では、固定資産の減損会計までのステップは次の通りとなります。

A)固定資産のグルーピング
B)減損の兆候の把握
C)減損の認識の判定
D)減損損失の測定
E)会計処理・表示

一方、IFRSでは日本基準で求められる割引前CFと帳簿価額を比較する減損の認識の判定ステップがなく、減損の兆候がある場合には割引後CFを用いて減損損失を測定する減損損失の測定ステップを実施するため、減損損失が認識されやすくなる可能性があります。また一度減損を実施した後に、回収可能価額が帳簿価額を上回った場合は減損の戻入れが必要となります。

②のれんの減損

日本基準では、のれんは20年以内の適切な期間に定額償却することとなります。

一方IFRSでは、のれんは非償却となりますが、前述の固定資産の減損と異なり、減損の兆候の有無にかかわらず、減損テストが毎期求められます。

(3) 収益

特徴的な価格決定方式

特に上流事業においては、コモディティー品である原材料の価格変動をいかに製品価格に転嫁できるかが重要となるため、販売単価を確定しないまま取引を行い、製品を販売した後に単価が決定される場合があります(「第2回:化学産業上流事業の会計処理の特徴」参照)。

一方IFRSでは、収益の額が信頼性をもって測定できることを、物品の販売に係る収益認識の条件の一つとして求めているため、最終的な製品価格を合理的に予測できない場合、収益認識が認められません。実務上は収益認識自体を仮価格で計上した上で、価格精算について別途、会計処理を実施しているケースが多いと考えられます。この場合、価格精算においてナフサの公表市場価格に基づき事後的に調整される契約はIFRS上、組込デリバティブとして区分処理する必要があるかが論点となります。

化学産業

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