業種別会計
自動車産業

第2回:サプライヤーの事業・会計処理の特徴

2021.03.29
EY新日本有限責任監査法人 自動車セクター
公認会計士 魚橋直子/金子侑樹/河原寛弥/児島惇彦

1.はじめに

第2回は、自動車産業のうちサプライヤーにおける事業および会計処理等の特徴について解説します。

一般的なガソリン車の場合、自動車(四輪車)1台を製造するのに小さなネジなども含めると約3万点部品が必要となると言われ、完成車メーカーではこの部品の大半を多数のサプライヤーから調達しています。サプライヤーの業態は多種多様であり、自動車部品を専門的に扱うサプライヤーのほかにも、自動車部品製造が多様な事業の一つであるサプライヤーもあります。今回は、主として完成車メーカーとの取引関係から生じる会計処理等の特徴について取り扱います。

なお、意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。また、本文中では、「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」については、「収益認識基準」として、「収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)」については、「収益認識適用指針」として記載しています。

2.サプライヤーにおける事業の特徴

サプライヤーにおける事業の主な特徴として、完成車メーカーとの関係でみると以下の点を挙げることができます。

(1)生産計画

サプライヤーの生産計画はその主要な納入先である完成車メーカーの生産計画の影響を大きく受けます。例えば、生産月の6カ月前頃に、完成車メーカーの基本生産計画に基づき、原材料等の調達計画を策定し、生産月の2~3カ月前頃、完成車メーカーの直近の生産計画に基づき、原材料等の発注・調達が行われる場合があります。その後、生産月の前月の月度生産計画やその後の生産調整協議に基づき、調達計画の修正や在庫調整が行われる場合があります。昨今は、部品のグローバル調達も進んでおり、調達に要するリードタイムを考慮した在庫管理の重要性が高まっています。また、自然災害や事故、他業種との競合などにより、半導体をはじめとする材料の調達が滞る状況が見られており、不足の事態を想定した在庫管理に対する関心が高まっています。

(2)原価管理

完成車メーカーによる多品種少量生産に対応するため、サプライヤーは多種多様な原材料や部品の在庫を管理する必要があり、正確な品番管理体制を含む、適切な在庫管理プロセスが求められています。また、これらの多種多様な部品を対象とする複雑な原価計算プロセスが必要となります。特に、仕掛品の段階では、構成部品に含まれる部品の点数も多くなるため、原価計算上、適切な工程別管理が必要となります。

(3)設備投資

サプライヤーの製造設備は、一般に、各種の製品モデルに対応できる汎用設備と特定の製品モデルに合わせた専用設備から構成されます。現在は、消費者ニーズの多様化から多品種少量生産が主流となっています。このような事業環境下において、サプライヤーにおいては、設備投資負担の軽減が見込まれる汎用設備投資の比率を高めることが、投資効率の観点から重視される傾向がみられます。

(4)金型

自動車部品の製造にあたり、塑性加工・射出成型等のための金型は不可欠です。多品種生産への対応のため、使用する金型も多数にのぼり、多額の金型投資が発生します。また、自動車の耐久財としての性質から生じるアフターサービスへの対応等のため、一定期間金型の保持が必要となる状況もあり、サプライヤーにおいては、金型の大量・長期保有に伴う投資回収、現物管理が重要な経営上の課題となります。

3.サプライヤーにおける会計処理の特徴

サプライヤーにおける主な会計処理の特徴として、次の点を挙げることができます。

(1)有償支給と無償支給

サプライヤーが製造のための原材料や部品を調達する際、自らそれを調達する場合のほか、完成車メーカーから支給を受ける実務が広く行われています。また、サプライヤー自身も2次加工のサプライヤーに原材料や部品を支給して加工を外注する実務も多くみられます。これらの外注先に対する原材料や部品の支給は、一般に、有償支給と無償支給に区分されます。有償支給は、原材料や部品を支給し、その加工を外注先に依頼する際に、原材料や部品の買取を外注先に求め、加工後戻ってきた際に再度購入します。一方、無償支給は、支給品の買取を求めず、加工後戻ってきた際に加工賃のみ支払います。

①有償支給

有償支給とは、支給元が、部品等の加工を外部の外注先に依頼するときに、有償で原材料や部品を支給し、外注先における加工後に、加工された部品等を購入する取引です。支給品の支給に際しては、加工後の再購入価格とは別途、支給単価を設定する実務もみられます。また、債権・債務の決済は、支給時の債権と買戻時の債務を相殺して行われる場合もあります。

(会計処理)

有償支給の場合、支給された原材料や部品は、契約上、一旦有償支給先(外注先)の所有となる場合が一般的です。そのため、支給元企業では、従来、有償支給時に支給品に関する在庫の払出を認識し、加工後の買戻時に、支給額に加工賃を加えた単価で仕入計上する実務がみられました。他方、支給先企業では、有償支給を受けたときに、支給品を在庫として認識し、加工後に支給元企業に引渡す時に、在庫の払出を認識する会計処理が行われる実務がみられました。

収益認識基準では、有償支給取引の支給元企業について具体的な会計処理が定められています。収益認識基準によると、有償支給取引の支給元企業は、取引の実態に基づき、企業が支給品を買戻す義務を負っているか否かに基づいて、以下のように会計処理する必要があります(収益認識適用指針104項)。

  • 支給元企業が支給品を買戻す義務を負っている場合、支給元企業は在庫の消滅を認識せず、また、支給品の譲渡に係る収益も認識しない。
  • 支給元企業が支給品を買戻す義務を負っていない場合、支給元企業は在庫の消滅を認識するが、支給品の譲渡に係る収益は認識しない。
  • ただし、支給元企業が支給品を買戻す義務を負っている場合であっても、個別財務諸表においては、会計方針の選択によって、支給品の譲渡時に在庫の消滅を認識することができるが、その場合であっても、支給品の譲渡に係る収益は認識しない。

以上をまとめると、支給元企業に求められる会計処理は、以下のとおりです。

買戻義務 実務上の取扱い 支給品の消滅 支給品の譲渡に係る収益
あり 原則 認識しない 認識しない
代替的取扱い(個別のみ) 認識する 認識しない
なし 原則 認識する 認識しない

他方、収益認識基準では有償支給取引の支給先企業については具体的な会計処理が定められていません。したがって、各支給先企業において、取引の実態に基づき、会計処理を個別に判断することになりますが、支給元企業に求められる会計処理との整合性の観点から、支給元企業が支給品に対する買戻し義務を有していると判断される場合には、支給先企業で支給品の受入れ時に在庫を認識しない会計処理が採用されることが考えられます。また、支給先企業における有償支給取引に係る売上高の表示について、従来の会計実務においては、支給元企業からの支給品の仕入高と当該企業に対する加工後の製品の売上高をそれぞれ総額で表示している場合と、加工賃相当額のみを純額で売上高として表示している場合がみられました。この点、支給先企業において、支給品の受入れ時に在庫を認識しない場合、支給品について加工後に全量が支給元企業に売り戻されることが見込まれ、支給先企業が支給品に対する支配を有していない状況にあると考えられるため、加工賃相当額のみを純額で売上高として表示することが適切となる可能性があります。

②無償支給

無償支給とは、支給元が、部品等の加工を外部の取引先に依頼するときに、無償で原材料や部品を支給し、支給先における加工後に、加工賃部分を支払って加工された部品等を購入する取引です。一般に、支給先に無償支給された支給品は、支給元自身の原材料や部品と同様に、支給元の預け在庫として在庫管理されます。そのため、支給元にとっては、実地棚卸を含む在庫管理や仕損率の管理が重要となります。他方、支給先としては、支給元からの預かり資産として、自己保有の資産と区分した管理が必要となります。

(会計処理)

無償支給の場合、支給元は、加工された部品等の購入時に、支給先の加工賃相当について仕入計上を行い、支給先は加工賃のみを支給元に対する売上として計上する実務がみられます。

(2)カスタマイズ部品

サプライヤーは、部品供給契約に従って、特別仕様車などの特定のモデルのためにデザイン、製造されたカスタマイズ部品を完成車メーカーに提供することがあります。この場合、サプライヤーは、カスタマイズ部品を製作するための専用の設備や金型を取得して、供給体制を構築することが考えられます。

(会計処理)

従前は、カスタマイズ部品の供給に関しても、汎用的な部品の場合と同様に、完成車メーカー等の顧客に出荷した時や納品した時に売上を計上する実務がみられました。

収益認識基準では、カスタマイズ部品の供給について、取引の実態に応じて、納品した時などの一時点ではなく、カスタマイズ部品を製作するに応じて一定期間にわたり収益(売上)を認識する必要が生じる可能性があります。

具体的には、以下の要件を満たす場合に、カスタマイズ部品が製作されるに応じて、一定期間にわたって収益(売上)を認識する必要があります(収益認識会計基準38項(3))。

  • サプライヤーが完成車メーカーとの契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
  • サプライヤーが完成車メーカーとの契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

実際に一定期間にわたって収益(売上)を認識するか否かの判定は、サプライヤーがアフターサービス市場をとおして部品を販売できる可能性の評価を含む、別の用途への転用可能性の検討や、サプライヤーが履行しなかったこと以外の理由で完成車メーカーが契約を解約する際に、少なくとも履行を完了した部分についての補償(合理的な利益相当額を含む)を受ける権利をサプライヤーが有しているかの検討に基づき行うことが考えられます。(収益認識適用指針10~12項)

(3)補修用部品

サプライヤーが生産する部品には自動車に組み付けられる部品のほか、修理等のアフターサービスのための補修用部品が含まれます。自動車の場合、その耐久財としての製品の性質上、特定のモデルがモデルチェンジ等により生産中止となった場合でも、自動車自体は市場に長期間残存するため、サプライヤーは一定量の補修用部品を長期間保有する必要があります。このため、将来の需要予測に基づく適正在庫数量の管理や受払管理が在庫管理において重要となります。

(会計処理)

サプライヤーが長期保有している補修用部品は、部品の性質によっては必ずしも頻繁に受払が生じるわけではありません。このため、営業循環過程から逸脱した在庫について、適時に識別し、必要に応じて正味売却価額まで簿価を切り下げる会計処理を行う必要があります。また、取り扱われている補修用部品の内容により、受払の頻度が乏しい在庫について、一定の滞留期間に応じて規則的に評価額の切下げを行う実務もみられます。

(4)金型

金型に対する投資とその回収

自動車業界において、サプライヤーは、完成車メーカーからの要求仕様をみたす部品を製造するために、専用の金型を取得または製作する場合があります。金型の所有と使用に関しては、完成車メーカーが金型を所有してサプライヤーに貸与するケース、サプライヤー自身が金型を所有して使用するケース、サプライヤーが2次加工のサプライヤーに金型を貸与して2次加工のサプライヤーが使用するケースなど、さまざまな取引パターンが存在します。

サプライヤーにおいて、金型への投資負担は大きく、これをどのように回収するかが経営上の課題となります。そのため、金型の代金について、完成車メーカーがサプライヤーに対して(また、サプライヤーがさらに下請けのサプライヤーに対して)、その代金を支払うことがあり、日本の自動車業界の特徴的な取引慣行の一つになっています。

このうち、サプライヤーが部品の生産のために取得した金型を一旦メーカーに売却し、貸与を受けて使用する場合には、金型の投資に係る支出を早期に回収することができます。一方、金型を使用して生産・販売した部品代によって回収する場合、部品代に見込販売台数に基づいて算定された金型代相当額が含まれ、これを生産・販売数量に基づき回収することになるため、対象モデルの販売不振などにより、部品代として回収される金型代に不足が生じる可能性があります。販売予定台数は、金型代のみならず、部品の納入単価を決定する上での主要な前提条件となるものであり、完成車メーカーとの実質的な合意と考えられる場合など、販売台数が未達であった場合でも、個別の協議に基づき金型代相当額については補償が行われる場合があります。なお、実務上は、予定販売台数が未達の場合の精算や事後的な価格改定の回避、また、サプライヤーの資金負担の軽減等の目的のため、金型に係る投資額を完成車メーカーが一定期間(例えば、2年間)にわたり毎月定額払する方法(均等払)がみられます。

自動車業界における実務における代表的な金型代の回収方法をまとめると、以下のとおりです。

  • 金型代金を一括で回収する方法(「一括回収」)
  • 金型を使用して製造した部品の代金に上乗せして回収する方法(「部品代上乗せ」)
  • 金型を使用する一定期間にわたり定額で回収する方法(「均等払」)

なお、従来の金型取引に係る慣行においては、サプライヤーと完成車メーカーとの間で金型取引に係る個別の契約書等は作成されず、部品代に関する協議の中で、対価の支払方法の一部として合意されるケースが多くみられています。

(会計処理)

従来、わが国の会計実務では、金型を所有するサプライヤーにおいて、金型の代金を部品の納入先(完成車メーカー等)から一括回収する場合については金型の販売として会計処理し、また、金型の代金を「部品代上乗せ」または「均等払」の方法で部品の納入先から回収する場合には、金型を取得したときに有形固定資産として認識し、金型の使用に応じて減価償却する会計処理するケースがみられました。金型を有形固定資産として認識する場合、工具器具備品等の科目で計上され、耐用年数にわたって減価償却されています。減価償却方法は、金型の減価の実態に応じて選択されており、具体的には、投資回収のパターンに応じた方法(例えば、均等払の場合、定額法)、予想される部品生産量に基づく生産高比例法、または、企業の状況に照らし不合理と認められる状況がない限り、法人税法に基づく償却方法が利用されています。

収益認識基準においては、金型に係る明示的な契約がない場合においても取引の実態に基づいて、当該基準を適用することになると考えられますが、金型取引に関しては、取引ごとに実態が異なるため、金型に係る別個の契約が存在するかどうかは、個別の取引実態に応じて慎重に判断する必要があります。例えば、金型がサプライヤーから完成車メーカーに引渡される実態(金型に対する支配が完成車メーカーに移転する実態)がある場合には、部品供給契約とは別個に金型に関する契約が存在すると判断される可能性があります。

金型に係る別個の契約が存在すると判断した場合、関連する部品供給に係る契約と結合する必要がある場合を除き、金型に対する支配が完成車メーカーに移転した時に金型の対価として算定された金額で収益(売上)を認識するとともに、金型の取得に要した支出を売上原価として認識することが考えられます。収益の認識時点に関しては、取引の実態に基づき一定期間にわたり金型に対する支配が移転すると判断される場合を除き、一時点において金型の引渡しに係る収益を認識することになりますが(例えば、金型の検収を受けた時など)、どの時点で金型に対する支配が完成車メーカーに移転したかについては、取引の実態に基づき、金型の引渡しに係る履行義務の充足に関する五つの指標(収益認識基準40項)に照らして、慎重に判断する必要があります。

※資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定する際に検討する五つの指標(収益認識基準40項)
  • (1)企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
  • (2)顧客が資産に対する法的所有権を有していること
  • (3)企業が資産の物理的占有を移転したこと
  • (4)顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
  • (5)顧客が資産を検収したこと

金型に係る別個の契約は存在しないと判断した場合、サプライヤーは、関連する部品供給に係る契約の枠組みの中で、部品代金の一部として金型代金に相当する部分を回収する活動として金型取引を会計処理することになると考えられます。この場合、金型の対価として算定された金額について、関連する部品の供給に応じて収益(売上)を認識するとともに、金型の取得に要した支出を有形固定資産として認識し、部品の供給(金型の使用)に応じて減価償却することが考えられます。

【仕訳例:金型に係る別個の契約が存在しないと判断する場合】

設例:サプライヤーCは、完成車メーカーDに対する部品Qの製造のために、金型Y(原価100)を購入した。完成車メーカーDは、金型Yの対価として110を、2年にわたり均等にサプライヤーCに支払う。部品Qは2年にわたり50個の納入が計画されており、1年目までに30個の納入が行われた。サプライヤーCは、金型Yに係る別個の契約が存在しないと判断しており、金型Yは有形固定資産として計上され、部品供給に応じて減価償却される。

(1年目)

借方 貸方
現預金 50 売上高(金型) 66
売掛金 16    
有形固定資産(金型) 100 現預金 100
売上原価(金型減価償却費) 60 有形固定資産(金型) 60

なお、金型代の回収については、上記のとおり、一括回収による方法、部品代上乗せによる方法、均等払による方法などがみられます。金型代の回収パターンと金型に係る収益の認識パターンが異なる場合、前受金(契約負債)として認識されるケースも想定されます。

金型の現物管理

サプライヤーは、事業上、自社所有の金型のほか、外注先への貸与金型も含めて、大量の金型を保有する必要があり、また、対象となる自動車の生産終了後も補修用部品の生産対応のため等、金型を長期間保有する必要があります。このため、自社所有の金型の実査や貸与先に対する現物確認などの現物管理が重要になります。また、使用見込みがなくなった金型が有形固定資産として貸借対照表に計上されたままとなることがないよう、例えば、償却が完了していない金型について耐用年数を短縮する、または、減損損失を計上するなど、使用実態を踏まえた帳簿価額の再評価を行う必要があります。

(5)固定資産の減損損失

自動車部品の製造は、上記の金型に対する投資も含め、多数の機械装置等の設備を利用する必要があり、サプライヤーの貸借対照表に占める固定資産の割合は、相対的に高い水準にあります。

一方で、自動車産業をめぐる市場環境はグローバルでの競合他社との競争激化などにより悪化しており、今後、完成車メーカーの販売台数が減少した場合、納入する部品の減少をとおして、固定資産に対する投資の回収が困難となる状況が見込まれます。とりわけ、特定車種の専用資産については、当該車種の販売中止などに応じて、適時に固定資産の評価額を見直す必要があります。また、自動車をめぐる電動化やその他の技術革新などにより、サプライヤーの納入する部品が不要となるなど、事業環境に大きな変化が生じた場合、当初予定していた固定資産の利用が見込めなくなる状況も考えられます。

減損損失の認識・測定には、将来キャッシュ・フローや割引率など、さまざまな会計上の見積りが必要となり、また、必要に応じて外部専門家の関与等も必要となるケースも見込まれるため、対応に相応の時間とコストを要することが想定されます。固定資産の割合が相対的に高く、減損の兆候があると判断された場合に財務報告に及ぼす影響が大きくなる可能性がある事業としての性質を踏まえ、あらかじめ、減損損失の認識・測定に係るプロセスの構築が求められます。

(6)メーカーとの間の価格交渉

サプライヤーと完成車メーカーとの間では、供給する部品の価格交渉が毎年実施されています。部品の取引価格の改訂は、通常、年度末に合わせた対応となることが多く、取引価格の交渉が、期初や期中において、終了しないことも多く見られます。例えば、年度の第1四半期中には交渉がまとまらず、第2四半期以降に価格改定が行われた場合、期初に遡って取引価格の改定を反映する状況も見受けられます。

また、毎年の取引価格の改定以外にも、一定期間の発注実績に応じた返金(リベート・売上割戻し)を実施することがあります。一般的にリベート・売上割戻しに係る交渉は、完成車メーカーとの関係性等により、四半期ごと、半年ごと、または、年度ごとに妥結されることが多いようです。

このような取引価格や割戻の交渉については、サプライヤーの四半期決算に影響を及ぼす可能性があり、その動向をどのように会計処理に反映するのかが重要な会計上の検討事項となります。従来は、交渉中の取引価格は過去の類似する品種の取引価格などを参照して仮単価を設定し、価格交渉が妥結した時に、取引価格の遡及修正を行う実務が行われるケースが多くみられました。また、リベート・売上割戻しに関しては、完成車メーカーとの間で返金の金額が確定した時に売上高の修正を行う実務もみられました。

収益認識基準においては、期末日ごとに、合理的に入手できるすべての情報を考慮して合理的な取引価格を見積り、収益(売上)を計上する必要があります。この時、取引価格に変動性がある(変動対価)場合は、取引価格に関する不確実性が事後的に解消される際に、既に計上された収益(売上)の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めることができるとされています(収益認識基準50~54項)。したがって、例えば、仮単価と実際単価の乖離が著しい場合など、仮単価の算定方法を見直しが必要となる可能性があります。そのため、仮単価と実際単価の比較分析や売上割戻し見込み額と売上割戻し実績額の比較分析などを行うことにより、期末日ごとに、取引価格が合理的な範囲で見積られているかどうかを検討する必要があります。

なお、このとき、完成車メーカーから受け取ったまたは受け取る対価について、完成車メーカーに返金することが見込まれる場合は、返金が見込まれる部分について、返金負債を計上する必要がある点についても、留意が必要です(収益認識基準53項)。

(7)自動車のリコール等に伴う完成車メーカーからの求償

サプライヤーが完成車メーカーに納入した部品は自動車に組込まれて販売され、ユーザーのもとに納車されます。自動車に不具合があり、リコール等が実施される場合、リコール等に係る交換部品の費用や改修作業に係る工賃などの費用は、完成車メーカーが負担します。その後、リコール等に至った原因は徹底的に調査され、不具合の原因となった設計上の問題や製造工程における問題、部品の品質上の問題などが特定されることになります。

自動車は大量の部品から構成され、完成車メーカーはその多くをサプライヤーから調達しているため、リコール等の原因がサプライヤーの供給した部品にあることも珍しくありません。リコール等の原因が部品にある場合、当該部品を供給したサプライヤーは、完成車メーカーとの協議により、リコール等の費用の一部または全部の求償を受けることがあり、この場合にはサプライヤーは財務的な負担を負債として計上する必要があります。

リコール等の求償の諾否・求償の割合に関する交渉は、関係者の主張が折り合わず長期間継続する場合もみられます。この交渉過程のどのタイミングで、どの程度の金額の負債の計上が必要となるかについて、合理的な会計上の見積りを行うにあたっての難しい判断が必要となります。経営者による判断が要求される分野であるため、説明可能で合理的な判断および見積りを担保する内部統制の構築が求められます。

参考資料

自動車産業

情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?