旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』 ー 第39回 逆境こそが未来をつくる

小松﨑 友子
株式会社iNTO(イントゥ) 代表取締役/マーケティングプロデューサー
早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会メンバー/日経クロスウーマンアンバサダー

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2020年6月1日号に掲載された記事をご紹介します。

「グローバルな事業をするようになったきっかけは何ですか?」答えは大体次のどれかだろうと想定されることと思います。

海外留学経験者、幼少期海外で過ごした帰国子女、元海外駐在員もしくは海外に関わる仕事に就いていた、結婚相手が外国人もしくは元海外駐在員、両親か親戚がグローバル事業をしているもしくはしていた。実際、わたしの周りでグローバル事業をしている方の大半は、上記のどれかに当てはまる方がほとんどです。

私の答えはそのどれでもありません。グローバル化のきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。

私が起業したのは2010年10月。起業といっても一人で立ち上げた会社で、個人事業主に限りなく近い形の、自由で身軽なスタイルでの起業でした。

それまでの経験をもとに、国内マーケット向けの記者発表会やプレスリリース、メディアキャラバン、PR映像制作、イベント企画などのお仕事をさせていただいていました。前職も合わせて、それまで通算10年ほど大手企業を中心とした国内向けマーケティングを幅広く経験してきていたため、クライアントに喜んでいただける結果も出すことができ、売上も順調に伸びていました。

またその当時、北京オリンピック(2008年)と上海万博(2010年)が開催され、急成長を遂げた中国マーケットを求めて、多くの日本企業が中国進出を目指し動いていました。独立する前年頃から、東京で活躍している華僑の方々と仲良くなり、日本の商品やサービスが素晴らしいこと、中華圏で「Made in Japan」の商品が求められていること、2012年は日中国交正常化40周年記念のため、日中に関わる映画などの文化的な取組みが多く企画されていることなどを知りました。

独立する前の会社は映画とのタイイン・プロモ―ションを多く手掛けていたのですが、日中合作映画の企画がたくさんあるならその作品と組んでタイイン・プロモ―ションをやってみたい、日本を舞台にした中国映画を活用して日本の商品を中国に向けてPRをしたい、という想いが沸き起こってきました。その後いくつかの映画企画を集め、そのなかから実現の可能性の高い作品のプロデューサーに会い、交渉を重ね、独占権を得ることに成功しました。

そんな矢先、起業5カ月目の2011年3月11日東日本大震災が起きました。

TVCMがすべて自粛されていたなか、PRの仕事は当然なくなり、日中合作映画もクランクインができなくなり、一人暮らしをしていた私は一旦実家へ戻ることにしました。これから日本はどうなるのだろう、また同じようなことが起きたときどうすればよいのだろう、これからの世の中で自分ができることは何なのだろう、必死に考えました。

東京で活躍していた華僑の友人たちは、震災後すぐ日本を離れて母国へ帰っていきました。彼らは日本のよさを知っていて、それを自分の国に広めようとしてくれていました。だけれど、もういなくなってしまった。わたしは生まれ育った日本を離れることはない、これからは日本人自らの力で世界に日本のことをPRしていくべきなのではないか。

中国映画を使っての日本商品のPRは、たくさんのやりたいことの1つで、「できたら面白いな」という軽い気持ちで始めたに過ぎませんでした。ですが、その気持ちは震災をきっかけに、「必ずやり遂げなければいけない」という使命感に変わっていきました。

その後文字どおり駆け回り、スポンサーをみつけて無事クランクインもでき、日中合作映画「東京に来たばかり」(ジャン・チンミン監督)は2012年3月中国の31都市、3000スクリーンで公開されることが決まりました。日本全国のスクリーン数が約3,600なので、どれほどの大きい規模であったか、ご想像いただけるかと思います。

この仕事の成功から、中国・香港・台湾と中華圏での仕事を本格的にスタートし、いま現在、台湾・香港にも法人を設立し、日本の「旅」と「食」を世界に広げることをミッションとして日々仕事に向かっています。

もしあの時震災がなければ、いまの私はいませんでした。逆境こそ、飛躍的に自分を成長させ未来に向けて革新できるチャンスだということを、身をもって体験できました。

感染症の拡大により世界が大きく変わりました。これからどんな世界になるのか。誰にも答えはみつかっていません。未来は決まっているのではなく、自分の手でつくっていくものだと思っています。どんな世界になったとしても、くじけない気持ちと立ち向かう勇気があれば、いつでも未来は変えていけるはずです。

(「旬刊経理情報」2020年6月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人 EY Entrepreneurial Winning Women)

小松﨑 友子

小松﨑 友子(こまつざき・ともこ)
株式会社iNTO(イントゥ) 代表取締役/マーケティングプロデューサー
早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会メンバー/日経クロスウーマンアンバサダー

広告代理店を経てPRプロデューサーとして独立。2010年10月株式会社iNTO(イントゥ)を創業。東日本大震災後、日本の「旅」と「食」を日本国内および世界に発信するジャパンマーケティング事業をスタート。日本全国の自治体および企業のブランディングおよびマーケティングに関する課題の解決に取り組んでいる。「ジャパン・ツーリズム・アワード」メディア部門賞受賞(2017)、「インバウンド・ビジネス戦略」(日経新聞出版社)共著にて出版(2019)