アパレル業界 第4回:固定資産の減損

2022年2月14日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 田代隆志/柳本高志

1. アパレル業界における固定資産の特徴

アパレル業界においては、川上から川下まで一般的に以下のような商流をたどります。

<図表1>

<図表1>

※ 途中段階で卸売業者や商社が入る場合もあります。

川上のメーカーにとっては、工場等の製造設備が主な固定資産となり、川下の小売業者にとっては、百貨店等の建物付属設備や什器備品、路面店の土地や建物が主な固定資産となります。また、近年ではECのシステム導入に伴う無形固定資産(ソフトウェア)も重要な資産となりつつあります。

また、本来の建物等の固定資産以外に資産除去債務もあります。特に、川下の小売業者においては、ショッピングセンターやファッションビル等への出店に当たり、建物等の賃借契約に、賃借契約の終了に際して原状回復義務が規定されているケースも多く、この原状回復義務は資産除去債務として負債計上され、資産除去債務に対応する固定資産が計上されます。

本稿では、これらの固定資産の中で、アパレル業界に特徴的な論点が存在する店舗等の販売施設や、資産除去債務に関連する資産の減損処理、また新型コロナウイルス感染症拡大がアパレル業界の固定資産投資に与える影響について解説します。

2. 固定資産の減損処理

減損処理とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めないと判断された場合に、回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。

減損処理は主に、資産のグルーピング、減損の兆候の判定、減損損失の認識の判定、減損損失の測定、のプロセスで実施されます。

(1) 資産のグルーピング

固定資産の減損に係る会計基準二6(1)において「減損損失を認識するかどうかの判定と減損損失の測定において行われる資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う」とされています。

多店舗展開をしているアパレル業界に属する企業においては、通常、キャッシュ・フローを生み出す最小の単位は店舗であることが一般的で、資産のグルーピングは店舗単位で行うことが多いと考えられます。

しかし、必ずしも店舗単位のグルーピングに限られるわけではなく、例えば同一敷地内に複数の店舗を出店している場合など、それらの店舗が生み出すキャッシュ・イン・フローが相互補完的であり、一方の店舗を切り離したときに、他方の店舗から生じるキャッシュ・イン・フローに大きな影響を及ぼすことが考えられる場合には、それらの店舗を一体としてグルーピングをする方法も考えられます。

(2) 減損の兆候の判定

固定資産の減損に係る会計基準二1において「資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象がある場合には、当該資産又は資産グループについて、減損損失を認識するかどうかの判定を行う」とされており、減損の兆候として、次のような事象が例示されています。

①資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みであること

②資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、又は、生ずる見込みであること

③資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、又は、悪化する見込みであること

④資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと

① 資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みである場合

店舗等の資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、マイナスとなる見込みである場合は、減損の兆候を認識することとなります。

留意点として、営業活動から生ずる損益は、営業上の取引に関連して生ずる損益であり、これには、本社費等の間接的に生ずる費用が含まれます。従って、減損の兆候の判定上、本社費等の間接的に生ずる費用は、合理的な方法により、各資産又は資産グループに配賦した上で、マイナスか否かの判定が実施されるものと考えられます。

また、ここでいう「継続して」とは、おおむね過去2期を指すものとされています(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第12項(2))。

なお、開店当初において、季節的変動や出店経費の影響等の理由により、あらかじめ合理的な赤字幅が見込まれ、かつ当初の計画から著しく下方に乖離(かいり)していない場合は、減損の兆候に該当しないと考えられます(同適用指針第12項(4))。なお、このようなケースにおいては、あらかじめ合理的な事業計画(当該計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの)が策定されている必要があります。

② 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合

店舗の退店、ブランドの撤退、店舗の転貸等により、資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じた、又は、生ずる見込みである場合は、減損の兆候となります。なお、このような変化は実際に生じた場合のみならず、取締役会等において決定された段階や、決定権限が委譲されている権限者の承認の時点で、回収可能価額を著しく低下させる変化が生ずる見込みである場合も、減損の兆候に該当するとされています(同適用指針第82項)。

③ 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、又は、悪化する見込みである場合

経営環境の著しい悪化は個々の企業によって大きく異なるため、一概に例示することは難しいものの、規制強化や重大な法令違反などの法律的環境の著しい変化、自然災害、不祥事によるブランド価値の毀損(きそん)、近隣の環境の著しい変化等が考えられます。資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化、あるいは、悪化する見込みである場合には、減損の兆候となります。

④ 資産又は資産グループの市場価格が著しく下落した場合

自社で土地を保有し、所有する土地の市場価格が著しく下落した場合、減損の兆候になると考えられます。

(3) 減損損失の認識の判定、減損損失の測定

固定資産の減損に係る会計基準二2(1)において「減損の兆候がある資産又は資産グループについての減損損失を認識するかどうかの判定は、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行い、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識する」とされています。

また、固定資産の減損に係る会計基準二3において「減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする」とされています。

減損損失の認識の判定、及び減損損失の測定において、見積られる将来キャッシュ・フローは、企業の固有の事情を反映した、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づきます。

取締役会等の承認を得た中長期計画に基づき、各資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローを見積ることが考えられますが、多店舗展開しているアパレル小売企業の場合、実務上は、各資産又は資産グループ単位で中長期計画が存在しない場合もあります。その場合は、過去の一定期間における実際のキャッシュ・フローの平均値に、これまでの趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率の仮定をおいて見積る方法等の方法で将来キャッシュ・フローを見積ることが考えられます(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第36項(2))。

3. 資産除去債務及び差入預託保証金等に関する減損処理

(1) 原状回復義務による資産除去債務について

多店舗展開しているアパレル小売企業において、建物等の賃借契約により原状回復義務が規定されており、内部造作等の除去費用が資産除去債務として計上されている場合があります。この場合、当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、当該計上額に関連する部分について、当該資産除去債務の負債計上及び、これに対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができるとされています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針第9項)。この方法を採用している場合、敷金のうち、回収が最終的に見込めないと認められる金額は、非金融資産に該当すると考えられ、そのうち未償却金額は減損会計の適用範囲に含まれるものと考えられます。

(2) 建設協力金等の差入預託保証金について

店舗の出店の際に、建設協力金等の差入預託保証金を差し入れるケースがあります。その場合、原則として、差入預託保証金を回収可能額である時価で資産計上し、支払額と時価との差額を長期前払家賃として計上しますが、その長期前払家賃は非金融資産に該当すると考えられ、そのうち未償却金額は減損会計の適用範囲に含まれるものと考えられます(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第68項)。

4. 関連する内部統制

アパレル小売企業における減損会計においては、資産グループの数が多数になるケースが多く、減損対象の固定資産、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フロー、さらに本社費等の間接費の集計、配分作業等で誤りが生じやすいため、複数の担当者によるチェックや、それらの合計値と貸借対照表、損益計算書等の整合性を確認する内部統制を整備することが考えられます。

また、各資金生成単位の将来キャッシュ・フローを算定する際には、経営企画部門や店舗管理部門等から事業計画を入手することが考えられますが、事業計画が過度に積極的なものであったり、目標値であったりする場合もあるので、経理部門において会計上の見積りの基礎として、ふさわしい仮定か確認する統制が必要だと考えられます。

5. 新型コロナウイルス感染症拡大がアパレル業界の固定資産投資に与える影響

新型コロナウイルス感染症拡大は、人々の生活に大きな変化をもたらし、この変化に対応するかたちでアパレル業界の経済活動も大きく変化しています。これらの変化が、アパレル業界の固定資産投資に与える影響について記載します。

(1) 減損損失について

コロナ禍におけるアパレル業界の変化として、例えば、外出が抑制されることにより消費者の趣向が変わる、あるいは店舗での消費ではなくECサイトでの消費にシフトする、などが挙げられます。さらに、国や自治体の要請により、強制的に店舗を閉じざるを得ないケースもあります。

これらの結果、アパレル業界においては、店舗等の販売施設に減損の兆候がみられるケースが増加しています。具体的な減損の兆候としては、臨時休業や店舗来店客数の減少などの影響により、店舗等の資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、又はマイナスとなる見込みである場合や、あるいは感染症拡大を契機に店舗戦略を見直し、退店、プランドの撤退、店舗の転貸等の意思決定を行う場合などが挙げられます。

減損の兆候がある資産又は資産グループに関しては、企業の固有の事情を反映した、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく、将来キャッシュ・フローを見積る必要があります。この際企業は、新型コロナウイルス感染症拡大がどの程度将来キャッシュ・フローに影響を及ぼすのか、仮定を置く必要があります。新型コロナウイルス感染症の終息に関する完全な見積りは難しいものの、どの程度の期間自社のビジネスに影響を与えるのか仮定を置き、当該仮定を注記などで適切に開示しつつ、企業は将来キャッシュ・フローを見積ることとなります。

2020年3月期における開示では、新型コロナウイルス感染症の終息が1年以内に見込まれるとしていたケースが多かった一方で、2021年3月期以降の開示では、新型コロナウイルス感染症が自社のビジネスに中長期的な影響を与えると予想しているケースが増加しています。大規模な工場投資などと比較して、店舗等の販売施設の経済的残存使用年数は短いため、新型コロナウイルス感染症による影響が中長期的な期間に及ぶとなると、固定資産から得られるキャッシュ・フローの総額が大きく減少し、結果として、アパレル業界においては減損損失を計上しているケースが増えています。

(2) ソフトウェア投資について

店舗等に関連する有形固定資産の減損損失を計上する一方で、アパレル業界ではEC売上が増加する傾向にあり、今後は、ECサイトやアプリなどに対するソフトウェア投資が増加していくことが予想されます。このため、ソフトウェア投資に関する留意点を記載します。

まず当該ソフトウェア投資が資産になるのか費用になるのか、慎重な検討が必要になります。自社利用のソフトウェアに係る開発投資を資産に計上するには、将来の収益獲得又は費用削減が確実であるという要件があります(会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(以下、ソフトウェア実務指針)11項)。そして資産計上の開始時点と終了時点がソフトウェア実務指針12-13項に定められています。この点、従来からあるウォーターフォール型の開発であれば、開発工程が一方向で進んでいくため、ソフトウェア実務指針に沿って資産計上の判断や計上範囲の特定を行いやすいです。一方で、今後は消費者やユーザーを意識しながら柔軟にソフトウェア開発を行うアジャイル型の開発が増えていくことも予想されます。アジャイル型の場合、短い期間で反復しながら開発が進み、開発内容も弾力的に変化することから、ウォーターフォール型のように一定期間の開発工数を資産の計上範囲に含めてしまうと、将来の収益獲得又は費用削減が確実であるかどうかが不明な(研究開発目的のための)コストが含まれてしまい、結果全体としての資産計上が認められない可能性が高くなります。このためアジャイル型の開発においては、将来の収益獲得又は費用削減が確実と判断できるソフトウェアの仕様や機能を明確にし、当該仕様や機能の開発に要したコーディングやテスト費用などの活動に関連する費用を集計する仕組み(内部統制)が資産計上のためには必要であると考えられます。

資産計上されたソフトウェアは、店舗等の販売施設と同じく、2.固定資産の減損処理に記載されたプロセスを経て、減損損失の有無について経営者によりモニタリングされることとなります。当該ソフトウェアの使用によりEC売上が増加するケースにおいては、EC売上は他の販売チャネルよりも利益率が高くなる傾向にあるため、減損リスクは相対的に低くなるものの、投資が大きくなり毎期の費用負担が増加する場合、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、又はマイナスとなる見込みであるなどの減損の兆候の例示に該当することも考えられるため、毎期の投資と損益のバランスについては留意が必要となります。

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