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2019年3月期 決算上の留意事項

2019.02.28
(2019.04.16更新)
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
鈴木 真策、村田 貴広、横井 貴徳

有償ストック・オプション編

Q11
権利確定条件付き有償新株予約権数の算定及びその見直しによる会計処理

有償ストック・オプション取扱いにおいては、失効の見込みは権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しないとされています。業績条件の達成可能性が高まり、付与当初に見込んだ失効の見込数に変動が生じた期の会計処理を教えてください。

A11

権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額は、公正な評価単価に権利確定条件付き有償新株予約権数を乗じて算定します(有償ストック・オプション取扱い5項(3))。

公正な評価単価は付与日において算定し、失効の見込みについては権利確定条件付き有償新株予約権数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しません。また、付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積り数に重要な変動が生じた場合、これに伴い権利確定条件付き有償新株予約権数を見直すこととされ、この場合、失効数の見直しによる影響は、見直しを行った期の損益として計上することになります。

したがって、権利確定条件付き有償新株予約権を付与した当初には業績条件の達成可能性が低いと判断していたが、その後業績条件の達成可能性が高まった場合には、失効数の見込数が減少することから、当該期に費用計上総額の見直しがなされることになります。

以上を簡単な設例で示すと以下のとおりとなります。

[前提条件]
A社(3月31日決算)は、従業員5名に対し、2018年7月1日に以下の条件のストック・オプション(権利確定条件付き有償新株予約権)を付与し、金銭が払い込まれた。

  • ストック・オプション数 1人当たり100千個(合計500千個)
  • ストック・オプションの権利確定日 2020年6月30日
  • 権利確定条件 ⅰ 2018年7月から2020年6月までの累計営業利益が20億円を超えることを要する、ⅱ 権利確定日において従業員の地位にあることを要する
  • 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価 100円/個
  • 新株予約権の払込金額の合計額 2,500千円
  • 付与日における勤務条件を考慮した失効見込みはゼロ、業績条件を考慮した失効見込みは475千個(権利確定見込み25千個)であり、2020年3月末において、業績条件の達成が合理的に見込まれる状況となった

[会計処理(単位:百万円)]

  • 払込日/付与日(2018年7月1日)
    ストック・オプション(新株予約権)の付与に伴う従業員等からの払込金額(2.5)(5円/個×500千個)を、純資産の部に計上する。
    (借)現金預金 2.5   (貸)新株予約権 2.5
  • 2019年3月期
    仕訳なし
    (注)株式報酬費用 ゼロ=(公正な評価単価100円/個×25千個-払込金額2.5百万円)×(9カ月÷24カ月)
  • 2020年3月期
    (借)株式報酬費用 41.6   (貸)新株予約権 41.6
    (注)41.6百万円=(公正な評価単価100円/個×権利確定すると見込まれる見直し後の数500千個-払込金額2.5百万円)×(21カ月÷24カ月)
  • 2021年3月期
    (借)株式報酬費用 5.9   (貸)新株予約権 5.9
    (注)5.9百万円=(公正な評価単価100円/個×権利確定すると見込まれる見直し後の数500千個-払込金額2.5百万円)×(24カ月÷24カ月)-41.6百万円
Q12
未公開企業における取扱い

未公開企業が、従業員等に権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合の公正な評価単価に本源的価値を使用することは可能でしょうか。

A12

従業員等に対して、有償ストック・オプション取扱いの対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、ストック・オプション会計基準2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと定められました(有償ストック・オプション取扱い4項)。

ここで、有償ストック・オプション取扱いにおいては、未公開企業について、公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができるか否かが明確にされていないことから、有償ストック・オプションについてもストック・オプション会計基準13項の未公開企業における取扱いが適用できるか否かが論点となります。

この点、有償ストック・オプション取扱い8項においては、「本実務対応報告に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針の定めに従う。」と定められていることから、未公開企業が従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した場合、ストック・オプション会計基準13項に定める未公開企業における取扱いが適用されることになると考えられます(有償ストック・オプションコメント対応27)。

Q13
有償ストック・オプション取扱いの経過措置と注記

有償ストック・オプション取扱いを適用した場合の経過措置と開示上の取扱いを教えてください。

A13

有償ストック・オプション取扱いは、2018年4月1日以後原則適用することとされています(有償ストック・オプション取扱い10項(1))。

また、有償ストック・オプション取扱いの適用にあたっては、遡及適用を原則としていますが、経過的な取扱いとして、有償ストック・オプション取扱いの適用日より前に従業員等に対して有償新株予約権を付与した取引については、従来採用していた会計処理を継続することができることとされています。ただし、この場合、情報の有用性を補うために当該取引について以下の事項を注記する必要があることに留意が必要です(有償ストック・オプション取扱い10項(3))。

  • 権利確定条件付き有償新株予約権の概要(各会計期間において存在した権利確定条件付き有償新株予約権の内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等))。
    ただし、付与日における公正な評価単価については、記載を要しない。
  • 採用している会計処理の概要

なお、適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合又は従来採用していた会計処理を継続する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています(有償ストック・オプション取扱い10項(4))。

Q14
有償ストック・オプション取扱いを遡及適用した場合の表示

有償ストック・オプション取扱い10項(2)に基づき、同取扱いを遡及適用した場合、過去分の影響額は(連結)株主資本等変動計算書において、どの科目でどのように表示されるでしょうか。

A14

有償ストック・オプション取扱いを適用し、原則どおり、有償ストック・オプション取扱いの適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引について遡及適用した場合の払込資本の増加額は、その他資本剰余金に計上するものとされています(有償ストック・オプション取扱い10項(2))。有償ストック・オプション取扱いを遡及適用するにあたり、公表日より前に当該新株予約権が権利行使され、これに対して新株を発行している場合、新たな会計方針に基づき新株予約権として計上された額のうち、権利行使に対応する部分が払込資本に振り替えられます。この点、会計方針の変更により、新たな会計方針を遡及適用した場合であっても、新株予約権の行使があった場合の「資本金等増加限度額」(計規13条1項)の基礎となる「行使時における新株予約権の帳簿価額」(計規17条1項1号)を修正するものではないことから、当該払込資本の増加額は、その他資本剰余金として処理されます(有償ストック・オプション取扱い37項)。

新たな会計方針が遡及適用される場合、表示期間(会社法の場合は当期、有価証券報告書の場合は前当期)より前の期間に係る遡及適用による累積的影響額は、表示される最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映されます(過年度遡及会計基準6項、7項)。このため、有償ストック・オプション取扱いを遡及適用した場合、<図表>のとおり、表示される最も古い期間の(連結)株主資本等変動計算書において、前述の遡及適用に伴う払込資本の増加額を「会計方針の変更による累積的影響額」として(その他)資本剰余金に区分表示して表示することになります(株主資本等変動計算書会計基準5項なお書き)。

<図表> 有償ストック・オプション取扱いを遡及適用した場合の連結株主資本等変動計算書の表示例

図表 有償新株予約権取扱いを遡及適用した場合の連結株主資本等変動計算書の表示例

(注) 利益剰余金の減少額は費用計上された累計額であり、この他に新株予約権残高に影響が反映される可能性があります。

インセンティブ型役員報酬編

Q15
役員報酬として株式報酬を導入した企業の開示

当期に役員報酬としてインセンティブ型の株式報酬を導入しました。開示上留意すべき点を教えてください。

A15

(1) 有価証券報告書における開示

① 提出会社の状況

発行済株式総数、資本金等の推移において、役員に株式を割り当てた場合には、有償第三者割当の旨、発行価格、資本組入額、割当先(取締役●名等)を記載することになります(開示府令第三号様式(記載上の注意)(23)b)。

なお、役員向け株式交付信託を導入している企業は、「役員・従業員株式所有制度の内容」において以下の事項を記載することとなります(開示府令第三号様式(記載上の注意)(27)、第二号様式(記載上の注意)(46))。

  • 制度の概要
  • 役員に取得させる予定の株式の総数又は総額
  • 当該制度による受益権その他の権利を受けることができる者の範囲

② 自己株式の取得等の状況

役員報酬として第三者割当により自己株式を処分した場合、当該箇所にその旨を記載することとなります(開示府令第三号様式(記載上の注意)(33)、第二号様式(記載上の注意)(52))。

③ 役員の状況

「役員の状況」における「所有株式数」の欄に、役員に交付された株式の数を記載することとなります。なお、種類株式を用いた場合には種類ごとの数を記載するとされています(開示府令第三号様式(記載上の注意)(36)d)。

④ コーポレート・ガバナンスの状況

提出会社の役員の報酬等の総額を記載することとされており、報酬の種類別に金額を開示することになります。株式報酬の場合、報酬等の種類としては「株式報酬」や「業績連動型株式報酬」等として開示することが考えられます。

なお、有価証券報告書において記載すべき役員報酬額としては、各事業年度において会計上費用計上された金額が報酬額として開示されることになります(「『攻めの経営』を促す役員報酬 -企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-」(2019年3月時点版)Q12参照)。

また、役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載が求められています(開示府令第三号様式(記載上の注意)(37)、第二号様式(記載上の注意)(56))。

⑤ (連結)株主資本等変動計算書関係の注記

役員等に勤務条件の成就により譲渡制限が解除される譲渡制限付株式を付与し、条件が達成できなかった場合には付与した譲渡制限付株式を会社が無償で取得する株式報酬制度である事前交付型リストリクテッド・ストックを導入した企業においては、条件未達により会社が付与した株式を無償取得することがあります。

このように、役員等より自己株式の無償取得を行った場合において、無償で取得した自己株式の数に重要性があり、かつ、連結株主資本等変動計算書又は個別株主資本等変動計算書の注記事項として自己株式の種類及び株式数に関する事項を記載する場合(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」9項(1)②及び(2))には、その旨及び株式数を当該事項に併せて注記する必要があります(企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」15項)。

⑥ 1株当たり情報

  • 事前交付型リストリクテッド・ストック
    事前交付型リストリクテッド・ストックは、事前に交付された株式について、株主としての権利である議決権や配当請求権は通常の普通株式と変わることはないものの、条件未達により会社に付与した株式が無償取得された場合には、企業の自己株式の数が増加するため、普通株式の期中平均株式数が減少する可能性があります。
    このため、潜在株式には該当しないものの、投資家に対する情報提供の観点から、将来的に減少する可能性がある株式について、その株式数を開示する等、一定の追加情報を開示することも考えられます。
  • パフォーマンス・シェア・ユニット
    パフォーマンス・シェア・ユニットとは中長期の業績目標の達成度合いに応じて、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するものであり、業績等連動期間の満了時に役員等に業績目標の達成度合いに応じた金銭報酬債権を付与し、付与された役員等が当該金銭報酬債権を現物出資して株式を発行するスキームで行われます。

このように将来において株式が発行される(又は自己株式が処分される)可能性があるため、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において考慮すべきかどうかが論点となります。

この点、「潜在株式」とは、その保有者が普通株式を取得することができる権利若しくは普通株式への転換請求権又はこれらに準じる権利が付された証券又は契約をいい、例えば、ワラントや転換証券が含まれますが(1株当たり当期純利益会計基準9項)、パフォーマンス・シェア・ユニットは前記のとおり、業績条件の達成度合いに応じて、中期経営計画終了時等の将来の一定時期に株式を交付するものであるため、業績が確定するまでは、普通株式を取得する権利を取得しておらず、ワラントや転換証券の定義(1株当たり当期純利益会計基準10項、11項)を満たしていないと考えられます。

ただし、「条件付発行可能普通株式」(1株当たり当期純利益適用指針4項、17項)に該当するかどうかは検討する必要があると考えられます。

なお、投資家に対する情報提供の観点からは、パフォーマンス・シェア・ユニットが「潜在株式」に該当しないとしても、潜在株式調整後1株当たり当期純利益に準じた開示を追加情報として行うことが望ましいもの考えられます(会計制度委員会研究報告「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(公開草案)ⅴ 12参照)。

⑦ 関連当事者注記

役員報酬は、コーポレート・ガバナンスに関する非財務情報として開示が規定されているため、役員に対する報酬の支払は、関連当事者注記の開示対象外の取引となります(関連当事者会計基準9項(2))。

ただし、役員報酬として株式を交付する第三者割当による株式の発行又は自己株式の処分及びストック・オプションの権利行使は資本取引であるため、開示対象の取引となります(関連当事者会計基準28項)。また、企業が役員より自己株式の無償取得を行った場合には開示対象の取引となることにも留意が必要です(関連当事者会計基準29項)。

なお、関連当事者である役員については、個人に関する重要性の判断基準が適用されるため、各人の資本取引の額が少額(1,000万円以下)である場合には、開示不要となります(関連当事者適用指針16項)。

⑧ 重要な後発事象

決算日後、監査報告書日までの間に新たな株式報酬制度の導入を株主総会で決議し、当該制度の導入が、翌連結会計年度(事業年度)以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす場合には、重要な後発事象の注記が必要になります(連結財規14条の9、財規8条の4)。

⑨ 役員向け株式交付信託の会計処理に日本版ESOP取扱いを準用している場合

役員向け株式交付信託の会計処理に日本版ESOP取扱いを準用している場合には、注記事項についても従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に準じて「追加情報」、「連結株主資本等変動計算又は個別株主資本等変動計算書の注記事項」、「1株当たり情報に関する注記」を記載することが考えられます(日本版ESOP取扱い16項、17項、18項参照)。

(2) 会社法における開示

① 事業報告における開示

「株式会社の役員に関する事項」において役員報酬の額を開示します(会社法施行規則121条4号、5号)。開示すべき役員報酬額としては、各事業年度において会計上費用計上された金額が報酬額として開示される点は有価証券報告書の場合と同様です。

② 注記表

「関連当事者注記」、「重要な後発事象」の注記が必要となります(計規112条1項、114条1項)。開示すべき内容については前記「(1) 有価証券報告書における開示⑦関連当事者注記、⑧重要な後発事象」をご参照ください。


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