企業結合の税務 第3回:株式交換・株式移転の税制、適格・非適格株式交換・株式移転の課税の概要

2018年10月17日
カテゴリー 解説シリーズ

EY税理士法人 シニア 田嶋 泰治

1. はじめに

企業結合においては、会計処理のみならず税務面でも多くの検討事項があります。本解説シリーズにおいては企業結合の内、株式交換及び株式移転(以下、「株式交換等」)に関する税務を取り上げ、株式交換等を行う際に留意すべき税制、適格株式交換等・非適格株式交換等の課税の概要について解説します。

2. 株式交換等の課税の概要

株式交換等により完全子法人の株主が完全子法人株式の移転をしたときは、原則として当該株主が時価により当該株式を譲渡したものとして取扱われます。但し、当該株式交換等が完全親法人等の株式以外の資産が交付されないものに該当する場合には、当該株式の株式交換等にかかる譲渡損益が繰延べられます。
また、合併・分割税制との整合性を図るため、適格・非適格の概念を株式交換等にも取込み、非適格株式交換等の場合には、完全子法人の有する資産等について法人間の資産の移動はないものの、時価評価をした上でその評価損益を計上することとされています。

※株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社等に取得させる取引をいい、株式移転とは、1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる取引をいいます。

株式交換

株式交換

株式移転

株式移転

3. 完全子法人の課税関係(B社、C社、D社)

(ア)原則的取扱い(非適格株式交換等)
非適格株式交換等が行われた場合には、当該完全子法人の当該株式交換等直前に有する時価評価資産の評価益又は評価損が当該株式交換等の日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入されます。
時価評価については、全ての資産について評価替えを要求されておらず、法令で定める時価評価資産(固定資産、土地、有価証券、金銭債権、繰延資産で一定のものを除く)に限られています。

(イ)特例的取扱い(適格株式交換等)
適格株式交換等が行われた場合には、当該完全子法人において時価評価資産の時価評価課税は行われません。

4. 完全子法人の株主の課税関係(株主b、c、d)

(ア)完全親法人株式等のみが交付される場合(株式の譲渡損益の繰り延べ)
株式交換等による完全子法人の株主は、株式交換等により交付される対価として完全親法人株式等のみが交付される場合、完全子法人株式を株式交換等の直前の帳簿価額(譲渡対価=譲渡原価)により譲渡したものとして、完全子法人株式の譲渡損益を繰り延べることとなります。

(イ)上記(ア)以外の場合(株式の譲渡損益の認識)
完全子法人の株主が株式交換等により完全子法人の株式の移転をしたときは、その移転をした完全子法人株式の移転の時の価額による譲渡をしたものとして、完全子法人の株主の各事業年度の所得の金額を計算します。

5. 完全親法人の受入処理(A社、E社)

完全子法人株式の取得価額

(ア)完全支配関係法人間で行われた株式交換等で株式のみ交付される場合(子法人株主数に応じた受入)
適格株式交換等又は非適格株式交換等のうち株式交換等直前に完全支配関係がある法人間で行われた株式交換等で株式以外の資産が交付されないものにより、完全親法人が取得する完全子法人株式の取得価額は、株式交換等直前の完全子法人の株主数に応じた金額により受け入れることとなります。

(イ)上記(ア)以外の場合(時価による受入)
非適格株式交換等により、完全親法人が取得する完全子法人株式の取得価額は、その取得の時における取得のために通常要する価額(時価)で受け入れることとなります。

完全親法人の純資産の部の取扱い

完全親法人の完全子法人株式の取得価額から一定の交付金銭等の金額を減算した金額が資本金等の額として計上されることとなります。

6. 税制適格要件

株式交換等の税制適格要件は、パターンごとにそれぞれ下表の「○」の要件を全て充足する必要があります。

パターン 企業グループ内の株式交換等 共同事業を営むための株式交換等
完全支配関係
(100%)
支配関係
(50%超 100%未満)
対価要件
(完全)支配関係継続要件
(完全支配関係の継続)

(支配関係の継続)
事業関連要件    
事業規模又は経営参画要件    
従業者継続要件  
事業継続要件  
株式継続保有要件    

(ア)対価要件
株式交換等の対価として株式交換等完全親法人株式等以外の資産が交付されないこと(株式交換完全親法人が株式交換完全子法人の発行済株式の総数の3分の2以上に相当する数の株式を有する場合において、株主に交付される金銭等を除く)

(イ)完全支配関係継続要件(共同事業)
株式交換等後に株式交換等完全親法人と株式交換等完全子法人との間に株式交換等完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれているものであること

(ウ)事業関連性要件
株式交換等完全子法人の事業と株式交換完全親法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人)の事業とが相互に関連するものであること

(エ)事業規模要件
株式交換等完全子法人の事業と当該事業に関連する株式交換完全親法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人)の事業のそれぞれの売上金額、従業者の数もしくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと

(オ)経営参画要件
株式交換等前の株式交換等完全子法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人を含む)の特定役員の全てが株式交換等に伴って退任するものでないこと

(カ)従業者継続要件
株式交換等完全子法人の株式交換等直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式交換等完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること

(キ)事業継続要件
株式交換等完全子法人の事業が株式交換等完全子法人において引き続き行われることが見込まれていること(共同事業を営むための株式移転においては、株式移転完全子法人の事業と当該事業と関連する他の株式移転完全子法人の事業とが引き続き行われることが見込まれていること)

(ク)株式継続保有要件
株式交換等により交付される株式交換等完全親法人株式等のうち支配株主(株式交換等直前に株式交換等完全子法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人を含む)との間に支配関係がある株主)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていること

7. 株式交換等にかかる税務上の取扱いのまとめ

株式交換等にかかる完全子法人及び完全子法人の株主の課税関係をまとめると下表のとおりとなります。

完全子法人 完全子法人の株主
適格株式交換等
(特例)
課税関係なし 完全親法人株式等のみが交付される場合 課税関係なし
非適格株式交換等
(原則)
時価評価課税 上記以外 株式の譲渡損益の認識

株式交換等にかかる完全親法人の税務上の取扱いをまとめると下表のとおりとなります。

  株式交換等直前の完全子法人の株主数
完全子法人株式
の取得価額
完全支配関係がある法人間で行われた
株式交換等で株式以外の資産が交付されないもの
50人未満 50人以上
完全子法人の株主が所有していた完全子法人株式の株式交換等直前の帳簿価額に相当する金額の合計額(取得に要した費用を含む) 完全子法人の法人税法上の簿価純資産価額に相当する金額(取得に要した費用を含む)
上記以外 完全子法人株式の時価による受入
純資産の部 増加資本金等の額 =(完全子法人株式の取得価額)-(一定の交付金銭等の金額)

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