平成27年3月期 決算上の留意事項

2015年6月1日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計情報トピックス
江村羊奈子・吉田剛・矢島学

この平成27年3月期決算においては、改正後の退職給付会計基準の定めのうち、退職給付債務等の計算に係る部分が原則適用となります。また、改正企業結合会計基準の早期適用が可能となっているほか、平成27年3月31日に公布された平成27年度税制改正が税効果会計に与える影響も考慮する必要があります。
本稿では、これらの論点について、基本的な取扱いを中心に、平成27年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。

Q1 連結子会社の未認識項目に関する少数株主持分相当の取扱い
Q2 持分法適用会社の未認識項目の取扱い
Q3 その他の包括利益に係る注記における退職給付に係る調整額の取扱い
Q4 退職給付に係る調整額に関する税効果会計上の取扱い
Q5 未認識項目の組替調整とキャッシュ・フロー計算書

Q6 適用期首時点での割引率などの基礎数値に関する重要性基準の適用の可否
Q7 適用期首時点における割引率に関する重要性基準の取扱い
Q8 割引率の重要性基準10%の判断の目安
Q9 適用初年度における退職給付引当金の期首残高の表示
Q10 複数事業主制度の会計処理及び開示についての改正

Q11 改正法人税法・地方税法が税効果会計に与える影響
Q12 事業税に係る標準税率と超過税率の取扱い
Q13 税率変更された場合の税効果会計の会計処理
Q14 回収が行われると見込まれる期ごとの税効果の計算
Q15 受取配当金の益金不算入に係る規定の改正と税効果会計
Q16 外国子会社が配当した際に損金に算入されるような配当と税効果会計

Q17 企業買収交渉中に支払った買収に直接要する費用の決算での取扱い
Q18 時価発行増資に伴う持分の変動
Q19 改正企業結合会計基準の遡及適用による累積的影響額の算定
Q20 改正企業結合会計基準の適用年度を跨ぐ取得関連費用の連結上の取扱い

Q21 改正後の実務対応報告18号の適用時期

Q22 適用2年目以降から財規127条の規定を用いる場合

Q23 会社法改正が本決算の開示に与える影響

なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 本文中の略称
「税効果会計に係る会計基準」 税効果会計基準
「連結キャッシュ・フロー計算書作成基準」 連結C/F作成基準
企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」 純資産会計基準
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」 改正企業結合会計基準
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」 (改正)連結会計基準
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 過年度遡及会計基準
企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」 退職給付会計基準
企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」 退職給付適用指針
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」 実務対応報告18号
会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」 連結税効果実務指針
会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」 持分法実務指針
会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」 個別税効果実務指針
監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」 66号
監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」 70号
「税効果会計に関するQ&A」 税効果Q&A
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」 財規
「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」 連結財規
「所得税法等の一部を改正する法律」(平成27年3月31日公布・平成27年法律第9号)による改正後の法人税法(昭和40年法律第34号) 改正法人税法
「地方税法等の一部を改正する法律」(平成27年3月31日公布・平成27年法律第2号)による改正後の地方税法(昭和25年法律第226号) 改正地方税法

退職給付-未認識項目編

Q1. 連結子会社の未認識項目に関する少数株主持分相当の取扱い

少数株主がいる連結子会社における未認識項目(退職給付に係る調整額及び退職給付に係る調整累計額)について、少数株主持分に相当する部分も認識するのでしょうか。

A1.

連結子会社に少数株主が存在する場合には、個別貸借対照表に計上されている評価・換算差額等(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益)について、支配獲得日以後に生じた部分に関しては持分比率に基づいて按分し、少数株主持分割合は少数株主持分に振り替えるものとされています(連結会計基準(注7)、純資産会計基準7項等)。
また、全面時価評価法による評価差額や為替換算調整勘定のように、連結財務諸表上のみ生じる項目についても、それぞれ持分比率に基づいて按分して、同様に少数株主持分割合は少数株主持分に振り替えます(会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」17項、会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」41項)。

連結貸借対照表上、未認識項目を認識する際に計上される「退職給付に係る調整累計額」についても、子会社の個別貸借対照表では計上されていないものの、評価・換算差額等であることは同様なため(純資産会計基準8項)、その他有価証券評価差額金等と同様に、子会社の支配獲得日以後に生じた未認識項目全額をいったん認識した上で、少数株主持分割合を少数株主持分に振り替えることになります。また、連結包括利益計算書における退職給付に係る調整額(その他の包括利益)のうち少数株主に係る部分は、連結包括利益計算書に付記される「少数株主に係る包括利益」に含めて開示されることになります。

Q2. 持分法適用会社の未認識項目の取扱い

持分法適用会社における未認識項目(退職給付に係る調整額及び退職給付に係る調整累計額)について、連結子会社と同様に、持分法適用に際して認識する必要があるのでしょうか。必要がある場合、具体的にどのような処理となるのでしょうか。

A2.

持分法適用会社の純資産の当期増加額のうち、当期純損益に係る投資会社持分額は、持分法による投資損益に計上されます。また、その他有価証券評価差額金は当期純損益に計上されていないため、投資会社の持分額は、持分法適用上、その他有価証券評価差額金の当期増加額に直接計上します(「金融商品会計に関するQ&A」Q77参照)。持分法適用会社で計上された繰延ヘッジ損益や持分法適用時に認識される為替換算調整勘定についても同様です。

このとき、持分法適用会社における退職給付に係る調整累計額についても、評価・換算差額等であることはその他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益と同様であるため、持分法適用会社の未認識項目のうち投資会社の持分相当額について、連結子会社の場合と同様に認識するものと考えられます。

また、退職給付に係る調整累計額に計上されたもののうち費用処理された部分、及び新たに生じた未認識項目(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用)のうち当期に費用処理されなかった部分については、連結包括利益計算書に計上されますが、持分法適用会社におけるその他の包括利益の各項目は、「持分法適用会社に対する持分相当額」等として一括表示されることに留意が必要です。

Q3. その他の包括利益に係る注記における退職給付に係る調整額の取扱い

平成26年3月期の期末より未認識項目を連結財務諸表上においてオンバランスした会社においては、当期からその他の包括利益に係る内訳項目別の注記として退職給付に係る調整額に関する注記が行われることになります。その際の留意点について教えてください。

A3.

退職給付会計基準を原則適用した場合、連結包括利益計算書に「退職給付に係る調整額」が計上されるのは当期からとなります。また、この場合、当期から連結包括利益計算書に係る注記事項として、「退職給付に係る調整額」についても当期発生額、組替調整額、税効果額の記載が必要となります。
このうち、当期発生額、組替調整額として注記されるものは図表のとおりとなります。

(図表) 退職給付に係る調整額に係る当期発生額・組替調整額の注記
注記項目 集計される金額
当期発生額
  • 数理計算上の差異の発生額(期末の見積りと実績の差額など)のうち、当期に費用処理されなかった金額
  • 過去勤務費用の発生額(制度変更による退職給付債務の変動額)のうち、当期に費用処理されなかった金額
  • 一括費用処理の場合を含まない
組替調整額 前期までに計上された未認識項目の費用処理額(退職給付に係る調整累計額から退職給付費用へと振り替えられた金額(会計基準変更時差異の費用処理額を含む。))

図表にもあるとおり、当期発生額として注記される金額は、当期に生じた数理計算上の差異及び過去勤務費用のうち、当期中に費用処理されなかった金額のみとなる点に留意が必要です(退職給付適用指針33項)。
また、これらの注記については、ほかのその他の包括利益項目と同様、税効果控除前の税引前の金額で当期発生額及び組替調整額を表示し、注記することになります。

Q4. 退職給付に係る調整額に関する税効果会計上の取扱い

連結修正仕訳において退職給付に係る調整額が計上されるケースについて、貸方の退職給付に係る調整額については将来加算一時差異として繰延税金負債を計上し、一方で借方の退職給付に係る調整額については、将来減算一時差異としてその回収可能性を検討した上で繰延税金資産を計上することでよいのでしょうか。

A4.

退職給付に係る調整額に関する税効果は、貸方の退職給付に係る調整額について将来加算一時差異として繰延税金負債を計上し、一方で借方の退職給付に係る調整額について将来減算一時差異としてその回収可能性を検討した上で繰延税金資産を計上するといったような、その他有価証券評価差額金と同様の取扱いとはならないため、留意が必要です。

未認識項目のオンバランスにより計上される退職給付に係る調整(累計)額により、退職給付に係る負債又は資産の金額が増減し、その結果、個別財務諸表における一時差異の金額も増減します。税効果会計の適用に当たっては、貸方の退職給付に係る調整額が将来加算一時差異に、借方の退職給付に係る調整額が将来減算一時差異にならず、当該未認識項目に対応する個別財務諸表上の計上科目が退職給付引当金であるのか、前払年金費用であるのかにより、一時差異の取扱いが異なるため、留意が必要です(図表参照)。

(図表) 退職給付に係る調整(累計)額に係る一時差異
連結財務諸表上の退職給付
に係る調整累計額の残高
対応する個別財務諸表の科目 一時差異の種別
借方残高 退職給付引当金 将来減算一時差異
前払年金費用 将来加算一時差異の戻し
貸方残高 退職給付引当金 将来減算一時差異の戻し
前払年金費用 将来加算一時差異

図表の「一時差異の種別」で「将来加算一時差異の戻し」となっているケースは、個別財務諸表で計上した繰延税金負債を戻す処理となります。また、「将来減算一時差異の戻し」となっているケースは、個別財務諸表での繰延税金資産計上額を限度として、当該繰延税金資産の戻入処理が行われます。
なお、連結財務諸表上で計上される退職給付に係る負債に関する税効果会計上の取扱いは、税効果Q&A Q15に示されていますので、併せてご確認ください。

(参考)
「連結財務諸表でオンバランスされる未認識項目の税効果」 大関康広(新日本有限責任監査法人) 著 旬刊経理情報 平成26年11月10日号

Q5. 未認識項目の組替調整とキャッシュ・フロー計算書

退職給付会計基準を原則適用した場合、当期より未認識項目の組替調整が発生しますが、この組替調整に係る連結キャッシュ・フロー(C/F)計算書上の取扱いを教えてください。

A5.

未認識項目の組替調整については、非資金損益項目に該当すると考えられますが、その一方「退職給付に係る負債(又は資産)の増減額」には該当しないため、適切な科目を用いて営業活動によるC/Fで調整を行う必要があります。

連結C/F計算書の営業活動によるC/Fを間接法(連結C/F作成基準 第三 一 1)で作成している場合、税金等調整前当期純利益に非資金損益項目、営業活動に係る資産及び負債の増減、並びに投資活動によるC/F及び財務活動によるC/Fの区分に含まれる損益項目を調整して、営業活動によるC/Fを表示します(連結C/F作成基準 第三 一 2)。当期からは、未認識項目の組替調整という非資金損益項目に該当するものの退職給付に係る負債(又は資産)を増減させない項目が生じるため、論点となります。図表では、退職給付に係る連結C/F計算書上の調整項目を示しています。

(図表) 退職給付に係る連結C/F計算書上の調整項目
項目 会計処理(例) C/F計算書上の取扱い
勤務費用・利息費用・期待運用収益の発生 (借)退職給付費用
(貸)退職給付に係る負債
利益に影響するがC/Fは生じないため、営業C/Fで調整する(*1)
退職金の支払・掛金拠出 (借)退職給付に係る負債
(貸)現金
C/Fが生じるが利益に影響しないため、営業C/Fで調整する(マイナス)
未認識項目の発生 (借)退職給付に係る調整額
(貸)退職給付に係る負債
利益にもC/Fにも影響しないため、調整は行われない
未認識項目の組替調整 (借)退職給付費用
(貸)退職給付に係る調整額
利益に影響するがC/Fは生じないため、営業C/Fで調整する(*1・2)

(*1)費用はプラス、収益はマイナスに調整する
(*2)「勤務費用・利息費用・期待運用収益の発生」及び「退職金の支払・掛金拠出」の調整(退職給付に係る負債(資産)の増減額)に該当しないため、適切な科目で表示する

いずれにせよ、退職給付に関しては、その支払が営業活動によるC/Fに表示されるように、税金等調整前当期純利益に適切な調整を加える必要があります。

(参考)
「キャッシュ・フロー計算書上の取扱いのポイント」 吉田剛(新日本有限責任監査法人) 著 旬刊経理情報 平成26年6月20日号

退職給付-退職給付債務編

Q6. 適用期首時点での割引率などの基礎数値に関する重要性基準の適用の可否

退職給付債務及び勤務費用や計算基礎等に関する新基準の改正部分を期首から適用する場合、期首時点において新基準のもとでの割引率やその他の基礎率に必ず変更しなければならないのでしょうか。

A6.

割引率等の計算基礎については、重要な変動が生じていない場合には、見直さないことができます(退職給付会計基準(注8))。これは計算基礎の見直しの要否に関する重要性基準といわれるものですが、重要な変動が生じていないかどうかについては、退職給付適用指針29項により、30項(割引率)、31項(長期期待運用収益率)、32項(予想昇給率や退職率等その他の計算基礎)に従って判断を行うこととされています。
退職給付債務等の計算方法に係る改正を期首から適用する際には、上記の計算基礎の重要性基準に係る適用指針の定めについても、同時に期首から適用することとされています(退職給付適用指針67項)。

このため、改正前において、重要性基準を用いて計算基礎に重要な変動が生じていない場合に従前の計算基礎を用いていたようなときには、新基準の適用期首時点においても、改正後の基準に基づく計算基礎が前期末に用いていたものに比べて重要な変動が生じていないと判断されれば、計算基礎を見直さないことができるものと考えられます。従前の数値を変更せず用いたとしても、改正前の基準を適用しているわけではなく、新基準の考え方が適用された上で、重要性がないため従前の数値を使用するという取扱いとなります。

Q7. 適用期首時点における割引率に関する重要性基準の取扱い

従来から割引率に関する重要性基準を適用していましたが、重要性基準に関しては、改正後はどのような取扱いになるでしょうか。

A7.

改正後においても、割引率等の計算基礎については、重要な変動が生じていない場合には、見直さないことができます(退職給付会計基準(注8))。
重要性基準に関しては、①重要性基準を継続適用する、②重要性基準の適用を取りやめる、③適用初年度の期首のみ重要性基準を考慮しないという3つのケースが考えられます。このうち、②と③については、以下のような考え方になります。

② 重要性基準の適用を取りやめる場合

重要性基準に関しては今回の会計基準の改正に含まれていないため、割引率の変更に伴う退職給付債務の差額は、本来数理計算上の差異に含めることが考えられます。しかしながら、適用初年度の期首において同時に重要性基準の適用をやめる場合は、退職給付会計基準の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減することもできます(本Q&A末尾の参考に記載したASBJの解説参照)。

③ 適用初年度の期首のみ重要性基準を考慮しない場合

新基準による算定方法により算定した新しい割引率を使用して退職給付債務を算定する場合であっても、適用後の期末以降において、従来どおり重要性基準を考慮することができると考えられています(ASBJの解説参照)。この場合、期首のみ重要性基準を適用しないとみるのではなく、あくまで新基準の下でも重要性基準は一貫して継続的に適用されており、新基準の適用期首時点だけは変更された算定方法によって算定した新しい割引率を用いているとみることになります(図表参照)。
また、②と同様に、期首における割引率の変更に伴う退職給付債務の差額については、当該差額は本来数理計算上の差異に含めることが考えられるものの、新基準の適用初年度の期首における場合には、新基準の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減することもできます。

なお、国債の利回りが前期末と比較して下落傾向にあるため、期末の割引率については慎重に検討する必要があります。

(図表) 重要性基準の適用

(参考)
ASBJのHP(会員サイト)に載っている改正退職給付会計基準の解説の脚注4
「適用初年度の期首において重要性基準を考慮せずに、適用指針第24項に基づいて決定された割引率を使用する場合がある。割引率の変更により発生した差異は、通常は、当該年度に発生する数理計算上の差異に含めて、企業の採用する費用処理方法及び費用処理年数に従って処理されるが、この適用初年度の期首における場合には、本会計基準等の適用に伴う会計方針の変更の影響額に含めて、期首の利益剰余金に加減する取扱いも認められると考えられる。また、この場合でも翌年度以後の割引率の決定において再度重要性基準を考慮することも認められると考えられる。」

Q8. 割引率の重要性基準10%の判断の目安

割引率の重要性基準における10%の判断について、改正前の会計制度委員会報告第13号「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」(以下「実務指針」という。)18項では添付されていた「資料3が参考となる」とされていましたが、退職給付適用指針30項では同様な記載がありません。10%を判断する際には何を目安にすればよいのでしょうか。

A8.

改正前の実務指針に添付されていた「資料3」は、公益財団法人日本年金数理人会及び公益財団法人日本アクチュアリー会より公表されている「退職給付会計に係る実務基準」から、期末において割引率の変更を必要としない範囲を0.5%刻み(元々の資料は0.1%刻み)で抜粋したものでした。
現在は、同様の趣旨で、割引率の変更を必要としない範囲をデュレーションごとに0.1%刻みで記載した資料が、公益社団法人日本年金数理人会及び公益社団法人日本アクチュアリー会より平成24年12月に公表されている「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」(平成26年11月最終改正)において付録1として添付されています。
割引率に関しては、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないとされており、単一の加重平均割引率を使用する方法や複数の割引率を使用する方法が例として挙げられています(退職給付適用指針24項)。
単一の加重平均割引率を採用している場合であれば、退職給付適用指針30項で明示されてはいませんが、再計算しなければならないとされている場合に該当しない期末の割引率の範囲の目安として、上記ガイダンスに添付されている付録1の資料を従来と同様に参照することもできると考えられます。

一方、複数の割引率を採用している場合には、上記ガイダンスの付録1の資料を直接参照することはできませんが、単一の割引率を概算等で算定できる場合には、その割引率により付録1の資料を用いる方法や、上記ガイダンスに添付されている付録4にある「4.デュレーションを用いた退職給付債務の近似 イ.イールドカーブ直接アプローチによる退職給付債務」に記載されている近似関数を用いる方法等が考えられます。

Q9. 適用初年度における退職給付引当金の期首残高の表示

退職給付債務及び勤務費用の定めに関し、会計基準の適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、期首の利益剰余金に加減され、退職給付引当金についても、期首残高が調整されます。株主資本等変動計算書や退職給付注記、附属明細書では期首残高についてどのように開示することになりますか。

A9.

① 株主資本等変動計算書

適用初年度における株主資本等変動計算書の記載については、(図表)のとおり、当期首残高の次に、会計方針の変更による累積的影響額として行を追加し、変更後の期首残高を、会計方針の変更を反映した当期首残高として表示することが考えられます。

(図表)株主資本等変動計算書
② 退職給付注記

適用初年度における(退職給付関係)の注記のうち、「退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表」 における期首残高の表示については、株主資本等変動計算書の表示に準じて記載する方法と、退職給付債務の期首残高に累積的影響額を含めて表示し注書きを付す方法の二つの方法が考えられます。

(例:株主資本等変動計算書の表示に準じて記載する方法)
退職給付債務の期首残高  XXX
会計方針の変更による累積的影響額  XXX
会計方針の変更を反映した期首残高  XXX

③ 附属明細書における退職給付引当金の期首残高

会社法の附属明細書(引当金の明細)における退職給付引当金の期首残高については、以下の二つの方法が考えられます。

  • 「期首残高」を新基準適用後残高とし、その旨を欄外に記載する
  • 「期首残高」を前年度末残高(旧基準残高)とし、項目を追加して新基準影響額を記載する

退職給付引当金については、期首残高が調整されており、また、期首残高に対する影響額は当期増加額又は当期減少額には該当しないと考えられるため、会計制度委員会研究報告第9号「計算書類に係る附属明細書のひな型」(最終改正:平成26年4月2日)で示されているひな型を利用する前提では、期首残高は影響額を調整した後の金額を記載し、明瞭性の観点からその旨を欄外に記載することが考えられます。

一方で、「計算書類に係る附属明細書のひな型」では、会社法及び会社計算規則では附属明細書の具体的な作成方法は示されていないため、その作成にあたっては、株式会社の自主的判断を加えて、株主等に正確で、かつ、分かりやすい情報となるよう留意しなければならないとし、当該研究報告を、会社計算規則で定められている附属明細書のひな型の「一例」を示し、実務の参考に資するものとするとしています。したがって、株主資本等変動計算書の記載のように影響額反映前後の数値を明細書に双方記載するよう、附属明細書の項目を追加して記載することもできると考えられます。

Q10.  複数事業主制度の会計処理及び開示についての改正

平成27年3月26日に複数事業主制度の会計処理及び開示について、ASBJから適用指針の改正が公表されたとのことですが、その概要について教えてください。

A10.

複数事業主制度については、平成24年1月31日及び平成26年3月24日付で厚生労働省から通知が発出され、厚生年金基金及び確定給付企業年金の財務諸表の表示方法が(図表)のように変更されました。これらを受けて、平成27年3月26日に複数事業主制度の会計処理及び開示についての改正が行われました。
改正の内容としては、複数事業主制度における、確定拠出制度に準じた会計処理及び開示を行う場合の注記事項である「直近の積立状況等」のうち、「年金財政計算上の給付債務の額」については、従来と実質的に同じ内容の額の注記を求めることとし、名称を「年金財政計算上の数理債務の額と最低責任準備金の額との合計額」と変更して、注記すべき金額が明らかにされました。より具体的には、厚生年金基金の場合は両者の合計額となり、確定給付企業年金の場合は代行部分の給付がないため、年金財政計算上の数理債務の額のみとなっています。

なお、公表日時点において厚生年金基金及び確定給付企業年金の財務諸表は変更後の表示方法により作成されていることから、公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されます。 また、その適用にあたっては、表示方法の変更として取り扱うため、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項の定めに従って、表示する過去の期間における本適用指針第65項の注記についても新たな表示方法を適用することになるとされています。

(図表) 厚生年金基金及び確定給付企業年金の財務諸表の表示方法の変更

厚生年金基金

確定給付企業年金

(出典) 新日本有限責任監査法人HP 企業会計ナビ 会計情報トピックス

税制改正編

Q11. 改正法人税法・地方税法が税効果会計に与える影響

税率変更を含む改正法人税法及び改正地方税法が、平成27年3月31日に公布されましたが、3月31日決算の会社における税効果会計の会計処理及び注記に与える影響を教えてください。

A11.

平成27年3月31日に国会で成立し、同日付で公布された改正法人税法及び改正地方税法においては、法人税及び事業税の税率を順次引き下げる内容が盛り込まれており、当該改正が平成27年3月期決算に与える影響を検討する必要があります。

① 会計処理に与える影響

繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算されます(税効果会計基準 第二 二 2)。具体的には、税率の変更が含まれた改正税法が決算日までに公布され、将来の適用税率が確定している場合には、改正後の税率を用いることとされています(個別税効果実務指針18項)。
このとき、平成28年3月期及び平成29年3月期以降の税率を引き下げるとする内容の改正法人税法等が平成27年3月31日までに公布されましたので、平成27年3月期決算において、引下げ後の税率で税効果の計算を行います。具体的には、平成28年3月期に回収又は支払が行われると見込まれる一時差異等について、法定実効税率が34.62%から、32.11%に、平成29年3月期以降に回収又は支払が行われると見込まれる一時差異等について、法定実効税率が31.33%に下がることになるため(標準税率のケース・図表参照)、その分、繰延税金資産・繰延税金負債が減額されることになります。
なお、税率変更以外の繰越欠損金の控除割合や受取配当金の益金不算入に係る規定の改正が税効果会計に与える影響についても、改正法人税法の公布に伴い、この3月期決算に織り込む必要があります(平成27年改正前(*)税効果Q&A Q12参照)。

② 注記に与える影響

年度の決算に際し、税率変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正された場合には、税効果会計に関する注記において、その旨及び修正額を注記するものとされています(税効果会計基準 第四 3、連結財規15条の5第1項3号、財規8条の12第1項3号)。

(図表) 法定実効税率の計算(標準税率のケース)

(*)平成27年5月26日付で税効果Q&Aが改正され、同Q12の「改正法人税法等の公布日との関係」が削除されています。

Q12. 事業税に係る標準税率と超過税率の取扱い

平成27年度税制改正による改正法人税法及び改正地方税法が平成27年3月31日までに国会で成立し、公布されたため、翌年度以降の法人税及び事業税の税率引下げが確定し、税効果会計の適用上、当該引下げ後の税率を使うことになります(Q11参照)。このとき、税効果会計適用時の法定実効税率に事業税に係る超過税率(地方団体が制限税率を超えない範囲で定める超過課税による税率)が反映されている場合であっても、各地方団体の改正条例が決算日である平成27年3月31日までに公布されていないことも考えられます。このようなケースでは、平成27年3月期決算の税効果会計適用時の法定実効税率について、どのように計算することになるのでしょうか。

A12.

繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いられる法定実効税率は、期末日現在で公布されている税法によることになりますが(個別税効果実務指針18項)、今回の税制改正に際しては、事業税に係る超過税率の取扱いが論点となります。今回のケースでは、平成27年3月末までに改正法人税法、改正地方税法が国会で成立し、公布されていますので、税効果会計の適用上、平成27年3月期決算では改正後の法人税及び事業税の税率を用いることになります。

① 平成27年3月31日までに条例改正が公布されている場合

会社が用いる税効果会計適用時の法定実効税率に事業税に係る超過税率(各地方団体が制限税率を超えない範囲で定める超過課税による税率)が反映されている場合において、同日以前に平成27年度税制改正に対応する条例の改正が公布された府県(宮城県、神奈川県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県)については、改正後の税率を用いて法定実効税率を算定することになります。

(参考)法定実効税率(地方法人税導入後)

なお、平成29年3月期以降の決算において用いられる超過税率に係る条例改正が行われていない場合には、後述する条例の改正が公布されていない場合の考え方をご覧ください。

② 平成27年3月31日までに条例改正が公布されていない場合

会社が用いる税効果会計適用時の法定実効税率に事業税に係る超過税率が反映されている場合であっても、各地方団体における改正条例が同日までに公布されておらず、税法は改正後、条例は改正前、という状態になっていることも考えられます。具体的には、東京都における平成28年3月期以降の税率、及び前述した府県のうち、一部の地方団体の平成29年3月期以降の税率がこれに当たります。
このような場合の取扱いについては、平成27年3月6日の第307回企業会計基準委員会(ASBJ)で審議され、実務の参考となる法定実効税率の算定例を示すために、ASBJのHPに議事が掲載されています。この議事においては、以下のように記載されています。

地方税法等改正後の標準税率に基づく超過税率に関する地方団体の改正条例が公布されていないことにより、超過税率が標準税率を超える差分が決定されていない場合、これまでの実務を踏まえると、決算日現在の地方団体の条例に基づく超過税率が標準税率を超える差分を考慮して、法定実効税率の算定に用いる超過税率を算定することになると考えられる。

この考え方をベースに超過税率を適切に決定する必要がありますが、例えば、以下の方法などを用いることが考えられます。

i 超過税率の差分を標準税率に加算する方法
ASBJのHPに掲載されている議事では、差分を考慮する方法の一つとして、改正地方税法における標準税率に期末日現在で公布されている条例の差分を「加算」して、超過税率を算定する方法が示されています。

ii 期末日後に公布された条例を税率の見積りに反映する方法
今回のケースでの法定実効税率の算定は、あくまで将来の超過税率をいかに見積るかという点がポイントであり、標準税率を超える「差分」の算定において、期末日後に公布された改正条例を考慮することも考えられます。
この場合であっても、条例が公布されていない年度については、iの方法により標準税率に期末日現在で公布されている条例の差分を「加算」して、又はiの方法に準じて標準税率に期末日後公布された条例の差分を「加算」して超過税率を算定する方法などが考えられます。

これらの方法を元に算定した東京都の超過税率をベースとして求めた法定実効税率(現行、平成28年3月期及び平成29年3月期以降)は、図表のようになります。

(図表) 東京都(外形標準課税法人)の法定実効税率の推移
  現行 平成28年3月期 平成29年3月期以降
東京都の超過税率で算定した税率 (方法i) 35.64% 33.10% 32.34%
東京都の超過税率で算定した税率 (方法ii) 35.64% 33.06% (*)32.30%
標準税率で算定した税率 34.62% 32.11% 31.33%

(*)改正条例が期末日後においても公布されていないので、改正地方税法における標準税率に期末日後公布された条例の差分を「加算」して算定した超過税率を元に法定実効税率を算定しています。

方法i・平成28年3月期
方法i・平成29年3月期以降

(*1)3.46%=改正後の事業税所得割標準税率3.1%+(現行の事業税所得割超過税率(地方法人税導入後)4.66%-現行の事業税所得割標準税率(地方法人税導入後)4.3%)
(*2)2.26%=改正後の事業税所得割標準税率1.9%+(現行の事業税所得割超過税率(地方法人税導入後)4.66%-現行の事業税所得割標準税率(地方法人税導入後)4.3%)

方法ii・平成28年3月期
方法ii・平成29年3月期以降

(*1)改正後の税率
(*2)2.2%=改正後の事業税所得割標準税率1.9%+(改正後の事業税所得割超過税率(地方法人税導入後)3.4%-改正後の事業税所得割標準税率(地方法人税導入後)3.1%)

Q13. 税率変更された場合の税効果会計の会計処理

法令の改正により、税率が変更された場合の税効果会計の具体的な会計処理について教えてください。

A13.

税率の変更があった場合には、繰延税金資産及び繰延税金負債を新たな税率により計算することになります。図表のとおり、税率の変更が行われた期において生じた繰延税金資産及び繰延税金負債の修正差額は、原則として、(連結)損益計算書上、改正税法が公布された日を含む年度の法人税等調整額に加減して処理されます(税効果会計基準注解(注7)本文)。ただし、その他の包括利益累計額(連結)又は評価・換算差額等(個別)に計上されている評価差額(それぞれ土地再評価差額金を含みます。)に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が税率変更により修正された場合には、当該修正差額を連結財務諸表上はその他の包括利益として処理し、個別財務諸表上は評価・換算差額等に加減することになります(税効果会計基準注解(注7)ただし書き、「土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A」 Q4)。
なお、改正税法が公布された結果、当事業年度から適用となる税率が変更となった場合には、税効果会計基準注解(注6)及び個別税効果実務指針19項の定めのように、当期首の繰延税金資産及び繰延税金負債を再計算することになると考えられます(個別税効果実務指針設例4参照)。しかしながら、今回の改正法人税法等のように、翌事業年度以降から適用される税率が改正されるようなケースでは、当期末までの税金計算は旧税率で行われているため、税率変更による影響額は期末の一時差異等を基準として算定することになります(平成27年改正前(*)税効果Q&A Q14(2)参照、個別税効果実務指針設例7 3の(注))。

(図表) 税率変更が行われた場合の会計処理
  連結 個別
原則的取扱い 税率変更による修正差額を、「法人税等調整額」に加減する
その他の包括利益累計額(連結)、評価・換算差額等(個別)
(土地再評価差額金含む)
税率変更による修正差額を、その他の包括利益に表示する 税率変更による修正差額を、評価・換算差額等に直接加減する
連結上の評価差額
(子会社の当初連結時の資産・負債の時価評価による税効果)
税率変更による修正差額は、評価差額の修正ではなく、法人税等調整額に計上する N/A

(*)平成27年5月26日付で税効果Q&Aが改正され、同Q14が削除されています。

Q14. 回収等が行われると見込まれる期ごとの税効果の計算

今回の法人税法及び地方税法の改正により、平成28年3月期の法定実効税率は32.11%(現行34.62%)、平成29年3月期以降の法定実効税率は31.33%となりました。このように将来適用される税率が年度ごとに異なる場合、具体的な税効果の計算はどのように行うのでしょうか。

A14.

① 将来の税率が複数となった場合の税効果会計の取扱い(総論)

繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算されることになります(税効果会計基準 第二 二 2)。このため、ご質問のように、将来の各期間で適用される税率が異なる場合には、将来減算一時差異等及び将来加算一時差異のスケジューリングに基づき、繰延税金資産及び繰延税金負債の額を算定することになります(平成27年改正前(*)税効果Q&A Q14(3)参照)。具体的には、以下の税率を用いて計算することになります。

  • 平成28年3月期に回収等が行われると見込まれる一時差異等 32.11%
  • 平成29年3月期以降に回収等が行われると見込まれる一時差異等 31.33%

この取扱いについては、翌期以降の四半期決算・中間決算においても、原則として同様であり、平成23年度税制改正の際に公表された実務対応報告第29号「改正法人税法及び復興財源確保法に伴い税率が変更された事業年度の翌事業年度以降における四半期財務諸表の税金費用に関する実務上の取扱い」も参考に会計処理を行うことが考えられます。

② 66号5の会社分類と適用される税率の関係

66号5の会社分類が①のケースでは、スケジューリングを行わなくとも繰延税金資産が回収可能と判断され、スケジューリング不能な将来減算一時差異に対しても繰延税金資産を計上していることがあるかと思います。このとき、スケジューリングが可能な一時差異等については、①に記載したとおり、スケジューリングに応じて適用される税率が異なることになります。一方、スケジューリング不能なものについては、回収が見込まれる期が厳密に見積もれないため、税率変更を前提とした場合でも、平成28年3月期に適用される法定実効税率を用いることは適切ではなく、平成29年3月期以降に適用される税率を用いることが適当と考えられます(平成27年改正前(*)税効果Q&A Q14(4)参照)。

また、66号5(2)に定められる、いわゆる「長期解消将来減算一時差異」についても、適用する税率が論点となります。長期解消将来減算一時差異とは、スケジューリングの結果、その将来解消年度が長期となるような将来減算一時差異のことを指し、会社分類①や②の場合に回収可能性があると判断されるケースのほか、会社分類③及び④ただし書きのケースで、おおむね5年を超えた年度に解消が見込まれる将来減算一時差異についても繰延税金資産が計上されることがあります。このような場合でも、原則としてスケジューリングにより適用税率を分けて算定することとなり、また、5年を超える年度で解消されるものについては、当該期で用いられる税率(平成29年3月期以降に適用される税率)を使用することが考えられます。

③ スケジューリング不能なその他有価証券の取扱い

スケジューリングが不能なその他有価証券の評価差額については、特例的に評価差益と評価差損を区分せず、純額の評価損益に対して税効果を認識することとされています(70号Ⅰ 2(2))。この場合も、②に記載した会社分類①のスケジューリング不能差異の考え方と同様、回収が見込まれる期が厳密に見積もれないことを根拠として、平成29年3月期以降に適用される税率を用いることが考えられます(平成27年改正前(*)税効果Q&A Q14(4)また書き参照)。

④ スケジューリングを行っていない繰延ヘッジ損益の取扱い

繰延ヘッジ損益に係る税効果会計については、繰延ヘッジ利益と繰延ヘッジ損失に区分して、繰延ヘッジ利益については繰延税金負債を計上し、繰延ヘッジ損失については、回収可能性を検討した上で、繰延税金資産を計上します。このうち、後者の繰延ヘッジ損失について、66号5の会社分類が①、②、③及び④ただし書きの会社に関しては、その回収可能性があると判断できることとされています(企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」17項)。
これら繰延ヘッジ損益については、66号3に定められるスケジューリングの手続を行っていないことが考えられますが、当該繰延ヘッジ損益に対して計上される繰延税金資産及び繰延税金負債についても、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて算定することに変わりはありません。このため、ヘッジ手段の決済時期などをベースとして適用される税率を見込んだ上で、繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を計算することになります。

(*)平成27年5月26日付で税効果Q&Aが改正され、同Q14が削除されています。

Q15. 受取配当金の益金不算入に係る規定の改正と税効果会計

平成27年度税制改正により、受取配当金の益金不算入制度が改正されました。当該改正が税効果会計に与える影響について教えてください。

A15.

平成27年度税制改正(改正法人税法)により、受取配当金の益金不算入制度は図表のように改正されました。

(図表) 改正前後の受取配当金の益金不算入制度
改正後 改正前
株式保有割合 益金不算入割合 株式保有割合 益金不算入割合
100% 100分の100☆ 100% 100分の100☆
1/3超 100分の100★ 25%以上 100分の100★
5%超1/3以下 100分の50☆ 25%未満 100分の50★
5%以下 100分の20☆

(注) ★は負債利子控除の対象、☆は対象外

この改正を受けた平成27年3月期決算における税効果会計への影響は、主として①と②の2点が考えられます。

① 国内持分法適用関連会社における留保利益に係る税効果への影響

連結財務諸表上、持分法の適用対象となる関連会社について、その留保利益に係る投資会社持分額(以下「留保利益」という。)は、通常将来加算一時差異となります。この将来加算一時差異に関しては、関連会社が国内会社の場合、配当により追加納付が見込まれる額、すなわち益金不算入として取り扱われない額に係る追加負担見込税額を、原則として繰延税金負債に計上する必要があります(持分法実務指針28項本文)。
このため、今回の改正により益金不算入の範囲が変動し、その変動に合わせて繰延税金負債の追加計上が必要となるケースがあると考えられます。
なお、持分法適用関連会社に係る留保利益について、持分法実務指針28項ただし書きでは、同社に留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針がある場合、又は株主間の協定がある場合には税効果を認識しないとされています。ただし、子会社のケース(連結税効果実務指針35項参照)と異なり、関連会社は投資会社の支配下に置かれている訳ではないため、税効果を認識しない要件を満たしているかどうかについては、慎重な検討が必要と考えられます。

② 将来課税所得への影響

繰延税金資産の回収可能性を検討するに際しては、将来課税所得の見積りが極めて重要となります(個別税効果実務指針21項、66号3、5)。この将来課税所得は、将来年度の税引前当期純利益に永久差異となる加減算項目などを加減して算定していると考えられますが、この永久差異となる加減算項目には受取配当金の益金不算入額が含まれます。すなわち、「受取配当金」として損益計算書の営業外収益等に含まれる一方、課税所得の計算上は益金に含まれないものを減算して、将来課税所得を見積ることになります。
今回の改正により益金不算入の範囲が変動し、その変動に合わせて将来課税所得の見積りの際の益金不算入額が変わることになり、結果的に繰延税金資産の計上額に影響を及ぼす可能性があるため留意が必要です。

Q16. 外国子会社が配当した際に損金に算入されるような配当と税効果会計

平成27年度税制改正により、外国子会社からの受取配当金の益金不算入制度が一部見直され、外国子会社が配当した際に損金に算入されるような配当に関して、親会社側で益金算入されることとなりました。この改正が税効果会計に与える影響について教えてください。

A16.

平成27年度税制改正(改正法人税法)により、外国子会社からの受取配当金の益金不算入制度が一部見直されました。具体的には、外国子会社が配当した際に損金に算入されるような配当(注)に関して、日本の親会社側で益金不算入(5%部分を除く。)としていたこれまでの取扱いを改めて、益金算入されることとなりました。また、当該配当に対して課される外国源泉税等は、外国税額控除の対象となるか又は損金算入することができます。

この改正に対応する税効果会計上の取扱いは以下のとおりと考えられます。当該配当は、子会社で損金算入される代わりに親会社で益金に算入されることにより課税されるものです。このとき、留保利益に係る連結財務諸表上の将来加算一時差異について当該留保利益を配当した際に子会社の所在地国で課税される場合には、親会社の個別財務諸表における税負担額から、子会社の個別財務諸表において損金算入されることに伴い親会社での税負担額が軽減されると見積られる税額を控除した額を、連結財務諸表において繰延税金負債に計上することになると考えられます。また、当該取扱いに関しては、日本公認会計士協会から税効果Q&Aの改正案が平成27年5月26日付で公表されていますので、ご確認ください。

なお、本税制改正は平成28年4月1日以後開始する事業年度において内国法人が外国子会社から受ける配当等の額について適用されますが、経過措置が設けられており、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度における配当(平成28年4月1日に保有する外国子会社株式に係るものに限る。)については、これまでの取扱いによることとされています(平成27年法律第9号附則24条)。ただし、税効果会計上は、この経過措置にかかわらず、この3月決算において将来の課税関係を考慮して繰延税金負債の金額を算定することになると考えられるため、留意が必要です。また、Q15のA②に記載した将来課税所得への影響も考慮しておく必要があります。

(注)このような配当(損金算入配当)について、国税庁HPでは、「外国法人から受ける配当において、その配当が現地国で費用になる、すなわち、損金算入されるものをいい、例えば、オーストラリア法人やブラジル法人から受ける配当がそれに当たります」と記載されています。

企業結合編

Q17. 企業買収交渉中に支払った買収に直接要する費用の決算での取扱い

株式取得による買収交渉中に当該買収に際して仲介者等に手数料等を支払い、決算期末となりましたが、買収交渉が継続しています。仲介者等に支払った手数料等はどのように会計処理するのでしょうか。

A17.

子会社株式に係る付随費用は、子会社株式の取得原価に含めることになります(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」56項、「金融商品会計に関するQ&A」Q15-2)。株式取得による買収が決算日現在、成立の可能性が高いと判断される場合には、仲介者等に支払った手数料等は仮払金等の資産に計上し、それ以外は発生時の費用として処理することになると考えられます。仮払金等の資産に計上した金額は、実際に買収が成立した際には取得原価に含め、不成立になった場合にはその時の費用に計上することになると考えられます。
一方、連結財務諸表では、取得関連費用は発生した連結会計年度の費用として処理する必要があります(改正企業結合会計基準第26項、第94項)。
このため、手数料等が支配獲得日の属する事業年度の前で発生している場合には、当該前事業年度の個別財務諸表上は仮払金等の資産に計上し、連結財務諸表上は費用処理することが考えられます。

Q18. 時価発行増資に伴う持分の変動

連結子会社が時価発行増資を行った結果、親会社の持分比率が変動しました。親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額はどのように処理しますか。

A18.

① 親会社と子会社の支配関係が継続している場合

親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額は資本剰余金として処理することになります(改正連結会計基準30項)。

② 子会社に対する支配を喪失する場合

子会社に対する支配を喪失した結果、持分法適用関連会社となるのであれば、親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額は損益として処理することになります。
また、持分法適用関連会社以外となる場合も、親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額は損益として処理することになります。この場合、旧子会社株式を個別財務諸表上の帳簿価額で評価することになり、連結財務諸表において計上していた旧子会社に係る利益剰余金及び持分変動による損益相当の利益剰余金については、損益を通さずに直接残高がゼロになるよう消去する仕訳により、連結除外の処理を行うことになります(改正連結会計基準29項、平成26年改正後会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」46項)。

Q19. 改正企業結合会計基準の遡及適用による累積的影響額の算定

改正企業結合会計基準を適用するにあたって、同基準58-2項(3)に定める方法により、少数株主(非支配株主)との取引及び取得関連費用について過去のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の期首時点の累積的影響額を、適用初年度の期首の資本剰余金及び利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することを検討しています。

この場合、過年度遡及会計基準9項に従って、遡及適用が実行可能な最も古い期間の期首から企業結合に関する会計基準を適用した場合の当該会計基準適用年度の期首の累積的影響額を算定して、期首の資本剰余金及び利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することは認められるでしょうか。

A19.

改正企業結合会計基準では、58-2項(3)に定める方法の他、同項(4)に定める方法により、改正企業結合会計基準が定める新たな会計方針を、適用初年度の期首から将来にわたって適用することが認められています。
このように、改正企業結合会計基準の適用方法に2つの代替的な方法が定められた経緯は、適用前の企業結合及び少数株主(非支配株主)との取引について、長期にわたり相当程度の情報を入手することが必要になることが多く実務的な対応に困難を伴うため、遡及適用は求めるべきではないという意見がある一方で、比較的最近の企業結合等の取引のみである場合等、遡及適用が可能な場合にはあえてその適用を妨げる必要はないという意見もあったことを踏まえた結果であることが示されています(改正企業結合会計基準129-2項)。
したがって、過去の全てのデータを収集することが不可能な状況においては、改正企業結合会計基準58-2項(4)が定める適用初年度の期首から将来にわたって適用方法を適用することになると考えられます。

Q20. 改正企業結合会計基準の適用年度を跨ぐ取得関連費用の連結上の取扱い

改正企業結合会計基準の適用前に、取得の対価性が認められる取得に直接要する費用を支出し、仮払金に計上していました。この場合、同基準の適用初年度の期首において、当該仮払金をどのように会計処理するのでしょうか。
また、主要な取得関連費用の内容及び金額の注記が求められるようになりましたが、上記の会計処理を行った仮払金についても注記が必要でしょうか。

A20.

① 会計処理

改正企業結合会計基準の適用に際しては、新たな会計方針を遡及適用したと仮定した場合の累積的影響額を適用初年度期首の剰余金に加減する方法(A)のほか、適用初年度期首から将来にわたって新たな会計方針を適用する方法(B)が認められています(改正企業結合会計基準58-2項(3)、(4))。
(A)を採用した場合には、過去から取得関連費用を費用化していたものと仮定して算定した影響額を期首の剰余金に加減することになるため、適用初年度の期首の時点で利益剰余金に振り替えることが必要となります。
一方、(B)を採用した場合、仮払金として繰り越されてきた取得に要した支出額について、新たな会計方針の下では取得原価に含めることができず、資産計上の根拠がなくなるため、適用初年度期首の時点において費用として処理することになると考えられます。

② 注記上の取扱い

取得とされた企業結合取引が行われた場合、一定の事項を注記するものとされており、その中に、主要な取得関連費用の内容及び金額という項目が示されています(改正企業結合会計基準49項(3)④)。当該注記は、「企業結合年度において取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合」(同基準49項柱書き)に行われることとされています。
したがって、適用初年度に実行される企業結合取引について注記が必要となるため、当該企業結合取引に係る仮払金について、(A)又は(B)のいずれの方法により処理したとしても、当該取得関連費用の注記に含まれるものと考えられます。

実務対応報告18号編

Q21. 改正後の実務対応報告18号の適用時期

改正後の実務対応報告18号は、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から原則適用ですが、少数株主損益の会計処理に関する取扱いを除き、改正実務対応報告公表後最初に終了する連結会計年度の期首から適用することができるとされています。平成27年3月期の年度末からでも早期適用はできるでしょうか。

A21.

改正実務対応報告を早期適用する場合、連結会計年度中の第2四半期連結会計期間以降からも適用することができるとされています。このため、平成27年3月期決算において改正後の実務対応報告を早期適用することは可能です。
この場合、のれんに係る以下の経過的な取扱いは、連結会計年度の期首に遡って適用することとされており、のれんの償却期間を変更する際には、平成26年4月1日から変更後の償却期間に基づき償却することになります。

米国において平成26年1月に、FASB Accounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 350「無形資産-のれん及びその他」が改正され、非公開会社はのれんを10年(又は一定の場合はそれ以下)で償却する会計処理を選択できるようになりました。
このため、改正後の実務対応報告18号では、在外子会社においてのれんを償却していない場合には連結決算手続上規則的に償却する修正をするとした上で、経過的な取扱いとして、改正後の実務対応報告の適用初年度の期首に連結財務諸表において計上されているのれんのうち、在外子会社が上記の米国基準に基づき償却処理を選択したのれんについては、企業結合ごとに以下のいずれかによることになります。

経過的な取扱い
① 連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間に基づき償却する。
② 連結財務諸表におけるのれんの残存償却期間と比べて在外子会社が採用する償却期間が下回る場合に、当該償却期間に変更する。この場合、変更後の償却期間に基づき将来にわたり償却する。

単体開示簡素化編

Q22. 適用2年目以降から財規127条の規定を用いる場合

前期は単体開示簡素化の規定を用いず、当期(平成27年3月期)から財規127条の規定を用いて会社法の要求水準に合わせた開示を行うことを予定しています。この場合、表示方法の変更の注記における影響額の記載は必要でしょうか。

A22.

連結財務諸表を作成している会社のうち、会計監査人設置会社(別記事業会社等を除く。)は、特例財務諸表提出会社とされ、財規127条の適用により会社法の要求水準に合わせた様式を用いることや、注記等を行うことができます。適用初年度において財規127条の規定を用いた場合には、表示方法の変更の注記が行われましたが、影響額の記載は求められていませんでした(平成26年内閣府令第19号附則2条2項)。
適用2年目以降から初めて財規127条の規定を用いる場合にも、表示方法の変更の注記において影響額の記載は不要と考えられます。ただし、財規127条の規定は、平成26年内閣府令第19号附則2条2項の括弧書きの規定をすべて同時に適用する場合に限られると考えられ、適用初年度にたとえばリース注記や一株当たり情報の省略等、同附則2条2項の括弧書きに規定されている連結財務諸表作成会社の開示免除規定を一部でも適用した場合などには、影響額の注記が必要となるものと考えられます。

(参考) 平成26年内閣府令第19号附則2条2項
平成26年3月31日以後に終了する事業年度に係る財務諸表に初めて新財務諸表等規則を適用する場合には、新財務諸表等規則第8条の3の4第1項第3号に掲げる金額(第1条中財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条の6、第8条の23、第8条の28、第20条、第26条、第26条の2、第42条、第54条の4、第56条、第68条の4、第75条、第76条の2、第80条、第86条、第95条の3の2、第95条の3の3、第95条の5の2、第95条の5の3、第107条、第121条及び第127条の改正規定に係るものに限る。)について記載することを要しない。

会社法編

Q23.会社法改正が本決算の開示に与える影響

昨年(平成26年)6月に会社法が改正されましたが、当該改正がこの平成27年3月期決算の開示に与える影響を教えてください。

A23.

平成26年6月に改正された会社法は、本年(平成27年)5月1日に施行されます(「会社法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」)。また、当該会社法改正に伴い、本年2月6日に会社法施行規則及び会社計算規則の改正が公布されています。

今回の改正により、事業年度末日に社外取締役を置いていない会社で、以下の要件をいずれも満たす会社は、事業報告において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載することとされました(平成27年改正会社法施行規則124条2項)。この規則の改正により、この平成27年3月期決算において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告に記載するケースが出てくることが考えられます。

  • 会社法上の大会社
  • 監査役会設置会社
  • 有価証券報告書提出会社

当該規定の適用は、事業年度末日が改正省令の施行日以後であることを基準とするのではなく、施行日(平成27年5月1日)以後に監査役の監査を受ける事業報告が対象となっているため、留意が必要です。また、この「社外取締役を置くことが相当でない理由」は、当該会社の当該事業年度における事情に応じて記載(又は記録)し、単に社外監査役が2人以上であることのみをもって「社外取締役を置くことが相当でない理由」とすることはできないとされています(平成27年改正会社法施行規則124条3項)。

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