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「財務諸表の表示に関する論点の整理」について

第1回:論点整理の構成と短期的な対応

2010.03.24
新日本有限責任監査法人 ナレッジセンター
公認会計士 山岸聡
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3.第1部 現行の国際的な会計基準との差異に関する論点

【論点1】包括利益の表示

国際的な会計基準では、当期純利益と「その他の包括利益」の合計額である包括利益の表示を定めています。わが国においても包括利益の表示を行うべきか、包括利益を表示する場合にはどの計算書に表示するかが論点となっています。その際に、現行の当期純利益の計算方式(利益のリサイクリング ※1)および当期純利益の表示の維持を前提に、包括利益の表示を行うべきかどうかが論点となっています。

わが国では包括利益の表示は定められていませんが、当期純利益とともに包括利益を表示することによって貸借対照表との連携、つまり、純資産と包括利益との間のクリーン・サープラス関係(※2)を明示することは、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め、会計基準のコンバージェンスに資すると考えることができます。この観点からも、包括利益の表示をわが国においても短期的に検討することが考えられます(論点整理第26項)。

※1利益のリサイクリング

過年度に計上されたその他の包括利益のうち、期中に実現した部分等をその他の包括利益から当期純利益に振り替えることをいいます。例えば、その他有価証券を売却した際に、過去にその他有価証券評価差額金として計上されていた金額を、売却損益として当期純利益に含める処理などをいいます。

※2クリーン・サープラス関係

ある期間における資本の増減(資本取引による増減を除く)が、当該期間の利益と等しくなるような関係をいいます。


【包括利益の表示に関する会計基準】

(1) 会計基準の公表と適用時期

平成22年6月30日に、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」が公表されました。適用時期は、連結財務諸表における取扱いと個別財務諸表における扱いで以下のように扱われています。

① 連結財務諸表

連結財務諸表については、次の二つの注記を除いて、平成23年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用します。ただし、平成22年9月30日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用することができます。また、適用初年度においては、直前年度における包括利益およびその他の包括利益の内訳金額を注記します。

  1. (ア) その他の包括利益の内訳項目別の税効果の金額
  2. (イ) 当期純利益を構成する項目のうち、当期または過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分(組替調整額)

上記2つの注記は、平成24年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用しますが、早期適用も可能です。また、適用初年度においては、直前の年度における当該注記の記載は不要とされています。

② 個別財務諸表における取り扱い

現在、企業会計審議会で個別財務諸表に関する議論が行われていることから、個別財務諸表に本会計基準の適用を求めるかについては、1年後をめどに判断するとされています。

(2) 定義

「包括利益」とは、財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、報告企業の純資産に対する持分の所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。「その他の包括利益」とは、包括利益のうち当期純利益または少数株主損益に属さない部分をいいます。

(3) 包括利益を表示する計算書

① 2計算書方式 ② 1計算書方式
【連結損益計算書】 【連結損益及び包括利益計算書】
売上高 10,000 売上高 10,000
-----------   -----------  
税金等調整前当期純利益 2,200 税金等調整前当期純利益 2,200
法人税等 (900) 法人税等 (900)
少数株主損益調整前当期純利益 1,300 少数株主損益調整前当期純利益 1,300
少数株主利益 (300) 少数株主利益(控除) (300)
当期純利益 1,000 当期純利益 1,000
【連結包括利益計算書】 少数株主利益(加算) 300
少数株主損益調整前当期純利益 1,300 1,300
その他の包括利益:※1、2 その他の包括利益:※1、2
その他有価証券評価差額金 530 その他有価証券評価差額金 530
繰延ヘッジ損益 300 繰延ヘッジ損益 300
為替換算調整勘定 (180) 為替換算調整勘定 (180)
持分法適用会社に対する持分 50 持分法適用会社に対する持分 50
その他の包括利益合計 700 その他の包括利益合計 700
包括利益 2,000 包括利益 2,000
(内訳) (内訳)
親会社株主に係る包括利益 1,600 親会社株主に係る包括利益 1,600
少数株主に係る包括利益 400 少数株主に係る包括利益 400

  1. ※1その他包括利益の内訳項目は、原則として、税効果を控除した金額で表示し税効果の金額を注記します。
  2. ※2リサイクリングによる振替金額は、その他包括利益の内訳項目ごとに注記します。

【論点2】非継続事業に関連する損益の損益計算書における区分表示

損益計算書上、非継続事業に関連する損益を、継続が見込まれている事業の損益と区分して表示すべきかに関する論点です。区分表示するとした場合の、非継続事業の定義、具体的な表示方法および内訳情報等の開示を中心に検討されています。

わが国では、損益計算書上、非継続事業に関連する損益を区分して表示する取り扱いは採用されていませんが、国際的な会計基準の取り扱いも踏まえ、損益計算書上、非継続事業の損益を区分することにより、財務諸表利用者に対し、継続する事業についての将来キャッシュ・フローの予測に資する情報と、近い将来に予定されている事業の廃止が今後も継続する事業に与える影響についての情報とを提供することができると考えられます。

非継続事業に関連する損益を区分して表示することが、財務諸表利用者の将来キャッシュ・フローの予測に資する情報の改善につながるのであれば、今後、非継続事業に関連する損益の区分表示をわが国においても短期的に検討することが考えられます(論点整理第48項)。

一方、こうした取り扱いを導入するよりも、損益計算書において非継続事業に関連する損益を区分せず、非継続事業とされた企業の構成単位の損益等の情報を注記するという取り扱いの方が適当ではないかという意見もあるため、区分表示とするか注記で開示するかも併せて検討対象となっています。

さらに、国際的な会計基準では、非継続事業に関連する損益を区分表示した場合、過年度の損益計算書についても、非継続事業に関連する損益の区分の遡及(そきゅう)再表示を行う取り扱いが定められています。財務諸表作成者の事務負担の増加が懸念されることを視野に入れた検討となっています。

【非継続事業に関連する損益の損益計算書における区分表示のイメージ】

非継続事業に関連する損益の損益計算書における区分表示のイメージ

また、国際的な会計基準では、支配が一時的な子会社についても連結の範囲に含めることから、取得時に売却目的保有に分類される子会社等の事業に関連する収益、費用の内訳の開示を免除する取り扱いがあるため、これを参考に開示の免除を検討することとされています。

【論点3】売却目的保有の非流動資産および処分グループの貸借対照表における区分表示

売却目的で保有する非流動資産および処分グループ(資産および関連する負債)を、貸借対照表において他の資産および負債と区分して表示すべきかが論点とされています。

わが国では、売却目的で保有する非流動資産および処分グループを貸借対照表上、区分して表示する取り扱いは採用されていませんが、貸借対照表上、近い将来に売却することが予定されている非流動資産および処分グループを区分して表示することが、財務諸表利用者の将来キャッシュ・フローの予測に資する情報の改善につながるのであれば、こうした貸借対照表における区分表示について、国際的な会計基準の取り扱いも踏まえ、【論点2】非継続事業に関連する損益の区分表示と併せて導入を検討することが考えられます(論点整理第66項)。

また、IASBおよびFASBは、共同で進めている財務諸表の表示に関するプロジェクトにおいて、企業の活動に関する一体性のある財務的な全体像を開示することを目的として、財務諸表として開示する各計算書の区分を可能な限り一貫させるという方向での検討を行っています。これに関連して、DPでは、非継続事業に関連する区分は損益計算書だけではなく、貸借対照表およびキャッシュ・フロー計算書でも区分表示することが提案されています。つまり、貸借対照表の区分表示として、売却目的保有の非流動資産および処分グループを区分するのではなく、非継続事業に関連する処分グループについて区分する方向で検討することも論点となっています(論点整理第67項)。

【売却目的保有の非流動資産および処分グループの貸借対照表における区分表示のイメージ】

非継続事業に関連する損益の損益計算書における区分表示のイメージ

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