新型コロナウイルス感染症の影響に関連する会社法施行規則及び会社計算規則の改正のポイント

2020年5月19日
カテゴリー 会計情報トピックス

公認会計士 加藤圭介

2020年5月15日に公布・施行

法務省令第37号「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」が2020年5月15日に公布され、同日付で施行されています。

今般の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、株式会社の決算、監査業務に遅延が生じることが懸念されていることを踏まえ、緊急的かつ時限的な措置として改正されたものです。

当該改正により、従来、定時株主総会の招集の通知に際して書面により株主に提供することが求められていた貸借対照表や損益計算書などについても、一定の条件の下、所定の期間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載し、そのURLを株主に通知すれば、株主に提供されたものとみなすこととされます。

1. 改正される規則

会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)及び会社計算規則(平成18年法務省令第13号)

2. 改正の概要

取締役会設置会社においては、取締役は定時株主総会の招集の通知に際して、株主に対し計算書類等を提供しなければならないこととされていますが(会社法437条)、事業報告及び計算書類に表示すべき事項の一部については、当該事項に係る情報を定時株主総会に係る招集通知を発出する時から株主総会の日から3カ月が経過する日までの間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載し、当該ウェブサイトのURL等を株主に対して通知することにより、当該事項が株主に提供されたものとみなす制度(いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度)があります(会社法施行規則133条3項、会社計算規則133条4項等)。

本改正では、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、本省令の施行の日から6カ月以内に招集の手続が開始される定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に限り(下記4.参照)、同制度の対象となる事項の範囲を拡大することとされています(改正後の会社法施行規則133条の2、会社計算規則133条の2)(注1)。

(注1)改正前の会社法施行規則及び会社計算規則においてもウェブ開示によるみなし提供制度の対象とされていた事項について、ウェブ開示をするための要件等を変更するものではありません。

3. 改正によりウェブ開示によるみなし提供制度の対象となる事項

改正により、次に掲げる事項がウェブ開示によるみなし提供制度の対象となります(注2)(注3)。

(1)株式会社が事業年度の末日に公開会社である場合において事業報告に表示すべき事項のうち「当該事業年度における事業の経過及びその成果」(会社法施行規則120条1項4号)及び「対処すべき課題」(同項8号)

(2)貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項

(注2)ウェブ開示をする旨の定款の定めが必要です。ただし、改正前の会社法施行規則又は会社計算規則に基づきウェブ開示をする旨の定款の定めが既にある場合には、改正を受けて定款の定めを新たに設けたり、変更したりする必要はありません。
(注3)監査役等による監査報告及び会計監査人による会計監査報告も含まれます(会社法施行規則133条1項、会社計算規則133条1項参照)。
(注4)貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項については、会計監査報告に無限定適正意見が付されていることなどの一定の条件を満たす場合にのみ、ウェブ開示によるみなし提供制度の対象となります(改正後の会社計算規則133条の2第1項各号)。なお、計算書類について株主総会の承認(会社法438条2項)を要することとなる場合には、貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項は同制度の対象となりません。

4. 株主の利益への配慮

改正前の会社法施行規則及び会社計算規則においてはウェブ開示によるみなし提供制度の対象とされていなかった上記2.の事項を同制度の対象とするものであることから、上記2.の事項についてウェブ開示をする場合には、株主の利益を不当に害することがないよう、特に配慮しなければならないこととされています(会社法施行規則133条の2第4項、会社計算規則133条の2第4項)。

どのように株主の利益に配慮するかについては、各社が置かれた個別具体的な事情を踏まえた各社の判断によることとなりますが、例えば、次に掲げるような方法をとることが考えられます(「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令 (令和2年法務省令第37号)について」3)。

(1)上記2.の事項について、できる限り早期にウェブ開示を開始すること。

(2)できる限り株主総会までに上記2.の事項を記載した書面を株主(会社法299条3項の承諾をした株主を除く。以下(2)において同じ。)に交付することができるように、ウェブ開示の開始後、準備ができ次第速やかに、上記2の事項を記載した書面を 株主に送付すること。又は、株式会社に対して上記2.の事項を記載した書面の送付を希望することができる旨を招集通知に記載して株主に通知し、送付を希望した株主に、準備ができ次第速やかに、上記2.の事項を記載した書面を送付すること。

(3)株主総会の会場に来場した株主に対して上記2.の事項を記載した書面を交付すること。

5. 施行期日・失効

本省令は、公布の日(2020年5月15日)から施行されます(附則1条)。

本省令による改正に係る会社法施行規則及び会社計算規則の規定は、本省令の施行の日から起算して6カ月を経過した日にその効力を失うこととされています(注5)。

ただし、同日前に招集の手続が開始された定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供については、なおその効力を有することとされています(附則2条)。

(注5)本省令による改正に係る会社法施行規則及び会社計算規則の規定がその効力を失ったときは、上記2.の事項はウェブ開示によるみなし提供制度の対象ではなくなります。

6. 意見公募手続

本省令は、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、緊急に定める必要があり、行政手続法39条4項1号の「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、意見公募手続を実施することが困難であるとき」に該当することから、意見公募手続は実施されていません。

なお、本稿は本改正案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

法務省ウェブサイト

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