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「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」のポイント

2018.09.06
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 武澤 玲子

<企業会計基準委員会が平成30年8月30日に公表>

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成30年8月30日に「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」(以下「本意見募集文書」という。)を公表しています。

本意見募集文書では、金融商品に関する会計基準の開発に着手するか否かを決定する前の段階で、適用上の課題とプロジェクトの進め方に対する意見を幅広く把握するため、七つの質問項目について意見を募集しています。

なお、本意見募集文書に対しては、平成30年11月30日(金)までがコメント募集期間とされています。

1. 本意見募集文書の概要

(1) 公表の経緯

ASBJでは、日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みの一つとして金融商品に関する会計基準を挙げており、金融商品に関する会計基準の開発(改正)に着手することは、我が国の会計基準を高品質なものとすることにつながり得るものであり、また、金融危機時以降に改正された国際的な会計基準との整合性を図ることになり、国内外の企業間の財務諸表の比較可能性を向上することに寄与し得るものと考えています。

一方で、仮に金融商品に関する会計基準を改正する場合には、約20年ぶりの抜本的な改正となり、多くの適用上の課題が生じることが想定されるため、ASBJは、金融商品の開発に着手するか否かを決定する前の段階で、適用上の課題とプロジェクトの進め方に対する意見を幅広く把握するために、本意見募集文書を公表しました。

(2) プロジェクトにおいて検討する範囲

① プロジェクトに含まれる分野

今回のプロジェクトの範囲に含まれる分野は、以下のとおりです。

  • 「金融商品の分類及び測定」
  • 「金融資産の減損」
  • 「ヘッジ会計」

なお、「金融商品の認識の中止」については、特別目的事業体の連結範囲と密接に関連する論点であり、将来的に、連結範囲を国際的に整合性のあるものとするか否かの検討に合わせて検討することが適当とされ、今回のプロジェクトの範囲には含められていません。

② その他の関連する事項

開発する会計基準について、国際的に整合性を図ることを検討する場合の対象となる会計基準及び整合性を図る程度、個別財務諸表の取扱い、並びに「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」との関係については、会計基準の開発に着手した場合、その開発過程で検討されることとされています。

(3) 各分野における主要な論点

本意見募集文書では、仮に金融商品会計に関するIFRS又は米国会計基準の基準本文(適用指針を含む。)の内容を以下の11項目に分類し、我が国の連結財務諸表及び個別財務諸表に導入した場合における適用上の課題を「別紙 IFRS及び米国会計基準について識別している適用上の課題」(以下「別紙」という。)で分析しています。

【項目1】 金融資産の分類
【項目2】 金融負債の分類
【項目3】 分類の変更
【項目4】 償却原価
【項目5】 その他の分類及び測定に係る項目
【項目6】 予想信用損失の認識
【項目7】 予想信用損失の測定
【項目8】 ヘッジの種類と会計処理
【項目9】 ヘッジ手段
【項目10】 ヘッジ対象
【項目11】 ヘッジ会計の適格要件

適用上の課題として記載されている事項のうち、主なものは以下のとおりです。

① 金融商品の分類及び測定

【項目1】 金融資産の分類

  • 株式について、普通株式への投資等、資本性金融商品に対する投資について、売買目的保有でない場合に、当初認識時に公正価値の事後の変動をその他の包括利益(以下「OCI」という。)に表示するという取り消しできない選択(以下、「OCIオプション」という。)を適用した場合、当該株式の売却時に損益が計上されず、また減損損失が計上されないこと(ノンリサイクリング処理(注))
  • 非上場株式について、貸借対照表において公正価値測定が求められること(評価差額は原則として損益に計上され、OCIオプションが適用可能)
  • 日本基準において認められている管理上の区分による金融資産の組込デリバティブの区分処理が認められなくなり、リスク管理方法に影響を及ぼす可能性があること

(注)「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」(以下「修正国際基準」という。)では、ノンリサイクリング処理は当期純利益の総合的な業績指標としての有用性を低下させると考え、我が国における会計基準に係る基本的な考え方と相違が大きいため、「削除又は修正」を行っている

(参考)

主な金融資産についての分類及び測定(有価証券)

商品種類 日本基準 IFRS 米国会計基準
上場株式 売買目的有価証券:FVPL(※1) FVPL(※1)(ただし、売買目的保有でない場合、FVOCI(※2)(リサイクリングなし)を選択することも可能) FVPL(※1)
その他有価証券:FVOCI(※2)(リサイクリングあり)
非上場株式 その他有価証券:取得原価 上場株式と同様 FVPL(※1)(ただし、取得原価から減損損失を控除し、一定の調整をする処理を選択することも可能)
債券 売買目的有価証券:FVPL(※1) 事業モデル要件及び契約キャッシュ・フロー要件に基づき、次のいずれかに分類:償却原価、FVOCI(※2)(リサイクリングあり)、FVPL(※1) 売買目的有価証券:FVPL(※1)
満期保有目的の債券:償却原価 満期保有目的有価証券:償却原価
その他有価証券:FVOCI(※2)(リサイクリングあり) 売却可能有価証券:FVOCI(※2)(リサイクリングあり)
(※1)FVPLとは、純損益を通じて公正価値で測定することをいいます
(※2)FVOCIとは、OCIを通じて公正価値で測定することをいいます

② 金融資産の減損

【項目6】 予想信用損失の認識

  • 日本基準のように債務者の状況に応じた債権区分(一般債権、貸倒懸念債権及び破産更生債権等)に対応する貸倒引当金を計上するのではなく、個々の債権単位で債権の信用リスクが当初認識以降に著しく増大しているかどうかを評価したうえで予想信用損失を測定し、個々の債権の信用リスクに基づく予想信用損失を測定する一方、個々の債権に対する信用リスクのデータを整備し、当該データを保存するプロセスの整備やシステムの改修等が必要となること

【項目7】 予想信用損失の測定

  • 将来予測的な情報に基づき、企業の信用リスクを適切に反映する予想信用損失を測定する一方、将来予測的な情報を反映するためのデータの整備やその反映方法の妥当性を検証するプロセスの構築等が必要となること

(参考)

債権の減損処理等(償却原価で処理される前提)

商品種類 日本基準 IFRS 米国会計基準
貸付金 債務者の状況に応じた債権区分に基づき貸倒見積高を算定 12か月又は全期間の予想信用損失を認識(債券と同様) 全期間の予想信用損失を認識
営業債権(売掛金等) 貸付金と同様 全期間の予想信用損失を認識(ただし、重要な金融要素を含む場合、貸付金と同様の方法又は全期間の予想信用損失の認識を選択) 貸付金と同様
リース債権 貸付金と同様 貸付金と同様の方法又は全期間の予想信用損失の認識を選択 貸付金と同様

③ ヘッジ会計

【項目8】 ヘッジの種類と会計処理

  • ヘッジ手段としてのデリバティブを時価評価しない金利スワップの特例処理や振当処理が認められなくなるため、他のデリバティブと同様に、デリバティブの貸借対照表価額が時価を表すこととなる一方、金利スワップの特例処理や振当処理を適用している取引についてヘッジ会計を行う場合には、決算プロセスの変更等が必要となること
  • 銀行業及び保険業における包括ヘッジの対象となるヘッジ取引についてヘッジ会計を適用する場合には、ヘッジ会計の要件に対応するためのプロセスの変更等が必要となる可能性があること

【項目11】

  • ヘッジ有効性の定量的な評価が求められず、事後的にヘッジ有効性を満たさなくなった場合でも一定の状況ではヘッジ会計が継続される一方、原則として、ヘッジ非有効部分を算定して損益に認識すること

2. 質問事項

質問事項は以下のとおりです。

質問1 回答者の属性(財務諸表利用者、財務諸表作成者、監査人、学識経験者、その他)
質問2 金融商品会計基準の改正の意義
質問3 プロジェクトにおいて検討する範囲(「金融商品の分類及び測定」、「金融資産の減損」及び「ヘッジ会計」に対し、どのように優先順位をつけるか)
質問4 その他の関連する事項(会計基準の開発に着手した場合に、その開発過程で検討されることとなる事項についての現時点での意見)
質問5 識別された論点及び適用上の課題への意見
質問6 開示
質問7 その他

本稿は本意見募集文書の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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