「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」及び「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」について 第3回:研究報告2 ~取引の識別、物品の販売、労務の提供、その他~

2011年6月24日
カテゴリー 解説シリーズ

ナレッジセンター 公認会計士 井澤依子

IV. 日本公認会計士協会による研究報告の概要

6. 取引の識別(複合取引)

(1) 要点

わが国の現状 IAS18の取り扱い IAS18に照らした考察
  • 包括的な会計基準は定められていないが、個別の会計基準等としては、ソフトウェア取引実務対応報告と工事契約会計基準(※)がある。
  • 状況によっては、単一取引の個別に識別可能な構成部分ごとに収益認識要件を適用する。
  • 収益認識の要件の一つとして公正価値を信頼性をもって測定できることが求められている。
  • ソフトウェア取引や工事契約以外の複合取引についてもソフトウェア取引実務対応報告や工事契約会計基準を参考に会計処理を行わない限り、IAS18と相違が生ずる場合があると考えられる。

※企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(平成19年12月27日 ASBJ公表)

(2) 事例

【機械の販売契約と保守サービス契約との複合契約に係る会計処理(ケース9)】

標準型の機械の販売契約と、保守サービス契約(役務提供契約)とを一体で契約するが、顧客との間で機械の販売代金と保守サービス料の内訳は明らかにされていないことがある。

このような取引において、機械の販売代金と保守サービス料との金額を合理的に区分または配分できる場合には、それらの区分または配分金額を基礎に契約上の引渡条件に従って、機械の販売については納入時点で、保守サービスについてはその履行に応じてそれぞれ収益を認識している場合がある。

(会計上の論点)

  • 会計処理の単位について、機械の販売契約と、保守サービス契約とに区分すべきか、または一体として取り扱うべきか。
  • どのような条件を満たす場合に、区分して取り扱うべきか。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
この事例では、機械と保守サービス契約はそれぞれ単独で顧客にとって価値を有していると考えられるため、それぞれ区分して会計処理するのが妥当であると考えられる。
次に、ソフトウェア取引実務対応報告における考え方を参考にすれば、それらの金額の内訳が顧客との間で明らかにされていない場合についても、管理上の適切な区分に基づき契約上の対価を分解して、おのおのの販売時点において収益認識することができるとされている。
このため、管理上の適切な区分に基づき契約上の対価を分解したものである場合には、機械の販売契約と保守サービス契約とを別個の会計処理の単位と判断することになると考えられる。
一方、そうでない場合には、両者を一体として一つの会計処理の単位とし、契約総額を保守サービスの履行に応じて収益を認識することになると考えられる。
本事例では、機械の販売契約と保守サービス契約とが個別に識別可能な構成要素であり、かつ、それぞれの公正価値を信頼性をもって測定できる場合には、会計処理の単位を機械の販売契約と保守サービス契約とに区分して、物品の販売および役務の提供の収益認識規準がそれぞれ適用されることになる。
一方、そうでない場合には、機械の販売契約と保守サービス契約とを一体として一つの会計処理の単位とし、役務の提供の収益認識規準が適用されることになる。

【ポイント引当金に係る会計処理(ケース11)】

小売業の中には、売上金額が一定額以上の顧客に対して永久ポイントを付与し、顧客はそのポイントを商品と交換することができるというポイント制度を採用している場合がある。

わが国では、ポイントと交換される商品または役務に対応するコストを販売費および一般管理費として見積もり、負債計上している実務が多いと考えられる。

(会計上の論点)

  • 顧客に付与するポイントは、顧客に対する当初売上取引の一環として取り扱うべきか、または別個の取引として取り扱うべきか。
  • 商品と将来交換されるポイントについて、商品の売価または原価のいずれを基礎に測定すべきか。
会計処理の考え方 IFRIC13(※)に照らした考察

このような制度に関する会計処理の考え方としては、以下の二つが考えられる。

①付与したポイントと商品や役務との将来の交換を、そのポイントを付与する元となった当初売上取引の構成要素として取り扱わず、顧客への商品または役務の販売促進に資する別個の取引として取り扱う考え方

収益を当初売上取引額の総額で認識するとともに、将来、ポイントと交換される商品または役務を販売費および一般管理費として、商品または役務と交換される義務の履行に伴うコストを見積もり、負債計上することとなる。

②付与したポイントと商品や役務との将来の交換を、そのポイントを付与する元となった当初売上取引において、値引きやリベートと同様に考慮すべき販売条件の一つとしてとらえる考え方

将来、ポイントと交換される商品または役務は、実質的には当初販売価額の一部減額、将来、交換される商品または役務の対価の前受金という性格を有するため、売上高から控除するとともに前受金として繰り延べることになる。

①当初売上時の会計処理

カスタマー・ロイヤルティー・プログラムの下では、企業はIAS18第13項を適用し、付与したポイントを、そのポイントが付与される元となった当初売上取引の独立した識別可能な構成要素として会計処理し、当初売上に関して受領したかまたは受領し得る対価の公正価値を、そのポイントと当該販売のその他の構成要素との間で配分しなければならないとされている(売上取引と独立して発生するマーケティング費用とは相違するものであるため、販売費として処理することは適切ではないとされている)。

②当初売上後の会計処理(企業自らが提供する場合)

ポイントが交換されて企業が商品や役務を提供する義務を履行した時に、ポイントに配分された対価を収益として認識しなければならないが、その際、認識される収益の金額は、商品や役務と交換されると見込まれるポイント総数に対して実際に交換されたポイント数の比率に基づいて算定することとなる。

※ IFRIC13

カスタマー・ロイヤルティー・プログラムの会計処理を定めた解釈指針。

カスタマー・ロイヤルティー・プログラムとは、顧客が商品または役務を購入した場合に企業は売上取引の一環として顧客に対して一定のポイントを付与し、顧客が一定の条件を満たすことを条件にそのポイントと交換に商品または役務を無料または割引額で購入できるようにすることにより、企業が自社の商品または役務を購入するよう顧客に対してインセンティブを与えるために利用するプログラムのこと。

7. 物品の販売

(1) 要点

わが国の現状 IAS18の取り扱い IAS18に照らした考察
  • 実務上、物品が顧客の指定納入場所に到着した時点、顧客の検収時点、または物品の出荷時点で収益を認識している場合が多い。
  • しかしわが国の収益認識要件をより厳格に解釈すると、物品を出荷した時点では「財貨の移転の完了」といった要件は、通常充足しないため、収益は認識できない場合が多いと考えられる。
  • 物品の販売からの収益は、物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値を買手に移転したことが要件とされている。
  • 契約上、特段の定めがない限り、物品を出荷しただけではこの要件を通常満たしたことにはならないと考えられる。
  • わが国の実現主義とIAS18の考え方に本質的な相違はないと考えられる。
  • ただし、わが国の物品の出荷時点での収益の認識については、「財貨の移転の完了」要件をより厳格に解釈しない限り、IAS18と相違が生ずる場合があると考えられる。

(2) 事例

【返品の可能性がある取引形態の場合の会計処理(ケース17)】

音楽用ソフト等の制作販売を行うレコード会社等は、音楽用ソフト等をレコード販売店等に販売するが、後日、レコード販売店等から音楽用ソフト等の返品を当初の販売価格で受け入れる慣行がある。予想される返品の額は過去の実績等から合理的に見積もることができる。

このような取引において、販売当初の時点ですべての音楽用ソフト等について売上計上し、将来の返品に対応する売上総利益相当額を返品調整引当金として計上している実務が多い。

(会計上の論点)

  • 予想される返品の額を控除した金額で売上高を認識すべきか、または、予想される返品の額を含む金額で売上高を認識した上で返品に係る売上総利益額を売上総利益から控除すべきか。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
返品の金額を合理的に見積もることができる場合には、予想される返品を除き、財貨の移転が完了しており、対価の成立要件を満たしていることから、返品に係る引当金を計上することを条件に、販売当初時点で予想される返品の額を控除した額で収益を認識することは適切と考えられる(予想される返品に相当する額については、財貨が事実上買手に移転していないため、その返品に伴う損失相当額を返品調整引当金として負債計上したとしても収益を認識することはできない)。

一方、将来の返品の額を合理的に見積もることができない場合には、実現の2要件を満たさないため、販売当初時点において返品に係る引当金の計上のいかんにかかわらず、収益を認識することは適切ではなく、返品の額が合理的に見積もり可能となる時点まで収益は認識できないと考えられる。
過去の実績等を勘案して将来の返品を合理的に見積もることができる場合には、将来の返品を除き、所有に伴うリスクは買手へ実質的に移転していると考えられるため、返品に係る負債を計上することを条件に、販売当初時点で将来の返品の額を控除した金額で収益を認識することが適切であると考えられる。

一方、将来の返品を合理的に見積もることができない場合には、所有に伴うリスクの移転の程度が不明確であり、販売当初時点における返品に係る負債の計上のいかんにかかわらず、収益を認識することは適切ではないと考えられる。

【直送取引(ケース28)】

企業は、顧客からの注文に基づき、継続的に一般消費財等の量産品をメーカーである仕入先から顧客へ直送する取引を担っている。

このような取引において、仕入先の出荷日で収益を認識している場合と、顧客への引渡日で収益を認識している場合がある。

(会計上の論点)

  • 直送取引において、収益の認識をどの時点で行うべきか。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
わが国の実現主義の考え方に照らすと、直送取引の場合にも、企業自らが商品を出荷する場合と同様、顧客に商品が引き渡された時点で収益認識要件の一つと解される「財貨の移転の完了」要件を満たすと考えられ、また、直送という取次ぎ業務の「役務の提供の完了」要件が満たされる時点も顧客への商品の引渡時点であると考えられる。このため、収益は、顧客への商品の引渡時点で認識することが適切と考えられる。
IAS18では、直送取引における収益認識について、第三者から顧客に直接配送される場合には、収益は、買手に物品が引き渡された時に認識されるとしている。
従って、本事例の場合には、顧客に物品が引き渡されるまでは、収益は認識できないと考えられる。

8. 役務の提供

(1) 要点

わが国の現状 IAS18の取り扱い IAS18に照らした考察
  • 役務の提供の進捗(しんちょく)に応じた収益の認識を行っている場合と、役務提供の完了時点において収益の認識を行っている場合がある(※)。
  • 取引の成果を信頼性をもって見積もることができる場合には、取引の進捗度に応じて認識するとされている。
  • わが国の実現主義とIAS18の考え方に本質的な相違はないと考えられる。

※「役務の提供の完了」要件をより厳格に解釈すると、受領した対価に対応する役務の内容・条件の識別が必ずしも十分ではない場合もあると考えられ、その場合にはIAS18と相違が生ずるものと考えられる。

(2) 事例

【人材紹介コンサルティング業務(ケース45)】

人材紹介コンサルティング会社においては、契約書上、報酬がA顧客企業と自社で人材紹介サービス提供契約を締結した時点、B候補者の顧客企業への紹介時点、C候補者の顧客企業への内定時点の三つの段階において支払われるものとされている場合がある。

このような取引において、Cが完了した時点ですべての収益を認識している場合と、AからCの各段階において対応するそれぞれの報酬を収益として認識している場合がある。

(会計上の論点)

  • 契約上の役務の提供をすべて完了した時点で収益を認識する方法と、契約上示されているそれぞれの役務の提供完了の都度対応する収益を認識する方法のいずれが適当か。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
すべての役務の提供が完了した時点で収益を一括して計上する処理は、あくまでも契約上のすべての義務の履行が完了するまで当該契約に係る役務の提供が終了していないとの考え方に基づくものと考えられる。
一方、AからCの各段階において、対応する各報酬をそれぞれの役務を提供した段階で収益として認識するためには、各段階の報酬金額がそれぞれの段階の役務の対価として合理的なものであることを前提として、すでに提供を終えたある段階の役務に対する対価について、後に提供する役務の成否等、後の段階の役務の提供に関連して返金義務を負うこととはならないことが必要になると考えられる。すなわち、各段階についてそれぞれの契約上の「役務の提供の完了」要件を満たし、かつ、それに対する「対価が成立」している必要があると考えられる。
まず、上記の一連の役務を識別可能なより小さな構成部分として区分し、それぞれ別個の会計処理の単位として扱うべきかどうかを検討する必要がある。各段階において提供する役務が顧客企業にとって単独で価値があり、かつ、契約総額を客観的な基準(例えば、公正価値の比率等)で各段階の役務に配分することが可能であれば、区分して会計処理を行うことになると考えられる。
その上で、会計処理を行うおのおのの単位について、取引の成果を信頼性をもって見積もることができる限り、取引の進捗(全工数の見積もりに対する既発生工数の比率等)に応じて収益の認識を行うことになると考えられる。
一方、取引の成果を信頼性をもって見積もることができないが、発生した費用を回収できる可能性が高いときには回収可能と見込まれる部分についてのみ収益を認識し(利益は認識されない)、発生した費用を回収する可能性が高いとはいえない場合には、収益を認識せずに発生の都度費用を認識する。

9. 企業資産の第三者の利用(受取ロイヤルティーなど)

(1) 要点

わが国の現状 IAS18の取り扱い IAS18に照らした考察
  • 個別の会計基準等は特に定められていないため、「財貨の移転又は役務の提供の完了」と「対価の成立」の二つの要件を満たした時点で認識することになる(※)。
  • 特許権など企業資産の利用に対して支払われた使用許諾料およびロイヤルティーは、通常、契約の実質に従い認識するとされている。
  • わが国の実現主義とIAS18の考え方に本質的な相違はないと考えられる。

※受取ロイヤルティーの収益認識に当たっては、特に権利義務関係を勘案して「財貨の移転又は役務の提供の完了」要件に照らして判断することになる。当該要件をより厳格に解釈すると、受領した対価に対応する契約の内容・条件の識別が必ずしも十分ではない場合もあると考えられ、その場合にはIAS18と相違が生ずるものと考えられる。

(2) 事例

【前受使用許諾料およびロイヤルティー ①返還不要の使用許諾料またはロイヤルティーが入金されたが、重要な履行義務を負っている場合(その1)(ケース65)】

ライセンス契約に基づき、レコード原盤、映画フィルムなどの作品完成前に使用許諾者(売手)は使用許諾を受ける者から返還不要の使用許諾料またはロイヤルティー(固定額)を前受けすることがある。権利許諾者は、その権利許諾時点において、ライセンスの前提となる作品を完成させる重要な義務が存在する。なお、権利許諾者は作品を完成させ、使用権取得者にマスターを引き渡す以外には重要な履行義務は存在しない。

このような取引において、使用許諾料またはロイヤルティーの入金時に収益を認識している場合と、重要な義務を履行した時点で収益を認識している場合がある。

(会計上の論点)

  • 入金時に収益認識する会計処理と、義務を履行した時点で収益認識する会計処理のどちらが適当か。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
使用許諾者は、作品を完成させるなどの重要な義務を履行するまではわが国の実現主義の下での収益認識要件の一つと解される「財貨又は役務の移転の完了」要件を満たしていないため、入金時に収益を認識することは適切ではないと考えられる。
作品の完成・マスターの引き渡しという履行義務以外にほかに重要な履行義務が存在しない場合、作品が完成してマスターが引き渡され、契約上使用許諾を受けた者が自由にその権利を使用できる状態となった時点で「財貨又は役務の移転の完了」要件を満たしたと考えられるため、その時点で収益を認識することが適切と考えられる。
IAS18では、使用許諾を受けた者がその権利を自由に活用できること、および使用許諾者において履行すべき義務が残存していないことを条件として収益の認識時点を判断されるものとしている。従って、権利許諾者が重要な履行義務を負っている場合、仮に返還不要の全額の入金があったとしても収益は認識されないものと考えられる。

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