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ストック・オプション

第10回:有償ストック・オプション

2019.06.28
(2019.10.04更新)
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 内川 裕介
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 蟹澤 啓輔

1. 有償ストック・オプション

(1)有償ストック・オプションとは

企業がその従業員等に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引が実施されることがあります。このような取引において発行される新株予約権を権利確定条件付き有償新株予約権と呼びます(実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下、有償ストック・オプション基準)第1項)。実務上、従業員等がこの権利確定条件付き有償新株予約権を金銭の払い込みによって取得することから、有償ストック・オプションと呼ばれています。

このような権利確定条件付き有償新株予約権は、すでに導入済みの企業が相当程度あります。しかし、当該有償ストック・オプションは、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下、ストック・オプション会計基準)の適用範囲に含まれるのか、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下、複合金融商品適用指針)の適用範囲に含まれるのかが必ずしも明確ではありませんでした。そのため、現時点では当該権利確定条件付き有償新株予約権の発行時の払込金額を新株予約権として会計処理しているのみの企業が多く、その取扱いを明確化するニーズが高いと言われていました。

そこで、有償ストック・オプション基準が公表され、当該権利確定条件付き有償新株予約権については原則として一般的なストック・オプションと同様の会計処理を行うことが定められました。

有償ストック・オプション基準では下記の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権を対象としています(有償ストック・オプション基準第2項)。このうち⑤で従業員等が新株予約権に関する一定の額を企業に払い込むことから「有償」と呼ばれることになります。

下記内容で権利確定条件付き有償新株予約権が発行される場合、従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを立証できる場合を除き、原則としてストック・オプション会計基準に定めるストック・オプションに該当するものとされます。

有償ストック・オプション基準の対象となる権利確定条件付き有償新株予約権

  • 企業は、従業員等を引受先として、新株予約権の募集事項(募集新株予約権の内容、発行数、払込金額、割当日、払込期日等)を決議している。その新株予約権には市場価格がない。
  • 募集新株予約権には、権利確定条件として、勤務条件及び業績条件が付されているか、又は勤務条件は付されていないが業績条件は付されている。
  • 募集新株予約権を引き受ける従業員等は、申込期日までに申し込む。
  • 企業は、申込者から募集新株予約権を割り当てる者及びその数を決定している。割当てを受けた従業員等は、割当日に募集新株予約権の新株予約権者となる。
  • 新株予約権者となった従業員等は、払込期日までに一定の額の金銭を企業に払い込む。
  • 新株予約権に付されている権利確定条件が満たされた場合、当該新株予約権は行使可能となり、当該権利確定条件が満たされなかった場合、当該新株予約権は失効する。
  • 新株予約権者となった従業員等は、権利行使期間において権利が確定した新株予約権を行使する場合、行使価格に基づく額を企業に払い込む。
  • 企業は、新株予約権が行使された場合、当該新株予約権を行使した従業員等に対して新株を発行するか、又は自己株式を処分する。
  • 新株予約権が行使されずに権利行使期間が満了した場合、当該新株予約権は失効する。

一方で、権利確定条件付き有償新株予約権が従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことが立証できる場合には、複合金融商品適用指針に従って処理することになります。

(2)権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理

権利確定条件付き有償新株予約権は原則としてストック・オプション会計基準に準拠した会計処理を行うことになり、権利確定日以前及び権利確定日後に分けて整理することができます。基準となる権利確定日とは、次のように定められています(有償ストック・オプション基準第7項)。

権利確定条件 権利確定日
勤務条件及び業績条件が付され、これらの条件のうちいずれかを満たす いずれかの条件を満たした日
勤務条件及び業績条件が付され、これらの条件のすべてを満たす すべての条件を満たした日
業績条件が付されているのみで勤務条件が付されていない 条件となる業績が達成された日、又は、達成されないことが確定する日

(3)権利確定日以前の会計処理

権利確定条件付き有償新株予約権の権利確定日以前の会計処理は次のように行うことになります。下記の太字部分が権利確定条件付き有償新株予約権における特徴的な処理となります(有償ストック・オプション基準第5項)。

この有償ストック・オプション基準の適用により、権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額を算定する必要があります。実務上、当該公正な評価単価の算定にあたっては、専門家の業務を利用することになると考えられます。また、公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、当期の労働サービスの対価と認められる部分については費用計上が必要となるため、損益にも影響が出ることになります。

  • 権利確定条件付き有償新株予約権の付与に伴う従業員等からの払込金額を純資産の部に新株予約権として計上する。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権の付与に伴い企業が従業員等から取得する労働サービスの対価として対応する額を、当該労働サービスの取得に対応して費用として計上し、権利確定条件付き有償新株予約権の権利行使又は失効が確定するまでの期間、純資産の部に新株予約権として計上する。
  • 労働サービスに係る各会計期間の費用計上額として、権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額を算定する。権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額は、公正な評価単価に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定する。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価単価の算定は、次のとおり行う。
    1. 公正な評価単価は付与日において算定し、ストック・オプション会計基準第10項(1)に定める条件変更の場合を除き見直さない。
    2. 権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価単価における算定技法の利用については、ストック・オプション会計基準第6 項(2)に従う。なお、失効の見込みについては権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権数の算定及びその見直しによる会計処理は、次のとおり行う。
    1. 権利確定条件付き有償新株予約権数は、付与日において、付与された権利確定条件付き有償新株予約権数(以下、付与数)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する。
    2. 付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合、付与数を見直す。付与数を見直す場合、見直し後の付与数に基づく権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち合理的な方法に基づき見直しを行った期までに発生したと認められる額と、これまでに費用計上した額との差額を、見直しを行った期の損益として計上する。
    3. 権利確定日には、付与数を権利の確定した付与数に修正する。付与数を修正する場合、修正後の付与数に基づく権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額と、これまでに費用計上した額との差額を、権利確定日の属する期の損益として計上する。
  • 有償ストック・オプションで権利不確定で失効した場合、新株予約権として計上した払込金額のうち当該失効に対応する部分を利益として計上する。

(4)権利確定日後の会計処理

同様に権利確定日後の会計処理は次のように行うことになります。繰り返しとなりますが、ストック・オプション会計基準に準じた会計処理となります(有償ストック・オプション基準第6項)。

  • 権利確定条件付き有償新株予約権が権利行使され新株を発行した場合、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権の権利不行使による失効が生じた場合、新株予約権として計上した額のうち、当該失効が確定した期に当該失効に対応する部分を利益として計上する。

【設例】

(前提条件)

  • ×1年4月に従業員20名に対して権利確定条件付き新株予約権を付与することを決議し、同付与した。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権は1名につき10千個である。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権の払込金額は1個あたり5千円である。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価単価は1個あたり8千円と見積もられた。
  • 権利行使条件として行使時に従業員の地位を有していること及び×3年3月に中期経営計画における経常利益を達成していることを要する。
  • 上記以外については、権利確定条件付き新株予約権としての要件を満たすものとする。
  • ×3年3月に2名が退職した。

(会計処理)

  • ×1年4月

    従業員からの払込金額を新株予約権として計上します。

    (借方)現金預金
    1,000千円  
    (貸方)新株予約権
    1,000千円

    1,000千円=5千円×20名×10千個

  • ×2年3月

    公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、当期の労働サービスの対価と認められる部分について、費用計上することになります。

    (借方)株式報酬費用
    300千円  
    (貸方)新株予約権
    300千円

    300千円=(8千円×20名×10千個-払込金額1,000千円)×12カ月/24カ月

  • ×3年3月

    2名退職したことにより、権利確定条件付き有償新株予約権20千個が失効しています。株式報酬費用の算定にあたり当該失効分を考慮します。
    また、×3年3月に中期経営計画における経常利益を達成したものとします。

    (借方)株式報酬費用
    140千円  
    (貸方)新株予約権
    140千円

    140千円=8千円×18名×10千個-前期費用計上額300千円-払込金額1,000千円

(5)開示

有償ストック・オプションの開示事項(注記事項)についても、ストック・オプション会計基準に準拠することが明示されています(有償ストック・オプション基準第9項)。ストック・オプション会計基準における開示については第9回を参照してください。

(6)適用時期について

有償ストック・オプション基準は、平成30年4月1日以後適用することとされており、適用によってこれまでの会計処理と異なることとなる場合及び有償ストック・オプション基準の適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引について従来採用していた会計処理を継続する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱います。

現在、会計方針の変更は遡及(そきゅう)適用することが原則となっています(会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準)が、有償ストック・オプション基準の公表日より前に権利確定条件付き有償新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行している場合、新たな会計方針に基づき新株予約権として計上された額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えたことによる払込資本の増加額は、その他資本剰余金に計上します。

さらに、有償ストック・オプション基準の適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引については、従来採用していた会計処理を継続することができるとされています。ただし、従来採用していた会計処理を継続適用する場合、ストック・オプション会計基準で求められている注記の代わりに次の事項を注記する必要があります。

  • 権利確定条件付き有償新株予約権の概要
    • 各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容
    • 規模(付与数等)
    • その変動状況(行使数や失効数等)
      ただし、付与日における公正な評価単価については、記載を要しないとされています。
  • 採用している会計処理の概要

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