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日本版ESOPの会計処理及び開示に係る実務対応報告のポイント

2013.12.26
新日本有限責任監査法人 会計情報トピックス
吉田 剛

<企業会計基準委員会が平成25年12月25日に公表>

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成25年12月25日に実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しています。
「日本版ESOP」などと呼ばれる「従業員及び従業員持株会(以下「従業員等」という。)に信託を通じて自社の株式を交付する取引」については、近年その導入事例が増加してきていますが、会計処理に関して実務上のばらつきが指摘されるところでもありました。こういった状況の中、平成24年11月の第255回企業会計基準委員会において基準諮問会議から新規の審議テーマとして採り上げるべきとの提言を受け、その後、平成24年12月に開催された実務対応専門委員会を皮切りに、日本版ESOPの会計処理及び開示について検討が加えられ、平成25年7月には本実務対応報告の公開草案が公表されました。ASBJでは、公開草案に寄せられたコメントも踏まえて審議を進め、今般、本実務対応報告が公表されたものです。
日本版ESOPは大きく従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する「従業員持株会発展型」と、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する「株式給付型」に大きく分けられますが、本実務対応報告では、現状行われている実務を踏まえ、それぞれのスキームに分けて会計処理の当面の取扱いが示されています。また、開示についても当面の取扱いが示されるとともに、既に導入済みのスキームについては、その適用を任意にするなど、一定の経過措置が定められています。

1. 本実務対応報告の概要

(1)目的及び範囲(本実務対応報告第1項から第4項)

本実務対応報告は、従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引について、当面、必要と考えられる実務上の取扱いを明らかにするものです。具体的には、以下の2つの類型に区分されるそれぞれのスキームに対して適用されることとなり、また、それぞれのスキームの特徴が第3項及び第4項で示される形となっています。

  • 従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(以下、本解説において「従業員持株会発展型」という。)
図1
  • 従業員への福利厚生を目的として、自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(以下、本解説において「株式給付型」という。)
図2

(図表の出典は、「日本版ESOPの会計処理と開示分析」旬刊経理情報(中央経済社) 平成22年9月20日号)

なお、本実務対応報告では、従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に対して「日本版ESOP」という呼称は用いていませんが、以下では説明の便宜のため、当該取引を「日本版ESOP」と表記することとします。

(2)日本版ESOPの会計処理

① 従業員持株会発展型

  • 総額法の適用(本実務対応報告第5項、第6項)
    対象となる信託が、(a)委託者が信託の変更をする権限を有している場合、(b)企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合、という2つの要件をともに満たす場合、信託に対して総額法(一般に、信託の資産及び負債を企業の資産及び負債として貸借対照表に計上し、信託の損益を企業の損益として損益計算書に計上する方法ですが、ここでは、後述するように信託における純損益は資産又は負債として計上されます。)を適用します。
    なお、本実務対応報告が適用される取引(本実務対応報告第3項参照)については、上記の2要件を満たし、総額法が適用されるという整理となっています。また、連結財務諸表上でも個別財務諸表上の総額法の処理を引き継ぐこととされ、信託について子会社又は関連会社に該当するかどうかの判定は要しないこととされています(本実務対応報告第9項)。
  • 自己株式処分差損益の認識時点(本実務対応報告第7項)
    企業が自社の保有する自己株式を信託へと拠出するスキームの場合、企業は信託への処分時(信託からの対価の払込期日)に自己株式処分差損益を認識することとなります。これまで、信託から従業員持株会へと譲渡した時点で自己株式処分差損益を認識するような実務もありましたが、信託からの対価の払込期日に当該差損益を認識する会計処理への一本化が行われることになります。
  • 期末における会計処理(本実務対応報告第8項)
    企業は期末における総額法の会計処理として、信託が保有する自社の株式(いまだ従業員持株会に交付していない株式)を株主資本において「自己株式」として表示するとともに、信託における純損益が正の値となる場合には負債に、負の値となる場合には資産に計上することとされました。
    また、自社の株式の時価が下落したことなどにより、信託において借入金の返済原資が不足する場合に、企業が債務保証を履行することにより当該借入金の返済を負担する可能性がある場合には、負債性の引当金の計上の要否を検討することとなります。
    なお、企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式の帳簿価額は、自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定の際に通算しないこととされます。

② 株式給付型

  • 従業員へのポイントの割当等に関する会計処理(本実務対応報告第12項、第13項)
    従業員に付与されたポイントは、信託が自社の株式を取得したときの株価を基礎として算定され、ポイントに応じた株数を乗じて負債(引当金)に計上されることになります。このとき、期末での再評価(時価への洗替え)は行われません。
  • その他の会計処理(本実務対応報告第10項、第11項、第14項など)
    総額法の適用及び自己株式処分差損益の認識時点は、①従業員持株会発展型と同様の処理となります。また、期末における会計処理(自己株式の表示・信託における純損益の企業での会計処理)に関しても、対象となる債務保証がないため論点とはならない引当金の処理を除き、①従業員持株会発展型と同様の処理となります。

(3)開示等(本実務対応報告第16項から第18項)

本実務対応報告の対象となる日本版ESOPを導入している場合、取引の概要、信託が保有する自社の株式の帳簿価額、株式数などを注記することとされています。
なお、連結財務諸表と個別財務諸表に同一の事項が注記されている場合、個別財務諸表では連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができるとされています。
また、1株当たり情報においては、信託が保有する自社の株式を自己株式と同様に取り扱って1株当たり当期純利益等を算定することとされました。

2. 適用時期等

(1)適用時期(本実務対応報告第19項)

本実務対応報告については、一定の周知期間を設けた後、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが原則となります。
ただし、公表後直ちに適用することへのニーズにも鑑み、本実務対応報告公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から適用することができる早期適用の定めが設けられています。このため、3月決算の会社では、この平成25年12月末を四半期決算日とする第3四半期から早期適用が可能とされます。

(2)経過措置(既存スキームへの対応)(本実務対応報告第20項)

本実務対応報告が適用となる事業年度の期首(又は四半期会計期間の期首)より前に契約が締結された日本版ESOPについて、遡及適用する場合には、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の定めに従うことになります(本実務対応報告第71項参照)。
ただし、本実務対応報告が適用となる前に導入された日本版ESOPに関しては経過措置が設けられており、従来の会計処理を継続することができるものとされています。この場合、従来採用していた方法により引き続き会計処理を行っている旨や、信託が保有する自社の株式を自己株式として株主資本の控除項目としているか否かといった事項の注記が求められます。

3. 設例

本実務対応報告において定める会計処理の理解を深めるため、以下の設例が示されています。このうち、設例1・2は従業員持株会発展型、設例3・4は株式給付型に対応するものです。

[設例1] 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(債務保証の履行が生じない場合)
[設例2] 同上(債務保証の履行が生じる場合)
[設例3] 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(信託が市場から株式を取得するケース)
[設例4] 同上(信託が企業の自己株式を取得するケース)

4. 公開草案からの主な変更点

本実務対応報告で定められる主要な会計処理(総額法の適用の要否、自己株式処分差損益の認識時点、従業員へのポイントの割当等に関する会計処理)について、公開草案からの変更はありません。
なお、以下の点について、その取扱いが明らかにされました。

  • 信託における自社の株式の取得に係る付随費用が信託に関する諸費用に含まれるものとされ、自己株式の帳簿価額に含まれない点(本実務対応報告第8項(1)、第14項(1))
  • 配当金などの企業と信託の間の取引について相殺消去を行わない点(本実務対応報告第8項(5)、第14項(5))
  • 役員や子会社の従業員に自社の株式を交付するような取引や、交付対象の株式が親会社の株式であるような取引について、直接的に本実務対応報告の対象範囲には含まれないものの、内容に応じて、本実務対応報告を参考にすることが考えられる点(本実務対応報告第26項)
  • 信託が企業の関連当事者に該当しない点、及び関連当事者(例えば、役員)と信託との取引が注記の対象となる関連当事者との取引に該当しない点(本実務対応報告第68項、第69項)

また、適用時期について、前述のとおり四半期会計期間から早期適用が可能である点が明示されました(本実務対応報告第19項ただし書き)。

なお、本稿は本実務対応報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

<開示事例集へのリンク>

<各用語について(企業会計ナビ用語集にリンクしています)>



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