Winning Women Networkの企画・協力で、旬刊経理情報に「女性エグゼクティブの法則 ~Winning Womenから後輩たちへ~」を連載しています。2015年1月1日号に掲載された記事をご紹介します。
客室乗務員(CA)として全日本空輸(ANA)に入社したのが1979年、結婚や出産を機に退職するのが当たり前の時代でした。そのような環境のなかで、「石の上にも3年ということわざもあるし暫くは仕事を頑張って、寿退社かな...」と漠然と思いながらフライトを楽しんでいました。
そんな私に転機が訪れたのは、1986年ANAが定期国際線に進出を決めた頃です。当時、CAは羽田空港と大阪伊丹空港を拠点にフライトしていましたが、定期国際線に乗務するCAは、成田空港を拠点として集められることになりました。最初は、住み慣れた関西を離れることへの躊躇や今まで働いてきた環境を変えることに抵抗があり、積極的に異動を希望していませんでした。しかし、仲間達が乗務し始め、国際線も経験してみたいという気持ちが自分の心のなかに湧き上がってきました。迷った末、課長に「国際線への異動希望」を伝え、数カ月後に異動が決まりました。自分の希望が必ずしも叶うわけではないと思っていた矢先、課長に、「君がいつも元気に頑張っているのは、チーフから聞いていたよ」と言われ、私がいつも一緒にフライトしている身近な先輩(チーフ)が、きちんと私の仕事ぶりをみて、課長に報告してくださっていたことがとても嬉しかったのを今も鮮明に覚えています。大きな組織であり、機内という、課長とは離れた場所で仕事をしている環境では、自分自身を認めてもらえているという実感がなかったのですが、そうではないということに気づかされました。
この経験から学んだことは、次の2つです。
1つ目は、『以心発信伝心』。日本には、「以心伝心」という言葉がありますが、真ん中に発信を加えることが必要だということです。自分の意思をはっきり伝えるという一歩を踏み出したとき、周囲はそれを理解しサポートしてくれることを強く実感しました。思いどおりになるかどうかの結果を気にするのではなく、自分の気持ちに正直になり、まず発信することが起点になると確信しています。そして、マネジメントをする立場になった今は、この発信をしっかりと受信できるよう、常にアンテナを張りめぐらすことを意識しています。
2つ目は、『人に関心をもつ』ことです。自分のことをみてくれている人がいるのだろうか。組織のなかでそんな不安をもった経験は誰しもあるでしょう。私にとって、しっかり自分をみて推薦してくれた先輩が身近にいたことを知ったのは、大きな喜びであり、支えになりました。今、ANAには約6,600名のCAがおり、1人ひとりの名前と顔が一致しないことはよくありますが、自分から歩み寄る一歩を大切にしています。仕事が終わって休憩室で雑談しているCAをみかけたときやエレベーターのなかで一緒になったとき、挨拶に加え何か一言添えるようにしています。「今日のフライトどうだった?」、「これからどこに行くの?」。そんなちょっとした会話を大切にしながら、いつも仲間に寄り添いたいです。
「発信したこと」と「みてくれている人がいたこと」。どちらも簡単で当たり前のことのようですが、この2つがかけ合わさったことで私のキャリアが広がったのです。
(「旬刊経理情報」2015年1月1日号より)
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河本 宏子(かわもと・ひろこ) 全日本空輸株式会社 常務取締役執行役員 客室センター長 |