工事契約に関する会計基準 第2回:工事損失引当金、四半期決算における取り扱い、開示項目

2018年8月24日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村 崇

1.今回のテーマ

「工事契約に関する会計基準」(以下、会計基準)及び「工事契約に関する適用指針」(以下、適用指針)の解説シリーズ第2回においては、工事損失引当金、四半期決算における取り扱い、開示項目についての留意事項を解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断りいたします。

2.工事契約から損失が見込まれる場合の取り扱い

(1)工事損失引当金の計上

工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(以下、工事損失)のうち、当該工事契約に関してすでに計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上します(会計基準19項)。

なお、工事損失引当金を計上した後も、当初予算であった工事収益総額や工事原価総額の見積額が変動することが考えられますが、この場合、その後の実行予算等の合理的な見積データによって見直すことにも留意が必要です。

(2)計上の対象となる工事契約に係る認識基準

工事契約から損失が見込まれる場合に工事損失引当金を計上する取り扱いは、工事契約に係る認識基準が工事進行基準であるか工事完成基準であるかにかかわらず、また、工事の進捗の程度にかかわらず適用されます(会計基準20項)。工事損失引当金の会計処理は、引当金の要件を満たす限りにおいて、当該工事契約について適用されている工事契約に係る認識基準を問わず適用される点に留意する必要があります。

(3)工事損失引当金の計上を検討する時期

工事損失引当金に関する会計処理は、実行予算等の合理的な見積データを基礎に計上されます。そのため、通常、施工者が当該工事契約について最初の実行予算を策定した時点で、工事損失引当金の計上の要否に関する判断や、会計処理を行うために必要な工事収益総額や工事原価総額を合理的に見積ることが可能となります(適用指針22項)。

(4)為替相場の変動により工事契約から損失が見込まれる場合の取り扱い

工事損失引当金の計上に際して、見込まれる工事損失の中に為替相場の変動による部分が含まれている場合であっても、その部分を含めて、工事損失引当金の計上の要否の判断及び計上すべき工事損失引当金の額の算定を行うことになります(適用指針8項)。これは、工事契約から生じる損益には必然的に為替相場の変動による影響も含まれており、実際に工事契約について大きな為替リスクが存在する場合には、企業は為替相場の変動を含めた損益管理をするのが通常であり、為替相場変動による影響も全て工事損失の額に含めて、工事損失引当金の計上の検討を行うべきであるとの考え方によるものです(適用指針28項)。

また、成果の確実性との関連で、為替相場の変動が成果の確実性を喪失することになるかという点が問題になりますが、工事収益総額や工事原価総額の見積額に影響を及ぼしても、必ずしも成果の確実性を失わせることにはならないと考えられています。

<ポイント>

  • 工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、将来見込まれる損失として工事損失引当金を計上する。
  • 工事損失引当金は、工事進行基準を採用していても、工事完成基準を採用していても引当金の要件を満たせば計上する。
  • 工事損益には為替相場変動の影響も含まれるため、その部分も工事損失引当金の対象となる。

3.四半期決算における取り扱い

四半期会計期間末における工事原価総額の見積りについては、年度決算と異なり、簡便的な取り扱いが認められています。すなわち、四半期会計期間末における工事原価総額が、前事業年度末又は直前の四半期会計期間末に見積った工事原価総額から著しく変動していると考えられる工事契約等(工事原価総額の著しい変動をもたらす要因には、重要な工事契約の変更、資材価格の高騰などがあります)を除き、前事業年度末又は直前の四半期会計期間末に見積った工事原価総額を、当該四半期会計期間末における工事原価総額の見積額とすることができます(適用指針9項)。

このような簡便法を採用する場合の内部統制上の対応としては、四半期会計期間末における工事原価総額が、前事業年度末又は直前の四半期会計期間末に見積った工事原価総額からどの程度変動した場合に「著しい変動」に該当するかについて、判断基準となる社内規定を設定して運用することが必要であると思われます。

<ポイント>

  • 四半期決算においては、工事原価総額の見積りについて簡便的な処理が認められている。
  • 簡便法を適用するに当たっては、工事原価総額からどの程度変動した場合に、著しい変動に該当するかについて判定基準を設定して運用する必要がある。

4.開示項目等

(1)表示及び「棚卸資産の評価に関する会計基準」との関係

工事損失引当金の繰入額は、売上原価に含め、工事損失引当金の残高は貸借対照表に流動負債として計上します。

また同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上される場合には、一定の注記をした上で(以下(2)参照)、貸借対照表の表示上、それぞれ両建てで表示する方法と、両者を相殺して表示する方法が認められます(会計基準21項)。これは実務上の過重な負担を回避しつつ、「棚卸資産の評価に関する会計基準」を適用した場合と同様の情報提供が図られるようにするためです。(会計基準67項)。

(2)注記事項

以上を踏まえて、年度決算においては以下の注記事項が求められています(会計基準22項)。

<工事契約に関する注記事項>

  1. 工事契約に係る認識基準
  2. 決算日における工事進捗度を見積るために用いた方法
  3. 当期の工事損失引当金繰入額
  4. 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、次の①又は②のいずれかの額(該当する工事契約が複数存在する場合にはその合計額)

①棚卸資産と工事損失引当金を相殺せずに両建てで表示した場合
その旨及び当該棚卸資産の額のうち工事損失引当金に対応する額

②棚卸資産と工事損失引当金を相殺して表示した場合
その旨及び相殺表示した棚卸資産の額

(3)注記例

以下で損益計算書に関する当期の工事損失引当金繰入額の開示例、貸借対照表に関する棚卸資産と工事損失引当金を両建てしている開示例及び相殺している開示例を示します(適用指針 注記例)。

①損益計算書の開示

(損益計算書関係 売上原価の注記)

売上原価に含まれる工事損失引当金繰入額は、XX百万円である。

②貸借対照表の開示

工事損失引当金が計上されている工事契約について、未成工事支出金等の棚卸資産を計上している場合

(貸借対照表関係 未成工事支出金及び工事損失引当金の注記)

損失の発生が見込まれる工事契約に係る未成工事支出金と工事損失引当金は、相殺せずに両建てで表示している。

損失の発生が見込まれる工事契約に係る未成工事支出金のうち、工事損失引当金に対応する額はXX百万円である。

工事損失引当金が計上されている工事契約について、棚卸資産と工事損失引当金を相殺して純額で表示した場合

(貸借対照表関係 未成工事支出金及び工事損失引当金の注記)

損失の発生が見込まれる工事契約に係る未成工事支出金は、これに対応する工事損失引当金XX 百万円を相殺して表示している。

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