セグメント情報等の開示に関する会計基準 第1回:セグメント開示制度の概要

2012年4月10日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 湯本 純久

1. はじめに

企業会計基準委員会より企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下、セグメント会計基準)および企業会計基準適用指針第20号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」(以下、セグメント適用指針)が公表され、平成22年4月1日以降開始の連結会計年度および事業年度から本会計基準が適用されます。解説シリーズでは第1回はセグメント開示制度の概要、第2回は報告セグメントの決定、第3回は開示例を中心に取り上げます。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

2. 公表の背景

現在、わが国を代表する大企業の2割近くが単一セグメントもしくは重要性が低いという理由で事業の種類別セグメントを作成していないため、現行のセグメント開示制度が十分に機能していないという指摘があります。このような指摘を契機としてコンバージェンスの観点からわが国においても、経営者の視点で企業を理解できる情報を財務諸表に開示することによって財務諸表利用者により有用な情報を提供することができると判断したことから、わが国のセグメント情報開示にマネジメント・アプローチを導入することにしました。

【マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の長所と短所】

長所 短所
① 財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることにより、経営者の行動を予測し、その予測を企業のキャッシュ・フローの評価に反映することが可能になる。 ① 企業の組織構造に基づく情報であるため、企業間の比較を困難にし、また、同一企業の年度間の比較が困難となる。
② 当該セグメント情報の基礎となる財務情報は、経営者が利用するためにすでに作成されており、企業が必要とする追加的費用が比較的少ない。 ② 内部的に利用されている財務情報を基礎とした情報の開示を要求することは、企業の事業活動の障害となる可能性がある。
③ 実際の企業の組織構造に基づく区分を行うため、その区分に際して恣意(しい)性が入り込みにくい。  

3. マネジメント・アプローチ

マネジメント・アプローチとは、経営上の意思決定および業績評価のために経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎としてセグメント情報の開示を行う方法です。

セグメント情報等の開示は、セグメント情報の開示に当たって基本原則が定められており、財務諸表利用者が企業の過去の業績を理解し将来のキャッシュ・フローの予測を適切に評価できるように企業が行うさまざまな事業活動の内容およびこれを行う経営環境に関して適切な情報を提供するものであることを求めています。(セグメント会計基準4項)。

セグメント会計基準で採用されたマネジメント・アプローチは、国際財務報告基準や米国基準で採用されている方法と同様の方法で次のような特徴があります(セグメント会計基準45項)。

①最高経営意思決定機関が経営上の意思決定を行い、また、企業の業績を評価するために使用する事業部、部門、子会社または他の内部単位に対応する企業の構成単位に関する情報を提供します。

②最高経営意思決定機関が業績を評価するために使用する報告において、特定の金額を配分している場合にのみ、当該金額を構成単位に配分します。

③セグメント情報を作成するために採用する会計方針は、最高経営意思決定機関が資源を配分し、業績を評価するための報告の中で使用するものと同一にします。

※最高経営意思決定機関とは、企業の事業セグメントに資源を配分しその業績を評価する機能を有する主体のことをいいます。具体的には、取締役会、執行役員会議といった組織上の会議体である場合や、最高経営責任者(CEO)あるいは最高執行責任者(COO)といった特定の個人である場合などが考えられています。

4. セグメント会計基準で開示する内容

従来のセグメント情報とセグメント会計基準に基づくセグメント情報を比較すると、従来は「事業の種類別セグメント情報」、「所在地別セグメント情報」および「海外売上高」について企業の連結財務諸表を分解した情報の開示を企業に求めていましたが、セグメント会計基準が導入したマネジメント・アプローチでは、セグメントの区分方法あるいは測定方法が特定の方法に限定されておらず、経営者の意思決定や業績評価に使用されているありのままの情報を開示することを求めています。従来のセグメント情報とセグメント会計基準に基づくセグメント情報の違いは、経営者の実際の意思決定や業績評価に使用されている情報に基づくか否かという違いがあるのですが、結論としてセグメント情報として報告される利益は、経営者が実際に意思決定で利用している利益であり、必ずしも従来の会計基準で開示している営業利益、経常利益とは限りません。

セグメント会計基準で求められている開示項目は、以下のとおりです。

セグメント会計基準で求められている開示項目

5.セグメント会計基準の概要

改正されたセグメント開示制度の会計基準の全体的な概要図について従来の会計基準と比較すると以下のようになります。

セグメント会計基準の概要

6.適用時期等

(1) 適用時期

セグメント会計基準は、平成22年4月1日以降開始する連結会計年度および事業年度から適用されています(セグメント会計基準35項)。

なお、四半期会計基準においても、平成22年4月1日以降開始する連結会計年度および事業年度の第1四半期会計期間から適用されています。年度決算においても四半期決算においても早期適用はありません。

(2) 適用初年度の取り扱い(セグメント会計基準36項)

① 連結財務諸表および財務諸表

  1. セグメント会計基準の初年度の取り扱いとして当年度のセグメント情報とともに改定されたセグメント会計基準に準拠して作り直した前年度のセグメント情報を開示するものとします。ただし、これを開示することが実務上困難な場合には、当年度のセグメント情報を前年度のセグメント情報の取り扱いに基づき作成した情報を開示することができます。
  2. i の開示を記載することが実務上困難な場合には、当該開示に代えて、当該開示を行うことが実務上困難な旨およびその理由を記載しなければなりません。また、i の項目は、すべての項目について記載しますが、一部の項目について記載することが困難な場合には、その旨およびその理由を記載しなければなりません。
  3. i の定めにもかかわらず、従来の取り扱いに基づく連結財務諸表のセグメント情報として改正されたセグメント会計基準に準拠した場合と同様の情報が開示されている場合には i の情報を開示する必要がありません。この場合、その旨を開示しなければなりません。

② 四半期財務諸表

そもそも四半期の注記事項には、年度財務諸表における注記事項と比較すると簡略化されており以下のような違いがあります。

報告セグメントの利益(または損失)および売上高について開示しますが、報告セグメントの概要は記載不要です。また、セグメントの資産は著しい変動があった場合に開示します。さらに、固定資産の減損損失およびのれんに関する報告セグメントの開示は、重要な減損損失を認識した場合、またはのれんの金額に重要な影響を及ぼす事象が生じた場合に開示します。そして、セグメント情報の関連情報についての開示は求められていません。

しかし、適用初年度は以下のような扱いに留意します。

適用初年度においては、セグメント情報等に関する事項の前年度の対応する四半期会計期間および四半期累計期間に関する開示を要しません。
また、適用初年度の各四半期会計期間においては、前事業年度の有価証券報告書に報告セグメントの決定方法等に関する開示がないため、適用初年度は報告セグメントの決定方法、各報告セグメントに属する製品およびサービスの種類を記載しなければなりません。

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