「退職給付会計の見直しに関する論点の整理」のポイント

2009年2月9日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計監理レポート 武澤玲子

企業会計基準委員会は平成21年1月22日に、「退職給付会計の見直しに関する論点の整理」(以下、本論点整理)を公表しました。

本論点整理では、退職給付に関する会計基準等の見直しに当たり、国際的な議論の動向やこれまでのわが国での議論の経緯も踏まえた上で、退職給付会計に関する論点を幅広く示し、どのような論点をどのように見直すか、議論の整理を図ることを目的としています。

次の10の論点について、コメントが求められており、コメント募集期間は平成21年4月6日です。

論点1 退職給付債務及び勤務費用の会計処理
  現行の取り扱い
国際的な会計基準 論点整理の方向性
[論点1-1]
予測単位積増方式による測定方法等の見直し
「予測単位積増方式」により退職給付債務および勤務費用を測定(国際的な会計基準と同様)
検討予定(平成23年以降に検討すると予想される) 国際的な議論と歩調を合わせて検討することが効率的と考えられる
[論点1-2]
退職給付債務及び勤務費用の測定方法
退職給付見込額の期間帰属は「期間定額基準」を原則とする 「給付算定式」に基づいて各期に帰属させる 見直しの必要性を検討することが考えられる(特に退職給付見込み額の期間帰属)
予定昇給率には原則としてベースアップを含まない 予定昇給率にはベースアップも含めて広くとらえられている
制度ごとに単一の割引率を使用 制度ごとに給付の見積時期を反映させた割引率を使用
[論点1-3]
小規模企業等における簡便法の容認
小規模企業等においては期末自己都合要支給額などを利用した簡便法を用いることを容認 簡便法の定めなし 国際的な会計基準も参考に、取り扱いを引き続き検討することも考えられる
論点2 年金資産及び期待運用収益の会計処理
  現行の取り扱い 国際的な会計基準
論点整理の方向性
[論点2-1]
期待運用収益の取扱い
国際的な会計基準と同様の方法で期待運用収益を計上(ただし期待運用収益率の設定方法の考え方は、国際的な会計基準と同じであるか、疑問とする指摘あり) 期待運用収益の廃止を検討中
  • 期待運用収益率の考え方については、国際的な会計基準の考え方を確認しながら、引き続き検討
  • IASB が期待運用収益を廃止する方向性となった場合、わが国での考え方の整理や確認をすることも考えられる
[論点2-2]
退職給付信託の取扱い
一定の要件を満たした場合、年金資産とみなす
わが国で年金資産として認められる退職給付信託のすべてが年金資産として認められるかは明確でない
国際的な会計基準の考え方を確認しながら、退職給付信託の見直しの要否を引き続き検討することも考えられる
論点3 貸借対照表で計上する退職給付に係る負債
  現行の取り扱い 国際的な会計基準
論点整理の方向性
[論点3-1]
年金資産と退職給付債務の総額表示
退職給付債務と年金資産の純額を負債(または資産)として計上 総額での認識を検討すべきとの考え方がある(検討は延期される見込み)
国際的な議論と歩調を合わせて検討することが効率的であると考えられる
[論点3-2]
制度の積立状況の貸借対照表での計上
未認識項目を加減したものを計上 制度の積立状況(退職給付債務-年金資産)を示す額に計上すべきとの考え方あり
今後、この論点について取り上げることが考えられる
論点4 数理計算上の差異と過去勤務債務の会計処理
  現行の取り扱い 国際的な会計基準 論点整理の方向性
[論点4-1]
数理計算上の差異の会計処理
数理計算上の差異の遅延認識が認められている 数理計算上の差異の遅延認識の廃止を検討している IASB が遅延認識を廃止する方向性となった場合、わが国での考え方の整理や確認をすることも考えられる
[論点4-2]
重要性基準と回廊アプローチ
  • 割引率等の計算基礎の決定にあたり、重要性による判断(重要性基準)を認めている
  • 回廊アプローチは認めていない
  • 重要性基準は定められていない
  • 回廊アプローチを採用
今後、この論点について取り上げることが考えられる
[論点4-3]
過去勤務債務の会計処理
数理計算上の差異と同様の方法で処理(負の過去勤務債務と正の過去勤務債務とで区別なし)
  • 給付の権利が確定するまでの平均期間にわたり、定額法で費用として認識
  • 権利が未確定の過去勤務債務を損益計算書上で即時認識する方法を検討中
国際財務報告基準とわが国の会計基準に相違点があるため、見直しの中でこの相違点を取り上げる必要があるか、引き続き検討することも考えられる
論点5 損益計算書における退職給付費用に係る表示
現行の取り扱い
国際的な会計基準
論点整理の方向性
退職給付費用は単一の科目で表示
退職給付費用は単一の科目で表示すべきかどうかについては明示しないとしている
退職給付費用の一部について、営業損益ではなく財務損益で表示すべきではないかとの意見もあり、引き続き検討することも考えられる
論点6 退職給付(給付建制度)に係る開示
国際的な会計基準 論点整理の方向性
わが国の会計基準では開示が要求されない情報(特に実際運用収益など)の幅広い開示が要求されている 特に年金資産の状況に関する開示の拡充の論点について取り上げることが考えられる
論点7 清算と縮小の会計処理と表示
現行の取り扱い
国際的な会計基準
論点整理の方向性
将来勤務に係る退職給付債務の減少についても過去勤務債務として取り扱う
将来勤務に係る退職給付債務の減少は給付建制度の縮小として取り扱う
給付建制度の清算と縮小の会計処理について見直しを行う必要があるか、引き続き検討することも考えられる*

* 清算または縮小の場合における未認識数理計算上の差異等の会計処理については、国際的な会計基準の間でも相違があるが、見直しが予定されていない。このため、わが国で、この論点について取り上げる優先順位は高くないとされている。

論点8 キャッシュ・バランス・プランの会計処理と表示
現行の取り扱い
国際的な会計基準
論点整理の方向性
給付建制度と同様の会計処理
キャッシュ・バランス・プランに係る退職給付債務を公正価値で測定する提案がされている
考え方を整理する必要があるか、引き続き検討することも考えられる
論点9 複数事業主制度の会計処理と開示
現行の取り扱い
国際的な会計基準
論点整理の方向性
共通支配下の企業年金制度については、子会社で退職給付債務を負債計上
子会社において、結果的には複数事業年度とおおむね同様の会計処理(拠出建制度の会計処理を容認)
この論点を取り上げる必要があるか、引き続き検討することも考えられる
論点10 その他の退職後給付
現行の取り扱い
国際的な会計基準
論点整理の方向性
退職給付に関する会計基準等以外にはその他の退職後給付を取り扱う会計基準は特にない
医療給付など、その他の退職後給付を幅広く取り扱う基準が存在
今後の退職給付に関する会計基準等の見直しの中で、整理そのものが必要であるか、引き続き検討することも考えられる*

* こうした給付制度は、わが国の企業ではあまり採用されていないと考えられるものも多く、検討対象となるものはあまりないとの考え方もある。

本稿は『「退職給付会計の見直しに関する論点の整理」の公表』の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。

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