業種別会計
アパレル業界

第2回:売上及び営業費用

2019.04.10
EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 飯塚祐太/小林勇人/中村拓也/矢野雄紀

1. アパレル業界における各種プロセスと企業が支出する費用

第1回ではアパレル業界の概況について記載しましたが、第2回では具体的に、アパレル業界の売上及び営業費用の会計処理及び内部統制を見ていきます。まずは、アパレル業界のプロセスと費用の関係について、まとめます。

<図表1>

図表1

(1) 商品企画

販売計画に基づいて、商品企画を実施していきます。マーケティング活動を基に投入する商品の方針を決め、サンプルを作成し、ブランドによっては展示会を開催し、取引先との交渉を実施していきます。社内外の反応だけではなく、投入する商品の原価等の要素も踏まえて最終的に確定し、発注することになります。商品の企画を行うことは同時に商品の想定原価を決めることになるので、アパレル企業の収益性にも大きな影響を与えることになります。

発生する費用:マーケティング費用、展示会開催費用、デザイン費用等

(2) 製造

実際の製造活動に入ります。多くのアパレル企業は販売と企画に軸足を置いており、製造機能を有していないため、外部企業への発注という形を取ります。製造拠点は、コスト競争力を考えて海外への発注がほとんどです。海外との取引が発生するため為替変動リスクにさらされることも多く、また、自社で製造を行うSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel)の形態を取る企業は、製造リスクも負うことになります。

発生する費用:商品原価、製造原価(原材料や人件費等含む)

(3) 保管・配送

外部企業又は自社工場からの仕入れを受けて、倉庫で保管を行うことになります。海外からの仕入れについては、関税が発生することもあります。近年はECサイトからの販売も増えていますが、EC販売は個人顧客へ配送を行うため、店舗販売と比較して配送頻度が増え、運送料が膨れる傾向にあります。

発生する費用:運送料、関税、倉庫費用(人件費含む)

(4) 販売活動

販売活動で大きな割合を占める費用は広告宣伝費、販売員の人件費であり、実地店舗の場合は賃料がかかります。広告宣伝費は、雑誌媒体やダイレクトメール等の広告料が多くを占めるケースがよくあるものの、近年はインターネット広告やメールマガジンの配信等、多額のコストを要しない広告へのシフトが見られます。人件費については、近年の人手不足の環境下で販売員の確保が難しいことから、派遣社員の採用や、契約社員の正社員への転換を進めている事例があります。また、実地店舗ではブランド戦略に応じた魅力的な店舗とするため、デザイン料、什器・備品の購入費用等も必要となります。

発生する費用:広告宣伝費、販売員の人件費、賃借料、システム減価償却費及び運用費用

2. アパレル業界の売上に関わる会計処理

(1) 販売チャネルと収益認識時点

アパレル業界での販売チャネルに関しては、従来は対面での販売が主でしたが、インターネットの活用等により年々、多様性を増しています。アパレル業界に関する販売チャネルと収益の認識時点について、まとめます。

<図表2>

No. 販売チャネル 取引形態 在庫リスク 収益認識時点
1 自社直営店 通常 自社 顧客への販売時
2 百貨店・アウトレット・
ショッピングモール
消化 自社 顧客への販売時
買取 先方 買取先への販売時
3 EC 自社サイト 自社 発送時又は着荷時
他社サイト 自社 発送時又は着荷時
他社サイトからの報告時

アパレル業界の販売チャネルは、自社で店舗を運営する直営店方式の他、百貨店、アウトレット、ショッピングモール等に入り販売活動を行うことが多くなっています。これらにテナントとして入ることで、施設の集客力をはじめ、施設自体が行う販売促進活動の恩恵を受けられます。本稿では百貨店、アウトレット、ショッピングモール等を同一販売チャネルとして一括して記載しましたが、各店舗が受けるサービスには施設ごとに差があり、賃料等の負担も異なっています。 前述のものに加え、自社でECサイトを設けて販売する機会も増えてきました。自社でのECサイト以外にも、他社が運営するECモールへ出店する等、インターネット上の販売チャネルも多様化してきています。

(2) 消化取引

アパレル業界特有の、百貨店等との取引形態である消化取引について記載します。

消化取引は、各アパレル企業が百貨店等にある自社の店舗で顧客に対して販売した際に、百貨店等の当該商品の仕入れが成立するという取引形態です。契約上はアパレル企業と百貨店等での販売契約となっている場合もありますが、顧客に対して販売した価格(上代)の一定割合を乗じた百貨店利益相当額が歩合家賃とされている、実質的な消化取引もあります。

消化取引の場合には、百貨店等の店頭にある商品はアパレル企業が所有している商品であり、売れ残りや陳腐化等のリスクをアパレル企業が負うことになります。

百貨店、アウトレット、ショッピングモール等での取引形態が消化取引の場合、実務上、売上として認識する金額には次の二つのケースが見られます。

<図表3>

図表1

ケース1では、顧客に対して販売した価格(上代)を元に売上計上をするとともに、百貨店等の利益相当額は販売費及び一般管理費に計上していますが、ケース2では、百貨店等への販売価格(下代)で売上計上をしています。

実務では二つの方法が混在していますが、ケース1では販売先を最終消費者として想定し、百貨店等は集客力がある場所を賃貸しているという考え方によっており、ケース2では、あくまでもアパレル企業は百貨店等に商品を販売しているという考え方によっていると思われます。

ケース1とケース2を利益の面から比較した場合、営業利益では両社は同じ金額となりますが、売上総利益(粗利)ではケース1が大きくなるという特徴があります。

(3) アパレル業界での顧客に対する値引き

アパレル業界では顧客を獲得するために、さまざまな値引き施策を行っています。当該値引き施策と会計処理の関係について記載します。

  • a.ポイント値引き
    自社で商品を購入した際に、一定の販売金額に応じてポイントを付与し、顧客が再度来店した際に、当該ポイントに応じて値引きを受けられる仕組みです。会計処理は、ポイント値引きに関する考え方から大きく二つに分けられます。一方は、商品やサービスの提供とは別に次回の来店を促す販売促進の効果に着目する考え方です。この考え方によれば、当該ポイントに関する費用は販売費及び一般管理費の区分で計上されます。
    もう一方は、発行したポイントによる将来の商品やサービスとの引換えを、そのポイントを発行するもととなった当初の売上取引における値引きやリベートと同様に考慮すべき販売条件の一つとして捉える考え方です。この考え方では、売上時に付与するポイントは当初の販売価格の減額と捉えられるとともに、将来引き換えられる商品又はサービスの対価の前受金という性格を持つため、前受金として繰り延べることになります。
    実務的には前者を採用しているケースが多いように感じますが、すでに公表されている「収益認識に関する会計基準の適用指針」に記載されている設例23では、カスタマー・ロイヤルティ・プログラムとして当該ポイントの会計処理が記載されており、後者の考えを基に整理されています。「収益認識に関する会計基準」の適用に当たり、会計処理の変更が行われる可能性があります。
    昨今、短期間でポイントが消滅する期間限定ポイントや、顧客の誕生月等にポイントを付与する顧客限定ポイント等、複雑なポイント制度が増えてきましたが、ポイントを詳細に管理できるシステムを構築していることが多くなっています。自社ポイントではなく外部業者とのポイント乗り入れをしている場合には、外部システムとの接続が必要になるケースもあります。失効期間や還元率等の異なるポイントが増えていることから、システムでポイント種類ごとに管理し、会計処理を検討する必要が出てきています。
  • b.定額割引、定率割引
    誕生日や入会等により、一定金額又は販売金額の一定率を割引するチケットを配布するものです。最近では、メール等で値引きのコードを送信するケースも多くなってきています。売上のマイナスと販売費及び一般管理費の販売促進費の両方で処理されるケースがあります。近年は、アパレル企業が値引きを実施するだけでなく、百貨店等の負担で顧客への値引きを実施することも多くなってきています。どこが値引きを負担しているかの管理が重要になります。
  • c.シークレットセール
    顧客の中でも、優良な顧客には前倒しでバーゲンセールを行うケースがあり、これをシークレットセールと呼ぶことがあります。企業によっては、一定時期ごとに商品の販売価格を設定するケースがあります。そのため、シークレットセール中は一部顧客に対してバーゲンセール価格で対応し、他の顧客に対しては通常の販売価格で対応する状態となります。システムの仕様等によっては、個別対応が必要となります。

(4) パーソナルオーダーの販売に関する会計処理

従来は既製品の販売が多かったアパレル業界ですが、デジタル技術の発達により安価な採寸、裁断、縫製等が可能となり、個人の体形に合ったオーダー品の注文生産が増加してきました。主に、メンズのスーツで導入が進んでいます。
これに伴い、従来の既製品とは異なる会計処理が必要となるケースがあります。

<図表4>

図表1

アパレル業界ではPOS(Point of Sales: 販売時点情報管理)等のシステムの導入が進んでいるため、新規にパーソナルオーダー事業に参入する場合には、システムの改修等が必要になることがあります。

3. アパレル業界における賃料等

前述の通り、アパレル業界の販売チャネルは多岐にわたります。それに伴い、販売チャネルごとの賃借料等の費用項目が異なります。

<図表5>

No 販売チャネル 主な賃借料等の種類
1 自社直営店 固定家賃
2 百貨店・アウトレット・ショッピングモール 歩合家賃(*)及び最低保証家賃
3 EC 自社サイト サイト運営費
EC 他社サイト 外部モールへの手数料支払い

(*)顧客への販売金額に比例して賃借料を徴収する方式。(2)で記載した消化取引で採用されるケースが多い。販売金額に比例しない固定賃料を併用するケースや、歩合家賃の比率が通常販売時とバーゲンセール時には負担割合が変わるケース等、さまざまな契約がある。

販売チャネルと賃借料等の種類は前述のような結び付きが多くなっていますが、百貨店等においても固定家賃制度を採用する店舗が増える等、傾向に変化が生じています。従来は百貨店等が、テナントとして入居している店舗に対して手厚い顧客管理や販売促進活動を提供していましたが、合理化を行うことで費用を圧縮する動きがあるためです。

ECチャネルでは店舗家賃の発生はありませんが、自社サイトの運営費や配送料、専用の倉庫代等がかかります。また、外部のインターネットモールへ出店している場合には出店料等のコストがかかります。

4. 売上債権の回収

アパレル業界での売上債権の回収に係る特徴を述べます。前述のように販売チャネルが多岐にわたるため、売上債権の回収パターンについても比較的、多岐にわたります。

<図表6>各販売チャネルの回収パターン

No 販売チャネル 債権の獲得先 獲得する対価 備考
1 自社直営店 顧客、
クレジット会社
現金、
クレジット債権
 
2 百貨店・アウトレット・ショッピングモール 百貨店やアウトレット等のデベロッパー 売掛金 歩合家賃等を差し引かれて入金されるケースがほとんど
3 EC 
自社サイト
顧客、
クレジット会社、
回収代行業者
現金(代引業者から入金)
クレジット債権
代引き等は回収代行業者を使用しているケースが多い
EC 
他社サイト
他社サイトの運営会社、又は顧客、クレジット会社 売掛金 他社サイトの運営会社のサイト使用料や各種手数料を差し引かれて入金されるケースが多い

顧客は百貨店等では現金やクレジットでの決済を行いますが、百貨店等がいったん当該債権を受け入れ、その後、テナントに当たる各アパレル企業に家賃等の手数料を差し引いて入金するケースが多くなります。

5. 売上及び営業費用に関連する内部統制

アパレル業界の売上及び営業費用に関する内部統制で考慮すべきリスク要因について、財務諸表に与えるリスクを中心に記載します。

  • a.従業員及び顧客の盗難リスク
    アパレル業界では販売する製品が誰でも使用できる服飾類であり、昨今はネットでの販売等、換金も容易であるため、盗難リスクは高くなります。店舗や倉庫での定期的な棚卸を行い、実物と帳簿数量の差異について分析を行う必要があります。
  • b.現金等の盗難リスク
    店頭で現金を扱うケースが多いため、現金等を店員が横領する可能性があります。
    現金を管理する店舗では、日々の業務終了後、レジに記録された売上記録と現金残高の照合や、手許現金を多額に残さないよう頻繁な銀行への入金等により回収することが必要です。また、管理部門でも定期的なチェック(売上金額と現金等の一致を確認する等)を実施する必要があります。
  • c.システムリスク
    アパレル業界では、同じブランドデザインであってもサイズ違いや色違いにより異なる商品として取り扱われるため、商品点数が非常に多くなる傾向があります。店頭でのPOSシステムや在庫管理システム等を通じて管理することが多いため、システムに依拠する程度が高くなってきています。
    このため、システム不具合により会計数値が正しく集計されない等のリスクがあり、顕在化した場合には大きな誤りが起きることがあります。システム構築時や改修時には、実態に即した要件定義を行い、実行する必要があります。
    近年は、特にECサイトを構築しているケースが多くあり、既存システムとの連携についても事前に十分な検討を行うことが必要です。

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