企業会計ナビ

「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等のポイント

2020.09.18
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 松下 洋

<ASBJから2020年9月11日に公表>

2020年9月11日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より以下の実務対応報告の公開草案(以下「本公開草案等」という。)が公表されています。

  • 実務対応報告公開草案第60号
    「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」(以下「実務対応報告案」という。)
  • 企業会計基準公開草案第70号(企業会計基準第5号の改正案)
    「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」(以下「改正純資産会計基準案」という。)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第69号(企業会計基準適用指針第8号の改正案)
    「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(案)」(以下「改正純資産適用指針案」という。)

2019年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号、以下「改正法」という。)により、会社法第202条の2において、上場会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに規定されました。本公開草案等は、これを受けて、取締役及び執行役(以下「取締役等」という。)の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合における会計処理及び開示を示すことを目的として公表されました。

1. 本公開草案の概要

(1)適用範囲

会社法第202条の2に基づいて、上場会社が取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とするとすることが提案されています。

また、現行実務において行われているいわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する場合には適用されず、これまでの実務で行われている会計処理及び開示に影響を与えることを意図したものではないとする提案がなされています(実務対応報告案第25項)。

2. 会計処理

(1)基本的な考え方

実務対応報告案の適用対象としている取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引については、自社の株式を報酬として用いる点で、ストック・オプションと類似性があるものと考えられます。

両者は、インセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点で同様であるため、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)の定めに準じることが提案されています。

一方、実務対応報告案の適用対象となる取引には、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されますが、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点については、取引の形態ごとに異なる取扱いが提案されています。

(2)事前交付型(実務対応報告案第4項(6)、同項(7)及び同項(16))

①定義

取締役等の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い、権利確定条件を達成した場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、当該無償取得を「没収」という。)取引を事前交付型とすることが提案されています。

②会計処理

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ以下のとおり提案されています。

  新株の発行により行う場合 自己株式の処分により行う場合
割当日における取扱い 当初の割当日において新株を発行し発行済株式総数が増加するが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないことから、割当日には払込資本を増加させない(実務対応報告案第39項) 当初の割当日において自己株式を処分するため、その時点で自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額する(実務対応報告案第12項、第43項から第45項)
対象勤務期間における取扱い ①ストック・オプション会計基準と同様に、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上。各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とする(実務対応報告案第5項から第8項)
②①の処理により年度通算で費用が計上される場合は、対応する金額を資本金又は資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額する(実務対応報告案第9項)(※1)
ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上する(実務対応報告案第13項)
没収時における取扱い 没収により、企業が無償で株式を取得したときは、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第14項の定めによる自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理する(実務対応報告案第11項) 没収により、企業が無償で株式を取得したときは、自己株式等会計適用指針第14項の定めによらず、当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額のうち、没収により取得した自己株式に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額する(実務対応報告案第14項及び第46項)

(※1)なお、四半期会計期間においては、計上する損益に対応する金額はその他資本剰余金の計上又は減額として処理し、年度の財務諸表においては、②の処理に置き換える(実務対応報告案第10項)。

(3)事後交付型(実務対応報告案4項(6)及び同項(8))

①定義

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引を事後交付型とすることが提案されています。

②会計処理

新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合をそれぞれ以下のとおり定めることが提案されています。また、実務対応報告案において提案されている以下の定めにより、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、新たに「株式引受権」を計上するとしたことから、改正純資産会計基準案及び改正純資産適用指針案において、「株式引受権」という科目を追加することが提案されています。

  新株の発行により行う場合 自己株式の処分により行う場合
対象勤務期間における取扱い ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上する(実務対応報告案第15項) ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を、自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上する(実務対応報告案第17項)
割当日における取扱い 権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替える(実務対応報告案第16項) 権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させる(実務対応報告案第18項)

(4)その他の会計処理(実務対応報告案第19項及び第50項)

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、本実務対応報告の開発段階においては改正法の施行前であり、取引の詳細は定かではないことから、基本となる会計処理のみを定めることし、実務対応報告案に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準や企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下「ストック・オプション適用指針」という。)の定めに準じて会計処理を行うとすることが提案されています。

3. 開示

(1)注記(実務対応報告案第20項、第21項及び第51項)

実務対応報告案では、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準じることとしていることから、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針における注記事項を基礎とし、ストック・オプションと事前交付型、事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、次の注記項目が提案されています。また、以下の注記事項の具体的な内容や記載方法については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて行うこととすることが提案されています。

  • 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る)
  • 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定数が存在したものに限る、ただし、権利確定後の未発行株式数を除く)
  • 付与日における公正な評価単価の見積方法
  • 権利確定数の見積方法
  • 条件変更の状況

(2)1株当たり情報

1株当たり情報については、以下が提案されています(実務対応報告案第22項)。

事後交付型における全ての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる株式 企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第9項の「潜在株式」として取扱い、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取り扱う
株式引受権 1株当たり純資産額の算定上、企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」第35項の期末の純資産額の算定に当たっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除

4. 適用時期等

改正法の施行日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとすることが提案されています(実務対応報告案第23項)。

(参考1)

会社計算規則改正案の概要

2020年9月1日に法務省から「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集」が公表されており、会社計算規則の改正案(以下「会社計算規則改正案」という。)では、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関して、次のような規定が追加されています。

①取締役等の報酬等として株式を交付する場合の株主資本

会社計算規則改正案においては、「取締役等の報酬等として株式を交付する場合の株主資本」として、第2編第3章に第5節の2が新設されており、事前交付型と事後交付型に相当する規定として、下表の条文が追加されています。

事前交付型に相当する規定 取締役等が株式会社に対し割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合における株主資本の変動額(会社計算規則改正案第42条の2) ①新株の発行
新株の発行を行った場合に増加する資本金又は資本準備金の額(会社計算規則改正案第42条の2第1項から3項)
②自己株式の処分
自己株式を処分した場合の自己株式の帳簿価額の取扱い(会社計算規則改正案第42条の2第4項及び第7項)及び増加するその他資本剰余金の額(会社計算規則改正案第42条の2第5項)
事後交付型に相当する規定 取締役等が株式会社に対し割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合における株主資本の変動額(会社計算規則改正案第42条の3) ①新株の発行
新株の発行を行った場合に増加する資本金又は資本準備金の額(会社計算規則改正案第42条の3第1項から3項)
②自己株式の処分
自己株式を処分した場合に増加するその他資本剰余金の額(同条第4項)

②株式引受権

会社計算規則改正案第2条第3項第34号において、「株式引受権」が新たに定義されると共に、第2編第3章に第7節の2が新設されており、株式引受権に関する規定として、次の内容が規定されています。

  • 増加又は減少すべき株式引受権の額(会社計算規則改正案第54条の2)
  • 純資産の部における区分(会社計算規則改正案第76条第1項第1号ハ及び同項第2号ハ)
  • 株主資本等変動計算書及び連結株主資本等変動計算書における区分(会社計算規則改正案第96条第2項第1号ハ及び同項第2号ハ)
  • 株主資本等変動計算書及び連結株主資本等変動計算書に関する注記(会社計算規則改正案第105条第4号及び第106条第3号)

(参考2)

想定される取引

事前交付型 事後交付型
株主総会において、取締役等の報酬等について募集株式の数の上限等を決議
  • 取締役会において、上記で決定した募集株式の交付を決議
  • 取締役等との間で上記の募集株式の引受に関する契約を締結
  • 割当日において契約に基づく譲渡制限を付した株式を交付
  • 一定期間の勤務や一定の業績目標等の達成によって譲渡制限を解除
  • 譲渡制限が解除されなかった株式は、会社が無償取得
  • 上記で決定した内容に基づき、取締役等との間で株式報酬に関する契約を締結
  • 上記の契約に定める一定期間の勤務や一定の業績目標等の達成等によって、株式が交付される権利が確定
  • 権利が確定した株式について、取締役会において募集株式の交付を決議
  • 取締役等との間で上記の募集株式の引受に関する契約を締結
  • 割当日において確定した株式を交付する

なお、本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

財務会計基準機構ウェブサイトへ


情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?