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収益認識

第2回:顧客との契約を識別する

2019.07.29
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森田 寛之
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 内川 裕介

1. 概要

収益認識に関する会計基準等では、第1のステップとして会計処理の対象となる顧客との契約を識別します。

収益認識の5ステップ

収益認識に関する会計基準等において、契約とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めであって(基準第5項)、書面、口頭、取引慣行等により成立するものと定めており(基準第20項)、当該ステップでは顧客との財又はサービスを移転する取り決めが、収益認識に関する会計基準等における契約に該当するかどうかを検討することになります。

会社の契約群

会社の契約群

2. 契約の識別

収益認識に関する会計基準等における契約として識別されるためには、次の五つの識別要件を満たす必要があります(基準第19項)。当該識別要件を満たした契約について収益認識に関する会計基準等が適用されることになります。

  • 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
  • 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
  • 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
  • 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
  • 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

なお、顧客との契約が当契約締結時点で識別要件を満たさない場合には、事後的に識別要件を満たした時点で収益認識に関する会計基準等を適用します(基準第24項)。
また、契約の識別要件を満たさないものの顧客から対価を受け取った時、次のいずれかに該当する場合には、収益を認識することになります(基準第25項)。

  • 財又はサービスを顧客に移転する残りの義務がなく、約束した対価のほとんどすべてを受け取っており、顧客への返金は不要であること
  • 契約が解約されており、顧客から受け取った対価の返金は不要であること

上記のいずれの場合にも該当しない場合、上記のいずれかに該当するまで又は契約の識別要件が満たされるまで、顧客から受け取った対価は、将来に財又はサービスを移転する義務又は対価を返金する義務として、負債として認識することになります(基準第26項)。
以上を整理すると以下のようなフローチャートとなります。

判定フローチャート

3. 契約の結合

通常、顧客とは取引ごとに契約を締結することが考えられ、実務上、同一の顧客と同時又はほぼ同時に複数の契約を締結することもあります。例えば、商品の販売契約と保守サービス契約を同時に締結するような場合があります。このような場合、以下のいずれかに該当する時は複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理することになります(基準第27項)。

  • 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
  • 一つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を 受けること
  • 当該複数の契約において約束した財又はサービスが、履行義務の識別について定めている基準第32項から第34項(※)に従うと単一の履行義務となること

※ 第3回「契約における履行義務を識別する」2.履行義務の識別を参照。

4. 契約の変更

顧客と締結した契約について、契約の範囲や価格を変更することがあります。収益認識に関する会計基準等では、契約の変更を、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更であり、契約の当事者が、契約の当事者の強制力のある権利及び義務を新たに生じさせる変更又は既存の強制力のある権利及び義務を変化させる変更を承認した場合に生じるものと定義しています。

当事者間において変更内容について承認された場合、以下のフローチャートのような処理となります(基準第30項、31項)。

(下の図をクリックすると拡大します)

判定フローチャート

5. 代替的な取扱い

収益認識に関する会計基準等では、これまでの我が国で行われてきた実務等に配慮して、比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いが認められています。

(1) 契約の結合に関する代替的な取扱い

3. 契約の結合で記載の通り、一定の場合における複数の契約は結合することが原則です。ただし、以下のいずれも満たす場合には、複数契約を結合せず、個々の契約において定められている財又はサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約で定められた金額で収益を認識することができます(適用指針第101項)。

  • 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められる
  • 顧客との個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められていることにより、当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められる

また、工事契約及び受注制作のソフトウェアにおける複数の契約について、収益認識の時期及び金額の差異に重要性が乏しい場合には、当該複数の契約を結合して単一の履行義務として識別することができるとされています(適用指針第102項、103項)。

(2) 契約の変更に関する代替的な取扱い

契約の変更があった場合、4. 契約の変更に記載した処理が原則となりますが、契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合、次のいずれの方法も適用することができます(適用指針第92項)。

  • 契約変更を既存の契約を解約し、新しい契約を締結したものと仮定して処理
  • 契約変更を、既存の契約の一部であると仮定して処理

6. これまでの日本基準又は日本基準における実務と収益認識に関する会計基準等の比較

ステップ1「顧客との契約を識別する」における、これまでの日本基準又は日本基準における実務と収益認識に関する会計基準等の比較は以下の通りです。

ステップ1 これまでの日本基準又は日本基準における実務 収益認識に関する会計基準等
契約の識別 一般的な定めはない。 基準の対象となる契約は、書面・口頭・取引慣行による場合も含まれる。
契約の結合 工事契約及び受注制作のソフトウェアについては工事契約会計基準第7項により、当事者間で合意された実質的な取引の単位を適切に反映するように複数の契約書上の取引を結合するという定めが存在するが、収益認識一般に明確な定めはない。 同一顧客とほぼ同時に締結した複数の契約について、同一の商業的目的で交渉されたこと等の要件を満たす場合には、それらを結合し単一の契約として処理する。
また、代替的な取扱いが認められている。
契約変更 工事契約及び受注制作のソフトウェアについては工事契約に関する会計基準の適用指針第5項により、工事契約の変更は見積りの変更として処理することになっているが、収益認識一般に明確な定めはない。 独立した契約として処理する方法、既存の契約を解約し新しい契約を締結したものと仮定して処理する方法、既存の契約の一部であると仮定して処理する方法等、複数の会計処理が定められており、契約変更内容ごとに要件を判断して処理する。

収益認識

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