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「公正価値測定及びその開示に関する会計基準(案)」および同適用指針(案)のポイント

2010.07.14
新日本有限責任監査法人 会計情報トピックス
吉田 剛
<企業会計基準委員会が平成22年7月9日に公表>

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成22年7月9日に、「公正価値測定及びその開示に関する会計基準(案)」(以下、会計基準案)および「公正価値測定及びその開示に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、適用指針案。会計基準案と併せて本公開草案)を公表しています。
本公開草案は、公正価値に関する国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点などを踏まえ、公正価値測定の考え方やその開示に関する会計基準を定める過程で、広くコメントを集めることを目的として公表されたものです。本公開草案の公表に先立って、ASBJからは 「公正価値測定及びその開示に関する論点の整理」 が平成21年8月に公表されており、本公開草案は当該論点の整理に寄せられたコメントも踏まえて重ねられた検討結果も織り込んだ上で公表されています。
なお、国際的な会計基準のうち、米国会計基準では、米国財務会計基準審議会(FASB)会計基準コーディフィケーション(Accounting Standards CodificationTM)Topic820「公正価値測定及び開示」(当初、米国財務会計基準書(SFAS)第157号「公正価値測定」として公表)において、公正価値の概念や算定方法、さらに開示事項が定められています。また、国際財務報告基準(IFRS)では、平成21年5月に公開草案「公正価値測定」が公表され、平成23年第1四半期(1月~3月)をめどに最終基準化される計画となっています(会計基準案第22項)。
本公開草案に対しては、平成22年9月10日(金)までコメントが募集されています。


1. 本公開草案の概要

(1) 目的(会計基準案第1項)

公正価値の考え方および財務諸表の注記事項としての公正価値に関する開示について、その内容を定めることを目的としています。


(2) 範囲(会計基準案第3項)

公正価値に関する会計処理および開示について適用するものとされています。「開示について適用する」とは、本公開草案で定められる一定の事項を注記する(会計基準案第17項など)のみならず、他の会計基準等の定めにより公正価値が開示されているもの(現行の定めでは金融商品や賃貸等不動産が該当します)に関して、その公正価値の算定に際し、公開草案における考え方等を用いることが含まれます(会計基準案第46項参照)。
また、他の会計基準等で「時価」という表現が用いられている場合には、「公正価値」と読み替えてこれを適用する旨が示されています。既存の会計基準等における取扱いは、本公開草案で示された公正価値の考え方と不整合とならない限りにおいて、各会計基準等の定めを残すことが基本的なスタンスとされていますが、この点についてもコメントを求める旨がASBJより示されています(「コメントの募集」(参考)参照)。


(3) 定義(会計基準案第4項)

「公正価値」とは、測定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われた場合に、資産の売却によって受け取るであろう価格または負債の移転のために支払うであろう価格(出口価格)をいうものとされています。
その定義において、「測定日」における価格であることが明示されるとともに、「出口価格」である旨が定められました。後者については、コスト・アプローチ(再調達価格)によった価格を入口価格(資産を取得するために支払う、または負債を引き受けることによって受け取る価格)として定義するかどうかにより、特に企業結合において影響が出る可能性がありますが、再調達価格を出口価格としてとらえても、実務上の影響はないと考えられる旨が示されています(会計基準案第32項)。

また、公正価値の定義を構成する特徴として、以下の要素およびそれらの考え方が示されています。

  • 市場参加者の観点
  • 参照する市場(主要な市場)
  • 資産または負債に固有の要素の考慮(取引費用・流動性コスト・支配プレミアムなど)
  • 秩序ある取引の仮定
  • 非金融資産における最有効使用の仮定 など

なお、本公開草案は公正価値の定義や考え方を示すものであり、既存の会計基準において定められている公正価値(時価)で評価される資産または負債の範囲を変えることを意図しているものではありません。


(4) 当初認識時における公正価値(会計基準案第41項)

取引価格が当初認識時の公正価値を表さない可能性がある状況の例が示されています。

  • 関連当事者間の取引
  • ほかから強制された取引 など

なお、本公開草案では、取引価格と当初認識時の公正価値との差額の会計処理については触れていません。


(5) レベル別の分類(会計基準案第14項~第16項など)

国際的な会計基準で導入されている、いわゆる「公正価値ヒエラルキー」の考え方をわが国の会計基準にも取り入れることが提案されています。
「公正価値ヒエラルキー」の考え方では、公正価値の算定に際して用いられる入力数値(インプット)の観察可能性などにより、入力数値をレベル1~3に分類します。また、当該インプットを用いて算定された公正価値は、公正価値の算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベル(1~3)に応じて、同じく3段階に分類されます。

(図表)公正価値ヒエラルキー(公正価値のレベル別分類)

レベル1 企業が入手できる活発な市場における(同一の資産または負債に関する)公表価格をそのまま用いた公正価値
レベル2 直接または間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1の公表価格以外の入力数値が重要となる公正価値
レベル3 観察不能なインプットであるレベル3の入力数値が重要となる公正価値

なお、後述する開示において、レベル別の開示が行われるほか、レベル3の公正価値には追加的な開示が求められます。


(6) ブローカー等の価格の利用(適用指針案第30項、第54項)

ブローカーや情報ベンダーから提供された価格を用いる場合、どのように算定されたかを理解し、公正価値の定義を満たしているか否か評価する必要があるとされており、現行の会計基準の定めを大きく変えるものではありませんが、実務上影響が出る場合があると考えられる旨が示されています。


(7) 取引数量等が低下している場合や秩序ある取引ではないと判断された場合(適用指針案第23項~第29項など)

取引の数量や頻度が著しく低下していると考えられる状況が例示されているほか、このような場合の公正価値の測定において、重要な調整が必要となることがある旨が示されています。
また、秩序ある取引ではないと判断された場合に、当該取引価格を公正価値等の見積もりに際して通常考慮してはならないとすることが提案されています。


(8) 開示(会計基準案第17項)

重要性が乏しいものを除き、公正価値について以下の事項を注記することが提案されています。

① 公正価値で毎期継続的にB/S上評価されている資産および負債

  • 公正価値の算定方法等に係る事項
  • 公正価値のレベル別の内訳
  • レベル3の公正価値に係る事項(期首残高から期末残高への調整表を含む)

② 公正価値を毎期継続的に注記している資産および負債

  • 公正価値のレベル別の内訳

なお、これらの事項は、他の会計基準等で定められている時価等の注記(金融商品や賃貸等不動産の時価等の注記など)とは別に記載することに留意する必要があります(会計基準案第46項)。


(9) その他(適用指針案)

公正価値測定に係る設例、現在価値技法に関する補足的説明および開示例が適用指針案の末尾に示されています。


2. 適用時期

平成24年4月1日以後開始する事業年度(3月決算会社では平成25年3月期)から原則適用するものとし、平成24年3月31日以前に開始する事業年度からの早期適用を認める提案がなされています。
また、適用初年度より前の財務諸表に対して遡及(そきゅう)処理は行われず、適用に伴い生じた会計方針の変更に係る影響額については、適用初年度期首の利益剰余金に加減するものとされています。


本稿は公開草案の概要を記述したものであり、詳細については以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。



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