ソフトウェア 第3回:受注制作のソフトウェアの会計処理

2011年3月31日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 井澤依子

1. 受注制作のソフトウェアの会計処理

(1)適用する会計基準

受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて処理することとされており(会計基準四1)、「工事契約に関する会計基準(以下、工事会計基準)」の適用対象となります(工事会計基準5項)。

工事会計基準によると、制作の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には「工事進行基準」を適用し、この要件を満たさない場合には「工事完成基準」を適用することとなります。成果の確実性が認められるためには、以下の3要素について信頼性をもって見積ることができなければなりません(工事会計基準9項)。

このように、工事進行基準を適用するか工事完成基準を適用するかは、企業の任意選択ではなく、制作の進捗部分について成果の確実性が認められるか否かによって決まることとなります。

【工事進行基準適用の要件である、成果の確実性が認められるための3要素】

  • 収益総額の信頼性をもった見積り
  • 原価総額の信頼性をもった見積り
  • 決算日における進捗度の信頼性をもった見積り

(2)基本的な会計処理

工事進行基準においては、決算日における進捗度を原価比例法(見積総原価のうち、その時点までに発生している原価の割合により進捗度を算定する方法)などの方法により見積り、収益総額に乗じることにより収益額を算定します。

【工事進行基準の計算式】

工事進行基準の計算式

一方、工事完成基準とは、完成し目的物の引き渡しを行った時点で、収益及び原価を損益計算書に計上する方法です。従って完成前の費用については仕掛品に計上されることとなります。

(3)成果の確実性の事後的な獲得

工事進行基準の適用要件を満たさないことにより、工事完成基準を適用している工事契約について、その後、単に工事の進捗に伴って完成が近づいたために成果の確実性が相対的に増すことがあります。しかし、このことのみをもって工事進行基準に変更することは認められません(工事会計基準55項)。

しかし、収益総額等、工事契約の基本的な内容が定まらないこと等の事象の存在により工事進行基準の適用要件を満たさないと判断された場合で、その後に当該事象の変化により工事進行基準の適用要件を満たすこととなったときには、その時点より工事進行基準を適用することになります(工事契約に関する会計基準の適用指針(以下、工事適用指針)3項)。

(4)成果の確実性の事後的な喪失

当初は工事進行基準を適用していたものの、事後的な事情の変化により成果の確実性が失われることがあります。この場合は、工事進行基準の適用要件を満たさなくなるため、その後は工事完成基準を適用して工事収益及び工事原価を計上することになります。この認識基準の変更は、事後的な事情の変化による会計事実の変化であると考え、原則として過去の会計処理に影響を及ぼさず、それまでに工事進行基準により計上した事後的な修正は必要ないものとされます(工事適用指針4項、17項)。

(5)工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い

工事契約について、(a)工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、(b)かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(以下、工事損失)のうち、当該工事契約に関してすでに計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上します(工事会計基準19項)。

なお、工事契約基準の詳細につきましては、解説シリーズ「工事契約に関する会計基準」をご参照ください。

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