業種別会計
路線バス業

路線バス業界の概要

2015.12.21
新日本有限責任監査法人 旅客運輸セクター
公認会計士 今村 洋

1.はじめに

バス事業は、バスにより旅客を運送して運賃収入を得る事業です。主な事業として、決められた経路を決められた時刻表にて運行する路線バス業が挙げられます。路線バスは、公共性の高い社会インフラであり、公営によるものもありますが、民営も競合する形で併存します。民営で路線バス業を主な事業として上場している企業は数社であり、鉄道会社の子会社又は非上場のバス会社が多数です。

本稿では、

  • 路線バス業の事業内容、市場規模、業界環境など
  • 路線バス業の業務の流れと内部統制の特徴
  • 路線バス業の会計処理と表示の特徴

について解説します。

2.バス事業の事業内容と経営環境

(1) バス事業の法律上の分類

旅客自動車運送事業は、タクシーおよびハイヤー業も含め、道路運送法3条により、以下のとおりに分類されています。バス事業の経営主体は民営、公営があり、同エリア内で競合することも少なくありません。

種類(例示) 事業の定義・形態
旅客自動車運送事業 一般旅客自動車運送事業 一般乗合旅客自動車運送事業 運行時間と経路をあらかじめ定め、不特定多数の旅客を乗り合わせて運送する。
  • エリア内を運行する路線バス、高速道路等を経由し都市間を結ぶ高速バス
一般貸切旅客自動車運送事業 一個の団体等と運送の契約を結び、車両を貸し切って運送する。
  • 旅行会社等が集めた旅行者の団体を運送する貸切バス
一般乗用旅客自動車運送事業 使用する車両は乗車定員が10人以下の自動車を利用して運送する。
  • タクシー、ハイヤー、事業の許可を受けた個人のみが自動車を運転して運送する個人タクシー
特定旅客自動車運送事業 ある特定の者の需要に応じ、一定の範囲の旅客を運送する。
  • スクールバス

(2) バス事業の市場規模

a. 一般乗合旅客自動車運送事業

路線バス業の輸送人員は、マイカーの普及と反比例する形で一貫して減少していましたが、近年は年間40億人強で推移しています。事業者数は、乗合旅客業の範囲の拡大や旅行業法に基づく高速ツアーバス業者の移行等により増加しています。営業収入は、過去には2年ごとに運賃の値上げが認められていたため、輸送人員の落ち込みに比べれば減少は少なくなっているものの、平成4年度の1兆2,332億円をピークに減少し、近年は1兆円弱で推移しています。

b. 一般貸切旅客自動車運送事業

輸送人員は、平成2年度をピークにいったん減少しましたが、平成11年度から再び増加に転じ、近年は3億人程度で推移しています。営業収入も、輸送人員とほぼ同様の変動をしており、最近は4,500億円弱となっています。事業者数は、旅行業者が貸切バスをチャーターして運行する高速ツアーバスの増加により急増し、その後の高速ツアーバスの廃止にもかかわらず、規制緩和により一貫して増加しています。

(3) 業界環境(規制)

平成8年12月、行政改革委員会規制緩和小委員会の提言を受けて、バス業界では規制緩和が進んでいます。

a. 一般乗合旅客自動車運送事業

平成14年2月に規制緩和が行われました。その主な内容は以下のとおりです。

  • 需給調整規制が撤廃され、一定の安全基準を満たせば新規参入が可能となりました。
  • 休止・廃止等の市場撤退については許可制から届出制に変更されました。
  • 事前に許可を受けた上限の範囲内での運賃変更は届出制となりました。

なお、国の補助対象路線が広域的・幹線的路線で一定の条件に合致する路線に限定されることになり、国庫補助対象路線が減少しました。

また、平成26年4月には消費税率の引き上げに伴い、一部地域においてICカード決済による1円単位の運賃が認められました。

b. 一般貸切旅客自動車運送事業

平成12年2月に規制緩和が行われ、需給調整規制による免許制度から許可制度への移行により、新規参入の緩和、使用車両に係る規制の撤廃などが行われました。

一方、安全を確保するための規制については強化されています。

平成23年5月には、運転士の飲酒運転を根絶させるために、点呼時におけるアルコール検知器の使用義務化等の省令改正が施行されました。

平成25年8月には、高速ツアーバスが廃止され新高速乗合バスへ統合されました。新高速乗合バス業者は道路運送法の乗合旅客業者としての認可を受けたうえで、車両の運用、バスターミナルやバス停の利用、点検整備の方法、運転士の連続乗務時間と交代などの規制を受けるようになりました。また、同時に新高速乗合バス及び貸切バスにおける交代運転者などの配置基準も施行されました。

平成26年4月には、貸切バスの新たな運賃・料金制度が設けられ、過度な価格競争による安全を度外視した料金設定を防止する施策が図られています。

(4) 多角化経営

路線バス業者は路線バスエリアを拠点とした地域に密着しているため、そのメリットを生かし、他の事業を多角的に展開しています。また、路線バス業者は、輸送人員の減少という事業リスクを抱えているなか、安定収益源の確保として他の事業にも力を入れています。

多角化の業種としては、ホテル業、不動産賃貸業、不動産分譲販売業、飲食店やスーパーなどの小売業、スポーツ施設の運営、旅行業といった事業を行っています。これらの運営は、一般的に子会社を設立して経営効率化を図っています。

(5) 経営課題

① 一般乗合旅客自動車運送事業

路線バスは、生活に密着した地点に停留所を設置することによる利便性は比較的高いものの、都市部では、道路渋滞によるスケジュール運行の信頼性の低下、他の交通機関との路線の競合、他の交通機関より運賃にやや割高感があります。都市部以外の地域では、営業エリアにおける人口の少なさから、補助金を除く本来の収支では事業の維持が困難な状況となり、赤字路線の廃止に踏み切る会社もあります。

② 一般貸切旅客自動車運送事業

貸切バス事業者数や中小型車を中心とする車両数が増加し、競争が活発化するなか、旅行形態の変化などによって需要が大幅に増加する状況ではなく、単価の下落に伴う収益性低下が進んでいます。その結果、安全管理体制が不十分となったり、運転者の労働条件を悪化させたりすることとなり、これを起因とする事故の発生が社会問題化しました。

3.路線バス業の業務の流れと内部統制の特徴

路線バス業の大きな業務の流れは、資金を調達して営業所、バス停、車両などを購入し、運転手を雇用し、燃料を補給して、運行スケジュールどおりに運行させ、乗客を運送するというものです。乗客は、現金、定期券、バスカード、ICカードなどにより運賃を支払うため、現金の納金、定期券収入の期間按分や、カード乗車の精算などの業務が行われます。

路線バス業の財務報告に関する内部統制には、次のような特徴があります。

(1) 現金等に関する統制が重要

路線バス業では、現金、金券類を取り扱う機会が非常に多いため、盗難リスクや従業員の不正リスクなどへのけん制として、現金回収業務などの統制が強化されています。特に、路線バスの運賃箱からの現金回収は、従業員の手作業が極力生じないように機械化されています。

(2) 予算統制を重視

路線バス業は、マイカーに代替されつつあるものの、人々の日々の生活に利用されるものであり、比較的、年間の収益・費用が見通しやすい事業といえます。また、公的社会インフラとして、採算改善のための運賃改定や赤字路線の廃止を容易にできないことから、非効率な経営による無駄な費用を抑える必要があります。このため、予算と実績を比較して管理する予算統制が重視されています。

(3) ICカード乗車券の利用に関する統制

平成25年3月以降、ICカードの相互利用の範囲が全国で大幅に拡大し、利用者は基本的に1枚のカードで全国各地の公共交通機関を利用できるようになったため、ICカード乗車券による決済が普及しています。ICカードには多種多様なチャージ方法があるため、精算手続きは、チャージ額や入札および出札情報を取りまとめる業務を外部会社(鉄道会社、バス会社などが出資して共同設立する会社)に委託し、そこで一元管理する方法が採用されています。ICカードによる売上計上額の算定も外部会社に委託している場合は、受託会社の内部統制の評価が必要になることがあります。

(4) 財務健全性

地方公共団体から助成・補助金を受けるため、一般的に財務健全性が高いことが求められます。