旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』 ー 第16回 思いどおりにならない世界で生きていく

最勝寺 奈苗
KDDI 株式会社 理事 コーポレート統括本部 経営管理本部長

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2018年7月1日号に掲載された記事をご紹介します。

私が今の前身の会社に入社した当時は「女性の就職=一般職」、「結婚や出産=退職」が当たり前の時代でした。必然、私自身も長期的なキャリアプランなどまったく持ち合わせておらず、今日のように役員になった自分の姿など想像もつきませんでした。会社では女性初の「総合職転換」、「育児休職制度利用」、「ライン長」、「所属長」、「役員」といわれてきましたが、良き仲間と上司に恵まれた結果であり、私だけの成果ではありません。

そもそも子どもの頃から、男性の中に「ひとり」でいることはよくあることで、そのうえ人一倍負けず嫌いでした。入社して若い頃は、目の前の仕事を正確に早く仕上げることで精一杯の毎日でしたが、損得や好き嫌いで物事を判断しないようには努めていました。正論で突き進むがゆえに、思いどおりにならないことも多かったように思います。

出産直後に自主参加したとあるセミナーで、「女性が評価を得るには、女性が得意とする職種や業種を選択し、自ら積極的にアピールすることが必要」との話を聞き、そんな努力も必要なのかと目の覚める思いがしましたが、結局私はその手法は取りませんでした。評価や昇進を働くことの目的にはできず、会社に提出する自己申告書の異動希望先部署は、いつも「社命による」と記載していました。

人手不足の昨今は、社内異動も転職も自ら手を挙げる人材流動の時代となりましたが、多くの男性サラリーマンが経験することを、素直に自分の道として受け入れていたのです。

仕事のうえでは、「誰にも迷惑をかけたくない」という思いも強かったのですが、よき仲間がいることでより高い「達成感」を、よき上司がいることで「寛容」を、子どもを持つことで回りに助けてもらう「勇気」を、部下を持つことで「受容」を学びました。そしてリーダーとしての螺旋階段を昇るその時々で、そこからみえる風景が違っていることに気づきました。「その立場になってこそわかる苦労や悩みがある、きっと次のステップに昇ればまた別の困難や喜びだって広がるに違いない」、そう思うと、見える風景を楽しめるようになってきたのです。

社外の多くの方々とも会社を通じて知り合うことができたのは、私の財産です。とりわけ、私的に長年交流を続けている方やグループが複数あり、お互いに刺激を受けつつ、頼りになる相談相手になっています。最近の話題は、もっぱら「親の介護」と「定年後の生き方」が多くなってきたことに、時の流れを感じます。

会社は思いどおりにならないことだらけですが、むしろ思いどおりにならないからこそおもしろい、私はそう感じています。思いどおりにならない世界でしなやかに生きていき、退職後も会社の成長を応援し続けたい。

― KDDI という組織、人、フィロソフィを、きっと私は大好きなのです。

(「旬刊経理情報」2018年7月1日号より)

最勝寺 奈苗

最勝寺 奈苗(さいしょうじ・ななえ)
KDDI株式会社 理事 
コーポレート統括本部 経営管理本部長

同志社大学卒業後、1年間経済誌の編集業務に携わり、1988年に第二電電株式会社(現KDDI)に入社。部門別採算管理や経営計画の作成を中心とした経営管理業務を担当。3年間出向した旧日本イリジウム株式会社では、経営管理業務の他に料金シミュレーション、各種スポンサーシップ業務、総務業務なども担当。2003年から8年間IR室長を務めた後、経営管理本部財務・経理部長、経営管理本部副本部長を経て、2018年4月より現職。