ソフトウェア 第5回:自社利用のソフトウェアの会計処理と財務諸表の開示

2011年4月5日 PDF
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 井澤依子

1. 自社利用のソフトウェアの会計処理

(1)取得費・制作費の会計処理

a. 資産計上と費用処理の判断基準

自社利用のソフトウェアについては、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合に無形固定資産として資産計上し、確実であると認められない場合や確実であるかどうか不明な場合には費用処理することとしています。ソフトウェアが資産計上される場合の例示は以下のとおりです(実務指針11項)。

  • 通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等を利用することにより、会社が、契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得る場合
  • 自社で利用するためにソフトウェアを制作し、当初意図した使途に継続して利用することにより、利用する前と比較して会社の業務を効率的又は効果的に遂行することができると明確に認められる場合
  • 市場で販売しているソフトウェアを購入し、かつ、予定した使途に継続して利用することによって、会社の業務を効率的又は効果的に遂行することができると認められる場合

b. 資産計上の開始時点

資産計上の開始時点は、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑(しょうひょう)に基づいて決定します。立証できる証憑の具体例としては、ソフトウェアの制作予算が承認された社内稟議書、ソフトウェアの制作原価を集計するための制作番号を記入した管理台帳等が挙げられます(実務指針12項)。

なお、ソフトウェアの制作開始時点においては、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められず費用処理していたものの、その後一定時点で将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められた場合には、その一定時点以降に発生した制作費についてソフトウェアとして資産計上することとなります(過去に費用処理された部分については資産計上しません)。

c. 資産計上の終了時点

資産計上の終了時点は実質的にソフトウェアの制作作業が完了したと認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑に基づいて決定します。立証できる証憑の具体例としては、ソフトウェア作業完了報告書、最終テスト報告書等が挙げられます(実務指針13項)。

(2)ソフトウェアの償却(実務指針21項)

a. 従来からの基本的な取扱い

資産計上された自社利用のソフトウェアについては、その利用の実態に応じて最も合理的な減価償却の方法を採用すべきとされていますが、一般的には以下のように定額法が合理的とされます。この理由は、市場販売目的のソフトウェアと比較すると、収益との直接的な対応関係が希薄な場合が多く、物理的な劣化を伴わない無形固定資産の償却であるためです。

しかし、自社利用のソフトウェアでもサービス提供に用いるソフトウェアで将来の獲得収益を見積ることができるものなど、見込販売収益に基づく減価償却を行う方が費用・収益の対応の観点から、より合理的な場合もあるため留意が必要です(Q&A Q23)。

また、市場販売目的のソフトウェアのように特段の規定がないことから、自社利用ソフトウェアについては減損会計基準の適用対象とされます。

項目
内容
減価償却方法
定額法が一般的
見込利用可能期間
利用可能期間は適宜見直しを行う。
5年(原則)
5年を超える場合には合理的な根拠が必要
減損会計基準の適用
あり

b. 過年度遡及会計基準の適用に伴う変更点

利用可能期間を見直し、耐用年数を変更した場合の取扱い

利用可能期間を見直した結果、新たに入手可能となった情報に基づいて耐用年数を変更した場合には、当事業年度及び当該ソフトウェアの残存耐用年数にわたる将来の期間の損益で認識することが明示されました。

また、過去に定めた耐用年数がその時点での合理的な見積りに基づくものでなく、事後的に合理的な見積りに変更する場合には、会計上の見積りの変更ではなく、過去の誤謬の訂正に該当することとしています。

【例】
新たに入手可能となった情報に基づいて、当事業年度末において耐用年数を変更した場合の、当事業年度と翌事業年度の減価償却額の計算式

当事業年度の減価償却額の計算式
翌事業年度の減価償却額の計算式

2. ソフトウェアの開示

(1)貸借対照表の表示(Q&A Q24)

a. 受注制作のソフトウェア

工事完成基準を採用している場合には、売上計上前の受注制作のソフトウェアの制作費用が棚卸資産として計上されます。

b. 市場販売目的のソフトウェア

市場販売目的のソフトウェアの製品マスターは、制作仕掛品及び完成品(いずれも購入によるものを含む)ともに無形固定資産として計上することになります。これに対して、市場販売目的のソフトウェア製品及び仕掛品については、棚卸資産として計上します。

c. 自社利用のソフトウェア

自社利用のソフトウェアについては、将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合に無形固定資産として計上することになります。

(2)損益計算書の表示

ソフトウェアの損益計算書の表示(費用化された場合の表示)は、計上された貸借対照表項目に影響されます。貸借対照表上、棚卸資産として計上された場合にはソフトウェアは売上原価として損益計算書に表示され、無形固定資産として計上された場合には、減価償却費(製造原価の一部もしくは一般管理費)として会計処理されることになります。

(3)注記(実務指針22項、46項)

a. 従来からの基本的な取扱い

市場販売目的又は自社利用のソフトウェアに関しては、重要な会計方針として以下の注記が求められます。

内訳
注記内容
市場販売目的のソフトウェア
(a) 減価償却の方法
(b) 見込有効期間(年数)
自社利用のソフトウェア (a) 減価償却方法
(b) 見込利用可能期間(年数)

b. 過年度遡及会計基準の適用に伴う変更点

項目
過年度遡及会計基準の
適用に伴う取り扱い
注記内容
減価償却方法の変更
会計方針の変更であるが、会計上の見積りの変更と同様に、遡及適用は行わない(減価償却方法の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当するため)。
過年度遡及会計基準11項(1)、(2)及び18項(2)に定める事項 (同基準19項)
見込有効期間及び見込利用可能期間の変更
会計上の見積りの変更として取り扱う。
過年度遡及会計基準18項に定める事項(影響が重要である場合)

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