企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」他5件の会計基準等の改正のポイント

2009年1月23日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計監理レポート 安原明弘

企業会計基準委員会が平成20年12月26日に公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成19年8月に国際会計基準審議会(IASB)と共同で公表したいわゆる東京合意に基づき、平成20年までの短期コンバージェンス・プロジェクトとして掲げた企業結合(連結を含む)に関する会計処理(持分プーリング法による会計処理の廃止など)について検討を行い、平成19年12月には「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」および「研究開発費に関する論点の整理」を、平成20年6月30日には、本改正基準および適用指針の公開草案を公表し、広くコメント募集を行った後、それらに対して寄せられた意見を検討し、公開草案の修正を行った上で、平成20年12月26日に下記の企業会計基準およびその適用指針の改正(以下、本会計基準等)を公表しました。

  • 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」
  • 企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」
  • 企業会計基準第23号「『研究開発費等に係る会計基準』の一部改正」
  • 改正企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」
  • 改正企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」
  • 改正企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」

なお、本稿において意見にわたる部分については、執筆者の私見であり、当法人の公式見解ではありません。

1. 適用時期等

企業会計基準等
適用時期
早期適用(早期適用する場合には本会計基準等のすべてについて早期適用することが必要)
企業結合会計基準、研究開発費会計基準の一部改正、事業分離等会計基準及び適用指針 平成22年4月1日以後実施される企業結合又は事業分離等から適用 平成21年4月1日以後開始する事業年度において最初に実施される企業結合又は事業分離等から適用可
連結会計基準
平成22年4月1日以後実施される企業結合および事業分離等に関する会計処理および注記事項から適用し,その他連結財務諸表に係る事項については,平成22年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用
平成21年4月1日以後開始する連結会計年度において最初に実施される企業結合及び事業分離等に関する会計処理及び注記事項から適用し,その他連結財務諸表に係る事項については,平成21年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用可
持分法会計基準
平成22年4月1日以後実施される非連結子会社及び関連会社に対する投資に係る会計処理から適用
平成21年4月1日以後開始する連結会計年度において最初に実施される非連結子会社及び関連会社に対する投資に係る会計処理から適用可

2. 本会計基準等のポイント

「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」および「研究開発費に関する論点の整理」で示された下記のいずれの論点の内容についても国際的な会計基準とのコンバージェンスを進めていく方向で改正が行われています。国際的な会計基準と対比して、本会計基準等の概要を簡単にまとめると下記のとおりです。

論点の内容
国際的な会計基準
本会計基準等
持分プーリング法の取扱い(結合論点1-1)
パーチェス法を適用し、持分プーリング法の適用は認められていない
持分プーリング法を廃止し、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引以外の企業結合はパーチェス法により処理することに改正
株式を取得の対価とする場合の対価の測定日(結合論点2)
取得日
企業結合の主要条件が合意され公表された日前の合理的な期間から企業結合日(又は事業分離日)に改正
負ののれんの会計処理(結合論点3) 取得日の利益とする 20年以内の取得の実態に基づいた適切な期間での規則的償却から負ののれんの発生原因を見直し、なお生じる場合には、その事業年度の利益とすることに改正
少数株主持分の測定における子会社の資産及び負債の評価方法(結合論点4) 取得日の少数株主持分の時価又は識別可能純資産の時価の比例持分額のいずれかで測定し、部分時価評価法に相当する取扱いは認められていない 部分時価評価法を廃止し、全面時価評価法により評価しなければならないことに改正
段階取得における被取得企業の取得原価の測定方法(結合論点5) 支配獲得日の時価で再評価し、差額は損益として認識する 段階取得において累積原価を取得原価とされていたのを取得時点における取得の対価となる財の時価で算定し、差額は損益として処理することに改正(ただし、この取扱いは連結財務諸表のみに適用され、個別財務諸表上は、従来どおり、累積原価を取得原価とし、連結財務諸表を作成しない場合には、一定の注記を継続開示することが求められます)
外貨建のれんの換算方法(結合論点6) 決算日の為替相場で換算する 発生時の為替相場による換算から決算日の為替相場による換算に改正
仕掛研究開発の取得時の会計処理(研究開発論点3-1) 仕掛研究開発については、企業結合により取得した他の無形資産と同様に、企業結合日の公正価値に基づいて資産として計上 企業結合において、取得企業が取得対価の一部を研究開発費等に配分したときは、当該金額を配分時に費用処理することを廃止し、識別可能な無形資産等に取得原価を配分できるとされているのを識別可能なものであれば原則として識別し資産計上することに改正

(注) 論点の内容欄のかっこ書きは、平成19年12月27日公表の「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」または「研究開発費に関する論点の整理」における論点番号です。

3. 公開草案からの主な変更点


(1)段階取得における会計処理

取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)における被取得企業の取得原価について、公開草案では、被取得企業の取得原価は、取得時点における取得の対価となる財の時価で算定するものとし、当該支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額との差額は、個別損益計算書および連結損益計算書のいずれにおいても損益として処理し、被取得企業が支配を獲得される前において取得企業の関連会社であった場合には、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって、被取得企業または取得した事業の取得原価とすると定めていました。

本会計基準では、個別財務諸表については、従来どおり、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって取得原価とし、「段階取得に係る損益」の計上は連結財務諸表上のみの取り扱いに修正されています(企業結合会計基準第25項(1))。

また、被取得企業が支配を獲得される前において取得企業の関連会社であった場合についても、連結財務諸表上、支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって算定し、被取得企業の取得原価と持分法による評価額との差額は、連結財務諸表上、当期の「段階取得に係る損益」として処理することに修正されています。

なお、連結財務諸表を作成していない場合には、一定の注記を継続開示することが求められます(企業結合会計基準第51項)。


(2)本会計基準等適用による影響額の開示

本会計基準等の適用は、会計基準変更に伴う会計処理の変更となりますが、変更の影響額については、部分時価評価法廃止の影響を除き、開示不要の取り扱いとされています(企業結合会計基準第58項、連結会計基準第44項(4)、事業分離等会計基準第57-3項)。

4. 本会計基準等の概要

(1)持分プーリング法の廃止(企業結合会計基準第17項)

現行の会計基準では、企業結合の会計処理として、その企業結合の経済的実態に応じ持分プーリング法とパーチェス法とが使い分けられていますが、本会計基準等では、会計基準のコンバージェンスを推進する観点から持分プーリング法を廃止することとし、共同支配企業の形成および共通支配下の取引以外の企業結合はパーチェス法により処理するものとされました。

また、持分プーリング法を廃止した場合には、現行の会計基準が定める持分の結合に該当するような企業結合(共同支配企業の形成を除く)であっても、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定しなければならず、実務上いずれの企業が取得企業かを決定することが困難なケースへの対応を検討しなければならないことから、取得企業の決定方法についても併せて改正しています。

(2)株式を取得の対価とする場合の当該対価の時価の測定日(企業結合会計基準第24項、事業分離等会計基準第13項および第34項、適用指針第38項)

市場価格のある取得企業等の株式が取得の対価として交付される場合、現行の会計基準では、取得の対価となる財の時価は、原則として、その企業結合の主要条件が合意されて公表された日前の合理的な期間における株価を基礎にして算定するものとされていますが、本会計基準等では国際的な会計基準と同様に、企業結合日(または事業分離日)における時価を基礎として算定することとしています。

(3)負ののれんの会計処理(企業結合会計基準第33項、連結会計基準第24項、持分法会計基準第12項、適用指針第78項)

現行の会計基準では、負ののれんが発生した場合には20年以内の取得の実態に基づいた適切な期間で規則的に償却するものとされていますが、本会計基準等では、負ののれんが生じると見込まれる場合には、まず、すべての識別可能資産および負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直すこととし、それでもなお取得原価が受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益(特別利益)として処理することとしています。

なお、子会社株式を追加取得した場合に生じる「負ののれん」については、時価評価の見直しが行われないため、識別可能資産および負債の見直しは行わず、利益として処理されます。

(4)少数株主持分の測定(連結会計基準第20項)

現行の会計基準では、連結財務諸表の作成に当たり子会社の資産および負債を評価する方法として、親会社の持分に相当する部分については株式の取得日ごとの時価により評価し、少数株主持分に相当する部分については子会社の個別貸借対照表上の金額による方法(部分時価評価法)と、子会社の資産および負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法(全面時価評価法)のいずれかによるものとされていますが、本会計基準では、全面時価評価法により評価しなければならないこととしています。

(5)段階取得における会計処理(企業結合会計基準第25項、連結会計基準第23項(1)、事業分離等会計基準第18項および第24項、適用指針第46項、第46-2項、第85項(1)、第99項、第104項、第110項、第116項(1)、第118-4項、第119項(1)、第123-3項、第124項(2)①、第281-2項および第293-2項)

取得が複数の取引により達成された場合(段階取得)における被取得企業の取得原価は、現行の会計基準では、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額によるものとされていますが、本会計基準等では、被取得企業の取得原価は、個別財務諸表では従来どおり支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって算定しますが、連結財務諸表では支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日における時価をもって算定し、被取得企業の取得原価と支配獲得に至った個々の取引ごとの原価の合計額(持分法適用関連会社と企業結合した場合には、持分法による評価額)との差額は、連結財務諸表上、当期の「段階取得に係る損益」(特別損益)として処理することとされています。

(6)在外子会社株式の取得により生じたのれんの会計処理(適用指針第77-2項)

在外子会社株式の取得により生じたのれんは、現行の会計基準では発生時の為替相場で換算することとされていますが、本会計基準等では、当該在外子会社の財務諸表項目が外国通貨で表示されている場合には当該外国通貨で把握し、決算日の為替相場により換算することとしています。

(7)企業結合により受け入れた研究開発の途中段階の成果の会計処理等(企業結合会計基準第28項及び第29項、研究開発費等会計基準の一部改正第2項、適用指針第58項、第59項および第59-2項)

企業結合により受け入れた研究開発の途中段階の成果について、現行の会計基準では、取得対価の一部を研究開発費等に配分した場合には、当該金額を配分時に費用処理することとされていますが、本会計基準等では、当該会計処理を廃止することとしています。

また、現行の会計基準では、被取得企業から受け入れた資産に識別可能な無形資産が含まれる場合には、取得原価を当該無形資産等に配分することができるとされていますが、本会計基準等では、当該無形資産が識別可能なものであれば、原則として識別して資産計上を求めることとし、研究開発費等会計基準では企業結合により被取得企業から受け入れた資産(受注制作、市場販売目的および自社利用のソフトウエアを除く)については適用しないものとしています。

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