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収益認識

第3回:契約における履行義務を識別する

2019.07.29
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森田 寛之
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 内川 裕介

1. 概要

収益認識に関する会計基準等では、第2のステップとして契約における履行義務を識別します。

第1ステップ:会計処理の対象となる顧客との契約を識別

履行義務とは、顧客との契約において、別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)、又は一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)のいずれかを顧客に移転する約束をいいます(基準第7項)。ステップ1で識別した契約で約束した財又はサービスを評価して、どのような財又はサービスを顧客に移転することになるのかという履行義務を識別します。この履行義務は、収益認識に関する会計基準等を適用するにあたっての会計処理の単位となるものであり、次のステップ3以降の前提となるものです。

2. 履行義務の識別

契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれを顧客に移転する約束であるかを判定し、それぞれについて履行義務として識別します(基準第32項)。

  • 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
  • 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)

②の一連の別個の財又はサービスは、例えばシステムやビル等の年間のメンテナンス業務などが想定されます。

各財又はサービスが別個のものであるか、すなわち、契約における履行義務の単位をどこまで細分化すべきであるかが実務上の検討課題になります。これについては、個々の財又はサービスの観点及び契約の観点から検討を行います。具体的には、以下のフローチャートに沿って判断します。

(下の図をクリックすると拡大します)

判定フローチャート

3. 履行義務の識別の具体例

適用指針設例6-1に基づいて具体例を解説します。

(1) 前提

  • ソフトウェア開発会社であるA社は顧客であるB社に対してソフトウェア・ライセンスを移転するとともに、インストール・サービスを行い、また、ソフトウェア・アップデート及びオンラインや電話によるテクニカル・サポートを2年間提供する契約を締結した。
  • A社はソフトウェア・ライセンス、インストール・サービス及びテクニカル・サポートを独立して提供している。インストール・サービスには、利用者の使用目的に応じてウェブ画面を変更することも含まれる。なお、ソフトウェアはアップデートやテクニカル・サポートがなくても機能し続けるものである。
  • A社が提供するインストール・サービスは、同業他社も日常的に行っているものであり、ソフトウェアを著しく修正するものではない。

(2) 履行義務の識別過程

前述のフローチャートに沿って設例のインストール・サービスについて、履行義務の識別過程を表にまとめると以下のようになります。

(下の図をクリックすると拡大します)

履行義務の識別過程

A社は、上記の判断に基づき、(1)ソフトウェア・ライセンス、(2)インストール・サービス、(3)ソフトウェア・アップデート、(4)テクニカル・サポートの四つの履行義務を識別することになると考えられます。

4. 本人か代理人かの検討

ここでは履行義務の識別における代表的な論点である本人と代理人の区分について解説します。

(1) 基本的な考え方

企業会計原則では、費用及び収益は原則として総額で表示する、と定められていますが、具体的な判断基準等までは定められていませんでした。また、実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」において、一連の営業過程における仕入及び販売に関して通常負担すべきさまざまなリスク(瑕疵(かし)担保、在庫リスクや信用リスクなど)を負っていない場合には、収益の総額表示は適切でない、という考え方が示されていましたが、包括的な会計基準はありませんでした。

収益認識に関する会計基準等では、企業が本人に該当する場合と代理人に該当する場合で履行義務が異なることから、企業が本人か代理人かのいずれに該当するか判断し、収益を総額で表示するか純額で表示するかを定めています。

顧客との約束が当該財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であると判断され、企業が本人に該当する場合には、財又はサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識することになります(適用指針第39項)。

顧客との約束が当該財又はサービスを当該他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であると判断され、企業が代理人に該当する場合には、企業が代理人として手配することと交換に権利を得ると見込む報酬又は手数料の金額を収益として認識することになります(適用指針第40項)。

(下の図をクリックすると拡大します)

基本的な考え方

企業が本人に該当するか代理人に該当するか判断するにあたって、企業が締結した契約の性質が、①顧客に財又はサービスを企業自ら提供する履行義務であるのか、又は②他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務なのかを、次の二つのステップを通じて判断することになります(適用指針第42項)。

ステップ1 顧客に提供する財又はサービスを識別する
ステップ2 顧客に提供される前に財又はサービスを企業が支配しているかどうか

ここで支配とは、財又はサービスの使用を指図し、財又はサービスから残りの便益のほとんどすべてを享受する能力、又は他の企業が財又はサービスの使用を指図し、それらの便益を享受することを妨げる能力をいいます(基準第37項)。

(2) 支配の指標

実務上、支配の有無の判断は困難を伴うことが多いと考えられますが、企業が顧客に提供する前に特定の財又はサービスを支配しているかの判定にあたっては次の指標を考慮することになります(適用指針第47項)。

指標1

企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を負っているか

例えば、製品が仕様を満たしておらず顧客が検収しない場合、企業が改めて製品を交換して提供しなければならない時は、当該企業が約定を履行する主たる責任を有していると考えられます。

指標2

企業が財又はサービスの在庫リスクを負っているか

在庫リスクとは紛失、滅失、価格下落、陳腐化、売れ残り等が考えられます。この在庫リスクには、例えば顧客が返品権を有しているなど財又はサービスが顧客に移転した後も引き続き在庫リスクを負っている場合も含むと考えられます。

指標3

企業が財又はサービスの価格の設定について裁量権を有しているか

企業が、財又はサービスの販売価格を決定することができる権限を有している場合や値引き等の権限を有している場合などが該当すると考えられます。

(3) 設例

旅行代理店であるA社は、B航空会社と交渉して、航空券を一般価格よりも安い価格で購入する契約を締結した。A社は、たとえ顧客に転売できなくとも、当該航空券の代金を支払わなければならない。顧客への航空券の販売価格についてはA社が決定し、顧客からの代金はA社が回収する。顧客の旅客運送に関する責任はB航空会社が負っている。

A社のB航空会社からの航空券購入価格は100であり、A社が顧客に対する販売価格は120である。

  • 主たる責任
    旅行客に旅客輸送サービスを提供することはB航空会社の履行義務です。一方でA社が顧客に提供することを約定したのは旅客輸送サービスそのものではなく、航空券に表象される当該フライトに搭乗する権利、すなわち座席の提供です。仮に何らかのトラブルで顧客が当該フライトの座席を確保出来なかった場合には、A社が代わりの座席を確保して顧客に提供する責任を負っていると考えられます。従って、A社は顧客に座席を提供することについて主たる責任を負っていると考えられます。
  • 在庫リスク
    A社は航空券を顧客に販売する前にB航空会社から航空券を購入しており、顧客に航空券を販売できなかったとしても、代金の支払義務があります。従って、A社は購入した航空券について在庫リスクを負っていると考えられます。
  • 価格設定の裁量権
    A社はB航空会社から購入した航空券について、顧客への航空券の販売価格を自ら決定することができます。従って、航空券に関して価格決定に関する決定権を有していると考えられます。

①~③よりA社は、当該取引において本人として行動しているものと判断され、顧客に対する販売価格である120を収益として計上することになります。

5. 代替的な取扱い

収益認識に関する会計基準では、これまでの我が国で行われてきた実務等に配慮して、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを認めています。

(1) 顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い

約束した財又はサービスが、顧客との契約との観点で重要性が乏しい場合には、当該約束が履行義務であるかどうかについて評価しないことができます。重要性の判断にあたっては、①約束した財又はサービスの定量的又は定性的な性質、及び②契約全体における当該約束した財又はサービスの相対的な重要性の2点について検討することになります(適用指針第93項)。

(2) 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択

顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、商品又は製品を移転する約束を履行するための一体の活動として処理し、それぞれを別個の履行義務として識別しないことができます(適用指針第94項)。

6. これまでの日本基準又は日本基準における実務と収益認識に関する会計基準等との比較

ステップ2「契約における履行義務を識別する」における、旧来の日本基準又は日本基準における実務と「収益認識に関する会計基準等」の比較は以下の通りです。

(ステップ2) 旧来の日本基準又は日本基準における実務 「収益認識に関する会計基準等」
履行義務の識別 請負工事契約及びソフトウェア取引については工事完成基準や工事進行基準、ソフトウェア取引の複合取引について一定の定め(実務対応報告17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取り扱い」)が存在するが、収益認識一般に明確な定めはない。 顧客との契約において提供する財又はサービスを履行義務と呼ばれる単位に分割して識別する。

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