「工事契約に関する会計基準」および「工事契約に関する会計基準の適用指針」のポイント

2008年1月15日
カテゴリー 会計情報トピックス

会計品質管理部トピックス

企業会計基準委員会が平成19年12月27日に公表

企業会計基準委員会は、平成19年12月27日に、「工事契約に関する会計基準」および「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、本会計基準等)を公表しました。本会計基準等は、平成19年8月に公開草案として公表された後、寄せられたコメント等の分析を経た上で公表されています。

なお、本稿において意見にわたる部分については執筆者の私見であり、当法人の公式見解ではありません。

公開草案から最終公表に至るまでの大きな変更点は、次のとおりです。

公開草案からの変更点

  • 工事損失引当金の表示に関して、負債計上処理だけでなく、対応する未成工事支出金から控除する方法も会計基準本文に盛り込まれました。
  • 適用時期に関して、公開草案では早期適用が排除されていましたが、早期適用ができることとされています。

1. 本会計基準等の概要

現在、長期請負工事の会計処理については、工事進行基準または工事完成基準の選択適用が認められていますが、本会計基準等では、成果の確実性が認められる請負工事(会計基準第9項~第13項)については、長期工事に限定することなく、工事進行基準を適用することが求められています。これは、工事進行基準を原則的方法と位置付けているわけではなく、成果の確実性が認められるものに限り工事進行基準を適用し、成果の確実性を満たさないものは工事完成基準によることを定めたものです。

また、工事契約から損失が見込まれることとなった場合には、損失見積額を工事損失引当金として計上することが明示されています。

2. 適用範囲

本会計基準等における工事契約という用語は、典型的な土木・建築等、建設業において行われる取引よりも広く、造船や、基本的な仕様や作業内容について顧客の指図に基づいて行う機械装置の製造に係る契約も含まれます。また、受注制作のソフトウェアに関しても適用範囲とされていることから、いわゆる建設業に限定されない点に留意する必要があります。

なお、本会計基準等では、企業会計原則の取り扱いと異なり、請負工事の対象を長期の工事に限定しておらず、販売費および一般管理費を適当な比率で工事原価に算入する取り扱いも許容していません。

3. 会計処理

(1) 工事進行基準を適用する場合

本会計基準等は、すべての工事契約に関して工事進行基準を適用することを求めているわけではない点に留意する必要があります。工事進行基準が適用されるのは、工事契約に関して成果の確実性が認められる場合であり、具体的には、①工事収益総額、②工事原価総額および③決算日における工事進捗(しんちょく)度の各要素について信頼性をもって見積もりが可能な場合に限られます。信頼性をもった工事収益総額の見積もりという場合、契約書や注文書があるときには疑問となる点は少ないと思われますが、工事の変更・追加時において、契約書や注文書の類が取り交わされていないような会社では、判断に迷うところかと思われます。このような場合でも、工事収益総額の合理的見積もりが可能と認められるためには、どのようにしてその事実を裏付けるかがポイントになります。

(2) 工事完成基準を適用する場合

工事契約に関する成果の確実性の有無を判断する、(1)の ①~③の要件を満たさない場合には、工事完成基準を適用することとなります。
また、工事進行基準の適用要件を満たす工事契約であっても、「工期がごく短いもの」に関しては、通常、金額的な重要性が乏しいことや、工事契約としての性格も乏しいという理由から工事完成基準を適用することが認められています。しかし、各企業の実態に応じて金額的な重要性や実行予算管理する工事契約の範囲が異なることが通常であるため、「工期がごく短いもの」が、1カ月、3カ月、またはそれ以上の期間の工期を指すのかは、明示されていません。この点は、各企業においては、それぞれの実態に応じて検討する必要があります。

(3) 工事進行基準の会計処理

本会計基準等では、一般的に多く適用されている原価比例法により見積もった決算日の工事進捗度に応じて工事収益および工事原価を計上することとされていますが、他の進捗度見積方法を採用することも認められています。他の進捗度見積方法としては、例えば、一定の面積を施工する工事契約において、施工を終えた割合を進捗度とする方法が考えられます。 また、原価比例法を採用している場合であっても、発生した工事原価が決算日における工事進捗度を合理的に反映しない場合には、合理的に反映するよう調整が必要となる場合にも言及されています。このため、原価比例法を採用していれば、常にそれで問題ないというわけではない点に留意する必要があります。

(4) 工事進行基準の適用により計上される未収入額

工事進行基準の適用により計上される未収入額については、金銭債権として取り扱うこととされています。このため、工事契約に関する入金があれば、当該未収入額から入金相当額を消し込むとともに、残額については貸倒引当金の設定対象になります。また、同未収入額が外貨建金銭債権である場合には、外貨換算の対象となります。

(5) 工事損失引当金

工事進行基準または工事完成基準の適用に関係なく、工事契約から損失が見込まれることとなった場合には、工事損失引当金の計上が求められます。

4. 開示

(1) 表示

工事損失引当金を計上する場合、繰入額は売上原価に含め、引当金残高は流動負債として計上することが求められています。なお、同一の工事契約に関する棚卸資産(未成工事支出金)と工事損失引当金がともに計上される場合には、相殺して表示することも認められます。未成工事支出金から工事損失引当金部分を控除することもできます。

(2) 注記事項

採用した収益認識基準、工事進捗度の見積方法、工事損失引当金の繰入額等に関しては、注記が求められています。

5. 適用時期等

(1) 本則

本会計基準等の適用は、平成21年4月1日以後開始する事業年度から適用し、具体的には適用初年度以後に着手する工事契約から適用することが求められています。このため、適用事業年度の期首の時点で仕掛中の工事について、完成基準から工事進行基準への変更は求められていません。適用時期の定めに関しては、本会計基準等を適用する企業においては、通常、情報システムの変更が想定されることに配慮したものとなっています。

(2) 例外

平成21年4月1日以後開始する事業年度の期首に存在する工事契約のすべてについて一律に本会計基準等を適用することができます。この取り扱いは、適用前の工事と適用後の工事を区分して会計処理を行うことは実務上煩雑であるという意見に配慮したものと思われます。なお、当該例外処理を適用した場合には、過年度分については、特別損益に計上するとともに、所定の注記が求められます。

(3) 早期適用

本会計基準等の公表日である平成19年12月27日以後、平成21年3月31日以前に開始する事業年度から適用することができます。このため、平成20年12月期の決算会社より本会計基準等の適用が可能となります。

本稿は企業会計基準第15号および企業会計基準適用指針第18号の概要および主な論点を記述したものであり、詳細については、以下の財務会計基準機構/企業会計基準委員会のウェブサイトをご参照ください。

この記事に関連するテーマ別一覧

工事契約

企業会計ナビ

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ