旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』― 第9回 「かっこいい」からのスタート

北澤 緑
AIU損害保険(株)執行役員兼CFO/
富士火災海上保険(株)執行役員兼CFO

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2017年12月1日号に掲載された記事をご紹介します。

みなさんは、将来の自分がどうなりたいかを考えるときに大切にしている判断基準はありますか? 役職、給与、会社や社会への貢献度などですか?

私がファイナンスのプロフェッショナルとして仕事を始めたのは、30歳を過ぎた頃でした。20代は、当時、いわゆる「女性の仕事」と考えられていた受付や秘書、男性社員のサポート業務をしていました。男女雇用機会均等法前に短大を卒業したので、何の疑問もなく「女性の仕事」を選択しました。最初の就職先は大学病院の受付事務でした。そこで働いているときに「あれれ?」と思ったのは、女性も男性も仕事をするうえで能力の違いがないということでした。医師、看護師、検査技師など性別を問わず専門家として職務をまっとうしている職員をみて、ずっと思っていた「女性は男性のサポート」という方程式はないということを認識しました。そして専門的な仕事をするって「かっこいい」と感じたことを覚えています。

その後、バブルまっただなかに外資系証券会社で派遣社員として働いたのですが、その当時はバブル経済を楽しむことに多くの時間を費やしました。そのときに出会ったバイリンガルの日本人(女性も男性も)を「かっこいい」と思いました。当時は、まだそれほど帰国子女も多くなく、身近に英語が堪能な人がいませんでしたので、英語ができるってすごいと感心していました。

1988年に公開された「ワーキング・ガール」という映画をご存じでしょうか? かわいらしさが求められている投資銀行の秘書がビジネスウーマンとして成功する物語なのですが、その過程がいわゆるバリキャリルートではなく、エリートとは違う物事の見方や女性としてのしなやかさで活躍の場を広げていくというものです。普通の女の子が「かっこいい」女性に変身していくのをみて、自分の将来を考えるきっかけになりました。

そのような経験を踏まえて、結果的に「かっこいい」が自分の将来の判断基準となり、専門的な仕事をすること、英語を仕事で使うこと、そしてビジネスの世界に関わることを目標にしたのが20代後半です。

その後、米国で大学に通い、米国公認会計士の試験を受け、ニューヨークの監査法人に就職することができました。周りからは、「頑張ったね」とか、「努力したね」とか、お褒めの言葉をいただいたのですが、自分では「かっこよくなりたい」というなんとも目的意識のかけらもないような理由で毎日を過ごしていましたのでそれほど大変とは感じていませんでした。

何となく安易な気持ちで選んだ仕事ですが、本気で私と関わってくれた上司、同僚、チームメンバー、友人のおかげで今日まで仕事を続けられています。そして「かっこいい」ことよりもっと大切な仕事をする理由がみつかったと思います。みなさんが今目標としていることが何であれ、将来、私がみつけたような大切なことをみつけられることを心から願っています。

(「旬刊経理情報」2017年12月1日号より)

北澤緑

北澤 緑(きたざわ・みどり)
AIU損害保険(株)執行役員兼CFO/
富士火災海上保険(株)執行役員兼CFO
短大卒業後OL生活を経てニューヨークへ。スペシャリストを目指し、英語と格闘しながらニューヨーク市立大学バルーク校へ入学。米国公認会計士の資格取得後、ニューヨークのアーサー・アンダーセン、東京のアーサー・アンダーセン(現KPMG)、日興シティグループ証券を経て、2009年、AIGジャパンに入社、その後グループ会社である富士火災とAIUの執行役員兼CFOを経て、現在は2018年1月の合併に向け、両社の役員を兼任。