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「時価の算定に関する研究資料~非金融商品の時価算定~」のポイント

2013.07.16
新日本有限責任監査法人 会計情報トピックス
会計監理部 矢島学

<日本公認会計士協会から平成25年7月9日付で公表>

平成25年7月9日付けで、日本公認会計士協会から会計制度委員会研究資料第4号「時価の算定に関する研究資料~非金融商品の時価算定~」(以下「本研究資料」という。)が公表されました。以下では、そのポイントについて解説します。

1. 本研究資料の位置づけ

本研究資料は、非金融資産(主に有形固定資産と無形資産)の測定・開示に関して、実務上、どのように時価が算定されているのか、その考え方の過程を示すこととしたものであり、一つの見解や結論を見いだしたものではありません。したがって、本研究資料は、実務上の指針として位置付けられるものではなく、また実務を拘束するものでもないことにご留意ください。なお、本研究資料は、非金融商品の時価の算定方法を研究する上での一助となるよう提供される研究資料であり、コメントの募集は行われていません。

2. 本研究資料のポイント

(1) 我が国の会計基準で時価が導入されてきた背景

我が国において、時価の測定や開示の定めがある以下の会計基準が導入されてきた経緯・背景を振り返るとともに、主としてどのような会計処理を対象として時価の測定又は開示が求められているかが整理されています。

① 「金融商品に関する会計基準」
② 「棚卸資産の評価に関する会計基準」
③ 「固定資産の減損に係る会計基準」
④ 「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)
⑤ 「退職給付に関する会計基準」
⑥ 「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」

(2) 我が国の会計基準における時価の取扱いの概観

上記(1)の会計基準ごとに、時価の測定や開示にかかる具体的な取扱いとともに、時価の考え方(定義)及び実務上の取扱いが整理されています。

(3) 時価の算定方法の概観

市場価格が観察できない場合の算定方法として挙げられる、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチとともに、時価を算定する基準日の考え方、インカム・アプローチの割引率及び期待収益率について整理されています。

(4) 非金融資産の時価算定等に関する実務上の論点

①から⑤の非金融資産の時価算定等について、以下のような記述や設例が示されています。

① 有形固定資産-不動産

我が国の現状
  • 市場価格に基づく価額を客観的に観察することは、通常、困難であると考えられるため、合理的に算定された価額が時価となる。我が国における実務の現状としては、自社において合理的な見積りを行うよりも、不動産鑑定士から不動産鑑定評価書を入手することが多いと思われる。
  • 重要性の乏しい不動産については、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額等を、合理的に算定された価額とみなすなどの実務もある。
時価算定の考え方 ア. 価格
「不動産鑑定評価基準」において、不動産の鑑定評価によって求める価格には、正常価格、限定価格、特定価格及び特殊価格があるが、会計上の時価に相当するものは基本的には「正常価格」である。
イ. 鑑定評価の手法
一般的に、a.原価法、b.取引事例比較法及びc.収益還元法に大別される。
ウ. 留意事項
不動産の鑑定評価は、依頼目的によって鑑定評価の条件の付され方が異なる場合があるため、不動産鑑定評価書を利用する場合には、依頼目的及び付されている条件に留意が必要である。
重要性の乏しい不動産等
  • 一定の評価額には「不動産鑑定評価基準」における原価法、取引事例比較法、収益還元法の三手法を併用しない価格等調査(鑑定評価手法を選択的に適用した簡便的な方法)などがある。これらを利用する場合には、評価条件や限定された手続の内容に留意する必要がある。
  • 一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額には、容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれる。
時価算定のデータの取り方 ア. 容易に入手できると考えられる評価額
実勢価格の閲覧、査定価格の入手について説明されている。
イ. 容易に入手できると考えられる土地の価格指標
公示価格、都道府県基準地価格、路線価、固定資産税評価額の閲覧について説明されている。
ウ. 時価算定に係るデータ
原価法における当初原価、取引事例比較法における不動産の取引事例、収益還元法における賃借料収入や空室率等のデータの入手について説明されている。
収益還元法の具体的内容 直接還元法及びDCF 法の定義、特に価格算定に大きな影響を及ぼす「純収益」及び「還元利回りと割引率」について記述されている。
【設例1】 DCF法を適用した賃貸不動産の時価算定

② 有形固定資産-動産

我が国の現状
  • 算定の対象となる動産について観察可能な市場価格が存在するケースは限定的であるため、時価を何らかの手法により合理的に算定する必要がある。
  • 動産については、不動産とは異なり、通常、比較的短い期間の耐用年数で減価償却されているため、帳簿価額は時価と大幅に乖離することは少ないとみなし、実務上は「帳簿価額=時価」とみなして処理されているケースが比較的多いと考えられる。しかし、当初取得時より市場環境が著しく変化し、明らかに帳簿価額が時価と乖離し、かつその重要性が高いと考えられる場合などには、時価の合理的な見積りを検討する必要がある。
時価算定の考え方
  • コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチによる場合の時価算定の考え方について説明されている。
  • コスト・アプローチによる場合に用いる再取得コスト又は再製作コストは、通常、一定の前提の下で測定することが可能であるため、現行実務においてはコスト・アプローチを採用するケースが最も多いと考えられる。
コスト・アプローチによる算定方法 再調達原価(又は複製原価)の算定に際しては、まず算定の時点において対象資産と同種のものを新品で取得した場合の再取得コスト(又は再製作コスト)を見積もり、次に算定対象の資産の物理的、機能的、経済的な減価率を加味することになることが説明されている。
【設例2】 コスト・アプローチによる機械装置の時価算定

③ 無形資産(仕掛研究開発を除く。)

範囲 企業結合会計基準第29項において、「法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産」が含まれる場合には、識別可能な無形資産として取り扱うこととされている。
我が国の現状
  • 取得とされた企業結合において他社から資産・負債を受け入れた場合で、識別可能な無形資産があるときは、取得原価の一部は無形資産に配分される。この場合、無形資産の時価評価が必要となるが、算定の対象となる無形資産について「観察可能な市場価格」が存在するケースは極めて限定的であるため、時価を何らかの合理的な方法に基づいて算定することとなる。
  • 過去5年間(平成19年3月期から平成24年3月期)の有価証券報告書により、企業結合時における無形資産の識別について分析されている。
時価算定の考え方
  • コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチによる場合の時価算定の考え方について説明されていいる。
  • インカム・アプローチは、時価算定の対象となった無形資産自体が生み出すキャッシュ・フローを特定し、その割引現在価値を測定するものであり、多くの無形資産はこの手法を用いるのが一般的である。
税務メリット 無形資産の償却費が税務上損金算入されることによる税務メリットを考慮して、当該税務メリットの現在価値をインカム・アプローチにより算出された価値に加算すること等について説明されている。
インカム・アプローチによる算定方法 ロイヤルティ免除法、利益差分法、利益分割法、超過収益法を用いた計算方法について説明されている。
【設例3-1】 商標権の価値の算定(ロイヤルティ免除法の適用例)
【設例3-2】 商標権の価値の算定(利益差分法の適用例)
【設例3-3】 特許権の価値の算定(利益分割法の適用例)
【設例3-4】 顧客関連資産の価値の算定(超過収益法の適用例)

④ 無形固定資産-仕掛研究開発

我が国の現状 我が国の現行の会計基準においては、企業結合時における研究開発の途中段階の成果が識別可能である場合に、当該研究開発の途中段階の成果について時価算定を行うことになる。
時価算定の考え方 大きくコスト・アプローチ、マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチの三つのアプローチが検討されるが、研究開発活動の途中段階の成果の時価算定に当たっては、インカム・アプローチを採用するのが一般的である。
インカム・アプローチによる算定方法 仕掛研究開発の時価算定では、インカム・アプローチによって算定され、その中でもDCF 法又は超過収益法が採られることが多い。
【設例4】 DCF法による研究開発の途中段階の成果の時価算定

⑤ 企業結合に関連する論点

企業結合(取得)に係る会計処理の流れ 企業結合会計基準により、取得に該当する企業結合に係る会計処理は、大きく分けて次の手順となる。
ア. 取得企業の決定
イ. 取得原価の算定
ウ. 取得原価の配分
エ. のれん又は負ののれんの会計処理
取得日の決定 企業結合会計基準では、「企業結合日」とは、「被取得企業若しくは取得した事業に対する支配が取得企業に移転した日、又は結合当事企業の事業のすべて若しくは事実上すべてが統合された日をいい、会社法における組織再編の効力が発生する日と同じ日となる」とし、さらに、「合併の場合には合併期日、会社分割の場合には分割期日、株式交換の場合は株式交換日、株式移転の場合には株式移転日」としている。
識別可能資産・負債への配分 取得に分類される企業結合の場合には、取得原価を、識別可能資産・負債に取得日における時価をもって配分する必要があるが、企業結合前に被取得企業が計上していなかった資産・負債であっても、取得日において識別可能資産・負債の要件を満たすものは、当該取得の会計処理において識別することになる。
のれんの会計処理 企業結合会計基準では、少数株主持分は被取得企業の純資産を持分割合で按分することにより算定され、のれんは取得原価を識別可能資産・負債に配分した残余として算定される。
【設例5】 企業結合(取得)における識別可能資産及び負債の時価算定

(5) 【付録】不動産鑑定評価書例

不動産鑑定士による土地及び建物にかかる不動産鑑定評価書が例示されています。

なお、本稿は本研究報告の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。


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