「旬刊経理情報」連載 女性エグゼクティブの法則 ~Winning Womenから後輩たちへ~ 

第6回 賢い投資家を育てるために株式市場と社会ができること

2013.09.11
石黒 不二代
ネットイヤーグループ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO

Winning Women Networkの企画・協力で、「旬刊経理情報」に「女性エグゼクティブの法則~Winning Womenから後輩たちへ~」を連載しています。2013年8月20日・9月1日合併特大号に掲載された記事をご紹介します。

今日はお金や株式の話をしましょう。私は34歳で留学して、その後、現地のシリコンバレーでIT関連のコンサルティング会社を起業しました。10年にわたるアメリカでの仕事の経験もさることながら、2歳でアメリカにわたった子供を育てることを通じて、ずいぶんたくさんの気づきがありました。その1つが、アメリカでは、お金に関する教育がずいぶん小さな頃から行われているということです。

日本では、お金は汚いものとして扱う風潮さえあるのに、息子は小学校の授業で、株式投資を学んでいました。実際に、株式市場に上場している会社に擬似的に投資をして、学期が終わるまで、だれが一番利益を出したか競うのです。これには、笑い話のようなオチがあり、トップの成績だった子供は、たまたまお父さんの会社がIPO(新規株式公開)する直前にお父さんの会社に投資して大きな上場益を出したのです。インサイダーではないかという揶揄はさておき、シリコンバレーの子供たちは、小学校で株式投資を学び、IPOのことまで知ってしまうのです。

だからといって、今、成人したわが子がお金に過敏な人間になっているかというとまったくそうではありません。シリコンバレーのゲーム会社に就職した彼は、とても慎重な性格で、給与を毎月しっかり貯めていて、一生堅実な生活をおくりそうです。でも、もし、彼の性格がまったく異なっていて、40歳くらいになって「えー、ママ、IPOがこんなにいいことだって知らなかったよ。なぜ教えてくれなかったの?」なんて言われたら悲しいではないですか。要するに、私が言いたいことは、親は子供になるべく幅広い知識を持たせてあげて選択の幅を広げてあげること、そして、選択はあくまで本人の問題、つまり自己責任であるということなのです。

このように教育されているからか、大人になったアメリカの投資家は、金融商品のリスクの違いをよく理解しています。たとえば、アメリカの大きな証券取引所といえば、多くの成熟して安定している大企業が名を連ねるニューヨーク証券取引所と、比較的歴史の浅い成長企業が名を連ねるナスダック証券取引所があります。投資家にとっては、安定性と、リスクの高い成長性、という投資スタンスの違いが明確です。ゆえに、ナスダックに上場している会社で配当を出す企業はほとんどありません。ナスダック上場企業は、「投資家のみなさん、私たちの株は売買で稼いでください。私たちは成長企業、ゆえに利益は投資にまわさせてください」と宣言しているようなものです。

残念ながら、日本の株式市場にはナスダックのような新興市場がありません。もちろん、新興市場と定義されている市場はあるのですが、明確な棲み分けがなく、どの市場でも同じように成長が期待され、配当が期待されています。これでは、新興企業は育ちません。

私は、日本の経済が発展するためには、性格の異なる株式市場の存在、市場の違いを理解し選択する企業と投資家が必要だと思っています。そのためには、アメリカ並みの教育と啓蒙が子供の頃から必要かもしれませんね。

(「旬刊経理情報」2013.8.20-9.1合併特大号より)

石黒不二代氏 石黒 不二代(いしぐろ・ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、スワロフスキー・ジャパンを経て、シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立。Yahoo、Netscape、Panasonic、Sonyなどを顧客とし日米間のアライアンスや技術移転等に従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するための総合的なデジタルマーケティングを支援し、独自のブランドを確立。2008年に東証マザーズ上場。ダイヤモンドオンラインの「石黒不二代の勝手に改革提言!」の連載など、経営戦略・マーケティング戦略に関する執筆活動や講演活動、メディアへの出演も多数。