わかりやすい解説シリーズ「連結」 第3回:グループ間取引/債権債務の消去、未達取引及び貸倒引当金の調整

2012年6月21日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 蟹澤啓輔

1. 連結グループ会社間取引の消去

連結損益計算書を作成するに際して、連結会社間の取引については連結上内部取引になるため相殺消去する必要があります。

図1 連結グループ会社間取引の消去

連結グループ会社間の取引は、連結上内部取引になるため、連結損益計算書を作成するに際して、相殺消去する必要があります。

  • 設例による解説

    例えば、A社からP社に商品を販売したような場合、単純にP社とA社の損益計算書を合算すると、P社-A社間の取引高だけ売上・売上原価が大きく表示されてしまいます。このため、連結グループ間の取引を相殺消去することによって、連結損益計算書は正しいものとなり、連結グループとしての経営成績を表すことができます。

    連結グループ会社間の取引は全ての取引を集計し、相殺消去する必要があります。
    連結会社間では単純な営業取引だけではなく、多くの場合、多様な取引を行っています。このため、全ての連結グループ間取引を網羅的に集計することが重要になります。

    設例のケースでは、各社は当該取引を営業取引として認識しており、A社の売上500はP社の売上原価500と対応しているため、両者を相殺消去します。なお、売上原価ではなく販管費で費用を認識しているようなケースであれば、A社の売上に対応するP社の販管費を相殺消去します。
    また、連結グループ間貸付によって利息の受払いが行われている場合、貸付会社の受取利息と借入会社の支払利息を相殺消去する必要があります。設例では借入会社であるA社から貸付会社のP社に利息が支払われているため、A社の支払利息とP社の受取利息を相殺消去する必要があります。

なお、上記の他に連結会社間取引には下記のようなものもあります。

  • 一方では営業取引として認識、他方では非営業取引として認識しているような取引
    設例では記載していませんが、例えばP社が資産をA社にリースしているような場合、P社がリースを主たる収益として認識せず営業外収益に計上し、A社が支払リース料を営業費用に計上しているケースなどがあります。
  • 配当金の受払い
    設例では記載していませんが、連結グループ間で配当金の受払いが行われている場合、親会社の受取配当金と子会社の支払配当金を相殺消去する必要があります。

また、通常、連結グループ会社間取引は各社の金額が一致しますが、下記のような場合は、取引金額が一致しないため、連結上の修正などの調整が必要になります。

  • 未達取引(詳細は3. 未達取引の調整参照
    A社では商品を発送し売上計上したが、P社では商品が未着のため仕入原価を未計上となっているようなケース
  • 子会社の個別決算日が連結決算日と異なるケース
    海外子会社などでは子会社の決算日と連結決算日が一致していないケースがあるため、子会社の決算日と連結決算日の相違期間に生じた連結グループ間取引について不一致となります。当該期間に生じた重要な取引については、連結上で調整を行う必要があります。
  • 認識ズレ
    P社では受取利息の未収計上を行っているが、A社では重要性がないため支払利息の未払費用計上を行っていないようなケース
  • 認識漏れ(取引、相手先誤り)/過大認識
    A社ではP社売上として認識しているが、P社において他社からの仕入取引として誤認識しているようなケース

2. 連結グループ会社間債権債務の消去

連結貸借対照表を作成するに際して、連結グループ会社間取引から生じた債権債務は単純合算表上両建てで計上されているため、相殺消去する必要があります。

図2 連結グループ会社間債権債務の消去

連結グループで考えた場合、連結グループ会社間の取引から生じた債権債務は、連結手続において相殺消去する必要があります。

  • 設例による解説

    例えば、A社からP社に商品を売却したような場合、A社において売掛金が計上されるのに対し、P社においては買掛金が計上されています。このため、単純合算表では、両建てで資産と負債が膨らんだ状態にあります。対応する債権債務を相殺消去することによって、連結貸借対照表が正しいものとなり、連結グループとしての財政状態を表すことができます。

    設例のケースでは各社において営業取引として認識しているA社の売掛金200とP社の買掛金200を相殺消去する必要があります。

    また、各社において資金取引として認識しているP社の貸付金200とA社の借入200についても連結グループ間の債権債務であるため相殺消去が必要になります。

なお、上記の他に関係会社取引には主に下記のようなものがあります。

  • 一方では営業取引として認識しているが、他方では非営業取引として認識しているような取引
    設例では記載していませんが、例えばP社が資産をA社にリースしているような場合、P社が未収リース料を未収入金に計上し、A社が未払リース料を未払金に計上しているケースなどがあります。

また、連結グループ間債権債務についても、連結グループ間取引と同様に下記のような場合は、各社の残高金額が一致しないため、連結上の修正などの調整が必要になります。

不一致の要因

3. 未達取引の調整

連結グループ間取引でなんらかの要因で取引当事者の片方しか取引を認識していない場合、適切に調整した上で連結財務諸表を作成する必要があります。

図3 未達取引の調整

取引の認識時点の相違や商品の輸送・(国際)資金決済などにおいてタイムラグが生じる場合、連結グループ会社間取引で片方の会社のみしか取引を認識していないようなケースが生じることがあります。例えば期末日直前に子会社が親会社に出荷を行い売上及び売掛金を認識したものの、親会社に当該製品が到着し検収を行い仕入及び買掛金を認識したのが翌期になるようなケースです。

このような未達取引が生じた場合、連結会社間取引及び債権債務に不一致が生じます。このような場合には、未達取引を認識していない側の会社において当該関係会社間取引を認識する方向への調整を連結決算において行うことが必要になります。

  • 設例による解説

    設例のケースの場合、連結決算においてP社において仕入・買掛金を連結上で調整した後に、A社の(P社への)売上及び売掛金とP社の(A社からの)売上原価及び買掛金の相殺消去を行うことになります。

4. 貸倒引当金の調整

個別貸借対照表上、連結会社間取引から生じた売掛金などの金銭債権に対し、貸倒引当金が計上されている場合には、連結会社間の売上債権の相殺消去と同時に、当該債権に対応する貸倒引当金を修正する必要があります。

図4 貸倒引当金の調整

連結グループ会社に対する売掛金に対し貸倒引当金を計上している場合、当該貸倒引当金の設定されている連結グループ売掛金の相殺消去を行うと、売掛金に対する貸倒引当金が過大に計上されている状態になってしまうため、相殺消去した連結グループ会社売掛金に係る貸倒引当金を修正する必要があります。なお、当該貸倒引当金に係る連結調整は翌期洗替処理を行います。

  • 連結仕訳のイメージ

    連結仕訳のイメージ(完全子会社のケース)

    (注:貸倒引当金は売掛金の10%を計上しているものとします)

    (当期)

    (債権債務相殺消去)
    (借) 買掛金
    200 (貸) 売掛金 200
    (貸倒引当金の修正)
    (借) 貸倒引当金 20 (貸) 貸倒引当金繰入 20

    (翌期)

    (開始仕訳)
    (借)貸倒引当金 20
    (貸)期首利益剰余金
    20
    (翌期における前期計上額の戻入)
    (借) 貸倒引当金繰入(戻入) 20 (貸)貸倒引当金
    20

    なお、100%子会社以外の子会社で連結会社に対する売掛金が相殺消去された場合、少数株主持分の調整が必要になる点に留意が必要です。

    連結仕訳のイメージ(親会社の持分比率を75%と仮定したケース)

    (当期)

    (貸倒引当金の修正)
    (借)貸倒引当金 20
    (貸)貸倒引当金繰入
    20
    (少数株主持分の修正)
    (借) 少数株主損益 5
    (貸)少数株主持分
    5

    (翌期)

    (開始仕訳)
    (借) 貸倒引当金
    20
    (貸) 期首利益剰余金
    15
    (借)
      (貸)少数株主持分
    5
    (翌期における前期計上額の戻入)
    (借) 貸倒引当金繰入(戻入) 20 (貸) 貸倒引当金 20
    (借) 少数株主持分 5 (貸) 少数株主損益 5

    ※ 少数株主損益の計算式:貸倒引当金修正額×少数株主持分比率=20×(1-75%)

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