金融商品 第3回:金融商品の評価

2020年3月31日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野貴允

7. 金融商品の評価基準の基本的考え方

金融資産については市場が存在すること等により客観的な価額として時価を把握でき、当該価額により換金・決済等が可能であるため、投資家に対する情報提供の観点、企業のリスク管理、財務活動の的確な把握の観点、さらに国際的調和化の観点から、原則として時価評価し、財務諸表に反映することが必要であるとしています(金融商品会計基準第64項、65項)。
しかし、金融資産の属性及び保有目的に鑑み、実質的に価格変動リスクを認める必要のない場合や直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上等の制約がある場合があることから、時価評価を基本としつつ保有目的に応じた評価方法を採用しています(金融商品会計基準第66項)。

一方、金融負債は、借入金のように一般的には市場がないか、社債のように市場があっても、自己の発行した社債を時価により自由に清算するには事業遂行等の制約があると考えられることから、デリバティブ取引により生じる正味の債務を除き、時価評価の対象としないことが適当と考えられています(金融商品会計基準第67項)。

<金融商品の評価基準の基本的考え方>

種類 評価基準 評価差額の処理方法
金銭債権(金融商品会計基準第14項) 取得価額又は償却原価※1(貸倒引当金を控除)




売買目的有価証券
(金融商品会計基準第15項)
時価 損益に計上
満期保有目的の債券
(金融商品会計基準第16項)
取得原価又は償却原価※1
子会社及び関連会社株式
(金融商品会計基準第17項)
取得原価
その他有価証券
(金融商品会計基準第18項)
時価 純資産の部
(部分純資産直入法を採用している場合には、時価の下落部分は損益に計上)
金銭債務
(金融商品会計基準第26項)
債務額又は償却原価※2
デリバティブ
(金融商品会計基準第25項)
時価 原則として損益に計上

※1額面金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と額面金額の差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならないとされています(金融商品会計基準第14項、16項)。

※2社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合など、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には、償却原価法に基づいて算定された価額をもって、貸借対照表価額としなければならないとされています(金融商品会計基準第26項)。

8. 時価の定義

時価とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他相場(市場価格)に基づく価額と定義されています。また、市場価格がない場合には、合理的に算定された価額を公正な評価額として適用します(金融商品会計基準第6項)。
ここで市場価格に基づく価額とは、売買が行われている市場において金融資産の売却により入手できる現金の額又は取得のために支払う現金の額をいい、以下の取引価格とされています(実務指針第48項)。

(1)取引所に上場されている金融資産

(2)店頭において取引されている金融資産

(3)上記(1)又は(2)に準じて随時、売買・換金等が可能なシステムにより取引されている金融資産

また、合理的に算定された価額とは、以下の方法で算定された価額とされています。いずれを利用する場合にも、恣意(しい)性を排除し、合理的に算定する必要があります(実務指針第54項)。

(1)取引所等から公表されている類似の金融資産の市場価格に、利子率、満期日、信用リスク及びその他の変動要因を調整する方法

(2)金融資産から発生する将来キャッシュ・フローを割り引いて現在価値を算定する方法

(3)一般に広く普及している理論値モデル又はプライシング・モデル(例えば、ブラック・ショールズ・モデル、二項モデル等のオプション価格モデル)を使用する方法

【時価の算定に関する会計基準の適用に伴う改正】

2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首より時価算定会計基準が適用となり、「時価」は、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格と定義されています(時価算定会計基準第5項)。市場価格に基づく価額や合理的に算定された価額の定義(実務指針第48項、54項)は、金融商品会計基準から削除されることとなりました。

9. 金融資産取得時の付随費用の取扱い

金融資産(デリバティブを除く)の取得時における付随費用は、取得した金融資産の取得価額に含めます。ただし、経常的に発生する費用で、個々の金融資産との対応関係が明確でない場合は、取得価額に含めないことができます(実務指針第56項)。

10. 有価証券の評価

有価証券は保有目的等の観点から、(1)売買目的有価証券、(2)満期保有目的の債券、(3)子会社株式及び関連会社株式ならびに(4)その他有価証券の各区分に分類されます。それぞれの区分に応じて、貸借対照表価額、評価差額等の会計処理の方法が変わるため、保有目的による区分が非常に重要になります。
なお、会社の資金運用方針等に基づき、同一銘柄の有価証券を異なる保有目的区分で保有することもできます。有価証券が各保有目的区分の定義及び要件を満たしているかどうかは、取得時だけでなく取得後も継続して検討する必要があります(実務指針第59項)。

(1) 売買目的有価証券

a. 定義、分類の要件

売買目的有価証券とは、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券をいいます(金融商品会計基準第15項)。「時価の変動により利益を得ることを目的として保有する」とは、短期間の価格変動による利益獲得を目的とすることをいい、通常は同一の銘柄に対する相当程度の反復的な売買を想定していますが、相場変動等によって単発的に売買が行われることもあり得ます。
売買目的有価証券として分類するためには、(1) 定款上、有価証券の売買を業としていることが明らかで、かつ、(2)トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署によって保管・運用されていることが望ましいとされています。
ただし、上記の要件を満たしていなくとも、有価証券の売買を頻繁に繰り返している有価証券は、売買目的有価証券に該当するとされています(実務指針第65項)。

b. 会計処理

売買目的有価証券は以下のとおり会計処理します。

項目 会計処理
貸借対照表価額 時価で評価(金融商品会計基準第15項)
評価差額 時価の変動に当たる評価差額が財務活動の成果と考えられることから、当期の損益として有価証券運用損益などの科目で計上(金融商品会計基準第15項)
売却原価 売却時点で付されている帳簿価額に基づき算定
ただし、直近の貸借対照表日に計上された売買目的有価証券に係る評価差額は、売却した期において、切放処理により売却原価に含めることもできます(実務指針第67項)。
売却損益 売却原価と売却価額の差額を計上(実務指針第67項)

同一銘柄の有価証券を売買目的有価証券とその他有価証券の区分とで保有している場合、当該有価証券の一部を売却したときは、組織上明確に分別管理されていなければ、まず売買目的有価証券を売却したものと推定します(実務指針第67項)。
なお、売買目的有価証券の評価損益は、有価証券の売却損益に含めて掲記することができます(財規ガイドライン90-2)。

(2) 満期保有目的の債券

a. 定義、分類の要件

満期保有目的の債券とは、企業が満期まで保有することを目的としていると認められる社債その他の債券をいいます(金融商品会計基準第16項)。
満期保有目的の債券の貸借対照表価額は、時価評価ではなく、取得原価をもって貸借対照表価額とします。ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められる場合は、償却原価法に基づいて算定された価額とします。これは、債券も株式と同様本来は価格変動リスクがあるものの、満期まで保有することにより約定利息及び元本の受け取りを目的とする場合には、満期までの金利変動による価格変動リスクを認める必要がないためです。満期保有目的の債券の評価方法は、債券の保有に伴うキャッシュ・フローを満期まで保有することにより、あらかじめ確定させようとする企業の合理的な投資活動を、有価証券の時価評価の例外的な取扱いとして認められているものですが、安易に時価評価から逃れることを抑止するため、以下のとおり満期保有目的の債券に分類するための要件を厳格に定めています(実務指針第68項、69項)。

債券の属性に係る要件 あらかじめ償還日が定められていること
額面金額による償還が予定されていること
企業に係る要件 企業が満期まで所有する意図をもって保有すること
つまり、以下の2要件を満たすこと
  • 企業が償還期限まで所有する積極的な意思をもって保有すること
  • 企業が償還期限まで所有する能力があること

(ア)あらかじめ償還日が定められていること

債券自体に、償還日までの保有を否定するような属性がないことが要件となります。
例えば、転換社債型新株予約権付社債は、その性質上、満期まで保有するメリットが少なく、満期前に株式に転換することが期待されているため、基本的には満期保有目的にはなじみません。
また、満期の定めのない永久債は、属性としては満期保有目的の要件を満たしません。ただし、発行者が償還する権利をコール・オプションとして有し、契約条項等から見て償還が実行される可能性が高い場合などには、要件を満たすものとされています。

(イ)額面金額による償還が予定されていること

債券を満期まで保有するためには、償還日において額面金額による償還が確実に実行されることが必要なため、実務上は信用リスクが高くない債券が対象となります。従って、債券の取得時点において、発行者が元本の償還及び利息の支払に支障をきたす恐れがある場合には、満期保有目的の要件を満たしません。「信用リスクが高くない」水準は、各企業が、原則として信用格付業者による格付けに基づいて決定し、満期保有目的の債券の要件を満たすかどうかの合理的な判断基準として設定する必要があります。格付けを取得していない私募債を引き受ける場合等には、上記の方法と同程度の客観的な信頼性を確保し得る方法、例えば、発行者の財政状態及び経営成績等に基づいた合理的な判断基準を設定します(金融商品会計に関するQ&A(以下、Q&A)Q22)。
また、償還時の為替や株価で償還元本が増減する仕組債については、組込デリバティブのリスクが債券元本に及ぶ場合、額面金額による償還が予定されているといえないため、複合金融商品として区分処理するとしても満期保有目的の債券の要件を満たしません(実務指針第68項)。

(ウ)企業が満期まで所有する意図をもって保有すること

満期まで所有する意図をもって保有することとは、企業が償還期限まで所有するという積極的な意思とその能力に基づいて保有することをいいます。従って、保有期間が漠然と長期であると想定し保有期間をあらかじめ決定していない場合、又は市場金利や為替相場の変動等の将来の不確定要因によって売却が予測される場合には、満期まで所有する意思があるとは認められません。
また、満期までの資金繰り計画等、又は法律等の障害により継続的な保有が困難と判断される場合には、満期まで所有する能力があるとは認められません。
なお、満期まで所有する意図は取得時点において判断すべきものであり、いったん他の保有目的で取得した債券について、その後保有目的を変更して満期保有目的の債券に振り替えることは認められません(実務指針第69項)。

b.会計処理

満期保有目的の債券は以下とおり会計処理します(実務指針第70項、71項)。

項目 会計処理
貸借対照表価額 ・取得原価
・償却原価法に基づいて算定された価額
(債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められる場合)
原則:利息法
例外:継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用できる
償却原価法による償却額 クーポンレートと市場利子率の調整部分であるため有価証券利息として処理
売却原価 利息法を採用:先入先出法(その特質から、売却原価の算定方法として平均法では適用が困難なため)
定額法を採用:先入先出法又は平均法
売却損益 償却原価と売却価額の差額を計上

(3) 子会社株式及び関連会社株式

子会社株式及び関連会社株式については、他企業への支配、影響力の行使を目的として保有する株式であることから、事業投資と同じく時価の変動を財務活動の成果とはとらえないという考え方に基づき、取得原価をもって貸借対照表価額とされます(金融商品会計基準第17項、73項、74項)。

(4) その他有価証券

a. 定義

その他有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券をいいます。その中には、長期的な時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券や業務提携等の目的で保有する有価証券が含まれ、長期的には売却することが想定される有価証券です(実務指針第72項)。

b.会計処理

上記の定義の考え方から、その他有価証券の貸借対照表価額は時価で計上されます。
ただし、その他有価証券の時価は投資者にとって有用な投資情報であるものの、事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金を行うことに制約を伴う要素もあることから評価差額は当期の損益ではなく、純資産の部に計上されます。

その他有価証券の、会計処理をまとめると下記のとおりとなります。

項目 会計処理
貸借対照表価額 時価で評価 (実務指針第73項、74項)
(取得差額が金利調整差額と認められる債券には、償却原価法を適用した上で、時価と償却原価との差額を評価差額として処理します)
評価差額 洗替法に基づいて下記の方法を適用。株式、債券等の有価証券の種類ごとに両方法を区分して適用することも認められる(実務指針第73項)。
原則:全部純資産直入法
評価差額(評価差益及び評価差損)の合計額を税効果適用後、純資産の部に計上する方法
例外:部分純資産直入法
継続適用を条件として、評価差益は税効果適用後、純資産の部に計上し、評価差損は当期の損失として処理する方法
売却原価 売却時点で付されている帳簿価額に基づき算定(実務指針第76項)
先入先出法又は移動平均法等を適用して算定
売却損益 売却原価と売却価額の差額を計上(実務指針第76項)
決算時の時価 原則:期末日の市場価格に基づいて算定された価額(実務指針第75項)
例外:継続適用を条件として期末日前1カ月の市場価格の単純平均に基づいて算定された価額
株式、債券等の種類ごとに行うことが認められます。

【時価の算定に関する会計基準の適用に伴う改正】

2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首より適用される時価算定会計基準では、その他有価証券の決算時の時価について、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができるとする定め(金融商品会計基準 注解7)については、その平均価額が改正後の時価の定義を充たさないことから削除されました。従って、その他有価証券の評価方法は、期末日時点の市場価格を使用することで統一されることになります。

(5) 時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券

時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券とは、「市場価格に基づく価額」及び「合理的に算定された価額」のないものをいいます。従って、市場価格が存在しない場合でも、価額を合理的に算定することができるときには、時価のある有価証券として取り扱います。
時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は以下のとおり会計処理します(金融商品会計基準第19項)。

(1)社債その他の債券の貸借対照表価額は債権の貸借対照表価額に準ずる

(2)社債その他の債券以外の有価証券については、取得原価をもって貸借対照表価額とする

将来キャッシュ・フローが約定されている債券等は、信用リスクや残存期間等の時価の把握に関連する情報についても入手可能と考えられることなどから極めて困難と認められる場合は限定的であると考えられます。
一方株式(非公開株式を含む)については、市場で売買される株式で、市場価格に基づく価額が存在する場合のみ「時価のある」有価証券として取り扱います。市場で売買されない株式は、何らかの方法により価額算定が可能であっても、それを時価(合理的に算定された価額)とはしないものとし、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券として取り扱います(実務指針第63項)。

【時価の算定に関する会計基準の適用に伴う改正】

2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首より適用される時価算定会計基準では、たとえ観察可能なインプット(時価を算定する際に用いる仮定)を入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットにより時価を算定しなければならないため、時価を把握することが極めて困難な場合は想定されず、上記の取り扱いが削除されています。改正後の金融商品会計基準において、市場において取引されていない株式は、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものと併せて「市場価格のない株式等」とされ、取得原価に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とします(金融商品会計基準第19項)。

11.有価証券の保有目的区分の変更

(1) 保有目的の変更理由

有価証券の保有目的区分は、正当な理由がなく変更することはできません。保有目的区分の変更が認められるのは、以下の場合に限られています(実務指針第80項)。

(1) 資金運用方針の変更又は特定の状況の発生に伴って、保有目的区分を変更する場合
(下表の※3、※4参照)

(2) 本実務指針の規定により、保有目的区分の変更があったと見なされる場合
(下表の※2参照)

(3) 株式の追加取得又は売却により持分比率等が変動したことに伴い、子会社株式又は関連会社株式区分から他の保有目的区分に又はその逆の保有目的区分に変更する場合

(4) 法令又は基準等の改正又は適用により、保有目的区分を変更する場合

(2) 保有目的変更の会計処理

保有目的変更のパターンと会計処理をまとめると下記の表のとおりになります。

<保有目的の変更の会計処理>

<保有目的の変更の会計処理>

※1満期保有目的の債券への分類はその取得当初の意図に基づくものであるので、取得後の満期保有目的の債券への振替は認められません(実務指針第82項)。

※2満期保有目的の債券に分類された債券について、その一部を売買目的有価証券又はその他有価証券に振替えたり、償還期限前に売却を行った場合は、満期保有目的の債券に分類された残りのすべての債券について、保有目的の変更があったものとして売買目的有価証券又はその他有価証券に振り替えなければならず、さらに、保有目的の変更を行った事業年度を含む2事業年度においては、取得した債券を満期保有目的の債券に分類することはできないものとされているため留意が必要です(実務指針第83項)。
ただし、一部の債券について、以下のような状況が生じた場合又は生じると合理的に見込まれる場合には、当該債券を保有し続けることによる損失又は不利益を回避するため、一部の満期保有目的の債券を他の保有目的区分に振替えたり、償却期限前に売却しても、残りの満期保有目的の債券について、満期まで保有する意思を変更したものとはしないこととされています。

(1)債券の発行者の信用状態の著しい悪化

(2)税法上の優遇措置の廃止

(3)法令の改正又は規制の廃止

(4)監督官庁の規制・指導

(5)自己資本比率等を算定する上で使用するリスクウェイトの変更

(6)その他、予期できなかった売却又は保有目的の変更をせざるを得ない、保有者に起因しない事象の発生

※3売買目的有価証券への分類はその取得当初の意図に基づいて行われるものですので、原則として取得後にその他有価証券に振替えることは認められていません。ただし、資金運用方針の変更又は法令若しくは基準等の改正若しくは適用に伴い、有価証券のトレーディング取引を行わないこととした場合には、すべての売買目的有価証券をその他有価証券に振り替えることができます(実務指針第85項)。

※4その他有価証券への分類はその取得当初の意図に基づいて行われるものですので、原則として取得後における売買目的有価証券への振替は認められません。ただし、資金運用方針の変更又は法令若しくは基準等の改正若しくは適用により有価証券のトレーディング取引を開始することとした場合、又は有価証券の売買を頻繁に繰り返したことが客観的に認められる場合には、売買目的有価証券への振替を行わなければならないとされています(実務指針第86項)。

12.有価証券の減損処理

(1) 市場価額又は合理的に算定された価額のある有価証券の減損処理

売買目的有価証券以外の有価証券のうち、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券以外の有価証券について時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、当該時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失として処理します(金融商品会計基準第20項)。

【時価の算定に関する会計基準の適用に伴う改正】

2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から時価算定会計基準が適用となり、その他有価証券の決算時の時価について、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができるとする定めについては、先述のとおり削除されました。しかし、減損を行うか否かの判断基準は時価の算定方法とは異なるため、減損処理における時価の下落率の判断にあたっては、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取り扱いが引き続き認められます(実務指針第284項)。

その他有価証券については、減損処理の基礎となった時価により帳簿価額を付け替えて取得原価を修正し、以後、当該修正後の取得原価と毎期末の時価とを比較して評価差額を算定します(実務指針第91項)。
時価の下落程度に応じて、減損処理の判断基準を整理すると以下の表のとおりとなります。

<減損処理の判断基準>

時価の
下落率
時価が「著しく下落した」かどうか 回復する見込みが
あるかどうか
減損処理の
必要性の有無
50%程度以上 「著しく下落した」ときに該当する。 合理的な反証がない限り、時価が取得価額まで回復する見込みがあるとは認められない(※1参照) 回復する見込みがあるとの合理的な反証がない限り、減損処理が必要
30%以上
50%未満
状況によっては時価の回復可能性がないとして減損処理を要する場合があることから、時価の著しい下落があったものとして、回復可能性の判定の対象とされることもある。
時価の著しい下落率についての固定的な数値基準を定めることはできないため、状況に応じ個々の企業において時価が「著しく下落した」と判定するための合理的な基準を設け、当該基準に基づき回復可能性の判定の対象とするかどうかを判断する。
左記の企業が設けた「著しく下落した」と判定するための合理的な基準に該当する場合には、合理的な反証がない限り、時価が取得価額まで回復する見込みがあるとは認められない(※1参照) 企業が設けた「著しく下落した」と判定するための合理的な基準に該当する場合には、回復する見込みがあるとの合理的な反証がない限り、減損処理が必要
30%未満 一般的には「著しく下落した」ときに該当しない。
ただし、30%未満の下落率を著しい時価の下落の判断基準とすることも認められています。
一般的には「著しく下落した」ときには該当しないため、回復する見込みがあるかどうかについても検討は不要 一般的には減損処理は不要

※1「回復する見込みがある」と認められるときとは、株式と債券で異なります。

  • 株式の場合、時価の下落が一時的なものであり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠を持って予測できる場合をいいます。この場合の合理的な根拠は、個別銘柄ごとに、株式の取得時点、期末日、期末日後における市場価格の推移及び市場環境の動向、最高値・最安値と購入価格との乖離状況、発行会社の業況等の推移等、時価下落の内的・外的要因を総合的に勘案して検討することが必要です。
    ただし、株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められません。
  • 債券の場合、単に一般市場金利の大幅な上昇によって時価が著しく下落した場合であっても、いずれ時価の下落が解消すると見込まれるときは、回復する可能性があるものと認められますが、格付けの著しい低下があった場合や、債券の発行会社が債務超過や連続して赤字決算の状態にある場合など、信用リスクの増大に起因して時価が著しく下落した場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められません。

(2) 時価を把握することが極めて困難と認められる株式の減損処理

時価を把握することが極めて困難と認められる株式は取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています(金融商品会計基準第19項)が、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければなりません(金融商品会計基準第21項)。

なお、時価を把握することが極めて困難と認められる株式であっても、子会社や関連会社等の株式については、実質価額が著しく低下したとしても、事業計画等を入手して回復可能性を判定できることがあるため、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減損をしないことも認められます。ただし、事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初の事業計画等において、開業当初の累積損失が5年を超えた期間経過後に解消されることが合理的に見込まれる場合を除き、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行います。また、回復可能性は毎期見直すことが必要であり、その後の実績が事業計画等を下回った場合など、事業計画等に基づく業績回復が予定通り進まないことが判明したときは、その期末において減損処理の要否を判定しなければなりません(実務指針第285項)
財政状態とは、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいい、財政状態の悪化とは、この1株当たりの純資産額が、当該株式を取得したときのそれと比較して相当程度下回っている場合をいいます。この際に基礎とする財務諸表は、決算日まで入手し得る直近のものを使用し、その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していれば、その事項も加味します。通常は、1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額が当該株式の実質価額ですが、会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価される場合もあります。
時価を把握することが極めて困難と認められる株式の実質価額が「著しく低下したとき」とは、少なくとも株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます(実務指針第92項)。

株式の実質価額が「著しく低下したとき」フローチャート

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