平成29年3月期 決算上の留意事項

2017年4月4日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計情報トピックス 西野恵子・武澤玲子・村田貴広

この平成29年3月期決算においては、回収可能性適用指針、平成28年度税制改正に伴う減価償却取扱い、リスク分担取扱い、開示府令の改正、マイナス金利取扱いが原則適用となります。また、改正実務対応報告18号を早期適用することができます。

本稿では、これらの論点について、基本的な取扱いを中心に、平成29年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。

ただし、回収可能性適用指針の適用に係る本決算での留意事項については、「平成28年3月期決算上の留意事項」Q9からQ19をご確認ください。

Q1 いわゆる「反証規定」の継続的な適用の要否
Q2 適用初年度期首の影響額の取扱い及び開示

Q3 期末における影響額の注記の重要性の判断

Q4 マイナス金利取扱いの概要
Q5 退職給付以外の割引率の取扱い(資産除去債務、減損損失の回収可能価額、金融商品の時価開示等)
Q6 マイナス金利下での金利スワップの特例処理の適用可否

Q7 リスク分担型企業年金の分類
Q8 決算日前後のリスク分担型企業年金への移行の規約変更等

Q9 改正実務対応報告18号の適用範囲

Q10 開示府令改正の影響

なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 本文中の略称
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 金融商品会計基準
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 過年度遡及会計基準
企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」 退職給付会計基準
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 回収可能性適用指針
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」 実務対応報告18号
実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」 実務対応報告24号
実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」 減価償却取扱い
実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」 リスク分担取扱い

実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」

マイナス金利取扱い
実務対応報告公開草案第47 号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」に対するコメントの5.主なコメントの概要とその対応 リスク分担取扱いコメント対応
実務対応報告公開草案第49号(実務対応報告第18号の改正案)「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」等に対するコメントの 5. 主なコメントの概要とその対応 改正実務対応報告18号コメント対応
監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」 66号

税効果会計

Q1. いわゆる「反証規定」の継続的な適用の要否

回収可能性適用指針において、いわゆる反証規定として設けられた以下の3つの定めにつき、原則適用した当期首においては適用していませんでしたが、当年度末にこれらの定めを適用することはできるのでしょうか。

  • (分類2)の企業においてスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を回収可能と判断できる定め
  • (分類3)の企業において5年超の見積課税所得により繰延税金資産を回収可能と判断できる定め
  • (分類4)の企業において(分類2)又は(分類3)と判断できる定め

A1.

反証規定として設けられたこれらの3項目については、企業の実態をより適切に財務諸表に表すために定められたものであるため、適用の継続性が求められると考えられます。

いわゆる反証規定の3項目について、その適用に際し、適用初年度の期首と当該年度末における適用の継続性が求められるものであるかどうかは明確化されていません。すなわち、適用初年度の期首においてこれら反証規定を適用せず、当該年度末で反証規定を適用することが認められるのかどうかが実務上の論点となります。

この点、これらの反証規定は、企業の実態をより適切に財務諸表に表すために設けられたものであることから(回収可能性適用指針74項、84項、89項参照)、何ら状況の変化がない中で、適用初年度の期首では当該規定を適用せず、当該年度末では適用するような取扱いが認められると、企業の実態が適切に表されなくなり、反証規定の趣旨に反することになります。

このため、適用初年度の期首においてこれら反証規定を適用しなかった場合には、企業の実態に影響を及ぼすような企業内外の何らかの環境変化がない限り、当該年度末に反証規定を適用することはできないと考えられます。上場企業の関係会社について適用初年度の期首にこれら反証規定を適用すべきかについて検討を行った結果、反証規定を適用せずに四半期連結財務諸表を作成している場合、期末になって当該関係会社が反証規定の適用を検討する際には企業の実態に影響を及ぼすような企業内外の環境変化があるかを慎重に判断する必要がある点に特に留意が必要です。

なお、これら反証規定を適用するか否かの方針について連結会社間で統一を要するかも論点となりますが、これらの反証規定は、企業の実態をより適切に財務諸表に表すために設けられたものであり、これら反証規定の適用に係る企業の実態は連結会社間で異なると考えられることから、必ずしも統一を要するものではないと考えられます。

Q2. 適用初年度期首の影響額の取扱い及び開示

回収可能性適用指針の適用による影響額は、どのように取り扱われるのでしょうか。会計基準等の改正に伴う会計方針の変更による影響であるため、過年度遡及の原則どおり、過去に遡及適用するという理解でよいでしょうか。
また、開示上の取扱いも併せて教えてください。

A2.

回収可能性適用指針の適用には経過措置が設けられており、過去に遡及する取扱いとはされていません。また、会計方針の変更に伴う影響額として3項目のみを集計することが示されており、これらの影響額は、適用初年度期首の利益剰余金等に加減算されますが、その他の影響に関しては、損益等に計上することになります。

回収可能性適用指針の適用に際して、基本的に繰延税金資産の回収可能性の判断は会計上の見積りであり、長期間にわたって過年度遡及の原則に従った遡及適用を行う場合には、過去の時点で入手可能であった情報と事後的に入手した情報とを区別することが困難であると推測されます(回収可能性適用指針123項)。このため、回収可能性適用指針には経過措置が設けられており、前年度以前に遡及することなく、適用初年度期首の利益剰余金等に、会計方針の変更に係る影響額を加減算します(回収可能性適用指針49項(4))。

また、回収可能性適用指針の適用によるすべての影響を会計方針の変更の影響額として捉えるのではなく、従前の66号の定めの内容を実質的に変更していると考えられる以下の3項目のみを会計方針の変更の影響額とし、その他の影響に関しては、損益等に計上することとされました(回収可能性適用指針49項(3))。

  • (分類2)に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性があるとする取扱い(回収可能性適用指針21項ただし書き)
  • (分類3)に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産の回収可能性があるとする取扱い(回収可能性適用指針24項)
  • (分類4)の要件に該当する企業であっても、一定の要件を満たすことにより、(分類2)に該当するものとして判断する取扱い(回収可能性適用指針28項)

上記の「会計方針の変更の影響額」とされる3項目の影響がある場合、回収可能性適用指針49項(5)の定めに従い、以下の事項が注記されます。

  • 適用初年度期首の繰延税金資産(又は繰延税金負債)に対する影響額
  • 適用初年度期首の利益剰余金に対する影響額
  • 適用初年度期首のその他の包括利益累計額(個別財務諸表では評価・換算差額等)に対する影響額

一方、上記の「会計方針の変更の影響額」とされる3項目の影響がないとき、会計方針の変更の注記が必要となるかどうか、論点となります。この点、会計方針の変更として捉えられる3つの定めを適用しない限りにおいては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われないため、会計方針の変更の注記を記載する必要はありません。この場合であっても、回収可能性適用指針の適用による影響がある場合、回収可能性適用指針を適用した事実を財務諸表利用者に開示するために、(連結)財務諸表及び(連結)計算書類に追加情報としてその旨を記載することが考えられます。なお、この場合、会計方針の変更ではないことから、当該影響額の記載は要しないものと考えられます。

税制改正編

Q3. 期末における影響額の注記の重要性の判断

減価償却取扱いの適用にあたり、上場企業で四半期決算において重要性がないことから「会計方針の変更による当期への影響額」の記載として影響がない旨を記載していた場合の期末での取扱いは、どのようになるのでしょうか。

A3.

減価償却取扱いは、公表日以後最初に終了する事業年度のみの適用とされており、3月決算会社の場合には、平成29年3月31日に終了する事業年度のみの適用となっています。

上場企業で会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、四半期決算において既に適用済になります。適用初年度における注記は以下のとおりになりますが、四半期では重要性がないことから、「(2)会計方針の変更による当期への影響額」として影響がない旨を記載していた場合であっても、その後に取得した資産に重要性がある場合など、影響額に重要性が出てきた場合には、影響額の記載が必要と考えられる点に留意が必要です。

(参考)適用初年度における注記
過年度遡及会計基準10項、19項及び20項の定めにかかわらず、次の事項を注記することとされています。

(1)会計方針の変更の内容として、法人税法の改正に伴い、本実務対応報告を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨
(2)会計方針の変更による当期への影響額

マイナス金利編

Q4. マイナス金利取扱いの概要

マイナス金利取扱いの概要を教えてください。

A4.

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合、以下のいずれかの方法によることとされています。

  • 利回りの下限としてゼロを利用する方法
  • マイナスの利回りをそのまま利用する方法

マイナス金利取扱いは、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限って適用されます。なお、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることを定めたガイダンスの公表に向けて引き続き検討を行い、当該検討の進捗状況によっては、マイナス金利取扱いにおける取扱いを平成30年3月31日以後に終了する事業年度も継続することを検討することとされています。

Q5. 退職給付以外の割引率の取扱い(資産除去債務、減損損失の回収可能価額、金融商品の時価開示等)

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務等の割引率について、ゼロを下限とする方法、マイナス金利をそのまま利用する方法のいずれも認めることとしていますが、資産除去債務、減損損失の回収可能価額の測定における使用価値、金融商品の時価開示に用いる割引率についても当該取扱いを準用することは可能でしょうか。

A5.

マイナス金利取扱いにおいて、割引率の下限をゼロとする方法が認められているのは、以下の意見が聞かれており、利回りの下限としてゼロを利用するか、マイナスの利回りをそのまま利用するかが一義的には決まらないためです(マイナス金利取扱い11項~13項)。

(1)現金を保有することによって現在の価値を維持することができることから、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少することはない

(2)退職給付に係る負債は、退職給付債務から年金資産の額を控除した額とするが、これは表示上相殺しているに過ぎないため、年金資産の評価にマイナス金利の影響が反映されるとしても、年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させる必要はない

(3)現時点における負債の金額は将来の見積り支払総額を越えることはない

① 資産除去債務の割引率

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務の計算における割引率においては、いずれの方法を用いることも妨げられないとする結論を示していますが、これは退職給付債務の計算に限定された結論であるため、マイナス金利取扱いの考え方を資産除去債務の性質や特質などに照らして慎重に検討することが求められると考えられます。

上述のマイナスはゼロとして割引率等を算定すべきとする意見として示した考え方のうち、(3)の現時点における負債の金額は将来の見積り支払総額を超えることはないという点は資産除去債務に関してもあてはまるものの、貨幣の時間価値を反映した利率自体がマイナスであるときに、その点のみをもってゼロ止めすることが妥当であると説明することは難しいと考えられます。また、(1)、(2)の考え方は、資産除去債務においては該当しないと思われます。

以上より、資産除去債務の現在価値の計算において、マイナス金利はそのまま用いることが適当であると考えられます。

② 固定資産の減損処理における使用価値算定における割引率

固定資産の減損会計において、回収可能価額として使用価値を計算する場合、将来のキャッシュ・フローを割り引いて計算することになります(「固定資産の減損に係る会計基準」第二 3、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四 2(3))。このとき、将来キャッシュ・フローを割り引く割引率として加重平均資本コスト(WACC)を用いる方法は、実務で一般的に用いられているものと考えられます(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」45項(2))。

WACCは、自己資本コストと他人資本コストを加重平均して算定されるものであり、また、自己資本コストの算定においては、資本資産価格モデル(Capital Asset Pricing Model : CAPM)と呼ばれる考え方が多く用いられます(日本公認会計士協会 会計制度委員会研究資料第4号「時価の算定に関する研究資料~非金融商品の時価算定~」4(3)参照)。このCAPMの算定においては、リスク・フリー・レートが変数として用いられますが、一般に国債の利回りが用いられているようです。その際、マイナスとなった利回りをそのまま用いるべきかどうかについて、当該CAPMが市場参加者たる投資家の期待収益率を算出するものであることから、マイナス金利をゼロと置くことに合理性は見出せません。また、マイナス金利取扱いのマイナスはゼロとして割引率等を算定する方法の論拠に記載した3つの考え方のいずれに関しても、CAPMの算定におけるリスク・フリー・レートをゼロと置くことの説明にはなっていないことから、WACCを算定する際に用いられるリスク・フリー・レートとしての国債利回りは、マイナスのまま用いられることが適当ではないかと考えられます。

③ 金融商品の時価開示

金融商品の時価の開示において、時価は金融商品会計基準等の定めに基づいて算定するものとされています(企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」21項)。市場価格がない金融資産の時価は経営者の合理的な見積りに基づく合理的に算定された価額とされており、その算定方法が会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」54項で例示されています。このうち、対象金融資産から発生するリスク調整後の将来キャッシュ・フローを割り引いて現在価値を算定する方法を用いる場合、貨幣の時間価値(リスクフリー・レート)を用いて割引計算することが考えられます(参考:企業会計基準適用指針公開草案第38号「公正価値測定及びその開示に関する会計基準の適用指針(案)」参考(現在価値技法の説明)3項(3)、6項)。

リスク・フリー・レートである国債の利回りがマイナスとなったとしても、現時点の経済状況下におけるマイナスの貨幣の時間価値を考慮した利率となっていることから、当該利率がマイナスであるという理由だけで割引率をゼロとみなすことは合理的ではありません。このため、当該マイナスの割引率を使用して時価を算定することが合理的であると考えられます。また、その様に現時点の経済状況下における金融商品の時価として算定することが、投資者に対して有用な財務情報を提供するという開示の目的(金融商品会計基準120項)とも整合するものと考えられます。

Q6. マイナス金利下での金利スワップの特例処理の適用可否

借入金の変動金利について、契約上、マイナス金利を想定した明示の定めがないものの、ゼロを下限とすると解釈する場合、当該変動金利に関するキャッシュ・フローを固定化するために、その他の条件が借入金の契約とほぼ同一の金利スワップ契約を締結し、金利スワップの特例処理を採用している場合、平成29年3月期において、引き続き金利スワップの特例処理を採用することは可能でしょうか。

A6.

平成28年3月23日の第332回企業会計基準委員会で示された議事概要では、マイナス金利に関する会計上の論点への対応として、本論点に対して当委員会としての見解を示すためには相応の審議が必要と考えられ、現時点において、マイナス金利の状況における金利スワップの特例処理の取扱いについて当委員会の見解を示すことは難しいものとしていました。その上で、実際に借入金の変動金利がマイナスとなっている例は少ないと考えられ、仮にマイナスとなっている場合でも、借入金の支払利息額(ゼロ)と金利スワップにおける変動金利相当額とを比較した場合、通常、両者の差額は僅少と考えられることを考慮し、平成28年3月決算においては、これまで金利スワップの特例処理が適用されていた金利スワップについて、金利スワップの特例処理の適用を継続することは妨げられないこととされていました。

マイナス金利取扱いの公表にあたり、金利スワップの特例処理については実務上問題が聞かれていないとして検討の対象とはされませんでしたが(第349回企業会計基準委員会審議資料(5)18項、19項)、企業会計基準委員会の議事概要において、特例処理の適用を継続することは妨げられない根拠として記載されている、「実際に借入金の変動金利がマイナスとなっている例は少ないと考えられ、仮にマイナスとなっている場合でも、借入金の支払利息額(ゼロ)と金利スワップにおける変動金利相当額とを比較した場合、通常、両者の差額は僅少と考えられる」という状況に変化がない場合には、平成29年3月期においても、当該議事要旨の考え方に従って、平成28年3月までに契約締結された取引について金利スワップの特例処理の適用を継続することは妨げられないと考えられます。なお、上述のとおり、議事要旨の対象となるのは平成28年3月までに契約締結された取引であり、平成28年4月以降に新たに締結された契約は対象とならないため、ヘッジ手段である金利スワップにはマイナス金利に関して特例的な条項がなく、ヘッジ対象である借入金のみが実質的にゼロフロアーとなっているのであれば、金利スワップの特例処理は認められない点にご留意ください。

リスク分担型企業年金編

Q7. リスク分担型企業年金の分類

リスク分担型企業年金制度が確定拠出制度、確定給付制度のいずれに該当するかはどのように判断するのでしょうか。

A7.

平成28年12月16日に公表されたリスク分担取扱いでは、リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として規約に定められた標準掛金相当額、特別掛金相当額及びリスク対応掛金相当額の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないものは、確定拠出制度(退職給付会計基準4項)に分類し、規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額を各期に費用処理することとされています。一方、それ以外のリスク分担型企業年金は確定給付制度(退職給付会計基準5項)に分類することとされています。

企業が一定の掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないことについては、事実関係に即した判断が求められますが、企業ごとに様々なケースが想定され、具体的な判断基準を示すことは困難と考えられます(リスク分担取扱いコメント対応3)。また、企業が一定の掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていると考えられる具体例を示すと、却って実態に合った判断を妨げる可能性があると考えられることから(リスク分担取扱いコメント対応4)、リスク分担取扱いでは、具体的にどのような場合に「企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていない」と判断されるかは記載されていません。このため、リスク分担型企業年金の分類にあたっては、年金規約、社内規程、労使の覚書、パンフレット、説明資料等も考慮し、実態に応じた慎重な判断が求められます。

なお、リスク分担型企業年金における給付額の減額調整に対応し、企業がリスク分担型企業年金以外の退職給付制度の給付額を増額する義務を負う場合、企業に追加的な負担が求められることから、分類にあたっては当該給付額を増額する義務を考慮する必要があるとされている点にも留意が必要です(リスク分担取扱い20項)。

Q8. 決算日前後のリスク分担型企業年金への移行の規約変更等

決算日前に確定拠出制度に分類される企業年金制度へ移行する規約の改訂が行われ、施行は翌期となる場合、従来の確定給付企業年金制度からの移行の会計処理は、どのタイミングで実施すべきでしょうか。

A8.

確定給付企業年金制度から確定拠出制度に分類される企業年金制度へ移行する場合、退職給付制度の退職給付制度の終了に該当するとされ、下記の会計処理を行うとされています(リスク分担取扱い10項)。

  • 分担型企業年金への移行の時点で、移行した部分に係る退職給付債務と、その減少分相当額に係るリスク分担型企業年金に移行した資産の額との差額を、損益として認識する。移行した部分に係る退職給付債務は、移行前の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務と、移行後の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務との差額として算定する。
  • 移行した部分に係る未認識過去勤務費用及び未認識数理計算上の差異は、損益として認識する。移行した部分に係る金額は、移行した時点における退職給付債務の比率その他合理的な方法により算定する。
  • 上記により認識される損益の算定において、移行の時点で規約に定める各期の掛金に特別掛金相当額が含まれる場合、当該特別掛金相当額の総額を未払金等として計上する。

退職給付制度の終了に関する規約の改訂を期末日前に行い、翌期から施行される場合、移行に伴う会計処理は原則として翌期に行うこととされています。また、移行日が翌期となる場合でも、移行による改訂日が当期中であり、移行に伴う損失の発生する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当該終了損失を当期の退職給付費用として計上し、退職給付に係る負債(個別では退職給付引当金)の額を増加させる処理を行う必要があることとされています(実務対応報告第2号「退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱い」Q1)。このため、確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行する規約の改訂が期末日以前に行われ、施行日は翌期となる場合、移行に伴う会計処理は原則として翌期に行われますが、移行に伴い損失が発生する可能性が高く、その金額を合理的に見積ることができる場合には、移行に伴う損失を当期に費用計上する必要がある点に留意が必要です。

なお、確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金へ移行する意思決定を期末日前に行い、規約の改訂は翌期になる場合及び移行の意思決定を期末日後に行う場合は、移行に伴う会計処理は翌期以降に行い、当期の財務諸表においては重要性に応じて後発事象の注記を検討することが考えられます。

実務対応報告18号編

Q9. 改正実務対応報告18号の適用範囲

国内子会社等が作成した指定国際会計基準等を適用した連結財務諸表を一定の修正項目を除き親会社又は投資会社の連結決算手続上利用することができるのは、どのような場合でしょうか。

A9.

国内子会社又は国内関連会社(以下、「国内子会社等」という。)が指定国際会計基準又は修正国際基準(以下、「指定国際会計基準等」という。)に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合(当連結会計年度の有価証券報告書により開示する予定の場合も含む。)には、当面の間、実務対応報告18号及び実務対応報告24号の対象範囲に含め、それらを連結決算手続上利用できるとされています。

「(当連結会計年度の有価証券報告書により開示する予定の場合も含む。)」とある通り、年度末(会社法)から国内子会社等が指定国際会計基準等に移行する場合に、親会社又は投資会社の会社法の連結決算手続において国内子会社等の連結財務諸表を利用できると考えられます。

一方、国内子会社等の年度末の会社法決算は日本基準に準拠し、年度末の有価証券報告書から指定国際会計基準等に移行する場合には、親会社の連結計算書類において国内子会社等が日本基準により作成した連結計算書類を取り込むことになるため、親会社の有価証券報告書も親会社の連結計算書類に合わせた数値を用いることが考えられます。したがって、親会社の年度末の有価証券報告書の連結決算手続において国内子会社等の指定国際会計基準等による連結財務諸表を利用できず、翌第1四半期から利用することになると考えられます(改正実務対応報告18号コメント対応5)。

なお、在外子会社の財務諸表については、国際財務報告基準又は米国会計基準に準拠して作成されている場合が対象になりますが、国内子会社等の場合は、米国会計基準に準拠している場合は対象にならないことに留意が必要です。

また、国内子会社等が任意に指定国際会計基準等に準拠した連結財務諸表を作成している場合も対象にならないことに留意が必要です。

開示府令編

Q10.  開示府令改正の影響

開示府令の改正が公布されましたが、この改正が有価証券報告書に与える影響はどのようなものでしょうか。

A10.

平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、制度開示の開示内容の自由度を高め、例えば、事業報告等と有価証券報告書の開示内容の共通化や、欧米に見られるような両者の一体的な書類としての開示などをより容易にすること、有価証券報告書の経営方針・経営成績等の分析等の非財務情報の開示を充実することなどを提案していました。

この提案を受けて、平成29年2月14日、金融庁から企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正が公布されました。この改正により、有価証券報告書の「事業の状況」における「対処すべき課題」が「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に変更されました。また、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の記載上の注意において、経営方針・経営戦略等の内容を記載すること、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載することが追加されています。当該改正は公布日以降施行され、平成29年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます。このため、平成29年3月期の有価証券報告書において、これまで決算短信に記載していた経営方針・経営戦略等の内容を記載することが求められます。

なお、上述の「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の公表を受けて、平成29年2月10日、東京証券取引所から「決算短信・四半期決算短信の様式に関する自由度の向上のための有価証券上場規程の一部改正について」が公表され、短信の様式のうち、本体である短信のサマリー情報について、上場会社に対して課している使用の強制が撤廃されています。

この記事に関連するテーマ別一覧

その他

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ