業種別会計
自動車産業

第1回:自動車産業の概要

2016.04.19
新日本有限責任監査法人 自動車セクター
公認会計士 舟本孝史/魚橋直子/藤井優貴

1.はじめに

自動車産業は、素材メーカーから販売・サービス、金融産業にまで関連していて、裾野が広く、かつ、グローバル展開していることから、各国の景気に大きな影響を及ぼす業界として知られています。

本稿では、シリーズの狙いに沿って、ビジネスや取引慣行、取り巻く経済環境を踏まえて自動車産業全体のイメージをつかみ、さらに自動車産業を、サプライヤー(部品製造)・メーカー(組立)・ディーラー(販売)に大まかに区分して、各産業の特徴を3回に分けて連載します。なお、意見にわたる部分は自動車セクターナレッジの私見であることをあらかじめお断りしておきます。

自動車産業の定義や分類方法はさまざまですが、本稿ではシンプルにサプライヤーと、メーカー・ディーラーと捉えて解説することとします。

第1回の今回は、次の解説をします。

  1. 自動車産業とは
  2. 自動車産業を取り巻く環境
  3. 自動車産業の特徴
  4. まとめ

2.自動車産業とは

自動車産業の定義と分類

自動車産業とは、自動車及び自動車部品の生産、販売、利用、整備に関連した産業を指します。
自動車産業における「製造から販売までの流れ」の概要は図表1、「自動車業界の構造」の概要は図表2をご参照ください。

【図表1:製造から販売までの流れ】
(図をクリックして拡大)
図表1:製造から販売までの流れ

【図表2:自動車業界の構造図】
図表2:自動車業界の構造図

図表2が示すとおり、メーカーは、企業数こそ少ないですが、1社当たりの事業規模は大きく、資金を含むあらゆるリソースが集中しています。一方、一般的なサプライヤーは、1社あたりの事業規模がメーカーに比べると相対的に小さく、会社数も多く、かつ特定の部品に特化した専業事業を営んでいます。従って、メーカーは自動車の新規開発とエンジンやシャシーなど中核パーツを製造し、多くのサプライヤーからの部品供給を受けて、自動車を組み立てることが一般的です。但し、最近ではサプライヤーが研究開発したシステムやコンポーネントについてを複数のメーカーが採用するといったケースも生じ、サプライヤーの中から特定の部品について市場シェアが極めて大きい、あるいは複数の製品を取りそろえた総合部品メーカーのようなメガサプライヤーが現れてきています。メガサプライヤーが、グローバルな規模で各メーカーに自社のシステムやコンポーネントを提案し、部品を提供するという役割を担うことにより、メーカーとサプライヤー間のビジネス構造が逆転する現象も一部では生じています。また、電気自動車の性能の重要な要素となるリチウムイオン電池を開発する電池メーカーも、サプライチェーンの中で重要な存在になってきています。

3.自動車産業を取り巻く環境

(1) 自動車産業の歴史

自動車産業のこれまでの歴史を図表3にまとめます。
この100年を超える期間で、自動車産業は数多くの好況と不況とを繰り返して今日に至っているといえます。

【図表3:自動車産業の歴史】
  • 1904年:最初の国産車、蒸気自動車製作
    すでに海外では、1886年にダイムラーが世界で最初のガソリン四輪車を発明。1908年には、米国のフォードが、T型フォードを発表し、ベルトコンベア方式を用いた量産技術を確立
  • 1929年:東京石川島造船所の自動車部門が独立して石川島自動車製造所が設立(→現在のいすゞ自動車)
  • 1933年:自動車製造設立(→現在の日産自動車)
    豊田自動織機が自動車部を設立(→現在のトヨタ自動車)
  • 1936年:自動車製造事業法の施行
    自動車産業は政府の許可が必要となり、所得税、地方税、輸入税などが免除となった。
    第二次世界大戦で敗戦→GHQにより乗用車の生産が禁止
  • 1955年:国民車育成要綱案を通産省が発表
    国を挙げて自動車産業に取り組む機運が高まる。また、高速道路の整備が始まり、生産はトラックから乗用車へ移行
  • 1958年:富士重工業が「スバル360」(大人4人乗り・比較的廉価)を発表→マイカーのブームが起きる。
  • 1964年:東京オリンピック→高度成長が進み、大衆車が出回る。
  • 1973年:ホンダがCVCCエンジン(米国で1970年に発効した排ガス規制であるマスキー法を世界で最初にクリヤしたエンジン)搭載の「シビック」を発表。トヨタ、日産を追うブランドに成長し始める。
  • 1980~1990年代前半には、燃費の良さなどを売り物に成長を続け、輸出が一気に増加→日米貿易摩擦→海外現地生産を一気に強化→外資勢との合従連衡が相次ぐ
  • 2000年代 金融危機前までは、北米やアジアでの成長に支えられ好調が続いた。金融危機後はGMの経営が破たんする一方、日本車メーカーは米国市場で好調を続けた。
  • 近年:世界の自動車需要のうち先進国の需要が頭打ちの状態が続き、替わって特に中国市場の膨張に主導される形で新興国の需要が急速に伸びてきている。
  • 一方、環境規制が強化される中で、従来のガソリン車に変わる新しい技術に基づく自動車の開発が急速に進行し、次世代の自動車市場の主導権を握るべく競争が激化している。欧州では燃費の良いディーゼルエンジンの評価が高まる一方で、ガソリンエンジンでもダウンサイジングターボ等の新しい発想の駆動方式が注目され、日米では、ハイブリッド車の普及が加速している。
  • また、自動運転の分野においては、IT関係といった既存の自動車メーカー以外の様々な業種・規模の会社が市場に参入してきている。

(2) 事業環境

現在の自動車業界を取り巻く全般的な事業環境を以下にまとめます。

  • 国内市場及び欧州市場が頭打ちの中、金融危機時に大きく落ち込んだ米国市場が好景気を背景に回復してきている。一方、ここ10年において世界の自動車需要を大きく牽引し、世界一の市場となってから久しい中国市場においては需要の伸びに陰りがみられる。中長期的にはインドや東南アジア等が新興国市場を牽引するとみられるものの、直近では新興国市場は不安定さを増してきている。
  • 全般的に海外での販売比率が高いことから、為替相場の変動の影響を受けやすい。
  • 法令規制(環境規制等)に対応する為の研究開発費用の増大
    地球温暖化問題の高まりを受け、環境技術の開発が最優先課題となっており、プラグインハイブリッド車を含む電気自動車や燃料電池車などエコカーの開発が加速している。

4.自動車産業の特徴

(1) 自動車産業の特徴

自動車産業の特徴を以下にまとめます。

① 広範な関連産業で成り立っている
自動車産業は製造・販売をはじめ整備・資材など各分野にわたる広範な関連産業を持つ産業です。二輪車、部品・付属品製造、運送業等の利用部門、ガソリンステーション等の関連部門、電気機械・鉄鋼等の資材部門を含めた、これら自動車関連産業に直接・間接に従事する就業人口は社団法人日本自動車工業会の推計によると約550万人にのぼり、大きな雇用機会を創出しています。

② 総合産業である
自動車は2万~3万点の部品より組み立てられていますが、どんなに大きな自動車工場でもそれらの部品を全部自前生産しているわけではなく、外注加工に出すものや、タイヤ、バッテリーなど完成した構成部品を購入する割合がかなりあります。また、自動車産業で使用される主要な素材、部品は多種多様にわたっています。自動車産業が一大総合産業といわれるのもそのためであり、膨大な設備投資や研究開発費の投入など、その動向は経済界のバロメーターとして重視されています。

③ 基幹産業である
2013年の自動車製造業(二輪自動車、車体・付随車、部分品・付属品を含む)の製造品出荷額等は51兆9,710億円であり、全製造業の製造品出荷額等に占める自動車製造業の比率は17.8%でした。
また、2014年の自動車関連の輸出額は10兆9,194億円(二輪自動車、車体・付随車、部分品・付属品を含む)は14兆7,849億円であり、わが国の総輸出入額(円ベース)に占める割合としては14.93%でした。一方、自動車関連の輸入額は、2.1兆円となっており、わが国の主要な輸出産業として貿易黒字の重要な部分を稼ぎ出しています。
このように、自動車産業は、日本経済を支える重要な基幹産業としての地位を占めています。

④ 各国家における戦略的産業である
自動車製造業は、その素材として鉄鋼業や化学工業、ガラス、ゴム等の素材産業を上流とし、製造設備としての機械工業などにも大きな影響があり、産業連関の中枢を占めています。また、雇用創出という点や、国際競争力の源泉である技術開発力という点からも、自動車産業は個別企業間の問題であるだけでなく、各国家の戦略的な産業と位置づけられます。このため、自動車産業は国家間における競争という複雑な問題にも直面しています。各国は自国の自動車産業を育成するために、積極的に自動車産業を誘致、発展させる政策をとっています。

(2) ビジネスの理解

自動車関連ビジネス全般の理解に当たって、留意すべき事項を以下にまとめます。

  • 金融危機に端を発する世界経済の構造変化は自動車産業に大きな影響を与え、産業自体の構造変化が必要となっている。日・米・欧の先進国の成長率が鈍化する一方で、それを補完する形で新興国の市場拡大が、世界経済を牽引している。但し、直近は中国の成長鈍化を契機として新興国市場の伸び悩みが顕著となり、自動車市場を含む、世界経済の不透明感が強くなっている。
  • 日本の自動車産業は、トヨタ生産方式に代表される効率的な生産システムやそれに基づく高い品質、ハイブリッド車に代表される環境対応車の先進性などによって、世界的にも極めて高く評価されている。
  • 日本においては、国産大手が大半のシェアを占め、欧米企業のシェアは低くなっている。他方、欧州(独、仏、伊)ではそれぞれ国ごとに、国産のトップ企業が存在している。また、米国では国産企業と、日系企業がそれぞれ多くの市場シェアを獲得している。さらに、中国においては、欧州企業のシェアが高いものの、民族系企業の存在感が高まっている。このように、地域ごとに大きく競争環境が異なっている。
  • 為替リスクが高く、また、原材料等の価格リスクも高い。
  • 設備投資及び研究開発が特に重要な項目である。
  • 一般的に新車販売ばかりに目が行くが、中古車市場の充実も特徴である。
  • 労務費に関するコントロールが重要な産業である。

自動車会社が発展する上で、規模の拡大は今も昔も重要なテーマです。様々な環境技術を開発すると同時に、世界の主要市場で存在感を発揮するには一定の事業規模が必要となります。資本提携といった枠組みだけではなく、経営の独立性を保ちつつ、シナジー(相乗効果)や規模の効果を追求する事例も増えてきています。

また、自動車関連ビジネスの中でも、特に国内販売ビジネスの理解について留意すべき事項を以下にまとめます。

  • 新車販売ビジネスにおいて、販売台数が伸び悩む国内市場で生き残るための集約化・体力強化を目的に、販売網の再編・統合が進んでいる。
  • ディーラーは、メーカーとの関係によって二つのタイプに分けられる。一つは、地元の事業者だけでなくメーカーも出資して設立した「メーカー資本」のディーラーであり、もう一つは地元の事業者が設立して、メーカーと販売契約を結んだ「地域資本」のディーラーである。
  • 日本においては、競合ブランドを併売する独立系ディーラーが少なく、特定のメーカーないしブランドを専売するディーラーが主流となっている。そのため、アフターサービスや販売金融も、メーカーとの結び付きが強い。
  • ディーラーとメーカーとのつながりが、以前にも増して強まっており、「販売店のサービスもクルマのブランドイメージを左右する」という意識のもと、トヨタのレクサス店の運営のような特定顧客層への差別的なサービスに重点を置くケースが出てきている。また、ディーラーの業務にもIT化の波が押し寄せており、メーカーは全国規模で販売システムを整えるべく、ディーラーの業務改善を積極的に支援している。合わせて生き残りをかけて、ディーラー自らもしくは、メーカー主導で再編・統合が行われている。
  • 海外メーカーを国内で販売する輸入車ディーラー、輸入業務に関わる業務を担当する輸入車インポーターなども成長している。
  • 年間300万台から400万台もの中古車が流通していると言われており、中古車市場には、多様なビジネスモデルを持つ多くの事業者が参入し、しのぎを削っている。
  • 自動車整備ビジネスも大きく発展しており、自動車整備業者は大きく次の四つのタイプに分かれる。
    ①自動車整備を主体とする専業整備業者
    ②中古車販売やカー用品販売、ガソリン販売などに付随して整備を行っている兼業整備業者
    ③新車販売のアフターフォローとして自動車整備を引き受けているディーラー
    ④運送会社の工場でバスやタクシーのメンテナンスを担っている自家整備業者

企業数では、専業整備業者が圧倒的に多いが、売上高では専業整備業者全体よりも、ディーラー全体の売上高の方が上回っています。整備業者同士の連携が進む一方、自動車整備を担う人材であるメカニックの争奪戦が激化しています。

また、上記③では、新車販売による利益の獲得が厳しくなる一方、自動車整備等の自動車整備部門の体制を強化することで経営の安定化、継続的成長を図ることが主流になってきています。

5.まとめ

今回は、主に自動車産業の事業の特徴について概観しました。

第2回、第3回では、サプライヤー、メーカー及びディーラーにおけるビジネスの特徴を取り上げながら会計処理について解説をします。

<参考文献等>


自動車産業

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