旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』― 第7回 新しい関係へ飛び込む

石丸 美枝
(株)電算 取締役 経理・財務担当/公認会計士・税理士

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2017年10月1日号に掲載された記事をご紹介します。

自分のキャリアを意識し始めたのは、高校2年生の頃でした。それまでのほほんと暮らしていた私が、ちょっとした病気が判明し入院・手術することになったのです。幸い、再発のリスクは低かったのですが、当時の若い自分には一大事でした。結婚して子どもを産んで専業主婦になって、という未来予測に冷たいヒビが入ったのだと思い込みました。これからは自分1人で生きていく力を身につけなければいけない。そのために勉強し、大学に進学しました。世界を廻すお金の流れに強くなるために、経済学を学びました。さらには専門分野を持つとよいということで、簿記を学び、公認会計士の資格を取りました。ここでやっとひと息つき、胸の奥に常に燻っていた焦りのようなものが消えたのを覚えています。

心に余裕ができたのか、監査法人に就職するとすぐに結婚したため、新しい土地と家庭、新しい職場を同時に始めることになりました。フルタイムの共働きです。家事と仕事の両立は、時間管理と非完璧主義と何とかなるさの精神で切り抜けました。二馬力のよい所はやはり金銭面です。家計が潤うと、家族と些事で争うことも少なくなります。その分仕事に全力を出せるので、担当を任される会社も増えました。会計監査実務や上場準備の業務が楽しくなり、寝る間を惜しんで業務資料をつくっていたのもこの頃です。

監査では担当企業の経理部の方と最も多く接するため、部員の方が日常の経理処理や決算処理の相談をして来ます。打合せをする際には、最終形である財務諸表がどのようにみえるかを念頭に置きつつお話しました。個々の仕訳だけみるのではなく、その結果が財務諸表にどう影響するか、管理会計ではどの部署の数値を動かすか、次年度以降への影響額はどうなるか。経理面で俯瞰する力を持つのはとても大切だと思います。

また、IPOは原則として短期目標の業務です。向こう数年のうちに上場させるため、スケジュールを組み利害関係者と調整し、内部統制を整え右肩上がりの業績をつくり、市場の審査を受け認められれば上場企業の仲間入りです。担当企業がIPOを達成し喜びの歓声に沸いているなか、長くサポートした監査人も嬉しさと達成感で胸が熱くなるものです。

その後、今の会社とご縁がありました。IPO業務で関わった会社でもあり、当時の仕事が評価されたのは嬉しい驚きでした。周囲は意外とみているものです。えいやと飛び込んだ先に、もう数年腰を落ち着けています。同じ問題でも社外と社内では視点が違い、社員と取締役でも視点が違います。取締役の責任は監査人とはまた違う重さがあります。

振り返ると、どうやら新しい場所へ身1つで飛び込むのが好きなようで、それをきっかけに経験を積み、キャリアを形成してきました。これまでの関係も大切にし、そのうえで新しい今を積み重ねていく過程を楽しいと思い、積極的に行ってきたことが今の自分につながっているのだと考えています。

(「旬刊経理情報」2017年10月1日号より)

石丸美枝

石丸 美枝(いしまる・みえ)
(株)電算 取締役 経理・財務担当/公認会計士・税理士ー
大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、公認会計士資格を取得し、朝日監査法人(現有限責任 あずさ監査法人)に入所。上場企業の監査を担当した後、IPO(株式上場)準備支援の部署で国内ベンチャー企業の上場に携わる。2011年㈱電算に転職し、同年に税理士登録、翌2012年より同社取締役に就任し、現在に至る。