旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』

第43回 日々、暗中模索・試行錯誤

2021.02.01
猪熊 浩子
武蔵大学 教授/アルテリア・ネットワークス(株) 社外監査役
Winning Women Networkの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2020年10月1日号に掲載された記事をご紹介します。

ミレニアムの2000年に監査法人への就職、結婚を迎えた私にとって、2020年の今年はちょうど両方20年の区切りの年です。こんなことをしたいという漠然とした思いは常に抱いていましたが、無我夢中で日々もがいているうちにここまできたというのが正直なところです。女性として、かつ足が不自由なハンデを持つ私が長く働くための1つの手段としてチャレンジしたのが公認会計士の資格取得でした。そして監査法人でのキャリアを通じて調査研究業務に関与したことが、現在大学での研究職につながり、得意分野を伸ばさせてくれた監査法人の環境には、おおいに感謝する限りなのですが、キャリア形成で大きな転機になった業務で、忘れられないプロジェクトにこんなものがありました。

それは、官公庁が産業促進を目的に会計税務に関する施策を打つときに、政策を裏づける調査分析報告書を作成する仕事で、もともと大手シンクタンクが請け負っていましたが、再受託で調査の一部に主査として関与することになりました。国際制度比較とグローバルな仕事と期待を膨らませながら調査依頼をみると、内容は英国・フランス・ドイツ・韓国・中国の研究開発税制の制度設計に関する比較調査で、この対象国一覧をみて言葉を失いました。各国の言語は英語、フランス語、ドイツ語、韓国語、中国語、すべて異なっており、かつ会計監査の最新の動向を調べるのですから当然日本語の文献は皆無で、現地語の文献やヒアリングを実施する必要がありました。再受託で外部に出す仕事というのは実施が困難だから他に頼むのではと思わず穿った見方をするほどでした。このミッションを遂行できたのはチームメンバーに恵まれたことが最大の要因でしたが、その時に学んだ大きな教訓は、困難と思われる仕事でも、もがいてみるとどうにか道筋が見えてくるものということでした。

2019年4月から現在の大学に移籍し、そして今年6月末にはご縁あって情報通信業の一部上場企業の社外監査役を務めています。今まで企業のガバナンスを調査案件や学問として取り組んできたものの、監査役として執行側の監督サイドからみるのは初めての経験です。あるべき姿や、理論上は成り立つと言われていることでも、実務上や、現実面ではまた違う見地が必要になることを日々体感しています。

経営面では日々の業務執行の部分を詳細には経験できず、報告で上がってくる事項を吟味することになるので、現場を熟知する人以上に何等か意味あることができるのかと疑問を抱くこともありました。とはいえ、外部の視点で、また、業界動向や大きな趨勢を把握しながら、別角度から見ることで指摘できることもあるのは新たな発見でした。

新たな領域での取組みは常に困難が付きまとうものですが、どんな時でも思い起こして自分を奮い立たせるのは、大きな調査業務に関与し始めた当時に経験した、不屈の精神です。うまくいくことばかりではありませんし、克服できる困難ばかりではないのですが、もがき続けることの大切さは私の原点になっています。

(「旬刊経理情報」2020年10月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)

猪熊 浩子

猪熊 浩子(いのくま・ひろこ)
武蔵大学 教授/アルテリア・ネットワークス(株) 社外監査役

2000年4月監査法人太田昭和センチュリー(現:新日本有限責任監査法人)に入所、会計監査、調査研究業務に従事する。監査法人勤務の間、2004年~2006年米国EYクリーブランド事務所勤務。2010年~2015年東北大学大学院経済学研究科(会計大学院)の准教授(法人派遣)。2019年4月から武蔵大学PDP教育センター教授に着任。2020年6月末より、アルテリア・ネットワークス(株)の社外監査役に就任している。