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2021年6月第1四半期 決算上の留意事項

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2021.07.09
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
平川 浩光、宮崎 徹、廣瀬 由美子、大竹 勇輝、石川 仁

時価算定会計基準編

Q1
時価算定会計基準の概要

2019年7月に公表された時価算定会計基準の概要について教えてください。

A1

(1)経緯

我が国では、金融商品会計基準等において、時価の算定が求められてきましたが、時価の算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていませんでした。一方、IFRSや米国会計基準では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスが定められています。また、IFRSや米国会計基準で要求されている公正価値に関する開示の多くは日本基準では定められておらず、特に金融商品を多数保有する金融機関において国際的な比較可能性が損なわれているのではないかとの意見があったことから、ASBJは時価に関するガイダンス及び開示についての検討を開始し、2019年7月4日に時価算定会計基準等を公表しました。また、同日付で、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)の金融商品実務指針等が改正されています(<図表1>参照)。

<図表1> 新設及び改正された主な会計基準・実務指針等

  新設された会計基準等 改正された会計基準等(※)
ASBJの会計基準等 時価算定会計基準
時価算定適用指針
棚卸資産会計基準
金融商品会計基準
時価開示適用指針
四半期適用指針
JICPAの実務指針等 - 外貨実務指針
金融商品実務指針
金融商品Q&A
  • 上記の他、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」、実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者の会計処理に関する実務上の取扱い」について、時価算定会計基準の導入に伴う所要の修正が行われています。

(2)適用時期

2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(時価算定会計基準16項)。

(3)主な内容

国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れることとされました。ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断にあたっては、期末前1カ月の市場平均に基づいて算定された価額を引き続き用いることができるなど、一部の項目については我が国でこれまで行われてきた実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、個別の取扱いを定めています。また、時価算定会計基準では、「公正価値」ではなく、従来どおり、「時価」の用語を用いています。これは、我が国における他の関連諸法規において「時価」が広く用いられていることを踏まえたものとされています。なお、時価の定義はIFRS第13号における「公正価値」と整合的なものとされています。

(4)適用範囲

金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用されます(時価算定会計基準3項)。なお、時価算定会計基準は、時価をどのように算定すべきかを定めるものであり、どのような場合に時価で算定すべきかについては、他の会計基準の定めに従うこととされています。

なお、投資信託の時価の算定等については、時価算定会計基準の公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていましたが、ASBJは2021年6月17日に改正時価算定適用指針を公表しています。改正時価算定適用指針では、投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託について時価の算定及び注記に関する取扱いが定められ、また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記に関する取扱いが定められています。

なお、改正時価算定適用指針は、2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。ただし、2021年4月以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首、又は2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができるとされています。

(5)時価算定の方法

① 時価の定義及び算定単位

「時価」とは、算定日において市場参加者で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とされています(時価算定会計基準5項)。また、資産及び負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によることとされており、一定の要件を満たす場合には、金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができます(時価算定会計基準6項、7項)。

時価の定義について、このような考え方が取り入れられたことから、現行のその他有価証券の期末の貸借対照表価額に1カ月前平均価額を用いることができる定めは廃止されました(2019年改正前金融商品会計基準(注7)参照)。ただし、減損を行うか否かの判断にあたっては引き続き、1カ月前平均価額を用いることができるとされています(金融商品実務指針91項)。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなります。

② 時価の算定方法・レベル

時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます(時価算定会計基準8項)。

  • レベル1のインプット
    時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場における同一の資産又は負債に関する相場価格であり、調整されていないもの
  • レベル2のインプット
    資産又は負債について、直接又は間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1のインプット以外のインプット
  • レベル3のインプット
    資産又は負債について観察できないインプット

そして、算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します。なお、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類する(例えば、レベル2とレベル3の重要な影響を与えるインプットが含まれる場合は、レベル3の時価に分類する)こととなります(時価算定会計基準12項)。

(6)適用初年度の取扱い

① 経過措置

時価算定会計基準が定める新たな会計方針は、原則として将来にわたって適用することとされています。この場合、その変更の内容について注記することとされています(時価算定会計基準19項)。

ただし、時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価算定会計基準の適用に伴い時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができるとする経過措置が定められています。また、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできるとされています(時価算定会計基準20項)。

上記の場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記を記載することになります。

なお、新たに設けられた金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に関する注記について、適用初年度の比較情報の開示は不要とされています(時価開示適用指針7-4項)。

② 表示及び注記事項の定めのみ影響する場合

時価算定会計基準を適用した場合に会計処理には影響がなく、表示及び注記事項の定めのみが影響すると見込まれる会社については、同基準の適用時には会計基準等の改正に伴う会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当することになると考えられます。

Q2
改正前後の金融商品の貸借対照表価額及び時価注記の取扱い

時価算定会計基準の導入により、金融商品の貸借対照表価額及び時価注記の取扱いではどのような変更が生じたのでしょうか。

A2

時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念が取り入れられ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットに基づき時価を算定することとされています。このような時価の考え方の下では、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。これにより、従来、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」に分類されていた有価証券のうち、「市場価格のない株式等」以外の社債等の債券等について、その会計処理及び開示の取扱いは<図表2>のとおり、従前と異なるため留意が必要となります。

一方で、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています(金融商品会計基準19項)。この「市場価格のない株式等」とは、市場において取引されていない株式とされ、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものは、同様の取扱いとされています(金融商品会計基準19項)。

<図表2> 改正前後の金融商品の貸借対照表価額及び時価注記の取扱い

  貸借対照表価額 時価注記
  改正前 改正後 改正前 改正後
(1)原則として時価をもって貸借対照表価額とする金融商品(売買目的有価証券、その他有価証券、デリバティブ取引により生じる正味の債権債務など)
① ②以外(上場株式等) 時価 時価 時価を注記 時価を注記
② 改正前に時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品とされていたもの
②-1 改正後における「市場価格のない株式等」 取得原価 取得原価 B/S計上額等を注記 B/S計上額等を注記
②-2 ②のうち、②-1以外のもの(※1)
  • 社債その他の債券
取得原価(又は償却原価) 時価 把握困難と記載 時価を注記
  • 社債その他の債券以外の有価証券・デリバティブ取引
取得原価 時価 把握困難と記載 時価を注記
(2)時価をもって貸借対照表価額としない金融商品(債権、満期保有目的の債券、金銭債務など)
① ②以外 取得原価等(※2) 取得原価等(※2) 時価を注記 時価を注記
② 改正前に時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品とされていたもの 取得原価等(※2) 取得原価等(※2) 把握困難と記載 時価を注記
(出典:企業会計基準委員会「企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等の公表」別紙2をもとに作成)
※1 改正前に時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品とされていたもののうち、改正後における「市場価格のない株式等」以外のもの
※2 時価をもって貸借対照表価額としない金融商品の貸借対照表価額については、例えば、債権は取得原価(又は償却原価)-貸倒引当金、満期保有目的の債券は取得原価(又は償却原価)、金銭債務は債務額(又は償却原価)となり、各商品や保有目的により異なる
Q3
四半期における金融商品関係の注記事項

時価算定会計基準が原則適用となる2022年3月期の四半期における金融商品関係の注記内容を教えてください。

A3

四半期財務諸表においては、金融商品について、当該金融商品に関する科目ごとに、企業集団の事業の運営にあたって重要なものとなっており、かつ、四半期貸借対照表(四半期連結貸借対照表を含む。以下同じ。)計上額その他の金額に前事業年度の末日に比して著しい変動が認められる場合には、以下の注記が求められています(四半期財規8条の2第1項、四半期連結財規15条の2第1項)。

(1)金融商品に関する注記

  • 四半期貸借対照表計上額
  • 時価
  • 四半期貸借対照表計上額と時価との差額

市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、上記の事項の記載を要しないこととされており、この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び四半期貸借対照表計上額を注記することとされています(四半期財規8条の2第5項、四半期連結財規15条の2第5項)。

また、時価算定会計基準の導入に伴い、時価で四半期貸借対照表に計上している金融商品については、以下の「(2)レベルごとの時価の合計額」が注記事項とされています。ただし、当該金融商品に関する四半期貸借対照表の科目ごとに、企業集団の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、当該金融商品を適切な項目に区分し、その項目ごとに、当該金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、それぞれの金額に前事業年度末に比して著しい変動が認められる場合に注記が求められるもので、それ以外の場合は注記が不要となります(四半期財規8条の2第3項、四半期連結財規15条の2第3項)。

(2)レベルごとの時価の合計額

  • レベル1からレベル3の分類ごとの金融商品の時価の合計額
  • レベル2又はレベル3の時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更した場合には、その旨及びその理由

このレベルごとの時価の合計額において、その項目ごとの金融商品の時価につき、適時に、正確な金額を算定することが困難な場合には、概算額を記載することができます(四半期財規8条の2第4項、四半期連結財規15条の2第4項)。なお、総資産の大部分を金融資産が占め、かつ、総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団(以下「金融機関」という。)以外の会社においては、第1四半期及び第3四半期において当該注記を省略することができます(四半期財規10条の2、四半期連結財規17条の2)。

ただし、2020年3月6日に改正された時価算定会計基準の適用に係る四半期財務諸表等規則(以下「新四半期財務諸表等規則」という。)の規定を初めて適用する場合(直前の事業年度に係る財務諸表に2020年3月6日改正の財務諸表等規則の規定を適用している場合を除く。)には、新四半期財務諸表等規則8条の2第3項に規定する事項(上記(2)の事項)については、比較情報を含めて記載することを要しないと規定されています(令和2年内閣府令第9号附則4条2項、3項、7条2項、3項)。また、当該附則については、金融機関が除かれるとは規定されていません。

このため、金融機関も含め、時価算定会計基準等の適用初年度においては、比較情報も含めて(2)の事項は記載することを要しないことになります。


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