「旬刊経理情報」連載 女性エグゼクティブの法則 ~Winning Womenから後輩たちへ~ 

第5回 植うるものと培うこと~何事にも真摯に取り組むことから~

2013.08.30
湯野川 恵美
株式会社ヒューマンシステム
代表取締役

Winning Women Networkの企画・協力で、「旬刊経理情報」に「女性エグゼクティブの法則~Winning Womenから後輩たちへ~」を連載しています。2013年8月1日号に掲載された記事をご紹介します。

私は、女性の経営者が少ないといわれるIT業界のなかでシステムを創る仕事を生業としてきました。最近、お会いした方には「ほんわかとした方ですね」との印象をうかがいますが、SE(システムエンジニア)として働いていた頃はそんな感じでもなかったようです。先輩によれば、「お前は、いくら帰れといっても残っている奴だった」とのことで、今思うと無茶ばかりで、まわりの方々をハラハラさせていたのでしょう。申し訳ないことです。

SEという仕事は、緻密さと根気強さと丁寧さが必要な仕事だといわれています。仕事上は、男女の差はなく逆に女性に有利だとも思いますが、現実には、女性は2割もいませんでした。当時私は、現場で失敗したら女性の私には後はないという恐怖心が常にあり、「技術」を磨くこと、失敗しないことに執着していました。

そんな私がどうして経営者になったのかといえば、最初の会社を辞めて創業スタッフとして働いていた会社から、夏季休暇中に「会社を辞めてほしい」という一方的な手紙が来て、事務所も解約されていて、4名の社員と呆然とするばかりという事件があったからです。

1992年、バブル崩壊でIT会社はかなりの数倒産しており、半月後転職の内定が出たのは私だけでした。打ち合わせの際、相手方から仕事と会社、社長の責任などについて話された後、「君が社長なら仕事を出そう」といわれました。会社など考えもしなかった私ですが、その言葉で社長になる決心をしました。無我夢中でしたが、20代で30名2億円規模のプロジェクトリーダーを務めた経験のある私は、お客様から技術者としての信用を得ていたのだと思います。

こうして、「技術」があればなんとかなるという気持ちだけで社長となりましたが、創業後しばらくは営業の苦労もなく、順調に成長していきました。しかし、100名10億円の売上を超えたあたりから、成長を続けることが苦しくなり、コンサルティングの技術を磨くつもりで、1年制の大学院に入学したのもその頃でした。そして、はじめて経営がどれだけ大切なものか理解することができました。恩師である小原重信教授(国際P2M学会副会長)から、「経営とはアートである。画家は数百円の絵の具で数十万、数百万の絵を描く。それに匹敵するようなものが経営である」と教えていただき、お金や利益をあげることに対して抱いていた罪悪感が薄れ、すべてが目から鱗という感じでした。今考えると、それまでどうやって会社が大きくなったのかと不思議な気持ちになります。

私の場合、かけ引きなしで、一生懸命目の前の仕事に取り組むことしかなく、先がみえなくなったときも、前向きに学ぶことで見通す力が得られたように感じています。「植うるものそれを培う。もとより雨露嬉々たる」(ううるものそれをつちかう。もとよりあめつゆききたる)。佐藤一斎先生の言葉ですが、常に伸びていこうとする人には、意識せず喜んでまわりの人々の協力が集まるということだそうです。この言葉は今までの私の実感そのものです。そして植うるものとして、これからも前向きにアートな経営をめざし、まわりの方々に感謝し、社会に貢献していきたいと考えています。

(「旬刊経理情報」2013.8.1より)

小林洋子氏 湯野川 恵美(ゆのかわ・えみ)
株式会社ヒューマンシステム 代表取締役
福島県福島市生まれ。株式会社ビッツ勤務を経て、1990年株式会社システムハーモニーに創業スタッフとして参加。1992年9月株式会社ヒューマンシステムを設立し、代表取締役就任。1994年よりインターネット試行プロジェクトに参画。日本工業大学専門職大学院技術経営研究科卒、技術経営修士。2009年日本工業大学専門職大学院客員教授(ビジネス・アンド・システムインテグレーション)。東京中小企業家同友会前副代表理事。一般社団法人国際P2M学会評議員。