資産除去債務の会計処理 第1回:資産除去債務の会計処理の概要

2012年4月6日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子

1.基準、適用指針設定までの経緯と背景

平成20年3月に資産除去債務に関する会計基準が設定されました。我が国では電力業界で原子力発電施設の解体費用につき発電実績に応じて解体引当金を計上しているような特定の事例を除いては、これまで資産除去債務を負債に計上するという会計慣行はありませんでしたが、資産除去債務の会計基準が設定された理由は、以下のとおりです(会計基準22)。

  • 固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることは投資情報として役立つということ
  • 日本の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)との差異を縮小することを目的とした両会計基準のコンバージェンスに向けた作業において、資産除去債務が取り上げられたこと

2.資産除去債務の定義

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものと定義されます(会計基準3(1))。

(1) 有形固定資産の範囲(会計基準23)

有形固定資産には、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産のほか、それに準ずる有形の資産も含まれます。このため、建設仮勘定やリース資産のほか、財務諸表等規則において「投資その他の資産」に分類されている投資不動産などについても、資産除去債務が存在している場合には、資産除去債務の対象となることに留意する必要があります。

(2) 有形固定資産の除去と修繕

有形固定資産の「除去」とは、有形固定資産を用役提供から除外すること(一時的に除外する場合を除く)をいいます(会計基準24)。除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれますが、転用や用途変更は含まれません。また、当該有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しないこととされます。

資産除去債務を有形固定資産の除去にかかわるものと定義していることから、有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕は対象とはなりません。

(3) 「通常の使用」とは

通常の使用とは、有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることをいい(会計基準26)、有形固定資産を除去する義務が、不適切な操業等の異常な原因によって発生した場合には、資産除去債務として使用期間にわたって費用配分すべきものではなく、引当金の計上や「固定資産の減損に係る会計基準」の適用対象となります。

なお、土地の汚染除去の義務が通常の使用によって生じた場合で、それが当該土地に建てられている建物や構築物等の資産除去債務と考えられるときには、資産除去債務の会計基準の対象となります。

(4) 「法律上の義務に準ずるもの」とは

この場合の法律上の義務およびそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれます。

法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法令または契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当します(会計基準28)。具体的には、法律上の解釈により当事者間での精算が要請される債務に加え、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるものが該当すると考えられます。従って、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しないと考えられます。

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