金融商品 第2回:金融資産・負債の発生、消滅の認識

2020年3月31日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野貴允

3.金融資産・負債の発生の認識

金融資産及び金融負債は、原則として、金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約締結時に発生を認識します(金融商品会計基準第7項)。

契約締結時に発生を認識するのは、契約締結時点から時価変動リスクや相手方の財政状態等に基づく信用リスクが契約当事者に生じるためです(金融商品会計基準第55項)。
ただし、商品等の売買又は役務提供の対価に係る金銭債権債務は、原則として商品等の受け渡し又は役務提供完了時に発生を認識するなど、一部取扱いが異なります(金融商品会計基準注解3)。
金融資産・負債の発生の認識について金融商品会計基準、実務指針の記載を整理すると以下のようになります。

項目 取扱い
商品の売買又は役務の提供に係る金銭債権債務 契約締結時には、取引当事者間の権利義務は等価であり、会計上の金銭債権債務は発生しないため、原則として商品等の受渡し又は役務提供の完了によりその発生を認識します(実務指針第7項)。
有価証券の売買契約 原則として約定日に有価証券の発生又は消滅を認識する約定日基準によります。
ただし、保有目的区分ごとに買手は約定日から受渡日までの時価の変動のみを認識し、売手は売却損益のみを約定日に認識する修正受渡日基準も認められます(実務指針第22項)。
有価証券の信用取引 原則として、有価証券の売買取引に準じて処理(実務指針第24項)。
有価証券の空売り 有価証券の売却に準じて処理(実務指針第25項)。
貸付金及び借入金 資金の貸借日に発生を認識します(実務指針第26項)。
有価証券の消費貸借 借手は借入れた有価証券を自由に処分できる権利を有するため、貸手はその旨及び貸借対照表価額を注記し、借手はその旨及び貸借対照表日の時価を注記します。借手は借入れた有価証券を売却した場合は受入れ及び売却処理を、有価証券の売買と同一の認識基準により行い、返還義務を時価で負債として認識します(実務指針第27項)。

4.金融資産の消滅の認識

金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したときに、当該金融資産の消滅を認識します(金融商品会計基準第8項)。
支配の移転に関しては、以下の二つのアプローチが考えられていますが、金融商品会計基準においては、財務構成要素アプローチが採用されています(金融商品会計基準第57項、58項)。

リスク経済価値アプローチ 財務構成要素アプローチ
金融資産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する方法 金融資産を構成する財務的要素(財務構成要素)に対する支配が他に移転した場合に当該移転した財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する方法

リスク・経済価値アプローチでは、例えば譲渡人が自己の所有する金融資産を譲渡した後にも当該金融資産の回収サービス業務を引き受けるなどの場合、財務構成要素に分解した支配の移転を認識することができません。この点、財務構成要素アプローチでは、当該一部分の消滅を認識できるため、経済的実態を財務諸表に反映させることができます。

金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転するのは次の三要件がすべて満たされた場合とされています(金融商品会計基準第9項、58項)。

(1) 譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること(図1参照)
譲渡人に倒産等の事態が生じても、譲渡人やその債権者等が譲渡された金融資産に対して請求権等のいかなる権利も存在しないこと等、譲渡された金融資産が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていることが必要です。譲渡人が実質的に譲渡を行わなかったこととなるような買戻権がある場合や譲渡人が倒産したときに譲渡が無効になると推定される場合は、金融資産の支配が移転しているとは認められません。
(2) 譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること
譲受人が元本の返済や利息・配当等により投下した資金等を回収することができることが必要です。したがって、譲渡制限が付与される場合には、投下した資金等を回収することが困難とならず、譲渡制限がない場合と同様の結果が得られるような一定の場合を除き、支配の移転は認められません。
(3) 譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと
現先取引や債券レポ取引といわれる取引のように買戻すことにより当該取引を完結することがあらかじめ合意されている取引については、その約定が売買契約であっても支配が移転しているとは認められません。このような取引は売買取引ではなく金融取引として処理することが必要となります。

<図1:法的に保全されていることの条件>

<図1:法的に保全されていることの条件>

(前提条件)

譲渡人は債務者Aに債権を有しています。
債務者Aもまた、譲渡人に対して債権を有しています。
債権者Bは譲渡人に対して債権を有しています。
譲渡人は債務者Aに対する金銭債権を譲受人に譲渡します。
譲渡人が債務者Aに対する金銭債権を譲受人に譲渡する場合、 第三者対抗要件を満たさなければ、譲渡人がBに対する債務を履行しなかった場合には、譲渡したAに対する債権を Bが差押さえる可能性があります。

債務者対抗要件を満たさなければ、譲渡人が倒産した場合、債務者Aの譲渡人への債権との相殺に対抗できません。

債権譲渡の対抗要件については、民法第467条の規定による方法、債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下、債権譲渡特例法)の規定による方法が考えられます。

民法第467条の規定による方法に基づく場合、第三者対抗要件を満たせば、債務者対抗要件を同時に満たすことになりますが、債権譲渡特例法に規定する方法による場合、第三者対抗要件を満たすのは容易になっているものの、債務者対抗要件を満たすのは一般的ではないため、例外的に債務者対抗要件を満たさなくても債権の消滅を認めています(実務指針第246項)。

原則 例外
  • 第三者対抗要件
  • 債務者対抗要件 のいずれも必要
債権譲渡特例法の規定による場合
  • 第三者対抗要件のみで足りる。

5.金融負債の消滅の認識

金融負債の契約上の義務を履行したとき、義務が消滅したとき又は第一次債務者の地位から免責されたときには、当該負債の消滅を認識しなければならないとされています(金融商品会計基準第10項)。
債務を弁済したときや、債務が免除されたときには、義務がなくなるので金融負債の消滅を認識します(金融商品会計基準第59項)。
また、第一次債務者の地位から免責されたときとは、債務を第三者に引き受けてもらい、第一次債務者の地位から外れた場合を言います。ここで、債務引受に際し、第一次債務引受先が倒産等に陥ったときに二次的責任を負うという条件が付される場合には、当該負債について消滅を認識し、二次的責任を新たに金融負債として認識することになります(金融商品会計基準第60項)。

6.金融資産・負債の消滅の認識に係る会計処理

金融資産又は金融負債が消滅の要件を充たした場合、当該資産又は負債の消滅を認識するとともに、帳簿価額と受入対価との差額を当期の損益として処理します(金融商品会計基準第11項)。
資産又は負債の一部がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該部分の消滅を認識するとともに、消滅部分の帳簿価額と受入対価の差額を当期の損益として処理します。消滅部分の帳簿価額は、当該資産又は負債の時価に対する消滅部分と残存部分の時価の比率によって帳簿価額を按分して計算します(金融商品会計基準第12項)。
さらに消滅に伴って新たな金融資産又は金融負債が発生した場合には、当該資産又は負債は時価により計上します(金融商品会計基準第13項)。
ただし、合理的に時価が測定できない場合には、健全性の観点から、下記のとおり当該資産又は負債を測定します(実務指針第38項)。

金融資産の消滅時に何らかの権利・義務が存在する場合における「残存部分」と「新たな資産・負債」の時価を合理的に測定できない場合の金融資産、金融負債の測定
金融資産 金融負債
残存部分又は新たに発生した金融資産については時価ゼロとして譲渡損益を計算し、当初計上額もゼロとします。 新たに発生した負債については、当該譲渡取引の利益をゼロとする金額で認識します。また、金融資産の消滅時に、これに伴って損失の発生する可能性が高い場合には当該損失を引き当てます。

【時価の算定に関する会計基準の適用に伴う改正】

国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首より「時価の算定に関する会計基準」等(以下、「時価算定会計基準」)が適用となります。この時価算定会計基準の公表に伴い、金融資産の消滅時の残存部分又は新たに発生した金融資産の時価が合理的に測定できない場合に、時価をゼロとする取扱い(実務指針第38項)は削除されました。時価算定会計基準の適用後は、「残存部分」と「新たな資産・負債」について時価を算定することになります。

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