解散の税務 第2回:法人が解散した場合の株主の税務

2018年10月12日
カテゴリー 解説シリーズ

EY税理士法人 税理士 石井 綾子

5. 法人株主の税務

(1)みなし配当

株主が、会社の解散によって残余財産の分配を受けた場合、みなし配当の有無を確認する必要があります。みなし配当の金額は下記の計算式により算出します。

  1. みなし配当
    残余財産分配額 - 払戻等対応資本金額等の額 = みなし配当金額

  2. 払戻等対応資本金額等の額
払戻等対応資本金等の額

①「分配直前資本金等の額」とは、残余財産を分配する直前の資本金等の額をいう

②「分配直前期末簿価純資産価額」とは、残余財産を分配する期の前期末の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を控除した金額をいう。なお、残余財産の全部を分配する場合は、この「前期末」は、「その残余財産の確定する日の属する事業年度」とする。

③ 残余財産の全部の分配を行う場合には、上記割合を1とする。

みなし配当金額は株主側においても重要な数値となります。このため法人税法では解散会社から以下の事項を株主に通知しなければならないと規定しています。

  • 残余財産を分配する旨及び分配事由の生じた日
  • 一株当たりのみなし配当金額

また、配当支払いの際に徴収する源泉所得税は上記のみなし配当にも適用されます。

(2)受取配当金

残余財産の分配額のうちにみなし配当となる金額がある場合には、受取配当金の益金不算入の規定が適用されます。

(3)株式の譲渡損益

所有している株式の発行会社が解散した場合、解散したことのみをもって直ちに株式の評価損を計上することは認められていません。(この場合はあくまで一般の例に従って評価損の可否を判定することになります。)
発行会社の残余財産が確定し、清算結了に至った場合には清算法人の消滅により株式の価値及び株主としての権利を喪失し株式を譲渡したものと同様になるため、譲渡損益が認められます。ただし、完全支配関係のある子会社の清算の場合、譲渡損益は認められません。
(詳細は下記6. 100%子会社の解散・清算参照)

(4)株式の譲渡対価及び原価

株主は残余財産の分配を受けた額から通知を受けたみなし配当の額を差し引いて株式の譲渡対価を求めることができます。残余財産の全部分配の場合には清算法人の株式簿価相当額が譲渡原価となり、一部分配を行った時には下記の算式により譲渡原価を算出します。
なお、下記算式にある分配直前期末の簿価純資産額に占める残余財産一部分配額の割合については解散会社から通知されます。

残余財産の分配を受けた時の処理の計算式

残余財産の分配を受けた時の処理のイメージ図

残余財産の分配を受けた時の処理のイメージ図

6. 100%子会社の解散・清算

(1)子会社株式消滅損の損金不算入

平成22年度税制改正により完全支配関係のある子会社の残余財産の分配があった場合には子会社株式の帳簿価格を譲渡対価とみなすこととなり、その子会社株式に係る消滅損(益)の計上は認められなくなりました。当該消滅損(益)については資本金等の額の増加又は減少となります。

(計算式)
資本金等の増減額 =(みなし譲渡対価の額+みなし配当額)- 交付金銭等の額

(設例)
A社とB社は完全支配関係にあり、A社はB株を全株(帳簿価額1,000万円)所有している。B社は解散し、残余財産がないことが確定した。

  • 会計処理
    B社株式消滅損 1,000万円 / B社株式 1,000万円
  • 税務処理
    資本金等の額  1,000万円 / B社株式 1,000万円
    ※(1,000万円(みなし譲渡対価の額)+ 0(みなし配当額))- 0(交付金銭の額)= 1,000万円(資本金等の増減額)
  • 申告調整

別表4

別表4

別表5

別表5

(2)受取配当金の益金不算入

残余財産の分配額のうちにみなし配当となる金額がある場合には、受取配当金の益金不算入の規定が適用されます。完全子法人株式等に係る配当金は、負債利子の額を控除しないところの全額を益金不算入とします。

(3)未処理欠損金の引継ぎ

① 引継ぎ額
完全支配関係のある子会社の残余財産が確定した場合、その確定日の翌日前10年以内に確定した各事業年度において生じた未処理欠損金額があるときは、その欠損金額を親会社に引き継ぐことができます。(平成29年3月31日以前終了事業年度で生じた欠損金額は「10年以内」とあるのは「9年以内」となります)
なお、対象となる未処理欠損金は欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の事業年度について連続して確定申告書を提出しているものに限られます。

② 未処理欠損金額の帰属事業年度
残余財産が確定した子会社の未処理欠損金額はそれぞれの未処理欠損金額の生じた前10年内事業年度開始の日の属する親会社の各事業年度において生じた欠損金額とみなされます。
なお、親会社の残余財産の確定の日の翌日の属する事業年度開始の日以後に開始した子会社の前10年内事業年度において生じた未処理欠損金額(下図①)については、親会社の残余財産確定の日の翌日の属する事業年度の前事業年度(下図1)において生じた欠損金額とみなされます。

未処理欠損金額の帰属事業年度 図表

③ 引継ぎ制限
親会社と解散した子会社との支配関係(50%超の持株関係)が、親会社の当該残余財産確定日の翌日の属する事業年度開始前5年以内に生じている場合には、「子会社の支配関係事業年度(親会社との間で支配関係になった事業年度)前に生じた欠損金額」は引き継げません。ただし、子会社設立時から支配関係がある場合は、引継ぎ制限はありません。

④ 期限切れ欠損金を利用した場合の青色欠損金の切り捨て
親会社の資本金が5億円以上の完全支配子会社はたとえ中小法人であっても青色欠損金の控除について50%(平成29年4月1日から平成30年3月31日開始事業年度については55%)の利用制限が適用されます。この場合に、期限切れ欠損金の損金算入を利用した時は、青色欠損金の一部が切り捨てられます。切捨額は調整前青色欠損金残高と期限切れ欠損金の損金算入額とのいずれか小さい額となります。

(4)適格現物分配

解散会社が残余財産の分配により金銭以外の資産を交付した場合には現物分配となり、原則としてその資産をその残余財産確定時における価額(時価)により譲渡したものとして譲渡損益を認識します。
一方で、完全支配関係のある子会社が残余財産の分配として金銭以外の資産を分配した場合には、その取引は適格現物分配となります。適格現物分配の場合には、その残余財産の分配を行った子会社の直前の帳簿価額により譲渡をしたものとして計算を行います。
このため、親会社が受領した資産の取得価額は現物分配を行った子会社の分配直前の帳簿価額とし、子会社側では簿価での譲渡となるため譲渡損益を認識しません。
また、親会社側で計上した収益は、「適格現物分配により資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は益金の額に算入しない」という法人税法62条の5第4項の規定の適用を受けることにより益金の額に算入されません。

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