路線バス業 第1回:路線バス業界の概要

2021年4月27日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 旅客運輸セクター
公認会計士 今村 洋/竹俣勝透

1. はじめに

バス事業は、バスにより旅客を運送して運賃収入を得る事業です。主な事業として、決められた経路を決められた時刻表にて運行する路線バス業が挙げられます。路線バスは、公共性の高い社会インフラであり、公営によるものもありますが、民営も競合する形で併存します。民営で路線バス業を主な事業として上場している企業は数社であり、鉄道会社の子会社又は非上場のバス会社が多数です。

本稿では、

  • 路線バス業の事業内容、市場規模、業界環境など
  • 路線バス業の業務の流れと内部統制の特徴
  • 路線バス業の会計処理と表示の特徴

について解説します。

2. バス事業の事業内容と経営環境

(1) バス事業の法律上の分類

旅客自動車運送事業は、タクシー及びハイヤー業も含め、道路運送法3条により、以下のとおりに分類されています。バス事業の経営主体は民営、公営があり、同エリア内で競合することも少なくありません。

バス事業の法律上の分類 表

(2) バス事業の市場規模

a. 一般乗合旅客自動車運送事業

路線バス業の輸送人員は、マイカーの普及と反比例する形で一貫して減少していましたが、近年は年間40億人強で推移しています。事業者数は、乗合旅客業の範囲の拡大や旅行業法に基づく高速ツアーバス業者の移行等により増加しています。営業収入は、過去には2年ごとに運賃の値上げが認められていたため、輸送人員の落ち込みに比べれば減少は少なくなっているものの、1992年度の1兆2,332億円をピークに減少し、近年は1兆円弱で推移しています。

b. 一般貸切旅客自動車運送事業

輸送人員は、1990年度をピークにいったん減少しましたが、1999年度から再び増加に転じ、近年は3億人程度で推移しています。営業収入も、輸送人員とほぼ同様の変動をしており、最近は4,600億円程度となっています。事業者数は、旅行業者が貸切バスをチャーターして運行する高速ツアーバスの増加により急増し、その後の高速ツアーバスの廃止にもかかわらず、規制緩和により一貫して増加しています。

(3) 業界環境(規制)

1996年12月、行政改革委員会規制緩和小委員会の提言を受けて、バス業界では規制緩和が進んでいます。

a. 一般乗合旅客自動車運送事業

2002年2月に規制緩和が行われました。その主な内容は以下のとおりです。

  • 需給調整規制が撤廃され、一定の安全基準を満たせば新規参入が可能となりました。
  • 休止・廃止等の市場撤退については許可制から届出制に変更されました。
  • 事前に許可を受けた上限の範囲内での運賃変更は届出制となりました。

なお、国の補助対象路線が広域的・幹線的路線で一定の条件に合致する路線に限定されることになり、国庫補助対象路線が減少しました。

また、2014年4月には消費税率の引上げに伴い、一部地域においてICカード決済による1円単位の運賃が認められました。

b. 一般貸切旅客自動車運送事業

2000年2月に規制緩和が行われ、需給調整規制による免許制度から許可制度への移行により、新規参入の緩和、使用車両に係る規制の撤廃などが行われました。

一方、安全を確保するための規制については強化されています。

2011年5月には、運転士の飲酒運転を根絶させるために、点呼時におけるアルコール検知器の使用義務化等の省令改正が施行されました。

2013年8月には、高速ツアーバスが廃止され新高速乗合バスへ統合されました。新高速乗合バス業者は道路運送法の乗合旅客業者としての認可を受けたうえで、車両の運用、バスターミナルやバス停の利用、点検整備の方法、運転士の連続乗務時間と交代などの規制を受けるようになりました。また、同時に新高速乗合バス及び貸切バスにおける交代運転者などの配置基準も施行されました。

2014年4月には、貸切バスの新たな運賃・料金制度が設けられ、過度な価格競争による安全を度外視した料金設定を防止する施策が図られています。

(4) 多角化経営

路線バス業者は路線バスエリアを拠点とした地域に密着しているため、そのメリットを生かし、他の事業を多角的に展開しています。また、路線バス業者は、輸送人員の減少という事業リスクを抱えているなか、安定収益源の確保として他の事業にも力を入れています。

多角化の業種としては、ホテル業、不動産賃貸業、不動産分譲販売業、飲食店やスーパーなどの小売業、スポーツ施設の運営、旅行業といった事業を行っています。これらの運営は、一般的に子会社を設立して経営効率化を図っています。

(5) 経営課題

① 一般乗合旅客自動車運送事業

路線バスは、生活に密着した地点に停留所を設置することによる利便性は比較的高いものの、都市部では、道路渋滞によるスケジュール運行の信頼性の低下、他の交通機関との路線の競合、他の交通機関より運賃にやや割高感があります。都市部以外の地域では、営業エリアにおける人口の少なさから、補助金を除く本来の収支では事業の維持が困難な状況となり、赤字路線の廃止に踏み切る会社もあります。

② 一般貸切旅客自動車運送事業

貸切バス事業者数や中小型車を中心とする車両数が増加し、競争が活発化するなか、旅行形態の変化などによって需要が大幅に増加する状況ではなく、単価の下落に伴う収益性低下が進んでいます。その結果、安全管理体制が不十分となったり、運転者の労働条件を悪化させたりすることとなり、これを起因とする事故の発生が社会問題化しました。

(6) 新型コロナウイルス感染症拡大

新型コロナウイルス感染症の拡大は、バス事業者に大きな影響を及ぼしています。外出自粛やリモートワークの普及による利用客の減少により、各社の業績は大幅に低下しています。

新型コロナウイルス感染症の収束後も、働き方の変化等により利用客が従前の水準まで回復しない可能性もあり、各社において安定的に利益を確保するための方策が課題となっています。ICカードでのバス利用額に応じ、運賃支払いに使用できる「特典バスチケット」が付与される運賃割引サービスであるバス利用特典サービス(通称:「バス特」)を廃止するバス事業者も出てきています。

3. 路線バス業の業務の流れと内部統制の特徴

路線バス業の大きな業務の流れは、資金を調達して営業所、バス停、車両などを購入し、運転手を雇用し、燃料を補給して、運行スケジュールどおりに運行させ、乗客を運送するというものです。乗客は、現金、定期券、ICカードなどにより運賃を支払うため、現金の納金や、カード乗車の精算などの業務が行われます。

路線バス業の財務報告に関する内部統制には、次のような特徴があります。

(1) 現金等に関する統制が重要

路線バス業では、現金、金券類を取り扱う機会が非常に多いため、盗難リスクや従業員の不正リスクなどへのけん制として、現金回収業務などの統制が強化されています。特に、路線バスの運賃箱からの現金回収は、従業員の手作業が極力生じないように機械化されています。

(2) 予算統制を重視

路線バス業は、マイカーに代替されつつあるものの、人々の日々の生活に利用されるものであり、比較的、年間の収益・費用が見通しやすい事業といえます。また、公的社会インフラとして、採算改善のための運賃改定や赤字路線の廃止を容易にできないことから、非効率な経営による無駄な費用を抑える必要があります。このため、予算と実績を比較して管理する予算統制が重視されています。

(3) ICカード乗車券の利用に関する統制

2013年3月以降、ICカードの相互利用の範囲が全国で大幅に拡大し、利用者は基本的に1枚のカードで全国各地の公共交通機関を利用できるようになったため、ICカード乗車券による決済が普及しています。近年では、交通系ICカードのモバイル対応も進んでおり、利用者は場所を選ばすにチャージすることができ、専用アプリを通していつでも利用履歴や残高を確認することが可能となっています。また、定期券にも対応していることから利用者の利便性はさらに高まり、今後の普及が期待されています。ICカードには多種多様なチャージ方法があるため、精算手続は、チャージ額や入札及び出札情報を取りまとめる業務を外部会社(鉄道会社、バス会社などが出資して共同設立する会社)に委託し、そこで一元管理する方法が採用されています。ICカードによる売上計上額の算定も外部会社に委託している場合は、受託会社の内部統制の評価が必要になることがあります。

(4) 財務健全性

地方公共団体から助成・補助金を受けるため、一般的に財務健全性が高いことが求められます。

4. 路線バス業の会計処理と表示の特徴

(1) 固定資産の特徴

路線バス業における主な設備投資には、営業所やバス停、バス車両、バス関連機器(デジタルタコグラフ・ドライブレコーダー・衝突被害軽減ブレーキ・ICカード決済機器)などがあります。このうち、営業所やバス停は、ほぼ初期投資のみですが、バス車両の入替えは毎年、頻繁に発生します。バスの入替えにより、バリアフリー化・環境対策などに対応しますが、環境に関連して排ガス規制が強化された年度においては、特に集中的な入替えとなり、投資額が多額になります。固定資産への投資は減価償却を通じて費用化されますが、営業所の廃止等により耐用年数の短縮が行われた場合等、固定資産に係る減価償却費が会社の損益に大きな影響を与える可能性があります。

路線バス業では、バス車両やバス関連機器の購入、又はバス停の設置にあたっては、公共の利益が図られることをかんがみ、地方公共団体などから補助金が支給される場合があります。このような固定資産取得に関連した補助金は、税務上、課税の繰延べを行う目的で、圧縮記帳が認められており、経理方法として直接減額方式(固定資産の貸借対照表価額から補助金等相当額を直接控除する方法)と積立金方式(新たに圧縮積立金を計上する方法)があります。会計上、直接減額方式は、国庫補助金等による資産の取得の場合や、譲渡資産と同一種類かつ同一用途である交換取得資産等について認められています。

(2) 経費(燃料費・人件費)の特徴

バスを運行するにあたっての経費としては、減価償却費、燃料費と運転士の人件費などが主要科目です。

燃料費については、アイドリングストップ装置付バスによる1台あたりの燃料費の削減やハイブリッドバス及びCNG(圧縮天然ガス)バスの導入による燃料の多様化を図っているものの依然として原油価格の変動が会社の損益に大きな影響を与えています。人件費は、団塊世代の退職が進み低下する傾向にありましたが、運転士不足が深刻化しており、近年では増加の傾向にあります。なお、減価償却費への影響については前述のとおりです。

これらの経費は基本的に期間費用として会計処理されます。

(3) 運賃収入・補助金の会計処理

2021年4月1日以後開始する事業年度の期首より、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」が原則として適用され、収入に関する顧客との契約ごとに、同基準及び適用指針に照らして会計処理を判断することになります。

以下は、同基準及び同適用指針の適用下において一般的と考えられる会計処理等を示しています。実務においては担当会計士と協議の上、適用する会計処理等を決定します。

バス業の主たる事業は、一般乗合旅客自動車運送事業である路線バス業ですが、その収入形態には、

a. 運賃・回数券のサービスの提供による収入
b. 定期券の販売による収入
c. ICカード乗車券の利用による収入
d. 国又は地方公共団体からの補助金による収入

などがあります。

これらの収入形態について、それぞれの会計処理と内部統制におけるポイントは、以下のとおりです。

a. 運賃・回数券のサービスの提供による収入

  • 現金売上
    路線バスでは、乗車時又は降車時に、乗客が設定された運賃を運賃箱に入れます。一日の運行が終了すると営業所で運賃箱が回収され、その回収額をもとに運行サービスの提供に係る収益を認識します。運行日に運賃箱はすべて回収してカウントされるため、売上計上日の期間帰属に関するリスクは低いものと考えられます。
    現金回収の場合、乗客が運賃箱に運賃を入れた後、現金のカウントは機械により行われ、営業所からの銀行への納金は現金回収代行業者が直接回収するなど、従業員が極力、現金に触れないような内部統制が整備されています。
  • 回数券の使用
    回数券は、営業所などで販売され、乗客がバスに乗車する都度、運賃箱に入れますが、乗客が回数券を使用した時点において運行サービスの提供に係る収益を認識するものと考えられます。

b. 定期券の使用による収入

  • 定期券の使用
    定期券は駅前サービスセンターや営業所などで販売されており、1カ月、3カ月、6カ月定期券といったものが一般的です。
    収益計上は、販売時に全額を収益とせずに、その有効期間に応じて収益計上し、残額は前受収益とします。その按分方法は日数按分が最も精緻な方法と考えられますが、月数按分をしてもその影響額に重要性がなければ認められるものと考えられます。具体的には、有効開始日から経過日数に応じて収益計上します。

3カ月定期券の販売による収入の仕訳例は以下のとおりです。

【仕訳例】

定期券発売時

定期券発売時

300全額をいったん前受収益に計上します。

有効開始日が属する月末(月初が有効開始日と仮定)

有効開始日が属する月末(月初が有効開始日と仮定)

300×30日/90日=100

翌月末

翌月末

300×30日/90日=100

期限到来月末

期限到来月末

300×30日/90日=100

なお、会計処理は会社によって異なり、上記の仕訳例に関しても、例示であり、画一的処理が求められるものではありません。

c. ICカード乗車券の利用による収入

路線バス業者は近年、非接触型ICカード方式の鉄道・バス共通乗車カード〔スイカ(JR東グループ)、 パスモ、ピタパ(民鉄)など〕を導入しています。これには、以下のメリットがあります。

  • 一枚のカードを鉄道・バスの両方で利用することが可能となり、利便性が格段に向上しました。
  • ICカード化することにより偽造や変造の可能性が低くなりました。
  • ICカードには、運賃の決済に限らず、店舗での代金決済手段として利用したり、クレジットなどさまざまな機能を付加したりできるようになりました。

これは、長年行ってきた多角化経営にも大きなメリットを与えると考えられます。

収益計上は、ICカードへのチャージ額を預り金として計上し、実際の使用時に収益を認識します。その後、チャージ会社と使用会社が異なることもあるため、精算手続を実施します。この精算にあたっては、ICカードを利用する会社が加盟する管理会社で一元管理されています。

ICカード乗車券の仕訳例は以下のとおりです。

【仕訳例】

乗客がICカード(パスモ)に当社で10円を、それ以外を他社でチャージしたものとします。乗客は80円の区間に乗車したとします。

ICカードチャージ時

ICカードチャージ時

受領額をいったん預り金に計上します。

使用時

使用時

運賃金額を収入と営業未収入金に計上します。

精算(営業未収入金と預り金の差額を精算)

精算(営業未収入金と預り金の差額を精算)

当社でチャージされた10円部分については、預り金と営業未収入金を相殺し、他社でチャージされた分70円については、他社からの入金により営業未収入金の回収として処理します。

 

d. 国又は地方公共団体からの補助金による収入

一般旅客自動車運送業は公共性の高い事業であることから、補助金が国又は地方公共団体より支給されることがあります。補助金の例としては、不採算路線を運行することによる赤字補填額の収入、自治体が発行した高齢者や障害者のフリーパスに係る収入といったものがあります。補助金の収益認識については、一般的には自治体との合意時点で収益を認識することが考えられます。また、損益計算書の営業収益の表示方法は「顧客との契約から生じる収益」と「それ以外の収益」に区分して記載する必要があります。そのため、補助金を支給する自治体が「顧客」に該当するかどうかについて、自治体との契約内容や目的等を考慮し、個別に判断する必要があります。

  • 不採算路線を運行することによる赤字補填を目的とした補助金
    地域の交通インフラとなっている赤字路線の維持のために、バス事業者に対して赤字部分の補助金が支給されます。このような赤字補填の補助金の場合、運行サービスに対する対価は乗客から受領していると考えられ、結果的に赤字になった部分が自治体から補填される部分は運行サービスを行ったことによる対価ではないと考えられます。そのため、この場合の自治体は「顧客」に該当しないと考えられます。ただし、当該補助金はバス事業者の営業目的である運行サービスというアウトプットに関連して受領できる性質のものであることから、営業取引と考えることができます。そのため、自治体との契約書等において赤字部分に対する補填である旨や、補助金対象となる赤字部分の算出過程が明確になっていることを前提に、「それ以外の収益」に区分して、営業収益に計上することができると考えられます。
  • 自治体が発行した高齢者や障害者のフリーパス所持者の運送に関する補助金
    自治体が高齢者や障害者を支援するためにフリーパスを発行し、フリーパス所持者がバスの運行サービスを無料あるいは割引価格で利用できるといった場合にバス事業者に対して補助金が支給されます。このような場合、バス事業者は乗客に対する運行サービスの対価を自治体から受領していると考えることができます。そのため、この場合の自治体は「顧客」に該当すると考えられ、「顧客との契約から生じる収益」に区分して、営業収益に計上することになると考えられます。

上記の補助金のほかにもバス事業者に対して、多様な補助金が支給されることがありますが、各自治体との個々の契約ごとに検討を行い、適切な計上区分で会計処理する必要があります。

(4) バス事業者の営業損益の表示

バス事業者の営業収益の表示は、鉄道事業者のように別記規定(鉄道事業会計規則)はありませんが、一般的に以下の表示区分・科目により記載されています。

バス事業者の営業損益の表示 表

有価証券報告書における営業収益の開示については「顧客との契約から生じる収益」と「それ以外の収益」に区分して記載するか、「顧客との契約から生じる収益」を注記する必要があります。会社法においても、会計基準の趣旨等に鑑みて同様の区分とすることが考えられますが、会社法計算規則で必須とされていないことも踏まえ、区分表示や区分表示しない場合の注記は必ずしも必要ではないと考えられます。

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