業種別会計
自動車産業

第2回:サプライヤーの事業・会計処理の特徴

2016.04.19
新日本有限責任監査法人 自動車セクター
公認会計士 舟本孝史/魚橋直子/藤井優貴

1.はじめに

第2回は、自動車産業のうち自動車部品のサプライヤーにおける事業、会計処理等の特徴について解説します。

自動車1台を製造するのに一般的なガソリン車で2万~3万点、電気自動車で1万点、ハイブリッド車で3万点以上の部品が必要となると言われ、メーカーではこの部品の大半を多数のサプライヤーから調達しています。サプライヤーは多種多様にわたり、自動車部品を専門的に扱うサプライヤーのほかにも、自動車部品製造が多様な事業の1つであるサプライヤーもあります。今回は、サプライヤーにおける事業及び会計処理等のうち、主としてメーカーとの取引関係から生じる会計処理等の特徴について解説します。

2.サプライヤーにおける事業の特徴

サプライヤーにおける事業の主な特徴として、メーカーとの関係でみると以下の点を挙げることができます。

(1) 計画発注に基づく生産計画

サプライヤーの生産計画はその主要な納入先であるメーカーの生産計画の影響を大きく受けます。昨今はグローバル調達も進んでおり、生産月の6カ月前における基本生産計画に基づきサプライヤーは原材料等の調達基本計画を策定し、メーカーにおける生産月の2~3カ月前の修正基本生産計画の提示に基づき原材料等の調達・発注し、生産前月での月度計画の提示、約2週間前での生産調整などにより調達計画の修正や在庫調整を適宜行います。

(2) 原価管理の複雑性

サプライヤーはメーカーの多品種少量生産に対応するため、一般的に多品種の生産が必要であるため、品番管理としても多数の在庫管理が必要となります。特に、仕掛品の段階では、構成部品に含まれる共用部品の点数も多いため、原価計算上は工程別管理が重要となります。

(3) 汎用設備と専用設備

サプライヤーの製造設備は、各種の製品モデルに対応できる汎用設備と特定の製品モデルに合わせた専用設備があります。消費者ニーズの多様化から多品種少量生産が主流となって久しいですが、今後もサプライヤーとしては設備投資負担を軽減できる汎用設備投資を重視する傾向が続くものと考えます。

(4) 金型の使用

自動車部品の製造にあたり、塑性加工・射出成型等のための金型は不可欠であるため、多額の金型投資が発生し、使用する数も多数になります。サプライヤーにおいては金型の長期・大量保有に伴う投資回収、現物管理が重要な課題となります。

3.会計処理・内部統制の特徴

サプライヤーにおいては、次のような会計処理・内部統制上の特徴があります。

(1) 有償支給と無償支給

サプライヤーが製造のための原材料や部品を調達する際、自らそれを調達する場合のほか、メーカーから支給を受けることが広く行われています。またサプライヤー自身も2次加工のサプライヤーに原材料や部品を支給して加工を依頼することも多くみられます。

有償支給は、原材料や部品を支給しその加工を取引先に依頼する際に、原材料や部品の買取を取引先に求め、加工後戻ってきた際に再度購入します。一方無償支給は、買取を求めず、加工後戻ってきた際に加工賃のみ支払います。

① 有償支給
有償支給した原材料や部品は一旦有償支給先の所有となりますので支給元にとっては在庫ではなく、会計上は債権として管理することになります。支給に際しては購入価額とは別に支給単価を設定することもあります。

(会計処理)
支給元では支給時に支給単価に基づき債権を認識し、買戻時に、支給額に加工賃を加えた単価で仕入計上します。また、債権・債務の決済は支給時の債権と買戻時の債務を相殺することが考えられます。

【仕訳例:有償支給元】

(支給時)
(借)未収入金 XX (貸)原材料仕入 XX
(再購入時)
(借)原材料仕入 XX (貸)買掛金 XX
(決済時)
(借)買掛金 XX (貸)未収入金
   現金預金
XX
XX

【仕訳例:有償支給先】

(支給時)
(借)原材料仕入 XX (貸)買掛金 XX
(販売時)
(借)売掛金 XX (貸)売上 XX
(決済時)
(借)買掛金
   現金預金
XX
XX
(貸)売掛金 XX

「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)―IAS第18号「収益」に照らした考察―」(平成21年12月8日改正 日本公認会計士協会)では、有償支給取引の現在の実務について、有償支給元では、有償支給時に収益を認識していない処理が一般的である一方、有償支給先においては、加工代相当額のみを純額で収益として表示している場合と、有償支給元からの仕入高と有償支給元への売上高をそれぞれ総額で表示している場合があるとされています。しかし、有償支給先において、有償支給材料等のほぼ全量を加工後に売り戻すことが予定されており、また、有償支給材料等の価格変動リスクを負っていない場合には、リスク負担の観点から加工代相当額のみを純額で収益として表示することになるという考え方が示されています。当該買戻条件付販売契約に関する考え方は、平成26年5月に公表されたIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」においても実質的には変わらないものと考えます。

② 無償支給
無償支給の場合、支給元は支給先からの加工賃の仕入計上を行い、支給先は加工賃のみを支給元に対し売上計上することになります。
支給先が保有する支給品は支給元自身の原材料又は部品と変わらない預け在庫となるため、支給する側にとっては棚卸を含む在庫管理や仕損率の管理が重要となり、支給を受ける側も預かり資産としての管理が必要となります。

(2) 補給用部品

サプライヤーが生産する部品には自動車に組み付けられる部品のほか、自動車の修理等のための補給用部品が含まれます。自動車がモデルチェンジ等により生産中止となっても、自動車自体は市場に長期間残存するため、サプライヤーは一定量の補給用部品を長期間保有する必要があります。このため、将来の需要予測に基づく適正在庫数量の管理や受払管理が在庫管理において重要となります。

(会計処理)
サプライヤーが長期保有している補給用部品は、頻繁な受払が生じるわけではありません。このため、営業循環過程から外れた棚卸資産となった場合には、正味売却価額まで簿価を切り下げる必要があります。また、取り扱っている補給用部品の状況により、一定の滞留期間に応じた規則的な評価額の切り下げなどの方法に基づく評価損の計上も考えられます。

(3) 金型

① 金型の所有形態
金型を使用して製造を行うサプライヤーでは、金型自体の所有者がメーカーであるケースと、自社が所有者であるケースが考えられます。
メーカーが所有するケースは、メーカーから金型の貸与を受けてサプライヤーが生産するため、サプライヤー側で所有に係る会計処理はありませんが、自社所有のケースは、サプライヤー側で所有に係わる会計処理が求められます。
また、金型の使用という切り口でみると、サプライヤーの自社所有又はメーカーから貸与を受けた金型を自社で使用するケースと、2次加工のサプライヤーなどに貸与して使用させるケースがあります。

② 自社所有金型の減価償却
自社で所有する金型は、工具器具備品として有形固定資産に計上し耐用年数にわたり減価償却することになります。減価償却方法は、金型の減価の実態に応じて選択します。③で述べる投資回収のパターンに合わせた定額法、又は、予想される部品生産量に基づく生産高比例法のほか、企業の状況に照らし不合理と認められる事情がない限り、法人税法に基づく定率法も会計上は認められています。

③ 金型に係る投資の回収と収益の認識
サプライヤーにおいて金型への投資負担は大きく、これをどのように回収するかが課題となります。 サプライヤーが製造等で取得した金型を一旦メーカーに売却し、貸与を受けて使用する場合には、早期に投資を回収することができます。一方、金型を使用して生産・販売した部品代によって回収する場合、部品代には金型への投資額及び見込み販売台数によって算定した金型代相当額が含まれ、これを生産・販売数量に基づき回収することになります。このため、自動車の販売が不調の場合、部品の販売価格に含まれる金型代の回収不足が生じます。販売予定台数は、部品の納入単価を決定する上での主要な要素であり、メーカーにより約束された数量と考えられるため、台数未達による金型費用の未回収額を出荷開始後一定期間経過時点で精算することがあります。
実務上は、予定販売台数が未達の場合の精算や事後的な価格改定の回避、また、サプライヤーの資金負担の軽減のため、金型投資費用をメーカーが2年間にわたり毎月定額払いするケースが多くなっています。

(会計処理)
2年間(24か月)にわたる均等払いにより金型投資を回収する場合、金型に係る収益をどのように認識するかについて検討する必要があります。契約時点で金型投資の全てが回収されたと考えて、全額を一括収益計上する方法のほか、当該金型を使用して生産・販売する部品代の一部と考え、毎月定額で収益計上する方法も考えられます。

④ 金型の現物管理
サプライヤーでは、自社所有・貸与合わせて大量の金型を保有するほか、対象となる自動車の生産終了後も補給用部品の生産対応のため金型を長期間保有します。このため、自社所有の金型の棚卸や貸与先に対する現物確認などの現物管理が重要です。また、使用見込みがなくなった金型が有形固定資産として貸借対照表に計上されたままとなることがないよう、使用実態を踏まえた残高の管理を行うことが必要と考えます。

(4) メーカーとの間の価格交渉

サプライヤーとメーカーとの間で供給する部品の価格交渉が毎年実施されます。売価の改訂は決算期に合わせた対応となり、売価の交渉及び決定が年初で終了しないことも多く見られます。年度の第1四半期中には交渉がまとまらず第2四半期以降に価格改定が行われた場合、年初からさかのぼって売価の改訂を行うことも頻繁に生じます。

また、毎年の売価の改訂以外にも、一定期間の発注実績に応じた割戻を実施することがあります。一般的に当該交渉は半年又は年1回(年度末)で妥結されます。

このような価格・割戻の交渉については、四半期決算においてその動向をどのように会計処理に反映するかが重要な課題となりますが、実務上は交渉がまとまらない間の売価は過去の同品種の売価などを参照して仮単価を設定し、価格交渉がまとまった際に売価の遡及修正を行うケースが多くなっているようです。 「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)―IAS第18号「収益」に照らした考察―」(平成21年12月8日改正 日本公認会計士協会)では、収益の額の測定要件として、対価の額が確定している場合のほか、対価の額をほぼ確実に見積もることができる場合であるとされ、認識要件として対価が回収される可能性が高いと見込まれることとされています。ただし、この仮単価に関する会計処理は、IFRS第15号では変動対価の会計処理として大きく変わることから、慎重な検討が必要となる可能性があります。

(5) 自動車のリコール等に伴うメーカーからの求償

サプライヤーがメーカーに納めた部品は自動車として組立・販売され一般消費者に行きわたります。自動車に不具合がありリコール等を実施する場合、リコール等に係る交換部品の費用や改修作業に係る工賃などの費用をメーカーが一時的に負担します。リコール等の原因は徹底的に追及され、不具合の原因として設計上の問題や製造工程における問題、部品の品質上の問題などが特定されることになります。

自動車は大量の部品から構成され、メーカーはその多くをサプライヤーから調達しているため、リコール等の原因はサプライヤーが供給した部品にあることも珍しくありません。このため、サプライヤーは、メーカーとの協議により費用の一部又は全部を求償されることがあり、この場合にはサプライヤーは財務的な負担を負債として計上する必要があります。

リコール等の求償の諾否・求償の割合に関する交渉は、両者の主張が平行線をたどり数カ月以上続くことも珍しくありません。この交渉過程のどのタイミングで、どの程度の金額の負債の計上が必要となるかについて見積もりを含む難しい判断が必要となります。非常に高度な判断と見積もりが要求される分野であるため、説明可能で合理的な判断及び見積もりが行われるような内部統制の構築が課題となります。

<参考文献等>

  • 金型等の会計処理と税務 成田智弘 税経通信 2009年10月号
  • 自動車年鑑2007-2008版 (株)日刊自動車新聞社
  • 自動車年鑑2014-2015版 (株)日刊自動車新聞社
  • 国土交通省ウェブサイト

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