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「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」 のポイント

2008.09.24
新日本有限責任監査法人 会計監理レポート
武澤 玲子

企業会計基準委員会は平成20年7月31日に、企業会計基準第19号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」(以下、本会計基準)を公表しました。

本会計基準では、割引率の基礎とする長期の債券の利回りについて、一定期間の変動を考慮する取り扱いを削除しています。平成20年3月に公開草案として公表された後、寄せられたコメントなどの分析を経た上で公表されています。

なお、本稿において意見にわたる部分については、執筆者の私見であり、当法人の公式見解ではありません。

公開草案から最終公表に至るまでの大きな変更点は、次のとおりです。

  • 退職給付債務の計算に用いる割引率は「期末における」割引率であることが明示されました(第2項)
  • 本会計基準を適用し、会計方針の変更が財務諸表に与えている影響として注記すべき内容が明らかにされました(第4項)
  • この改正によっても、割引率に重要な変動が生じていない場合には、割引率を見直さないことができることが明示されました(第11項)
  • 期末日以降に退職給付債務を計算する場合について、実務負担に配慮した記載が追加されました(第12項)
1. 改正点(第2項)

割引率の決定に際し、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができるとしていたなお書きが削除されました。このため、これまでのように債券の利回りの5年平均を割引率とすることはできなくなります。

現行 本会計基準
(注6)
割引率の基礎
  • 安全性の高い長期の債券の利回り
  • 一定期間の利回りの変動を考慮(なお書き)
(注6)
割引率の基礎
  • 安全性の高い長期の債券の期末における利回り
(削除)

2. 適用時期

(1)

適用時期(本会計基準第3項)

  • 平成21年4月1日以後開始する事業年度の年度末から適用されます。
  • 平成21年3月31日以前に開始する事業年度の年度末から適用することができます。

本会計基準は年度末からの適用とされているため、四半期会計期間末、中間会計期間末からの適用は認められていません。また、制度変更などにより期中に退職給付債務を再計算する場合にも適用されません。

(2)

適用初年度の取り扱い

  • 本会計基準の変更は会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱うこととなります(本会計基準第17項)。
  • 本会計基準の適用に伴い発生する退職給付債務の差額は、当事業年度に発生した数理計算上の差異に含めて会計処理することとされています(本会計基準第4項)。
  • 当該差異の「当期費用処理額」及び「未認識数理計算上の差異残高」は会計方針の変更が財務諸表に与えている影響として注記します(重要性が乏しい場合を除く)。

なお、影響額は、本会計基準の適用によってこれまでと異なる割引率を用いることになる場合における、それぞれの割引率を用いて計算した適用初年度の年度末における退職給付債務の差額となります(本会計基準第17項)。

例)
前期の5年平均利回りが2.0%であったが、重要性を考慮した結果、割引率として1.75%を採用していた場合

前期の割引率 1.75%
当期の重要性基準の範囲 1.25~2.25%
当期の割引率(5年平均) 2.5%
当期の割引率(期末日) 2.75%

この場合、前期の割引率1.75%を2.75%に変更することになりますが、本会計基準を適用しない場合でも、割引率を1.75%から2.5%に変更する必要があります。このため、本会計基準を適用したことによる割引率の変動は、当期の割引率(5年平均)である2.5%から当期の割引率(期末日)である2.75%への変動となります。会計方針の変更による影響額は、2.5%、2.75%それぞれの割引率を用いて計算した適用初年度の年度末における退職給付債務の差額になります。

3. 実務上の影響

これまで、なお書きの定めにより、過去5年間の債券の利回りの平均値が広く用いられてきましたが、本会計基準では原則どおり、期末の利回りしか認められないことになります。ただし、割引率の見直しを求めるのは退職給付債務を10%以上変動させるような利回りの変動があった場合にだけとする、重要性基準は見直されていません(本会計基準第11項なお書き)。また、割引率のみ異なる複数の結果をもとに、合理的な補正計算(*)によって退職給付債務を求めることができる点が明示されています(本会計基準第12項)。このため、実務上はほとんど影響がないという指摘もあります。

(*) ここでいう合理的な補正計算とは、日本アクチュアリー会 日本年金数理人会「退職給付会計に係る実務基準」3.7に記載されている、次の補正計算のことをいいます。
 
「退職給付債務や勤務費用の計算において、計算結果に大きな差異が生じない場合には、以下のような合理的な計算方法を用いることができるものとする。
(中略)
(8)割引率のみ異なる複数の計算結果の関係を用いて、信頼度に考慮した合理的な補正方法により、それら以外の割引率による計算結果を求める。」

本稿は企業会計基準第19号「『退職給付に係る会計基準』の一部改正(その3)」概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。



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