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平成29年3月期 決算上の留意事項

2017.03.03
(2017.04.04更新)
新日本有限責任監査法人 会計情報トピックス
西野 恵子 武澤 玲子 村田 貴広

<税効果会計>

Q1
いわゆる「反証規定」の継続的な適用の要否

回収可能性適用指針において、いわゆる反証規定として設けられた以下の3つの定めにつき、原則適用した当期首においては適用していませんでしたが、当年度末にこれらの定めを適用することはできるのでしょうか。


  • (分類2)の企業においてスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産を回収可能と判断できる定め
  • (分類3)の企業において5年超の見積課税所得により繰延税金資産を回収可能と判断できる定め
  • (分類4)の企業において(分類2)又は(分類3)と判断できる定め

A1

反証規定として設けられたこれらの3項目については、企業の実態をより適切に財務諸表に表すために定められたものであるため、適用の継続性が求められると考えられます。

いわゆる反証規定の3項目について、その適用に際し、適用初年度の期首と当該年度末における適用の継続性が求められるものであるかどうかは明確化されていません。すなわち、適用初年度の期首においてこれら反証規定を適用せず、当該年度末で反証規定を適用することが認められるのかどうかが実務上の論点となります。

この点、これらの反証規定は、企業の実態をより適切に財務諸表に表すために設けられたものであることから(回収可能性適用指針74項、84項、89項参照)、何ら状況の変化がない中で、適用初年度の期首では当該規定を適用せず、当該年度末では適用するような取扱いが認められると、企業の実態が適切に表されなくなり、反証規定の趣旨に反することになります。

このため、適用初年度の期首においてこれら反証規定を適用しなかった場合には、企業の実態に影響を及ぼすような企業内外の何らかの環境変化がない限り、当該年度末に反証規定を適用することはできないと考えられます。上場企業の関係会社について適用初年度の期首にこれら反証規定を適用すべきかについて検討を行った結果、反証規定を適用せずに四半期連結財務諸表を作成している場合、期末になって当該関係会社が反証規定の適用を検討する際には企業の実態に影響を及ぼすような企業内外の環境変化があるかを慎重に判断する必要がある点に特に留意が必要です。

なお、これら反証規定を適用するか否かの方針について連結会社間で統一を要するかも論点となりますが、これらの反証規定は、企業の実態をより適切に財務諸表に表すために設けられたものであり、これら反証規定の適用に係る企業の実態は連結会社間で異なると考えられることから、必ずしも統一を要するものではないと考えられます。


Q2
適用初年度期首の影響額の取扱い及び開示

回収可能性適用指針の適用による影響額は、どのように取り扱われるのでしょうか。会計基準等の改正に伴う会計方針の変更による影響であるため、過年度遡及の原則どおり、過去に遡及適用するという理解でよいでしょうか。
また、開示上の取扱いも併せて教えてください。


A2

回収可能性適用指針の適用には経過措置が設けられており、過去に遡及する取扱いとはされていません。また、会計方針の変更に伴う影響額として3項目のみを集計することが示されており、これらの影響額は、適用初年度期首の利益剰余金等に加減算されますが、その他の影響に関しては、損益等に計上することになります。

回収可能性適用指針の適用に際して、基本的に繰延税金資産の回収可能性の判断は会計上の見積りであり、長期間にわたって過年度遡及の原則に従った遡及適用を行う場合には、過去の時点で入手可能であった情報と事後的に入手した情報とを区別することが困難であると推測されます(回収可能性適用指針123項)。このため、回収可能性適用指針には経過措置が設けられており、前年度以前に遡及することなく、適用初年度期首の利益剰余金等に、会計方針の変更に係る影響額を加減算します(回収可能性適用指針49項(4))。

また、回収可能性適用指針の適用によるすべての影響を会計方針の変更の影響額として捉えるのではなく、従前の66号の定めの内容を実質的に変更していると考えられる以下の3項目のみを会計方針の変更の影響額とし、その他の影響に関しては、損益等に計上することとされました(回収可能性適用指針49項(3))。

  • (分類2)に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性があるとする取扱い(回収可能性適用指針21項ただし書き)
  • (分類3)に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産の回収可能性があるとする取扱い(回収可能性適用指針24項)
  • (分類4)の要件に該当する企業であっても、一定の要件を満たすことにより、(分類2)に該当するものとして判断する取扱い(回収可能性適用指針28項)

上記の「会計方針の変更の影響額」とされる3項目の影響がある場合、回収可能性適用指針49項(5)の定めに従い、以下の事項が注記されます。

  • 適用初年度期首の繰延税金資産(又は繰延税金負債)に対する影響額
  • 適用初年度期首の利益剰余金に対する影響額
  • 適用初年度期首のその他の包括利益累計額(個別財務諸表では評価・換算差額等)に対する影響額

一方、上記の「会計方針の変更の影響額」とされる3項目の影響がないとき、会計方針の変更の注記が必要となるかどうか、論点となります。この点、会計方針の変更として捉えられる3つの定めを適用しない限りにおいては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われないため、会計方針の変更の注記を記載する必要はありません。この場合であっても、回収可能性適用指針の適用による影響がある場合、回収可能性適用指針を適用した事実を財務諸表利用者に開示するために、(連結)財務諸表及び(連結)計算書類に追加情報としてその旨を記載することが考えられます。なお、この場合、会計方針の変更ではないことから、当該影響額の記載は要しないものと考えられます。

<税制改正編>

Q3
期末における影響額の注記の重要性の判断

減価償却取扱いの適用にあたり、上場企業で四半期決算において重要性がないことから「会計方針の変更による当期への影響額」の記載として影響がない旨を記載していた場合の期末での取扱いは、どのようになるのでしょうか。


A3

減価償却取扱いは、公表日以後最初に終了する事業年度のみの適用とされており、3月決算会社の場合には、平成29年3月31日に終了する事業年度のみの適用となっています。

上場企業で会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、四半期決算において既に適用済になります。適用初年度における注記は以下のとおりになりますが、四半期では重要性がないことから、「(2) 会計方針の変更による当期への影響額」として影響がない旨を記載していた場合であっても、その後に取得した資産に重要性がある場合など、影響額に重要性が出てきた場合には、影響額の記載が必要と考えられる点に留意が必要です。

(参考)適用初年度における注記
過年度遡及会計基準10項、19項及び20項の定めにかかわらず、次の事項を注記することとされています。

  • (1)会計方針の変更の内容として、法人税法の改正に伴い、本実務対応報告を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨
  • (2)会計方針の変更による当期への影響額

<マイナス金利編>

Q4
マイナス金利取扱いの概要

マイナス金利取扱いの概要を教えてください。


A4

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合、以下のいずれかの方法によることとされています。

  • 利回りの下限としてゼロを利用する方法
  • マイナスの利回りをそのまま利用する方法

マイナス金利取扱いは、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限って適用されます。なお、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることを定めたガイダンスの公表に向けて引き続き検討を行い、当該検討の進捗状況によっては、マイナス金利取扱いにおける取扱いを平成30年3月31日以後に終了する事業年度も継続することを検討することとされています。


Q5
退職給付以外の割引率の取扱い(資産除去債務、減損損失の回収可能価額、金融商品の時価開示等)

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務等の割引率について、ゼロを下限とする方法、マイナス金利をそのまま利用する方法のいずれも認めることとしていますが、資産除去債務、減損損失の回収可能価額の測定における使用価値、金融商品の時価開示に用いる割引率についても当該取扱いを準用することは可能でしょうか。


A5

マイナス金利取扱いにおいて、割引率の下限をゼロとする方法が認められているのは、以下の意見が聞かれており、利回りの下限としてゼロを利用するか、マイナスの利回りをそのまま利用するかが一義的には決まらないためです(マイナス金利取扱い11項~13項)。

  • (1)現金を保有することによって現在の価値を維持することができることから、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少することはない
  • (2)退職給付に係る負債は、退職給付債務から年金資産の額を控除した額とするが、これは表示上相殺しているに過ぎないため、年金資産の評価にマイナス金利の影響が反映されるとしても、年金資産の評価と退職給付債務の評価を整合させる必要はない
  • (3)現時点における負債の金額は将来の見積り支払総額を越えることはない

① 資産除去債務の割引率

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務の計算における割引率においては、いずれの方法を用いることも妨げられないとする結論を示していますが、これは退職給付債務の計算に限定された結論であるため、マイナス金利取扱いの考え方を資産除去債務の性質や特質などに照らして慎重に検討することが求められると考えられます。

上述のマイナスはゼロとして割引率等を算定すべきとする意見として示した考え方のうち、(3)の現時点における負債の金額は将来の見積り支払総額を超えることはないという点は資産除去債務に関してもあてはまるものの、貨幣の時間価値を反映した利率自体がマイナスであるときに、その点のみをもってゼロ止めすることが妥当であると説明することは難しいと考えられます。また、(1)、(2)の考え方は、資産除去債務においては該当しないと思われます。

以上より、資産除去債務の現在価値の計算において、マイナス金利はそのまま用いることが適当であると考えられます。

② 固定資産の減損処理における使用価値算定における割引率

固定資産の減損会計において、回収可能価額として使用価値を計算する場合、将来のキャッシュ・フローを割り引いて計算することになります(「固定資産の減損に係る会計基準」第二 3、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四 2(3))。このとき、将来キャッシュ・フローを割り引く割引率として加重平均資本コスト(WACC)を用いる方法は、実務で一般的に用いられているものと考えられます(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」45項(2))。

WACCは、自己資本コストと他人資本コストを加重平均して算定されるものであり、また、自己資本コストの算定においては、資本資産価格モデル(Capital Asset Pricing Model : CAPM)と呼ばれる考え方が多く用いられます(日本公認会計士協会 会計制度委員会研究資料第4号「時価の算定に関する研究資料~非金融商品の時価算定~」4(3)参照)。このCAPMの算定においては、リスク・フリー・レートが変数として用いられますが、一般に国債の利回りが用いられているようです。その際、マイナスとなった利回りをそのまま用いるべきかどうかについて、当該CAPMが市場参加者たる投資家の期待収益率を算出するものであることから、マイナス金利をゼロと置くことに合理性は見出せません。また、マイナス金利取扱いのマイナスはゼロとして割引率等を算定する方法の論拠に記載した3つの考え方のいずれに関しても、CAPMの算定におけるリスク・フリー・レートをゼロと置くことの説明にはなっていないことから、WACCを算定する際に用いられるリスク・フリー・レートとしての国債利回りは、マイナスのまま用いられることが適当ではないかと考えられます。

③ 金融商品の時価開示

金融商品の時価の開示において、時価は金融商品会計基準等の定めに基づいて算定するものとされています(企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」21項)。市場価格がない金融資産の時価は経営者の合理的な見積りに基づく合理的に算定された価額とされており、その算定方法が会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」54項で例示されています。このうち、対象金融資産から発生するリスク調整後の将来キャッシュ・フローを割り引いて現在価値を算定する方法を用いる場合、貨幣の時間価値(リスクフリー・レート)を用いて割引計算することが考えられます(参考:企業会計基準適用指針公開草案第38号「公正価値測定及びその開示に関する会計基準の適用指針(案)」参考(現在価値技法の説明)3項(3)、6項)。

リスク・フリー・レートである国債の利回りがマイナスとなったとしても、現時点の経済状況下におけるマイナスの貨幣の時間価値を考慮した利率となっていることから、当該利率がマイナスであるという理由だけで割引率をゼロとみなすことは合理的ではありません。このため、当該マイナスの割引率を使用して時価を算定することが合理的であると考えられます。また、その様に現時点の経済状況下における金融商品の時価として算定することが、投資者に対して有用な財務情報を提供するという開示の目的(金融商品会計基準120項)とも整合するものと考えられます。


Q6
マイナス金利下での金利スワップの特例処理の適用可否

借入金の変動金利について、契約上、マイナス金利を想定した明示の定めがないものの、ゼロを下限とすると解釈する場合、当該変動金利に関するキャッシュ・フローを固定化するために、その他の条件が借入金の契約とほぼ同一の金利スワップ契約を締結し、金利スワップの特例処理を採用している場合、平成29年3月期において、引き続き金利スワップの特例処理を採用することは可能でしょうか。


A6

平成28年3月23日の第332回企業会計基準委員会で示された議事概要では、マイナス金利に関する会計上の論点への対応として、本論点に対して当委員会としての見解を示すためには相応の審議が必要と考えられ、現時点において、マイナス金利の状況における金利スワップの特例処理の取扱いについて当委員会の見解を示すことは難しいものとしていました。その上で、実際に借入金の変動金利がマイナスとなっている例は少ないと考えられ、仮にマイナスとなっている場合でも、借入金の支払利息額(ゼロ)と金利スワップにおける変動金利相当額とを比較した場合、通常、両者の差額は僅少と考えられることを考慮し、平成28年3月決算においては、これまで金利スワップの特例処理が適用されていた金利スワップについて、金利スワップの特例処理の適用を継続することは妨げられないこととされていました。

マイナス金利取扱いの公表にあたり、金利スワップの特例処理については実務上問題が聞かれていないとして検討の対象とはされませんでしたが(第349回企業会計基準委員会審議資料(5)18項、19項)、企業会計基準委員会の議事概要において、特例処理の適用を継続することは妨げられない根拠として記載されている、「実際に借入金の変動金利がマイナスとなっている例は少ないと考えられ、仮にマイナスとなっている場合でも、借入金の支払利息額(ゼロ)と金利スワップにおける変動金利相当額とを比較した場合、通常、両者の差額は僅少と考えられる」という状況に変化がない場合には、平成29年3月期においても、当該議事要旨の考え方に従って、平成28年3月までに契約締結された取引について金利スワップの特例処理の適用を継続することは妨げられないと考えられます。なお、上述のとおり、議事要旨の対象となるのは平成28年3月までに契約締結された取引であり、平成28年4月以降に新たに締結された契約は対象とならないため、ヘッジ手段である金利スワップにはマイナス金利に関して特例的な条項がなく、ヘッジ対象である借入金のみが実質的にゼロフロアーとなっているのであれば、金利スワップの特例処理は認められない点にご留意ください。



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