有価証券報告書と事業報告等の「一体的開示」のポイント

2018年4月12日
カテゴリー 会計情報トピックス

公認会計士 吉田剛

公益財団法人 財務会計基準機構(FASF)は、平成30年3月30日に「有価証券報告書の開示に関する事項-『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組-」(以下「本取組」という。)を公表しました。

本取組は、平成28年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」において示された制度開示の一体化の方針を受け、平成29年12月の「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」(金融庁、法務省)の内容も踏まえ公表されたものであり、有価証券報告書と事業報告等の記載の共通化を図る上でのポイントや記載事例を示すものであって、平成30年3月期以降の決算において影響が生じることが想定されています。

1. 「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」の公表

現在、我が国においては、金商法に基づく有価証券報告書と、会社法に基づく事業報告並びに計算書類及び連結計算書類(以下「事業報告等」という。)という2つの開示書類を作成するような実務となっています。

決算短信を含めた制度開示の重複感もあり、平成28年6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」においては、企業と投資家の建設的な対話を促進するなどの観点から、制度的に要請されている事項を一体的に開示する場合の関係省庁による考え方等を整理することとされました。

これを受けて、平成29年12月28日に「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」が金融庁、法務省から公表され、有価証券報告書及び事業報告等の「一体的開示」をより行いやすくする環境整備の一環として、一定の事項につき、ひな形による明確化又は法令解釈の公表等の対応を行うこととされました。

2. 本取組の概要

本取組は、上記の流れを踏まえ、両省庁(金融庁、法務省)の要請を受けて、両省庁の協力を得つつ、FASF内の「有価証券報告書等開示内容検討会」において議論された結果等を反映して作成されています。具体的には、有価証券報告書と事業報告等の記載の共通化を図るうえでのポイントや記載事例を示すことを目的としたものです。

本取組の中で、「Ⅱ.記載の共通化に向けた留意点」では、「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」において掲げられた項目を主な対象として、「作成にあたってのポイント」、記載事例、並びに対応する会社法施行規則及び会社計算規則が示されており、具体的な項目は以下のとおりとなっています。

有価証券報告書 事業報告等
「主要な経営指標等の推移」 「直前三事業年度の財産及び損益の状況」
「事業の内容」 「主要な事業内容」
「関係会社の状況」 「重要な親会社及び子会社の状況」
「従業員の状況」 「使用人の状況」
「経営上の重要な契約等」 「事業の譲渡」
「主要な設備の状況」 「主要な営業所及び工場」の状況
「ストックオプション制度の内容」 「新株予約権等に関する事項」
「大株主の状況」 上位十名の株主に関する事項
「役員の状況」 会社役員の「地位及び担当」並びに「重要な兼職の状況」
「社外役員等と提出会社との利害関係」 社外役員の重要な兼職に関する事項
「社外取締役の選任に代わる体制及び理由」 「社外取締役を置くことが相当でない理由
.「役員の報酬等」 「会社役員の報酬等」
「監査公認会計士等に対する報酬の内容」 「各会計監査人の報酬等の額」及び「株式会社及びその子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額」
財務諸表及び計算書類の表示科目
1 株当たり情報に関する注記

3. 金融庁、法務省の対応

同日付で、金融庁・法務省から公表された「『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組について」においては、本取組に掲げられた「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」の内容が、関係法令の解釈上、問題ないものと考えられる旨が記載されています。

4. その他の改正事項

上記の他、一体的開示に関連する以下の改正がすでに施行されており、この平成30年3月期決算から適用となります。

会社法施行規則の改正(議決権行使基準日に係る改正)
企業内容等の開示に関する府令の改正(株式所有割合の算定方法、新株予約権の状況及び議決権行使基準日に係る改正)

なお、本稿は本取組等の概要を記述したものであり、具体的な内容については本文をご参照ください。

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