連結子会社経理担当者が留意すべき事項

2017年4月7日
カテゴリー 経理実務最前線

公認会計士 植野 和宏

わが国の上場会社に求められる企業内容開示制度は、企業グループの決算を反映した連結財務諸表をベースに行われるものであることから、親会社の連結決算担当者は、各四半期及び年度決算において、連結子会社の経理担当者と緊密に連携を図り開示業務を行っています。一方で連結子会社の経理担当者は、連結子会社自体が上場会社ではないにもかかわらず、上場会社として求められる企業会計の基準に準拠した決算業務を行う必要があります。

このため、上場会社によるM&Aにより、突然ある上場会社グループの連結子会社となった場合、当該子会社の経理担当者は、これまで経験のなかった以下の項目への対応が求められます。

  • 税務会計から企業会計への転換
  • グループ会計方針への準拠
  • 時価に関する情報の提示
  • 連結子会社化に伴い留意すべき税制への準備
  • J-SOXへの対応
  • 予算関係資料の提出
  • 決算スケジュール及び作業分担等の確認
  • 内部監査及び親会社会計監査人による 子会社往査への対応

本稿では、上場会社のM&Aにより新たに連結子会社となった際に、当該連結子会社の経理担当者として新たに必要となる会計基準や業務内容等について、その実務上の留意事項を整理したいと思います。また、親会社の連結決算担当者が、買収等により新規の子会社を連結の範囲に含める場合、当該連結子会社の決算内容の検証や、連結子会社に依頼すべき業務内容のポイント把握に役立つかと思います。

なお、文中における見解等は私見であることを申し添えておきます。

1. 税務会計から企業会計への転換

従来から税務会計により決算業務を行っていた連結子会社の経理担当者は、親会社が採用している企業会計の基準に従い、決算業務を行うこととなります。税務会計から企業会計への転換により、決算数値が大きく変わる可能性がある会計基準に関するPointとその留意事項は、以下のとおりです。

なお、以下の会計基準については、将来の売却価格や獲得できるキャッシュ・フローを見積もるなど、これまでに経験してこなかった高度な予測が要求される会計基準もあることから、随時親会社の連結決算担当者に相談し、会計処理を検討する必要があります。

会計基準 留意事項等
棚卸資産の評価に関する会計基準
Point

正味売却価額の見積もり
  • 正味売却価額を下回る棚卸資産を有していないか。
  • 正常営業循環過程から外れた長期滞留棚卸資産や処分見込の棚卸資産を有していないか。
  • これら、収益性が低下した事実を適時に反映させているか。
固定資産の減損に関する会計基準
Point

将来キャッシュ・フローの見積り
  • 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスな事業等があるか。
  • 遊休状態の資産の有無や、事業の廃止及び再編成が予定されている事業等があるか。
  • 市場価格が著しく下落した固定資産があるか。
  • 将来キャッシュ・フローの見積りが、会社の事業計画と比較して合理的か。
資産除去債務に関する会計基準
Point

将来における除去費用の見積り
  • 有形固定資産にかかる資産除去債務を漏れなく把握しているか。
  • 資産除去債務ではない債務を負債として認識してはいないか。
  • 資産除去債務の見積り方法が、過去の実績や固定資産の特性と比較して妥当なものか。
リース取引に関する会計基準
Point

リース取引の判定
  • ファイナンス・リース取引及びオペレーティング・リース取引の判定は会計基準に従ったものか。
  • 賃貸借契約等の名称にかかわらず、会計基準のリース取引に該当するすべての契約について、会計処理の検討を行っているか。
  • 転リース取引やセール・アンド・リースバック取引がある場合、会計基準に従った処理が行われているか。
金融商品に関する会計基準
Point

金融商品の時価評価
  • 上場株式等の時価のある有価証券(その他有価証券に区分されたもの)について、時価評価を行っているか。
  • 時価が著しく下落した有価証券について、評価損を計上する必要があるか。
  • 金利スワップ取引や為替予約取引を行っている場合、会計基準に従った処理が行われているか。
  • 貸倒引当金が税法基準になっていないか。
退職給付に関する会計基準
Point

退職給付債務の計算
  • 確定給付型の退職給付制度がある場合、退職給付引当金が負債に計上されているか。
  • 従業員が300人以上の場合、退職給付債務の計算について、年金数理人等に依頼して計算されたものが採用されているか。
税効果会計に関する会計基準
Point

将来の課税所得の見積り
  • 法定実効税率は適切に計算されているか。
  • 将来減算一時差異及び将来加算一時差異を漏れなく正確に反映して、税効果会計の仕訳が行われているか。
  • 繰延税金資産の回収可能性は、会社の将来の課税所得の十分性等を加味したものか。また、将来の課税所得は、会社の事業計画と整合性があるか。

なお、上記の会計基準のほか、連結子会社に役員退職慰労金規程や賞与規程がある場合には、それぞれ役員退職慰労引当金や賞与引当金を負債に計上しなければならない可能性があるため、会計処理に影響を及ぼす人事規程関係については、特に留意が必要となります。

2. グループ会計方針への準拠

新たに連結子会社となった場合、親会社が作成しているグループ会計方針に従う必要があります。これは、親会社が作成する連結財務諸表では、同一環境下で行われた同一の性質の取引等については、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一することが求められているためです。

なお、親子会社間の会計処理の統一にかかる基本的な考え方は、以下のとおりです。

統一性の有無 会計処理の内容
原則統一すべき会計処理
  • 資産の評価基準
  • 引当金の計上基準
  • 営業収益の計上基準
必ずしも統一を必要としない会計処理
  • 資産の評価方法
  • 固定資産の減価償却方法

例えば、棚卸資産の評価基準に関するグループ会計方針により、滞留棚卸資産について収益性が低下した事実を反映させる処理(例:規則的に帳簿価額を切り下げる方法)が求められている場合、連結子会社が保有する長期滞留棚卸資産について、従来から取得原価で計上していた金額から、一定金額の切り下げが求められることとなり、決算数値を大きく変更する必要があります。また、滞留棚卸資産を把握していない場合、当該棚卸資産を把握し評価するプロセスが必要になることから、決算業務が大きく変更される可能性もあり特に留意が必要となります。

3. 時価に関する情報の提示

親会社が作成する連結財務諸表では、子会社の支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべては、親会社によって支配獲得日の時価により評価されることとなります。

上記1.に記載のとおり、一定の会計基準のもとで時価評価される資産はありますが、それ以外の資産及び負債については、連結財務諸表上のみ時価評価されます。代表的なものとして、子会社が保有する土地が該当しますが、当該土地に含み益がある場合、子会社の決算上は当該含み益を時価評価しませんが、親会社の連結財務諸表上は時価評価して連結会計処理が行われます。したがって、帳簿価額と時価が相違する資産(特に有形固定資産)については、時価に関する情報が親会社から求められます。

4. 連結子会社化に伴い留意すべき税制への準備

新たに連結子会社となった場合、その経理担当者は親会社との資本関係等を事前に確認する必要があります。これは、完全支配関係を有する資本関係等、一定の要件を満たす場合には、連結納税制度やグループ法人税制の適用を受けることとなるためです。

資本関係等を検討した結果、新規に適用される税制がある場合には、その税制に対応した申告業務を行う準備が必要となります。なお、連結納税制度及びグループ法人税制が適用されることにより、従来から大きく変更される主な項目は、以下のとおりです。

税制 変更される主な事項
連結納税制度
  • 連結納税の加入に伴う子法人の資産の時価評価
  • 連結納税の加入に伴う子法人の繰越欠損金の切捨て
  • 連結グループ内法人間の資産の譲渡取引
  • 中小企業向け特例措置(例:交際費計算)の不適用
グループ法人税制
  • グループ内法人間の資産の譲渡取引
  • 中小企業向け特例措置(例:交際費計算)の不適用
  • グループ内の法人間の寄付

連結納税制度やグループ法人税制は、企業グループの一体性に着目した税制であり、グループ内取引等にかかる譲渡損益の繰り延べ等、特殊な申告調整が必要となることから、連結子会社の経理担当者は、親会社の経理担当者と各項目の調整内容を慎重に検討する必要があります。

5. J-SOXへの対応

新たに上場会社の連結子会社となった場合、上場会社で適用されているJ-SOXへの対応も子会社として求められます。

親会社J-SOX担当者は、新たに連結子会社ができた場合、当該連結子会社の連結グループ全体に占める金額的及び質的重要性を勘案して、全社的な内部統制や、業務プロセスにかかる内部統制の有効性の評価を子会社に依頼します。J-SOXの評価範囲に入った連結子会社は、自社の内部統制の有効性の評価を行うための資料の準備を行うとともに、場合によってはその有効性の評価を自社で行い、評価結果を親会社に報告します。このため、連結子会社経理担当者等は、早い段階で親会社J-SOX担当者に、その具体的な業務内容等を打ち合わせする必要があります。

6. 予算関係資料の提出

新たに連結子会社となった場合、親会社の連結決算担当者等から自社の予算の資料の提出を求められます。これは、主に以下の二つの理由が考えられます。

  • 連結グループ予算の作成
  • 親会社が計上する子会社株式及びのれんの評価

実際に連結子会社となるタイミングの前にはなりますが、親会社は子会社の将来の事業計画や予算等を勘案して超過収益力を加味した投資額を決定します。

このため、子会社が当初想定していた事業計画や予算が未達となった場合や、子会社が損失を計上した場合、将来の事業計画等も勘案することにはなりますが、親会社の単体決算上で計上されている子会社株式や連結財務諸表で計上されているのれんについて、減損処理等を行う可能性があります。したがって、子会社の事業計画や予算は、子会社自体の管理のほか、親会社の決算数値にも大きく影響を及ぼす重要な項目であることから、実現可能性を十分に加味した精度の高い予算等を提出する必要があります。

7. 決算スケジュール及び作業分担等の確認

上場会社は、決算日後45日以内に決算情報を開示することが取引所から要請されているため、親会社の開示業務は非常に厳しいスケジュールのもとで行われています。また、連結子会社が多い上場会社では、連結システムで連結財務諸表を作成している場合があります。新たに上場会社の連結子会社となった場合、実務上の決算手順等について、以下の項目を事前に確認し、従来からの決算スケジュール等の変更を検討する必要があります。

項目 事前に確認及び検討する内容
決算スケジュール
  • 親会社に連結子会社の情報を提出する期限
  • 親会社への提出期限にあわせた連結子会社自体の決算スケジュール
  • 決算月における月次決算スケジュール
作業分担や提出資料
  • 連結システムの入力権限等が連結子会社に付与されている場合、連結子会社の経理担当者の作業分担
  • 連結子会社内での作業分担
    →決算作業者と親会社への提出資料作成者等
  • 親会社への提出資料の内容

8. 内部監査及び会計監査人による子会社往査への対応

親会社による内部監査は、連結子会社もその評価範囲に含め1年間のスケジュールを作成し監査を行います。また、親会社の会計監査人は、重要な連結子会社がある場合には、連結子会社に往査して会計帳簿等を直接確認することもあります。

このため、連結子会社の経理担当者は、内部監査や会計監査に対応することも想定されるため、親会社と緊密に連携を図り、準備を行う必要があります。

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