旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』―第23回 実行力を持つこと

長森 真希
(株)キャリーオン 代表取締役COO

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2019年2月1日号に掲載された記事をご紹介します。

私がキャリーオンを創業したのは、2013年。当時の私は自分史上どん底時代で、人生お先真っ暗のシングルマザー予備軍だった(実際離婚したのはそれからしばらく後)。

世にいう「女性起業家」はあまたおれど、私は一、二を争う変わり種だ。こうして寄稿の声がかかったりアワードでスポットライトが当たったりするような人は、超一流企業出身かMBAホルダーか学生の頃からシリアルアントレプレナーか、いずれにしてもエリート揃いだ。

一方の私はといえば、大学こそそれなりのところを出たものの、新卒で外資系企業→すぐ辞める→俳優→バイリンガルMC /ナレーターという多様すぎる経路を辿った。そのころMCとして脂の乗っている時期ではあったものの、労働集約型のこの仕事、いつまでもできるものではない。かといって今さら正社員としての社会復帰も厳しい。どこかで建て直さなければ人生詰むな、と思っていた矢先だった。

起業というのは苦しい道ではあるが、起死回生のチャンスでもある。根無し草人生からなんとか表社会に戻りたいと思っていた私に他の選択肢はなかった。

そんな時、当時走りだったシェアリング・エコノミーに目をつけていた共同創業者と出会い、私の起業家人生は幕を開けた。

さて走り出してはみたものの、とにかくすべてが試行錯誤。今だからいえるが、ビジネス用語をいちいち検索しないと会話にもついていけないほど知識ゼロであった。そのわりに自分をいかに大きく見せかけるかに必死だったので、共同創業者とはずいぶん衝突もしたし、迷惑もかけたと思う。

唯一私が人に誇れたことといえば、とにかく諦めなかったことだろうか。ではなぜ私は投げ出さずにとにかく続けることができたのだろう?

それはひとえに、私が「この事業を手放したら他に生きる道がない」という覚悟を持っていたからだろう。

これは随分後になって起業支援のプロに聞いた話だが、スタートアップの成長を阻む最大の理由は「起業家本人が途中でやめてしまうこと」なのだそうだ。私だって「もうやってられるか」、「今度こそやめよう」と何度思ったことか。つまり「始める→続ける」というこの一連のアクションは、一見簡単なようでいて、実はとてつもなくハードルが高いのだ。

私の場合はほぼ背水の陣で起業という道を選んだようなもので、誇れるようなキャリアもなく、これまで回り道をしたと後悔したこともあった。しかしそれとて今思えば結局何一つ無駄なことはなく、あのころ怖気づいてスタートを切らないでいたら今でも何一つ変わらないままだったと思う。

女性が自分の人生のなかでキャリアをつなぎたいと思った時、必要なものは案外シンプルだ。まずは始めること。そして始めたら生半可なことではやめないこと。結局のところ、すべては、やるのかやらないのか、続けるのかやめるのか、その二択しかない。行動力と実行力といっていいであろう。言い訳を作って実行に移さないのは簡単だし、何かのせいにしてやめてしまうのも簡単だ。やり始めたことをただ投げ出さずに続けるというのは、あまりに地味で当たり前に聞こえるかもしれない。でも、やはりこれ以外にないのだ。そう胸を張って言える私が今、ここにいる。

(「旬刊経理情報」2019年2月1日号より)
(企画・協力 EY新日本有限責任監査法人EY Entrepreneurial Winning Women)

長森真希

長森 真希(ながもり・まき)

(株)キャリーオン代表取締役COO、東京都出身、慶應義塾大学卒、1998年マースクライン入社。Maersk International Shipping Educationに選抜され、海運事業全般に携わる。退職後は日英バイリンガルMC/ナレーターとして、COPやTICADなどの国際会議、U20女子ワールドカップ、東レパンパシフィックオープンなどの国際試合を担当。2010年出産、男児の母。
2013年(株)キャリーオン設立。