会社法(平成26年改正) 第1回:平成26年会社法改正の概要(1)

2016年4月13日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 内川 裕介
公認会計士 武澤 玲子

1. はじめに

平成26年6月20日に「会社法の一部を改正する法律」が国会において成立し、改正会社法が平成27年5月1日より施行されました。
これに伴い「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」も成立し、改正された会社法施行規則および会社計算規則等が平成27年5月1日より施行されています。
本稿では、主に経理に携わる方向けに改正の概要と実務上の留意点を説明します。なお、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることをお断りします。

※本稿は平成27年5月1日施行の改正法に基づいて記載しています。

【略称】
会社法: 会
会社法施行規則: 施規
会社計算規則: 計規

2. 改正の趣旨

平成26年の会社法改正は、主にコーポレート・ガバナンスの強化及び親子会社に関する規律等の整備を図ることを目的としています。
コーポレート・ガバナンスの強化を図るために、監査等委員会設置会社の新設、社外取締役等の要件の見直し、社外取締役を置くことが相当でない理由の開示及び会計監査人の独立性の強化等が行われています。
また、親子会社に関する規律等の整備を図るために、多重代表訴訟制度の新設、親会社による一定の子会社の株式等の譲渡承認及び特別支配株主による株式売渡請求(キャッシュ・アウト)の新設等が行われています。

3. 改正の概要①(コーポレート・ガバナンスの強化)

コーポレート・ガバナンスの強化を図るために、改正された主なポイントは以下のとおりです。

(1) 監査等委員会設置会社の新設

新たな機関設計として、3名以上の取締役から成り、そのうち過半数は社外取締役である監査等委員会を置く、監査等委員会設置会社が創設されました(会2条第11の2、331条第3項、第6項)。監査等委員会設置会社は、社外取締役を積極的に活用すること及び取締役会による業務執行者の監督を強化することを目的としており、定款で定めることにより、株式会社であれば設置することができます(会326条第2項)。
監査等委員会設置会社では、監査等委員会、取締役会及び会計監査人の設置が必須とされていますが、監査役は設置することができません(会327条第1項、第4項、第5項)。そして、監査等委員会は取締役の業務執行を監督する立場にあるため、監査等委員である取締役は業務を執行することはできません(会331条第3項)。また、監査等委員は株主総会において、取締役の選任等について意見を述べることができるとされています(会342条の2第1項・第4項)。
なお、常勤の監査等委員を設置した場合には、事業報告においてその旨を記載することになります(施規第121条10号)。

上場会社における従来の主な機関設計は①監査役会設置会社及び②委員会等設置会社の2パターンでしたが、改正後の主な機関設計は、①監査役会設置会社、②指名委員会等設置会社(従来の委員会等設置会社から名称変更されました)及び③監査等委員会等設置会社の3パターンになります。 これらの主な機関構成は以下のようになります。

改正後の主な機関設計

(2) 社外取締役等の要件の見直し

改正会社法においては、社外取締役及び社外監査役になれない者の人的な範囲を拡大(会社、子会社だけでなく、親会社や兄弟会社の業務執行者等、会社の業務執行者等の近親者を追加)する一方で、過去に取締役等であった場合の期間制限が設けられました。社外取締役等の具体的な要件は以下のとおりです。

① 社外取締役(会2条15号)

会社または子会社の業務執行取締役等(※)ではなく、就任前10年間その会社または子会社の業務執行取締役等でなかったこと
就任前10年以内にその会社または子会社の取締役、会計参与又は監査役であった者(業務執行取締役等は除く)については、その就任前10年間業務執行取締役等でなかったこと
現在親会社の取締役、使用人等でないこと
現在親会社の子会社等(兄弟会社)の業務執行取締役等でないこと
当該会社の取締役等の配偶者または2親等以内の親族でないこと

※ 業務執行取締役等とは、(ⅰ) 代表取締役、(ⅱ)代表取締役以外の取締役であり取締役会の決議によって選定された取締役会設置会社の業務を執行する取締役、(ⅲ)当該株式会社の業務を執行したその他の取締役、をいいます。

② 社外監査役(会2条16号)

就任前10年間その会社または子会社の取締役等でなかったこと
就任前10年以内にその会社または子会社の監査役であった者については、その就任前10年間業務執行取締役等でなかったこと
現在親会社の取締役、監査役等でないこと
現在親会社の子会社等(兄弟会社)の業務執行取締役等でないこと
当該会社の取締役等の配偶者または2親等以内の親族でないこと

(3) 社外取締役を置くことが相当でない理由の開示

社外取締役の設置はコーポレート・ガバナンスを強化するという観点からも重視されている事項です。改正会社法では、社外取締役を置いていない場合、定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないとされており(会327条の2)、具体的には事業報告に「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載することになります(施規124条第2項)。また、社外取締役の候補者を含まない取締役の選任議案を株主総会に提出するときは、株主総会参考資料に「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載することになります(施規74条の2第1項)。

(参考)社外取締役に関しては、特に上場会社において強く求められており、東証上場規程445条の4では「上場内国株券の発行者は、取締役である独立役員を少なくても1名以上確保するよう努めなければならない」とされており、コーポレートガバナンスコード原則4-8では「独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくても2名以上選任すべきである」とされています。

(4) 会計監査人の独立性の強化

従来、会計監査人の選解任等の議案は取締役又は取締役会が提出するものとされていましたが、会計監査人の独立性をより強化するという観点から、監査役等が議案を提出するものとされました(会344条第1項)。ただし、会計監査人の報酬等については引き続き取締役または取締役会が決定します。

改正による変更点は以下のとおりです。

  改正前 改正後
会計監査人の選任・解任・不再任の決定 取締役または取締役会 監査役(監査役会)
監査委員会
監査等委員会
会計監査人の報酬等の決定

取締役または取締役会
(監査役は同意権を有する)

取締役または取締役会
(従来とおり監査役は同意権を有する)

なお、改正に伴い、監査役等が会計監査人の候補者とした理由について、株主参考書類に記載することになりました(施規77条第3号)。

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